28 決着後
ローラントとエフィムの決闘は、ローラントの勝利という大波乱の決着となった。
決闘の勝者としてローラントはエフィムらイーエースに対し、これまで行ってきた恫喝の謝罪と二度と関わってこない事を要求。
リーダーであるエフィムが膝を砕かれるという負け方をしたイーエースに、これを拒否することはできず。
4人全員が苛立ち青筋を浮かべながらもローラントたちパットンに謝罪し、頭を下げた。
エフィムは支えなしでは歩けないほどの重傷だが、高級ポーションか高位の回復魔法を使用すれば治療可能。
ポーションにしろ回復魔法にしろ怪我を考えればかなりの高額となるが、生きていればどうとでもなると言うのもまた事実。
死ななかっただけ良し、ではある。
……あるのだが、駆け出しである鉄鋼のローラントに青銅のエフィムが負けたとあってプライドはズタズタ。
今までの悪態もあり、どこへ行っても後ろ指をさされ、陰で笑われるという居心地の悪い思いをすることになった。
さらに、格下に負けたという話は依頼を出す人々にも伝わり。
本当に青銅クラスの能力があるのかと疑問視され、依頼受注を断られるケースも発生。
もともと素行が悪く、依頼主から拒否される事も多かっただけに、冒険者としての活動にかなりの支障が出ているようだ。
対するローラントはまさに英雄扱い。
シェリダンの冒険者界隈では暴君として君臨していたエフィムと、冒険者パーティイーエース。
その彼らからパーティーの女性メンバーと己が名誉を守るため、決闘を挑んだローラント。
鉄鋼と青銅という格差に加え、ほんのひと月前まで一方的に暴力を振るわれていた彼が勝つなど、誰も予想していなかった。
誰の目から見ても無謀。
度重なる恫喝に、全てがどうでもよくなった、投げ出したのかとも思えた決闘であり。
勝負の結果など、火を見るよりも明らかだった。
その大方の予想に反し、ローラントは勝利したのだ。
まさに大金星。
同業冒険者たちから祝勝会と称し、酒を浴びるほど飲まされることになった。
翌日からローラントたちパットンの生活は一変。
誰からも一目置かれる存在となり、見下されたり舐められたりするようなことはなくなった。
受ける依頼も薬草採取から、討伐や希少品採取などのものへと変化。
報酬もそれに伴い大きく増加。
装備を新調し、ときどき豪華な夕食を取れるようにはなっていった。
もちろん、依頼にはセリナも同行。
セリナの剣術や魔術がローラントたち3人よりもハイレベルにある事は身をもって知っている。
危険性はかなり低く、時間を見つけては剣術や魔術の訓練を付けてもらいながら、日々の依頼をこなしてゆく。
そして、ひと月ほどが経過した、ある日の夕方。
「やったよ、真鍮のドッグタグ!」
「これで私達も駆け出し卒業だね!」
「むっふっふ。これでもっといい依頼が受けられる」
「わぁ、おめでとうございます!」
冒険者ギルドの建物から出てきたパットン一行。
その手に握られているのは真鍮で作られたドッグタグだ。
黄銅の異名の如く、金属味ある黄色に輝くタグをお互いに見せあうローラントたち。
これまでの実績が認められ、駆け出しの鉄鋼から一人前である真鍮へとランクアップしたのだ。
ランクが上がった、という事はワンランク難易度の高い依頼も受けられるようになったという事でもある。
鉄鋼で受けられる依頼は初心者の森での採集や害獣駆除、低級魔物の間引きなどだった。
対して真鍮では森深部での希少薬草などの採取、人に対して危害を及ぼす魔物の討伐、危険性の低い護衛などが追加される。
冒険者の依頼は採取物の希少性、討伐対象の危険度に応じて報酬の金額も大きく変わる。
高ランクになればそれだけ難しく危険性の高い依頼を受けられ、それに見合った報酬を受けられるのだ。
「でも、ここがゴールじゃない」
「うん、まだまだ頑張らないと!」
「目指すは青銅、そして白洋」
そうはいっても、冒険者全体の中で一番多いのがこの真鍮クラス。
ここを抜け出して青銅へと至れるかどうかで、冒険者としての真価が問われるのだ。
熟練冒険者と言われる青銅、ギルドからのお墨付きとなる白洋へ。
まだまだ先は長いが、ローラントたちもまだ成人したての16歳。
経験を積めば白洋はおろか、その先も決して夢ではない。
冒険者ギルドの顔として名が知られるようになる白銀。
数年に数名と言われる、黄金も見えてくる。
なお黄金のさらに上には白金がいるが、これは実績に加え紋章すら考慮されるため、百年に一度出るか出ないかとされている。
長いギルドの歴史上でも片手で数えるほどしかいない白金の冒険者。
全員が現代にいたるまで名が残っており、冒険者としての実績に加え人柄もよく。
【剣王】【賢者】【魔剣】と言った高位紋章を所持していたとされている。
「さて、じゃあお祝いだな」
「ちょっと奮発して、いいモノ食べようよ」
「セリナも行くでしょ?」
「ううん、私は孤児院に戻るよ。夕ご飯の準備もあるから」
ローラントたち3人は昇格のお祝いに街に繰り出すとの事だが、セリナには孤児院の方が気になる様子。
今日も昼間は依頼を受け外に出ていたのだが、そこで孤児院の夕食用にと野兎数羽に果物などを回収していた。
これを早く持ち帰り捌くため、セリナは3人と別れ家路につく事に。
冒険者ギルドから孤児院までの道はもはや通勤ルート。
綺麗な金髪に吸い込まれそうな翠眼とこの辺りではわりと珍しいセリナの容姿。
加えて人当たりの良い立ち振る舞いから、この道で知らない人はいない人気ものになっていた。
「セリナちゃん、お仕事は終わりかい?」
「はい! これから孤児院に戻るところです」
「おっ、お疲れ様セリナちゃん! どうだい、ちょっと寄っていかないかい?」
「ごめんなさいおじちゃん、また今度よらせてもらうね!」
すれ違う人や店を構えている店主から声をかけられながら、家路を急ぐセリナ。
すると、途中のお店で見知った顔を見つけた。
「おーい、ティグー!」
「あ、セリナ」
短髪の茶髪に孤児院でよく見る服を着ていたティグ。
買出しに来ていたのか、大きなリュックを背負い店の店主と話をしていたようだ。
ところが、そのティグと店主の表情がすぐれない。
両者とも険しく深刻そうな面持ちで対しており、ただ事でない事をにおわせていた。
セリナもどうしたのかと気になり、近づき話を聞いてみると……。
「え、値上がり!? また?」
「うん。今月2回目」
「すまない、こちらも何とかしたいんだが……」
店先に並んでいる値札を見れば、ポリッジに使うオートミールやパン、小麦など。
主食となる穀物や野菜などが値上がりしていた。
理由はやはり不作。
「近年収穫量が大きく減っていたが、今年はさらにひどい」
「そんなに?」
「あぁ。麦は中がスカスカ、実が付いた奴も小さくて話にならない」
「じゃあ、まだ値段が上がる?」
「他の街から取り寄せようにもそっちも不作らしい。最悪飢饉なんて話もある」
あまりに不穏な話の内容に、セリナも思わず息をのむ。
広大で肥沃な大地をもつシェルバリット連合王国。
周辺国からは大陸の食糧庫とすら言われてきたこの国の不作は、そのまま世界飢饉へと直結する。
セリナがシェリダンに来てまだ数か月だが、食品価格は来たすぐの頃より明らかに上がっているのだ。
すでに国が溜めていた備蓄を切り詰め始めているらしく、このままだと10年ほどで需要が供給を上回る。
だが、その試算は去年の収穫量をベースにしたもの。
来年が不作となった今年と同程度、もしくはそれ以下の減少ペースだと2、3年で国庫は空になってしまう。
そうなった場合、この国がどうなるのか。
想像しただけで恐ろしい。
「お役人方は何とかすると言っているが……」
「原因不明、でしたよね?」
「あぁ。いろいろやってるが、駄目らしい」
「とりあえず、オートミールをお願いします」
「おっと、すまねぇな。すぐ用意するよ」
状況が良くない事は分かるが、かといって生きている以上食べない訳にはいかない。
ティグは持っていた予算分で買えるだけのオートミールを買い込み、リュックへ入れる。
セリナも手伝い、2人で孤児院に帰ろうとした、その時。
「※※※※※! ティグ兄、セリナ姉、大変! すぐ来て!」
血相を変えて、孤児院の子供が駆けてきたのであった。
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