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45 受章の儀Ⅱ


 特待生であるキガソクが【聖剣士】の紋章を授かるという、想定外の出来事に一時騒然となった大聖堂。

 だが、その後は落ち着きを取り戻し、受章の儀は滞りなく進められていた。


「レイナ・フォンシュタイン!」

「はい!」

「おぉ。この者が神より授かりし紋章は【神子】である!」

「私が……神子!」

「おめでとう。よく頑張りました」

「はい……はいっ!」


 セリナやイノとも仲の良い特待生レイナ・フォンシュタイン。

 彼女が授かった紋章【神子】は【回復術師】の上位、【聖女】の下位に属するランクの高い紋章だ。


 【聖女】程希少ではなく、例年特待生の上位成績者2、3名や特級生に出る程度。

 しかし、レイナの成績は特待生の中では中堅どころ。

 儀式もまだ中盤であり、この段階で【神子】の紋章が出た驚きと、残る子供たちへの期待からにわかにざわつく大聖堂。


 その期待に応えるかの如く。

 特待生たちは【聖騎士】【聖魔導士】【神子】の紋章をたて続けに授章。

 イノ、パベル、ルフジオ、セリナの特級生4人を残し、上位紋章の歴代授章記録を超える事態となった。


 この事態に大聖堂は先程とは真逆、期待の熱に満たされてゆく。

 それは祭壇上にいるレイオット大司教も同様だ。


「ほほぅ、彼の言っていた通り今年の子達は素晴らしいですね」

「は……」

「残る4人の特級生は最上位紋章の判定が出ていると聞いています。ついつい期待してしまいますね」


 頬を緩ませ、そう語るレイオット大司教。

 だが、儀式進行を担うトーマス司教の表情はさえなかった。


 彼が担当する世代も非常に優秀ではあるが、これほどまでには上位紋章は出ていない。

 にもかかわらず、マルク司教の世代でこれほどの数が出るのはやはり面白くないのだろう。


 そんなトーマス司教とレイオット大司教のやり取りもそこそこに。

 ついにセリナたち特級生の順番となった。

 

「それではイノハート世代特級生の授章に入ります」


 トーマス司教の宣言に人々は思わず息をのみ、大聖堂が静まり返る。

 近年では頭抜けて優秀だと言われていたイノハート世代。

 それは既に特待生たちの授章で証明されている。


 残るはその特待生よりも好成績を収めている特級生たちなのだ。

 歴史的瞬間が目の前で起こるかもしれないと、期待に胸を膨らませる。


「ルフジオ・ルベ・ブルデハルム!」

「はい!」


 名が呼ばれたルフジオが立ち上がり、祭壇へ上がるとこれまでの生徒達同様石板へと手を触れる。

 石板が光り、触れた手に刻まれた紋章を、トーマス司教が確認。


「……この者が神より授かりし紋章は【聖剣】である!」

「お、俺が……【聖剣】!」


 トーマス司教により授かった紋章が【聖剣】であると知らされると、大聖堂では歓声と大きな拍手が巻き起こった。

 普段からたくましく、頼りがいのあるルフジオも、この時ばかりは感激のあまり目に涙を浮かべている。


「ルフジオ、やりましたわね!」

「おめでとう。僕も続くよ」

「おめでとう、ルフジオ!」

「みんな、ありがとう!」


 席に戻ると、イノ、パベル、セリナが他の人達同様、暖かい拍手で迎えてくれた。

 【聖剣】の紋章は心技体の全てを兼ね備え、高い神聖力がないと授からないとされている。

 ルフジオのブルデハルム家は歴史ある騎士の名家ではあるが、【聖剣】を授かったものは居なかった。

 騎士貴族にとって【聖剣】の紋章は悲願であり、婚姻相手の神聖力や血筋を重視する程。

 ルフジオもそんな家の悲願を幼いころから幾度となく聞いており、夢がかなったと涙を抑えきれなかったのだ。


 そんな彼をセリナたちは笑顔と拍手で迎え、自分の事のように喜んだ。

 しかし、感傷に浸るのにはまだ早い。


「パベル・サファ・リンドパーク!」

「……はい」

「パベル、頑張ってくださいませ!」

「お前ならやれるぞ!」

「分ってる。僕を誰だと思ってるんだ?」


 【聖剣】受章の勢いそのまま、名を呼ばれたパベルに力強く声をかけるイノとルフジオ。

 普段同様落ち着いた様子で受け答えし、最後にちらりとセリナを見る。


「頑張ってね、パベル」

「期待には答えてみせる」


 表面上は変わらないが、いつも図書館で一緒にいるセリナには彼が緊張しているように感じられた。

 いくら判定で【極光術士】が出ていたとしても、実際に授章するまではパベルと言えども不安なのだろう。

 そんな彼の緊張をほぐすべく、セリナはやさしく笑い声をかけた。


 皆に見送られ、祭壇へと昇るパベル。

 そしてトーマス司教にうながされるまま、石板へ。

 次なる上位紋章受章への期待から、熱気を保ったまま静まり返る大聖堂。

 

「この者が神より授かりし紋章は【極光術士】である!」


 再度喝采沸き立つ大聖堂。

 インクの長い歴史においても剣技の極みである【聖剣】と神聖魔法の極みである【極光術士】が同世代で出ることなど一度もない事。

 この歴史的瞬間に立ち会えた事を神に感謝し、パベルの努力を拍手で称える。


「さすがパベルですわね!」

「大したものだよ、パベル!」

「判定通りなんだから、騒ぐことじゃないよ」


 祭壇から降りたパベルを、イノとルフジオが笑顔で、セリナも拍手で彼の功績を讃えて出迎える。


「パベル、やったね」

「言っただろ。期待に応えるって」


 態度こそいつも通りだが、その表情には不安から解放されたという安堵が垣間見えていた。

 【極光術士】も【聖剣】と同じく、魔法貴族家にとって念願としている紋章だ。

 その【極光術士】の判定がパベルに出たとあって、親兄弟からも期待をかけていた。


 普段は感情をあまり表に出さない彼だが、やはりプレッシャーはあったのだろう。

 僅かだが表情をほころばせて笑う姿は、見ているセリナすらも嬉しくなってしまうほどのものだったのだから。


「イノハート・エメ・ホーケンブルス!」

「はいっ!」


 次に名を呼ばれたのは世代の名となったイノハート。

 トーマス司教の呼び出しに元気よく答え、セリナたちに向き返る。


「では、行ってまいりますわ!」

「イノなら問題ないだろ」

「【聖剣】のルフジオと【極光術士】の僕より神聖力が高いんだからね」

「頑張って!」


 イノもルフジオ、パベルが上位紋章を授章したとあってだいぶ気が楽になっているようだ。

 皆に見送られ祭壇へ進むイノ。


 大聖堂の人々も【聖剣】と【極光術士】に次ぐあの紋章へと期待を膨らませる。

 そして、イノがいよいよ祭壇に上がろうとした時。


 おもむろに足を止め、手を組み祈り出したのだ。

 修道服にも似たインクの制服に身を包み、栗色の髪をなびかせ神へと祈るイノ。

 その敬虔深さに、人々はそれまでの熱気を忘れ静まり返り、中には共に祈り出す人まで。


 永遠とも思える短い祈りを終え、イノが祭壇へと上がる。


「美しい祈りでした。主も見て下さっている事でしょう」

「ありがとうございます、レイオット大司教様」

「イノハート、こちらへ」

「はい」


 祭壇で待っていたレイオット大司教とトーマス司教と言葉を交わした後、イノが石板へと触れる。

 石板が光り輝き、イノの手に紋章を刻む。


 光が静まり、トーマス司教が確認したそれはまさに……。


「この者が神より授かりし紋章は【聖女】である!」


 瞬間、割れんばかりの大歓声に包まれる大聖堂。

 ここに集まった全ての人々が新たなる【聖女】の誕生と、授章叶ったイノを称え、立ち上がり盛大な拍手を送る。


 イノは目に涙を浮かべ、愛おしそうに紋章を撫でた後、手を天高く掲げ、大聖堂にいる人々へ【聖女】の紋章を披露。

 感銘を受けた人々は、再度の大歓声で答え、大聖堂を震わせる。


 この大歓声にイノはカーテシーで応じ、レイオット大司教とトーマス司教、そして教員一人一人丁寧に挨拶をし、祭壇を後にした。


「イノ、おめでとう!」

「やっぱイノはすげぇよ!」

「おめでとう」

「セリナ、ルフジオ、パベル……わたくし、やりましたわ!」


 戻ってきたイノをセリナはハグをして、ルフジオ、パベルは拍手で迎えた。

 他の二人同様、判定も出ており自信はあった。

 だが、実際に授章するまでは気を張っていたのだろう。

 壇上に居た時の凛々しさとは打って変わって、表情をくしゃくしゃにしながら大粒の涙が零れ落ちる。


 大聖堂はイノが祭壇から降りても拍手が響き続け、新たな時代の幕開けを感じさせていた。


 ……そして。


「セリナ」

「……はい」


 ついに、セリナの受章の儀が始まる。


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特に感想などいただけますと、作者が嬉しさのあまり大地に沈みます。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 【聖剣】と23話で出てきた【剣聖】は別物でしょうか?
[一言] ここまでは予定調和と言ってもいい流れなんだが(ʘᗩʘ’) ここまで盛り上がった場を冷ます事になるか、それとも(´-﹏-`;)
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