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12 冒険者たちの実力


 薬草採取の依頼を終え、シェリダンの街に戻ってきたパットン一行。

 冒険者ギルドまで来ると、外にアンナとエマ、セリナを残し、ローラントが全員分の薬草をあずかり、報告のため中に入る。


 時間はまだ昼過ぎだが、人の多いシェリダンの街はそれだけ冒険者も多い。

 一仕事終えた冒険者たちが報告に来ている事もあり、建物の外にまで冒険者であふれていた。


 セリナはアンナたちと雑談をしながらローラントの帰りを待つ。


「お待たせ」

「遅かったわね」

「ひと、多すぎ」


 待ち過ぎて足が痛くなり始めた頃、ようやくローラントが戻ってきた。

 しびれを切らし退屈そうなアンナたち。

 そんな彼女たちにローラントは「仕方ないだろ」と宥めつつ、達成報酬を手渡した。


「報酬は300ジオ、銅貨3枚だ」

「いつも通り、ね」

「一人銅貨1枚」

「ほ、本当にそれだけなんですね……」


 依頼の達成報酬については、森から帰ってくるまでの道中と、ここで待っている間に話を聞いていた。

 ローラントたちが行った薬草採取の依頼はいわゆる駆け出し用の依頼。


 達成場所が安全性の高い「初心者の森」という事もあり、報酬はかなり低いのだ。

 その報酬、定められた薬草採取量1人分につき銅貨1枚。

 一食分になるかどうかという金額であり、宿代にすら届かない。


「じゃあ、セリナの分は私からね。50ジオ、鉄貨5枚」

「ありがとうございます」


 さらに、冒険者ではないセリナは、ローラントたちパットンに同行こそしているが、ギルドから見た場合パーティメンバーに入っていない。

 その為、薬草採取量の計算には含まれておらず、報酬自体も発生しないのだ。

 だが、さすがに無報酬はあんまりだと、いくらかは分けてもらえる事になっている。


 アンナが自分の財布から取り出した鉄貨5枚を、両手で大事に受け取るセリナ。

 形は歪、色もくすんでいる5枚の鉄貨。

 お世辞にも高額とは言えないが、初めて冒険者としてもらえた報酬は嬉しく、思わず笑顔がこぼれる。

 手のひらの上にある鉄貨を愛おしそうに見つめた後、腰巻鞄の中、正確にはこっそり開いた【亜空間倉庫】へと入れた。

 

「それで、この後だけど、本当についてくるの?」

「見ててもそんなに面白くないわよ?」

「すごく、地味」

「いいえ、皆さんがどんな訓練をしてるのか、すっごく興味があります!」


 1日の食費にも満たない依頼を受けていたローラントたち。

 実は今日の午後は用事があったため、あらかじめ軽めの依頼を受けていたのだ。

 

 その用事というのが、冒険者ギルドが行っている実技訓練。

 武器の使い方や魔法といった基本的なものから、応急手当や連携、探索などと言ったより深い事柄まで。

 ギルドが冒険者の生存率と質の向上のため行っている訓練で、費用はかなり安い。

 まさにローラントたちのような初心者にはうってつけなのだ。


 セリナとしても、今までインクでの授業ばかり受けていたため、冒険者向けの訓練がどのような物なのか興味津々。

 見学、という形でローラントたちについて行くことに。


 訓練は全て冒険者ギルドの上層階で行われ、ローラントが武道場で剣術、アンナが教室で魔法、エマも教室で斥候をそれぞれ受ける。

 内容がどんなものなのか心を躍らせながら、まずはローラントが受ける剣術の訓練を見学することに。


 ローラントと一緒に武道場へ。

 教官は引退した白銅クラスの冒険者らしく、相応に年を取っているがその視線は力強い。


 セリナはそんな教官に見学の許可をもらい、武道場の隅っこに腰かける。

 剣術の訓練を受けるのは駆け出しである鉄鋼クラスの冒険者たち、20人ほど。


 皆歳は若く、装備も皮鎧など簡素なものが多い。

 訓練用の木剣を持ち、厚手の布を巻いた打ち込み用の人形へ向け剣を振るう。


「そこ、剣はもっとしっかり握れ!」

「はいッ!」

「当てるんじゃねぇ、ぶった切るつもりで当たれ!」

「はあぁっ!」

「紋章に頼るな! 動きを体に教え込むんだ!」

「てやぁっ!」


 威勢のいい声と共に人形を木剣で叩く音が武道場に響き、それ以上に大きな声で教官の激がとぶ。

 熱気漂う、活力あふれる武道場。


 だが、セリナはこれを少しばかり冷ややかな目で見ていた。


(これ……みんな本気でやってる、の?)

『かーっかっかっか! 冒険者ともなると練度は大きく下がるのぅ!』


 そう、ローラントを含め、ここで訓練を行っている冒険者たちの動きがとても悪いのだ。

 ここに居る全員が紋章持ちであり、サポートを受けているはずだが、それにしても動きにキレがない。


 インクの子達と模擬戦をすれば、ルフジオは話にならず、パベルや魔術よりの特待生といった剣術が苦手な子達でも楽勝。

 セリナであれば武器無しで全員を同時に相手しても余裕だろう。


(もうちょっとみんなすごいのかと思ってた……)

『ほっほっほ。セリナはインクしか知らなんだからのぅ』

(スーおじいちゃん、知ってた?)

『わしも知らんかったよ。みな駆け出しじゃし、こんなものじゃろう』

(でも、インクに入ったばかりの私やレリック、パトリックより……)

『その2人も平民出とは言え特待生じゃ。そもそもの資質が違うのぅ』

(そうなの?)


 今ここで訓練している彼らは全員平民だ。

 成人し、紋章を持っている。

 にもかかわらず、平民出のインク特待生、レリックやパトリック、そしてセリナがインクに入校した当時よりも動きが悪い。


 その事を不思議がるセリナだが、スードナムによるとそもそもの資質、インクで言う神聖力の違いが大きいという。


『そうさのう、ここに居る者たちを神聖力で表すなら500から2000と言ったところじゃろう』

(ええっ!? じゃ、じゃあの教官さんは?)

『ふむ、5000程かのう』

(そ、そうなんだ……)


 スードナムからローラントたち駆け出し冒険者の資質を神聖力に換算した数値を聞き、驚くセリナ。


 インク入校時のセリナの神聖力は驚愕の130000。

 これは度外視するとしても、同じ平民出のレリックで26700はあったのだ。

 そこから考えると、500から2000という数値がいかに低いかが分かってしまう。


 思わず表情を曇らせてしまうが、誤解する事の無いように、とスードナムに指摘され、首をかしげてしまう。


『そも、インクの子達が才能豊かすぎるのじゃよ』

(あ……)

『あそこはジェイオード王国各地から集められた金の卵が集まっておった。違うのは当然じゃて』

(そっか……)


 インクはジェイオード王国が全国で子供たちに神聖力検査を行い、合格した者だけが入校できる学校だ。

 セリナが居たのはその中でもさらに優れた神聖力を持つ特級・特待生クラス。

 むしろインクの方が異質であり、世間一般には今目の前にいるローラントたちのような人が大多数。


 スードナムに諭され、その事実を噛みしめながら剣術訓練を見学。

 適当なところで見切りをつけ、アンナやエマの訓練を見るため、移動したのであった。


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― 新着の感想 ―
[一言] 魔法でタトゥーシールみたいな見かけだけの紋章つけられないのかな。 これだけ浸透しているとさすがに初めだけでも誤魔化さないと厳しい。 あとこの欠陥システムは一度刻むと解除はやはり難しいんだろ…
[一言] 流石に金の卵を掻き集めたエリートクラスと比較するのも可哀想な物か(ʘᗩʘ’) でもって全員紋章を授かってるからその紋章の能力しか伸ばせないと来たもんだ(٥↼_↼) 果たして何処から直した…
[一言] キガソクにすら負けるんだろうなぁ まあほとんどの場合人格の面でキガソクを上回るだろうけど
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