前編
私の6歳の誕生日。高熱で二週間うなされた。
そして、気が付いてしまった。
私は転生者だった。
現代日本で、OLとして過ごした記憶がある。
名前は桃山桃子だ。
世界が開けたと思ったよ。
ここは、未知の魔法があるが、文明の遅れた世界。
一旗揚げるぜ!となったものよ。
しかし、すぐに絶望した。
例えば、カレーライスを知っている。この世界で再現したら、大人気だろう。
ジャガイモ、人参、タマネギっぽい食べ物はある。
お米みたいのも市場で確認した。
しかし、肝心なルーは作れない。
私はOL、香辛料から作る方法を知らないし。
高価な香辛料を買うことも出来ない。
万事この調子だ。
ご飯も、薄いスープに、それに浸さなければ食べられないほどの固さのパン。
お肉は滅多に出ない。女神教の祝祭日に出るぐらいだ。それでは足りないので、
子供たちで、森にワナをしかけに行く。
住めば都と言うけれど、プライベートスペースは三段ベットの一番上のみ。
いくら住んでも都にならない。
シラミは嫌なのでシーツは天日干し、髪は毎日洗う。
しかし、まだ、希望はある。私は可愛い。
私の髪はピンクブロンドのフワフワだ。顔もかなりのものよ。
これで、良いボジションに行けるじゃんと思ったものよ。
しかし、可愛さが仇となった。
孤児院はサバイバルだ。文字通り生き死にが日常で感じられる。
森に食べ物を探しに子供達で行ったら、
袋を広げたおじさんたちに襲われた。
「こいつだ。ピンクブロンドだ!市場で見かけたぜ」
「ああ、高く売れるぜ。他の不細工な子供には目もくれるな」
中々最低な事を言って、私を袋に詰めようとしてくる。
誘拐だ。恐らく人買いだろう。
子供の足だから、すぐに、追いつかれた。
しかし、年長の子たちが、石を投げて、必死に、おじさん達を殺そうとする。
全力だ。360度包囲して、中には、タオルに石をくるんでグルグル回して、遠心力を利用して、投げつけるバイオレンスな子もいる。
ヒュ~ン、ヒュ~ン、
ゴツン、ゴツン
「いて、このピンクブロンドだけ誘拐する。他は誘拐しないぞ。抵抗するな。じゃないと、ぶっ殺すぞ!」
おじさんたちは頭から血を流して、叫ぶ。
しかし、このまま逃がしてくれるほど甘くはなかった。
無理矢理包囲を突破して、剣を振り回すおじさんが出た。
「ヒィ」
私は腰を掴まれ、脇に抱えられた。略奪婚か?
その時
プス!
と音がした。
ドタンとおじさんが倒れたと思ったら、
あれ、(ヒィ)、頭に矢が刺さっている。
「「ヒィ」」
「猟師だ!退散だ!」
「お嬢ちゃん。大丈夫け」
毛皮をチャンチャンコみたいに着ているヒゲボウボウの猟師さんに助けてもらった。
近くにいたみたいだ。
「「「有難うございます」」」
「俺も行くけ。シスター様に報告だ」
・・・・
「まあ、しばらくぶりの人さらいね。リディが狙われたのね。リディは当分、外出禁止です。ギリーお爺さん有難うございました」
「とんでもねえこって、オラ、村に報告にいくで、失礼します」
話を聞くと、孤児院で可愛い子がいたら、違法人買い達が、襲ってくるそうだ。
久しぶりだそうだ。
私が皆と市場の賃仕事をしに行ったときに、目をつけられたらしい。
外出禁止なら、お金稼げないじゃない!
「リディは、ここで、私の手伝いをしてもらいます」
「はい、シスター」
シスターさんは20歳、若い。一人で切り盛りをしている。
「あれ、シスター様、私が孤児院にいたら、ここに襲いに来るんじゃないですか?」
「フフフ、女神教会の建物を襲いに来る不届き者はいないわ。安心して」
・・・そうか。日本でも、仏像を盗む者はいないから田舎の寺はセキュリティが甘い。
盗まれたと思ったら、外国人だったニュースあったな。そんな感じか。
お料理や洗濯のお手伝い、そして、お勉強をした。
この世界では12歳から、見習いとして働くそうだ。
それまでは、平民学校に行って読み書き計算を習ったり、家の仕事を手伝ったり。
とにかく、子供の概念がない。
「まあ、リディ・・・・掛算、割算・・出来るのね。これなら、商会の見習いに推薦できるわ」
「リディ、スゲ~」
「商会長の妾になれたら、俺たちを引き抜いてくれよ」
うわ。子供が、最低なことを言ってくる。
孤児たちにとって、商会や貴族の使用人になるのが、最高のステータス。
この孤児院は評判いい。
礼儀作法や計算、読み書きをシスターがきっちり仕込んでくれるからだ。
私の評判を聞きつけて、貴族から養子縁組の話が来たが、全てシスターがお断りをした。
例えば、
お爺ちゃんがやって来た。
「~あ、連れ合いをなくして、身の回りの世話をしてくれる子を探している。金貨10枚でどうだ」
「お断りします。養子ではなく、リディを妾にするつもりですね」
恰幅の良いマダムが来たが、
「金貨20枚寄付します。女の子は愛想が一番、社交界の華になってもらいます」
「お断りします。リディを高級娼婦にするつもりですね」
養子縁組の話を持って来る貴族は、皆、一癖二癖もある。
シスターは見抜いていた。
「後ろ盾がないと、貴族社会では暮らしていけないわ。孤児を養子にしたいと来るほとんどの貴族は何か目的があるの。慰問で来た貴族から情報が流れたのね」
うわ。ピンクブロンド稼業は過酷だ。
男に媚びを売って、チヤホヤされるピンクブロンド、物語の彼女らは必死に生き抜こうと頑張っていたのね。
達観者(読者)から、見たら、愚か極まりない行動をとるが、過酷な環境から抜け出すために、必死にスポンサーを探していたのかもしれない。
溺愛してくれる貴族の一人や二人、いてもいいんじゃない?
しかし、それは、貴族令嬢限定だ。逆に、孤児出身を溺愛する貴族は・・・馬鹿だろうな。
あれは、真実の愛で王子は、貴族令嬢と婚約破棄をするが、元婚約者にヒーローが現われて、本当の真実の愛はこっちだよと実は真実の愛を賛美する内容でもあるのだ。
そして、本命、人買いもやって来た。
「これは・・・金貨50枚まで出せますな。この娘と永年奉公契約を結びたい旦那衆を紹介できるぜ」
「一昨日おいでになってください!」
・・・あれ、何故、シスターは、
「私を売らないの」
「リディちゃん。それをやったら、孤児院じゃなくなるわ。私たちのために売らないのよ」
ポンポンと頭を軽くはたいて、抱きしめてくれた。
チクショウ、チート能力があれば、恩返しできるのに・・
そんなかんやで10歳になった時に、異世界らしい展開が待っていた。
旅劇団が、慰問に来てくれたのだ。
村祭りで上映する劇の予行練習という意味合いもある。
有難い。この世界に娯楽はないに等しい。もう、お手玉は飽きた。
しかし、ひじょ~~~~に、つまらない。
「こうして、トム夫妻は、女神様の言いつけを守って、貧しいながらも幸せに暮らしました」
パチ・・・・パチ・・・・パチ・・・
パチパチパチパチ!
シスター様だけ大きな拍手、子供達は眠そうだ。
仕方ないよね。恐らく、厳しいコードがある。とがった事は出来ないのよね。
・・・・
「どうしよう。どうしよう」
「ああ、今月の支払いが出来ない」
「子供達にもウケない。これじゃ、おひねりをもらえない」
孤児院の裏で旅劇団の人たちが頭を抱えていた。
「あの、こんなお話は如何ですか?」
「君は・・・あの孤児院の子・・・」
「この話、面白そうだ。しかし・・・・シスター様の意見が必要だ」
「まあ、法王様と勇者様と聖女様が出演なさる劇ですね・・・・内容は、問題がありませんが、敵役は変えた方がいいです。貴族を悪役に出すのは禁則です」
シスター様が、物語における禁則事項を教えてくれた。国王陛下、貴族、役人を悪役で出してはいけない。せいぜい、不良貴族子弟で、最後、改心する内容が望ましい。
あれか、アメコミに、汚職警官を出してはいけない的なものよりも、強力なタブーがあった。
やったら、逮捕、最悪、物理的に首が飛ぶ。
抗議活動をされる程度ではないのだ。
「分かりました。村に寄生するゴロツキにしましょう」
私はあらすじを書き直した。
☆村祭り
「静まれ!この聖剣が分からぬか?私は勇者!」
「そして、勇者の隣にいる私は聖女、このお方こそ!先の法王様であらせられるわ!」
「ヒィ、何だって!参りました!」
「そ、そんな。悪事を全て見られた。参りました」
最後、殺陣の後、勇者が聖剣を出し。名乗りを上げ。実は偉い人だったとの話。
ローブを脱いで、法王服のお爺ちゃんを出そうと思ったが、
法王服は、物語でも出してはいけないそうだ。
だから、「この聖剣が目に入らぬか?」とした。
某夢ランドで、ネズミは常に1匹しか出さないのと同じニュアンス。
偽法王様の回もNG、私は法王ですと詐欺を行う者はいない。そもそも、発想がないそうだ。
私は前世、おじいちゃん子で、時代劇チャンネルを見ていたのだ。
昭和、平成の初めの頃まで、再放送も含めて、毎日流れていた有名な時代劇、
日本はざまぁ大国だったのだ。
反応はどうかな。舞台裏で、密かに見守る。
しばらく、静寂が支配するが、
「「「ウオオオオオオオオオオオオオオオオ」」」
パチ!パチ!パチ!パチ!パチ!
大盛況だった。
「こんなの見たことねえ~」
「ええ、すっきりしたわ」
・・・・
「リディちゃん。もっとない?」
「お金を下さい。なら、書きますよ」
「おひねりの五%はどうだい?」
「やります!」
記憶を起こして、本格的にあらすじを書いた。
☆
「何だ。この役は?始めに、食べ物の話をして、後、ず~と、法王様の脇にいるだけの平民役、名前はエイト・・・こんな役必要なのか?」
「ええ、このエイトは、村人です。法王、勇者、聖女と巨大怪獣の側にいるだけの平民に思えますが、この平民に自分たちを置き換えて、劇に感情移入してもらいます。
より、法王様や勇者、聖女を身近に感じれもらえる効果があります。
それに、おっちょこちょいな性格で、トラブルを起こして、話を持って行きやすくします」
「なるほど」
「法王様、勇者、聖女、エイトの役、悪人の役は固定でいいですか、カゲ役の女子と、イケ面役は、こまめに変えて下さい」
「でも、女のカゲ役と、イケ面役者は・・そうは手に入らないぞ」
「大丈夫です。ここは都の高尚な劇団ではありません」
私は冒険者ギルドで、女子を募集した。1日の公演で銀貨2枚だ。ドブさらいの四日分。
安全な仕事でそうはない。
希望者は殺到した。
健康そうな斥候のお姉さんにお願いした。
「え、女の子が依頼主?劇だなんて、演技出来ないよ」
「大丈夫です。アクションをやってもらいます」
☆
「ヒヒヒ、良いではないか?良いではないか?ドレスを脱がしてやろう」
「あれ~~~~おやめ下さい。キャア~~~」(棒読み)
お姉さんは、スムーズに脱げるように、万歳をする。
ドレスの下には、
膝までのズボンと、肘まで裾があるシャツを着込んでいる。
半ズボン、タンクトップにしたかったが、それは下着に近いそうだ。
お姉さんは前転をして距離を取る。
お姉さんは、側転、バク転が出来るが、狭い舞台。怪我をされては困るから、前転にしてもらった。
「不埒者め!こうしてやる~~~」(棒読み)
ビシ!バシ!
「ギャアアア」
お姉さんに回し蹴りをしてもらった。私は格闘技の経験はまったくないが、頭の中にあった。
お姉さんは忠実に再現する。
距離を取り。回し蹴りをするのは、お姉さんの御足を披露するためだ。
「「「「オオオオオオオオオオオオオオオオ」」」
男どもは大興奮ね。
次は、イケ面役だ。
これも冒険者ギルドで募集した。
役は、悪者にいじめられている真面目な商人、正義感あふれる役人役だ。
「俺は、村人たちを守るのが役目だ。お前達の悪行、許してはおけない!」
「「「ヒヒヒヒヒヒ」」」
「村人たちをいじめてやるぜ」
「「「キャアアアアアアーーーー」」」
「お役人様、頑張って~~~」
村娘さんやマダムたちに大人気だ。
素人の物語論で何とかなった。
・・・・
「すごいよ。リディちゃん。話の筋を頼むぜ!」
「ええ、分かったわ」
私の手柄ではない。日本で何十年も続いたコンテンツをなぞるだけだ。
しかも、私は台本を書けない。あれは、難しい。
旅芸人さんの台本係が使えるように、手直しする。
私はキャスティングと監督みたいなこともやっていたら、商人が面会を求めてきた。
「あら、商人さんが?」
「ヒヒヒヒヒ、貴女が、大人気旅芸人一座のクロウ一座のリディちゃんですね。実はお願いがありまして」
☆
「ご隠居、ご隠居!このリンゴ美味しいです!お一つどうぞ!」
「これ、エイトや。詰め込むと喉に詰まるぞ」
「ご隠居、エイトの言う通り喉が潤います」
「まあ、このリンゴ、何か違うわね。エイト、お手柄ね」
「へへへへ、お客様、アップルランド領のリンゴで、領の名前になるほどの一品ですよ」
提携した商会が演劇の終わった会場でリンゴを売る。
売上げの五%をもらい。
もう五%を村の共同組合に、場所代として納める。
売上げで決まるので、皆、損はない。
Win-Winの関係だ。
そうこうしているうちに、やっぱり。他の劇団が真似し始めた。
中には、私たちの劇団よりも人気が出る所もあったが、
この劇はギリギリの所で成り立っていることが分からない劇団は潰れて行く。
法王庁の権威を高める効果と、農民たちの不満のはけ口を両立する奇跡の劇なのだ。
「ヒヒヒヒヒヒ、俺は貴族だ。農民どもから絞り取ってやるぞ!」
「こら、お前達だな。不穏な劇をやっている奴らは、捕縛だ!」
と貴族を批判する内容をやって、お縄になったり。
「ヒヒヒヒヒ、良いではないか?ドレスを脱がすぞ!」
「あれ~~~~~」
ポロリ!
「キャアア」
「待て、この劇は中止だ!淫乱な内容はやってはいけない!」
ポロリをやって、解散させられる劇団
等々、淘汰され、この「法王様世直し旅」をやる劇団は、3つほどになった。
その中で一日の長がある私の劇団は、超えられない一位として君臨することになる。
不動の一番、携帯電話で言えば、N〇Tか?
しかし、最近のN〇Tは、すこぶるあれだから、おごってはいけない。
「はい、これ、受け取って下さい。シスター様」
「リディちゃん・・・これ良いの?」
「はい、孤児院の運営に使って下さい」
ガバ!
「リディちゃん。有難う。貴女は女神教徒の鏡です!」
抱擁された。大部分のお金をシスター様に渡した。
これは私の手柄ではないからね。
苦労して稼いだお金ではないので、執着が沸かない。
それに、この世界で買いたいものは、食べ物だけだ。
iPhoneもネットもない世界、萎えるわ~
しかも、
私は可愛い上に、お金を生み出す存在になった。
シスターだって、人間だ。運営に困ったら、孤児99人と私1人天秤にかけて、気が変わって私を売るかも知れない。
だから、価値を知らせておくのだ。
金の卵を産むガチョウを殺すほどシスターは愚かではないはずだ。
しかし、甘かった。
脅威は外からやって来た。
お貴族様への養子の話が来たのだ。
国王陛下の使者が劇団までやって来た。
最後までお読み頂き有難うございました。