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ゲーム大会――2

 俺たちが選んだゲームは、赤いつなぎと青いズボンを身につけた、世界的に有名な配管工、および、その仲間たちが、カートに乗ってレースするという例のやつだ。


 ゲーム大会がはじまってから、およそ三〇分が経過したのだが――俺は打ちひしがれていた。


「ま、また負けた……」


 開始してからの四戦すべてで最下位になってしまったからだ。


 ただし、俺が特別ゲームが下手なわけではないし、三人が特別ゲームが上手なわけでもない。


 三人が手を組んで、俺を妨害してくるからだ。


 手を組んでいるとはいっても、それぞれが言葉を交わしているわけではない。一言もやり取りをすることなく、相手の動きを見るだけで、的確に合わせている。


 俺と離ればなれになってから、ずっと連絡を取り合っていただけはある。さながら以心伝心。三人の絆には感心するばかりだ。俺を負かすためにその絆を使っているのは、なんとも言えないけれど。


 負けっぱなしは悔しいが、ここまでして勝ちたいのは、俺に好きなところを言ってほしいからなので、嬉しくもある。


 悔しくもあり嬉しくもあるという大変複雑な心境になっていると、三人が期待に満ちた眼差しを向けてきた。


「さあ、罰ゲームだよ、蓮弥くん!」

「わたしたちの好きなところ、あげてくれますよね?」

「とはいえ四回目だから、考える時間くらいはあげるわ」

「バカ言え。考える時間なんてコンマ一秒もいらないよ。みんなの好きなところなんて、あげようと思えば半日はノンストップでいける」

「真顔でそういうこと口にできるの、ホント、蓮弥よね」


 呆れたように美風が溜息をつく。しかし、彼女の頬が緩んでいるのはバレバレだった。呆れたフリをしているのは、ツンデレらしい照れ隠しだろう。


 ごねてもなにも解決しないし、照れくさいだけで、みんなの好きなところを伝えるのが嫌ってわけでもない。ここは思い切って言ったほうがいいだろうな。


 腹を(くく)り、俺は口を開く。


「萌花は、ご飯を作るとき、俺たちの好みに合わせてそれぞれ味を変えたり、栄養バランスを考えてサラダをつけたりしてくれるよな? そういう、健気で気配り上手なところが好きだ」

「えへへへ。ありがとう」

「美風は、悩んでいるときとか元気がないとき、さりげなく励ましてくれたりアドバイスしてくれたりする。そんな優しいところが好きだな」

「ま、まあ、悩んでたら励ますのは当たり前だし?」

「詩織は、大人顔負けの頭脳を持ってるのに、同時に甘えんぼうなところもある。そんなギャップがいい」

「ふふっ。では、これからもいっぱい甘えさせてもらいますね」


 俺から好きなところを伝えられて、萌花がふにゃりとした笑みを見せて、美風が口元が緩むのを堪えて、詩織がふにっと目を細める。


 三者三様ではあるが、いずれもお気に召したようだ。俺のほうは、顔が熱くてしかたないのだけれど。


 三人が肌をツヤツヤさせながら、拳を高々と掲げた。


「よーしっ! それじゃあ、次の勝負も協力して勝とうね!」

「「おおーっ!」」

「手を組んでいるの、もはや隠そうともしないな!」





 その後も俺は連戦連敗したが、一〇戦目を過ぎたころから、時々なら勝てるようになってきた。


 ただし、俺のゲームの腕前が上達したからではなく、三人がわざと負けはじめたからだ。


 おそらく、伝えられるだけでは物足りなくなり、自分もこちらに好きなところを伝えたくなってきたのだろう。


「重いものを持ったり、高いところにあるものを取ってくれたりするとき、蓮弥くんは男の子なんだなあって感じてキュンとする」

「部活終わりに、さりげなく荷物を持ってくれるわよね? そういう紳士的なとこ、いいと思うわ」

「シンプルですが、『ありがとう』と言ったときに浮かべる笑顔が素敵です」


 三人の好きなところを伝えるとき、俺は照れくさくてしかたがなかった。


 けれど、それは伝えるほうだけじゃない。伝えられるほうも、同じくらい照れくさいのだと学んだ。

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