あのう、もう一度転生出来ますか?
読んでくださり、ありがとうございます。
このたび、短編作品『あのう、もう一度転生出来ますか?』をお届けします。
本作は、異世界転生をテーマに、コミカルな展開を楽しむ短編作品となっています。主人公の紀久は、異世界への憧れを抱きながらも、実際に転生するという驚きの体験をします。しかしそこで彼が直面するのは、自分の期待とは異なる現実でした。
この物語では、紀久の喜びや戸惑い、そしてコミカルな冒険を通じて、読者の笑いと楽しさをお届けすることを目指しました。異世界の探索や目的の達成といった重厚な要素ではなく、短い文章の中で転生というテーマを軽やかに描いています。
読んでいただく皆様には、この短編作品を通じてユーモアと軽快な気分を楽しんでいただければ幸いです。笑いとともに、心地よい時間を提供することができればと思います。
心からの感謝を込めて、どうぞお楽しみください。ありがとうございました。
青年は異世界転生ものが大好きだった。異世界転生アニメ、異世界転生漫画、異世界転生小説、異世界転生映画、異世界転生が付くものがあれば、何でも夢中になった。いつも思うことは、死後の世界については分からない。教科書にも載っていない。異世界に転生してもおかしくないと常に思っていた。しかし、本当に死ぬことは怖く、現在の世界も十分に幸せで満足している。ただし、もしもの場合に備えて異世界に転生することを考えていた。
まずは、異世界に行ったら、もちろん職業は勇者になりたい。名前は渡辺紀久としよう。「わぁ、ダメ、ダメ」と自分の名前では勇者としてピンとこない。とりあえずその世界の中で考えよう。そして、やはりお供には可愛らしい妖精と美しい精霊がいて欲しい。次に勇者と言えば、やはり剣だろう。最強の剣を手に入れたい。そう、伝説の剣が理想だ。光り輝く伝説の剣、他にはあり得ない。
想像に耽って数十年が経ち、病気も事故もなく、ひ孫の誕生まで見届けた後、老衰で息を引き取った。こんなに長生きするとは思っていなかった人生は長かった。
そして、どこからともなく声が聞こえる。「異世界に転生、ご希望ですか?」自分の身体は見えないが、心はあるようだ。今の話は、やはり異世界に転生できるのだ。喜びが胸を満たし、それと同時に気持ちも高まっていた。すると、「あのう、後ろが詰まっているので、早く答えてください」と焦った声が聞こえる。「はい!勇者になって可愛い妖精と美しい精霊と旅をし、伝説の剣を手にしてこの世界を救う救世主になりたいです」と、紀久は急いで答えた。よし、予定通り話せたぞ。しかし、声の主は言った。「あのう、まだですか?こちらで決めますよ」え?さっきの話が聞こえていないのか?こんなにも心で会話するのが難しいとは予想外だった。紀久は心を強く念じて伝えた。「だから!勇者になって!可愛い妖精と美しい精霊がいて!伝説の剣を手にして!」すると、声の主が聞き返してきた。「剣?」紀久は答えた。「そう、伝説の剣だよ!」すると声の主は「わかりました。行ってらっしゃい」と言った瞬間、周りが暗くなった。
気が付くと、光が差し込み、目の前には剣士のような美しい女性が、私を間近で見つめていた。突然の展開に、転生して本当に良かったと感じた。すると女性が言った。「すみませんー!この剣、本当に伝説の剣ですか?」すると、隣にいた店主が答えた。「わからないが、持ってきた旅人が伝説の剣だって言っていたから、そうかなと思ってさ」女性剣士は「ふーん、怪しいから、その隣の剣をください」と言って、剣を手に取り、店主と一緒にカウンターに向かった。紀久は考えた。「...えっ、えっ、え~!もしかして、伝説の剣に転生したのか?え?物にも転生できるの?」と、疑問の念に襲われた。しかし、まずは落ち着こう。一度死んで分かったことは、死ぬと転生できるという確信だ。だったら、簡単にもう一度死んで転生すれば良いのだ。あれ?剣って死ねるのか?紀久は少し考えた後、答えを出した。剣が折れれば死んだも同然ではないかと思った。ただし、自分では剣を折ることはできない。だれかに使ってもらわないといけない。すると、また誰かが私を見ているような感覚がした。
また女性剣士が現れたのか。しかし、彼女は前世の時の、ひ孫ぐらいの若い女の子だった。彼女はじっと私を見つめていた。すると後ろから、いかにも悪ガキっぽい3人組が現れ、その子をからかい始めた。「剣の触れないキノ!また剣を見ているのか〜女性剣士目指すなんて無理だから諦めろよな」「そうだ!そうだ!」紀久は異世界も死ぬ前の世界とあまり変わらないなと感じた。しかし、今回は悪ガキ3人組が、私の味方のようだ。あのキノという子に正直、使ってほしくないからな。折れる剣も折れないようだし、残念だが諦めてくれ。すると後ろから、イケメンの剣士が声を出した。「そこの3人組、いじめるのはやめなさい!剣は誰でも修行すれば剣士になれるのだよ!」
悪ガキ3人組は血相変えて店を出て行った。
すると店主が駆け寄り笑顔で話しかけた。「これはこれは、ダームズ王国のメーニ騎士団長殿ではありませんか!何かご用でしょうか?」メーニ騎士団長は答えた。「実は、アームの森に伝説のドラゴンが現れたので、2本の剣を追加で用意しようと思って立ち寄ったのだよ」紀久はその話を聞いて興奮した。「おー!騎士団長で、しかもイケメン!これはチャンスだ。この方に使ってもらえれば、きっと成仏できるはずだ!」自分の存在を彼に引き付けるために、紀久は意思を集中させ、剣を光らせることを試みた。「全集中、う〜ん、はー、」すると、紀久の剣がかすかに光り始めた。
メーニ騎士団長は紀久の剣を見つめながら言った。「この剣には何かオーラを感じるぞ!店主よ、この剣はいったい何者なのだ?」店主は謙虚な態度で答えた。「流石はメーニ騎士団長、お目が高いです。これはなんと伝説の剣でございます。」メーニ騎士団長は興味津々で声を上げた。「なんと、伝説の剣なのか。いくらで手に入るのだ?」紀久は喜びに満ち溢れた。伝説同士の戦い、ドラゴンとの壮絶な闘いになろうとも、それを乗り越えれば成仏するチャンスが訪れるだろう。そこで、メーニ騎士団長があのキノに話しかけた。「この剣を君に譲ろう。お前は立派な女性剣士になる運命を持っているのだ。修行し、その剣を輝かせよ」紀久は驚きながらも口に出した。「...えっ?伝説の剣だよ?え?あの子に、それを譲るの?」キノは驚いて答えた。
「そんな、凄い剣は私にはもったいないです…」するとメーニ騎士団長は微笑みながら言った。「伝説のドラゴンと闘って、この剣で勝ったとしても、私が勝ったとは言えない。騎士団長の名が廃れる。この2本の剣があれば十分だ」自信満々に述べた。しかし、紀久は反論した。「いや、いや、それは違いますよ。相手は伝説のドラゴンですよ。伝説の剣を使わないと貴方は死んでしまいますよ」と必死に訴えた。しかし、その訴えは届かず、メーニ騎士団長は2本の剣を手に取り、店を出て行った。
店内には一人と、一本の剣が寂しく立っていた。そして、キノが伝説の剣(紀久)を胸に抱えながら店を出た。キノは家のドアを開けながら声をかけた。「ただいま、お母さん。伝説の剣をもらったよ」遠くにいる母の声が響いた。「おかえりなさい。あら、そうなの、良かったわね」紀久は思った。「まぁ、納得の反応だな。考えてみれば、ただの普通の女の子が本物の伝説の剣を手に入れるなんてありえないわけだ」そこで、キノが部屋に入り、壁に剣を立てかけて飾った。紀久は思わず言った。「おいおい、死ぬ前の世界なら分かるけど、モンスターが存在する世界で普通は剣を飾らないだろう!まずい、一生飾りとして生きるのは、非常に困るな。とにかく、キノに話しかけなければ」と心の中で考えた。「全集中、う〜ん、はー、キノ!聞こえるかな」と紀久は言った。キノは恐怖に震えながら答えた。「け、剣が話した…」そして、泣きそうな顔で逃げようとした。紀久は慌てて引き留めた。「待って、逃げないで。伝説の剣だから、しゃべることもできるんだよ」と適当に言い訳した。キノは頷き、納得した。紀久は思った。「ふふふ、剣が話すだのとは聞いたこともない。所詮は子供だ。よし、この調子で進めよう。『私には使命がある。伝説のドラゴンを倒すという使命があるんだ!キノよ、メーニ騎士団長のところに行って、私を託してくれ』」
キノは頷き、剣を手にしようとしたその瞬間、母親の歓喜の声が響いた。「キノちゃん、今夜は村の広場でお祝いがあるわよ!メーニ騎士団長様が伝説のドラゴンを退治したそうよ」紀久の心は固まった。「え?メーニ騎士団長って、そんなに強かったの?伝説のドラゴンを普通の剣で倒せるんだ…」キノは喜びに満ちて部屋を飛び出した。
そして、一本の剣が寂しく飾られたままであった。
読んでくださり、ありがとうございます。短編作品『あのう、もう一度転生出来ますか?』をお楽しみいただけたこと、心より感謝申し上げます。
本作は、異世界転生ファンの皆様へ向けて描かれた物語です。異世界への転生というテーマを軽妙にコミカルに描きながら、主人公紀久の喜びや予想外の展開に対する戸惑いを描きました。
紀久の冒険は、彼が長年夢見ていた異世界での勇者の道を歩み始めるところから始まります。しかし、彼の願いが完璧に叶うわけではなく、思わぬ出来事が彼の前に立ちはだかります。それでも彼は笑いと喜びに満ちた道を進んでいく姿勢を持ち、予測不可能な展開の中で自らの運命を切り開いていきます。
この物語を通じて、紀久の目的達成に共感し、彼の冒険に一緒に笑いながら付き合っていただけたら幸いです。異世界の魅力やコミカルな展開を楽しんでいただき、心軽やかな時間を過ごしていただければと思います。
心からの感謝を込めて、お読みいただいた皆様に感謝申し上げます。ありがとうございました。