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9 冒険者ギルド


 セリナが魔法の訓練を始めてしばらく。

 部屋の中には光り輝く蝶、空中を漂う水龍、燃え盛るトカゲ、羽ばたかずに空を飛ぶ風の鳥、石の甲羅を持つ土の亀など。

 さまざまな小動物たちが自由に動き回っていた。


 これは最近行っている複数の属性魔法を並列処理という、高難易度の魔力制御訓練。

 強大な神聖力をもつセリナだが、インクでは攻撃魔法を訓練する場所がなく、スードナムの「まずは魔力制御」という指導方針のもとこれを徹底的に鍛えられている。

 セリナとしても、魔力で小動物たちを生み出すのはおとぎ話のようで非常に楽しく、みるみるうちに上達。

 今では一属性ならば大量に、複数でも少数なら生み出せるようになっていた。


『ほっほっほ。見事なものじゃのう』

「どう? スーおじいちゃん」

『上出来じゃ。わしの時代でもセリナの歳でここまで出来る子はそうそうおらんかったぞ』

「えへへへ、やった」


 スードナムに褒められ、思わず頬が緩むセリナ。

 すると、窓の外から小鳥の声が聞こえ、すっかり明るくなっているのに気が付いた。


「あっ、もうお日様出てるね」

『ふむ、この分ならもう店も空いておるじゃろう』

「じゃあ、そろそろいこっか」


 それまで発動していた魔法を打ち切ると、それまで自由気ままに動いていた小動物たちがふっと消える。

 部屋の中に忘れ物がないか確認した後、扉を開けて外へ。

 案内板にはバルト語の他、シグル語も書かれており、それに従いカウンターへ。


「おはようございます」

「おや、おはよう。よく眠れたかい?」

「はい、すごく!」

「それは良かった。じゃあ、これにサインしてもらってもいいかい?」


 カウンターにいたのは昨日受付した時にもいた中年の女性だ。

 彼女が出してきたのは宿泊者名簿。

 普段はチェックインの際に書いてもらっているのだが、昨日のセリナは今にも眠りそうでそれどころではなかった。

 その為、宿屋の方が気を効かし、チェックアウト時にしていてくれたようだ。


 シグル語でも問題ないとの事なので、そのまま記帳。

 追加料金を出せば朝食も出るらしいが、すでに食べているのでこれはお断り。

 お世話になったと女性にお礼を言った後、宿屋を後にした。


「うわぁ、朝なのに人が多いね」

『通行の要所じゃからのう。遠くに行く馬車は今のうちに動かないといかんのじゃろう』

「なるほどねぇ」


 日は登っているがまだ肌寒く、小鳥の鳴き声が響き渡る時間帯。

 だが、宿屋の目の前の大通りでは荷を満載した多数の馬車が行き交っていた。


 これはインクのあったガローラの街では見なかった光景だ。

 セリナはその姿に圧倒されながらも、次なる目的地の看板を探す。


 場所はこの大通り沿いという事を先ほど宿屋で聞いており、迷う事はないはずだ。

 道中、漂ってくる焼き立てのパンや焼いた肉、暖かいスープの匂いという誘惑と戦いながら、大通りを進むセリナ。

 しばらく周囲を探していると、目当ての文字が書いてある建物を見つけた。


「スーおじいちゃん、これじゃない?」

『そのようじゃの。「冒険者ギルド」と書いてあるわい』


 そう、セリナが探していたのは冒険者ギルド。

 労働、捜索、回収、護衛、または討伐など、様々な依頼を一括して請け負い、ギルドに登録している冒険者に斡旋する場所だ。


 セリナがここを訪れた理由はもちろん冒険者として登録するため。

 スードナムからの教えを学び、本物の聖女を目指すセリナ。

 この先オリファス教会から何かしらの手が伸びると考えれば、一つの所に留まっておくことは得策ではない。


 そうした者にとって、世界各地で活動できる冒険者という職業はまさにうってつけなのだ。


 「冒険者ギルド」と書かれた建物は大きくはあるが、昨日の銀行ほどは大きくない。

 恰好も上品なインクの制服ではなく、町娘と大差なし。


 セリナはトコトコと建物に近付き、「よし!」と一息。

 出入り口である大きな扉を開き、中へはいる。

 そこには……。


「よし、この依頼を受けるぞ!」

「ポーション、まだ残ってたっけ?」

「建築手伝い? 大工じゃねぇんだぞ、おれは!」

「この依頼いいね、報酬が魅力的だ」

「なぁ、ぼくたちもそろそろこのクラスの依頼を受けてもいいんじゃないか?」


 男性、女性、大柄、小柄、細身など、様々な人たちが鎧やローブなど、これも思い思いの装備に身を包み、ひと際大きな掲示板の前で賑わっていた。


「わぁ……」


 この光景に、セリナも思わず声を上げる。

 インクでは騎士やシスターなど礼儀正しく厳かな人物が多かった。

 しかし、冒険者たちは礼儀正しさとは正反対、勢いと豪快さが目立ち、肌を露出するような服を着ている人も見受けられた。


 今までは孤児院とインクという閉鎖的な空間で育ってきたため、気押されてしまうセリナ。

 だが、ここで臆するわけにはいかない、と気を引き締め中へ入る。


 すると、何人かが入ってきたセリナに気付いたようで視線を向けてきた。

 といっても物珍しそうに見ているだけで、近寄ってきたり話しかけてきたりする様子もない為、そのまま目的の窓口を探す。


 この冒険者ギルドは4、5階はある大きな建物だ。

 今いる地上1階が受付となっているようで、いくつもの窓口が並んでいる。

 並んでいるのは、人だかりになっている掲示板から紙を取った人たち。

 仲間らしい人達を残し並ぶ人も居れば、誰とも話さず一人で列に加わる人の姿も。


 セリナもその列に並べばいいのかと思ったのだが……。 


『セリナよ、そっちは「依頼受注」じゃ。ぬしが向かうは「総合受付」と書いてあるあちらじゃ』

「スーおじいちゃん、バルト語わかるの?」

『本を読んだ範囲じゃがの』

「すごい……私全然覚えられてないのに……」

『ほっほっほ。わし、昔から物覚えがよいのじゃよ』


 スードナムにそっちではないと指摘されてしまった。

 この冒険者ギルドにも案内板などはあるのだが、ほとんどがバルト語で書かれており、セリナでは分からない物が多い。 

 本をぱらぱらと捲っただけで内容を暗記し、言葉まで覚えるスードナムの凄さを感じながら、セリナは言われた通り「総合受付」と書かれているカウンターへと足を向けた。


「こんにちは!」

「いらっしゃいませ、可愛らしいお嬢ちゃん」


 窓口に居たのは若い女性。

 セリナがシグル語で話しかけた為、彼女もシグル語で返してくれたようだ。


「私、冒険者登録したいんです」

「……えっ?」


 瞬間、女性の表情が固まった。

 何か悪い事でも言ったのかな? と気になりながらも、セリナはもう一度同じ言葉をかけた。 


「冒険者登録がしたいんです」

「……えっと、お嬢ちゃんが?」

「はい!」


 真剣な表情で話すセリナに対し、受付嬢の表情は呆れとも困りとも取れる複雑なものだった。

 腕を組み、どうしたものかと考えた後、セリナを見据えて、口を開く。


「お嬢ちゃん、歳はいくつ?」

「12歳です」

「……紋章は?」

「ありません」


 ここまで聞くと、受付嬢は肩を落とし「はぁ」吐息を吐いた。


「ごめんね。冒険者に登録するには16歳以上で紋章を授章している事が条件なの」

「でも……」

「冒険者はとても危険なの。魔物と戦う事もあるし、最悪命を落としてしまうわ」


 そうセリナを諭すように話す受付嬢。

 冒険者が請け負う依頼の中には凶悪な魔物の討伐、盗賊から依頼者を守る商隊護衛なども含まれる。

 これらは部位欠損を伴う大けがの他、死亡してしまうことも多く、危険が伴う。


 その為、まだ体の出来ていない未成年と神により「才無し」とされた16歳以上で【無紋】の者は登録できない決まりとなっている。


「そう言う訳で、あなたはまだ冒険者にはなれないの」

「あの、私は……」

「あなたの命を守るためなの。聞き分けてね」


 聞き分けの悪い子に言い聞かせるかのように語る受付嬢。

 結局、セリナの言い分は一切聞いてもらえず、冒険者ギルドを後にする事になったのであった。


面白かった! 続きが気になる! と思っていただけた方、ぜひとも下のいいね、評価ポイントをお願いいたします。

特に感想などいただけますと、作者が嬉しさのあまり大地に沈みます。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] スードナムに褒められ、思わず顔がにやけるセリナ。  すると、窓の外から小鳥の声が聞こえ、すっかり明るくなっているのに気が付いた。 【若気る】(にやける) 男性が女性のようになよなよ…
[一言] おぅ、前途多難。こういう時は、爺に頼ろう!
[一言] 冒険者が一般化するより無紋=才無しが常識になっちゃってたか 本来なら紋章の有無に関わらず冒険者がいて、紋章綯い奴でも優秀なのが居て疑問持つやつもいたろうに
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