過労聖女、幼女になる。
あなただけが頼りなのですと王家の使者に懇願され、アラベルは「全力を尽くします」と請け負った。
それがまさか、あのような。
* * *
アラベルは、聖女候補として幼少時より生家を出され、聖堂組織の厳しい環境で育てられてきた。十歳を過ぎる頃から頭角を表し、十八歳になったいま、押しも押されもせぬ筆頭聖女としてその名を轟かせている。
その高名ゆえつい最近までは、無理難題はもとより、他の聖女にまわしても差し支えないような依頼まで「あのアラベル様が」という付加価値のために、アラベルに集中するのが常態化していた。
毎日出ずっぱりという有様、休む間もなく、ついには胃が何も受け付けなくなったほどだ。コップ一杯の水すら飲み干せず、咳き込んで吐き出したアラベルを見て、聖女の護衛である聖堂騎士団の若き騎士たちがキレた。
――聖女をなんだとお思いか。聖女が起こした奇跡に感謝し、聖堂に多額の寄付を申し出てくれる支援者があとを絶たぬようだが、アラベル様の健康状態は日に日に悪化し痩せていく。それに引き換え、上層部の皆々様はずいぶんとだらしなく肥えているようだが?
それまで、アラベルは護衛騎士たちと一言も会話を交わしたことはなかった。互いの領分を侵さず、交わらず、粛々と仕事をするものだと信じ込んでいた。
(まさかこんな風に、私のことを案じてくれる方々がいたなんて……)
今にも剣を突き立てんばかかりに老齢の司祭に詰め寄ったのは、金髪の騎士サイラス。言葉もなく見守るアラベルをちらりと見ることもなかったが、怒気をはらんでさえ美しい横顔は、強く印象に残った。
聖堂騎士は皆、刺繍の施された白の装束に銀色の軽鎧を身に着けていており、遠くからでも目を引く凛々しくも麗しい一団である。それまでのアラベルの認識はそこまでだったが、その日以来アラベルはひとりひとりの顔をよく見るようになった。そして、彼らの中にサイラスの姿が無いか、ついつい目で探すようになってしまった。
見つけたからといって、会話をする機会があるわけではない。
だが、自分のために怒ってくれたサイラスの存在は、いつしかアラベルの心の支えとなっていた。
その一件以来、難易度の低い依頼は他の聖女にまわされるなどして、アラベルの生活は若干改善された。
しかしもちろん「いざというとき」はすべてを引き受ける。失敗など許されない。
王家からの依頼は、まさにそういったアラベル名指しの案件であった。
「かねてより病気療養中だったカミーユ殿下の容態が、いよいよ予断を許さない状況とのことだ」
アラベルを先導し、灯りの乏しい廊下を進む老齢の導師は、振り返らぬまま重々しい声で告げた。
「お主も知っての通り、聖堂と王家はずっと緊張関係にあった。今回の依頼、王家にとっては背に腹は代えられぬ苦渋の決断だろう。姫様は隣国に輿入れを控えた身、ここで姫様を快癒させることができたら、聖堂は次の王の治世に至るまで恩を売れるはず」
言うだけ言って、肩越しに振り返る。
「すべては筆頭聖女たるお主の力にかかっている。頼んだぞ、アラベル」
こうして使者と引き合わされ、アラベルは数名の護衛騎士とともに王城へと向かう運びとなった。
そこで、いまにも息絶えんとする王女の寝台のそばに片膝をつき、指を組み合わせて全力で祈りを捧げた。
(力を注いでも注いでも、何かに阻まれる……。これは自然界にある「病」ではなく、「呪」が絡んでいると見て間違いない。良かった。私の得意分野だわ。聖女の力は病魔の「病」よりも「魔」に効くのだから)
天蓋のカーテンに覆われて横たわる姫君の姿は見えないが、さしたる問題ではない。
アラベルは何もない虚空を凝視する。自分の目にだけ見える魔力の残滓を追う。姫君の体のある辺りから、黒い煙のようなものがゆらめきながら立ち上っていた。
流れを追いかけ、跪いたまま上へと顔を向ける。
天地創造の神話絵図の描かれた大天井に、何かがいる。目を凝らす。
そこに漂う者と視線がぶつかり、絡んだ。
それは、口を左右に大きく吊り上げ、笑った。唇に隠されていた八重歯がのぞいた。アラベルは目をそらさぬまま、一語一語はっきりとした声で告げた。
「悪魔よ、なにゆえこの方に取り憑いていますか。この方の命運が尽きる日は、今日ではありません」
祝詞で鍛えた声そのものが、聖魔法に匹敵する効力を持つ。
漂うそれは、ただの黒い煙になって不規則に揺れ始めた。アラベルはすばやく立ち上がると、法衣のポケットから聖水の小瓶を取り出し、寝台に向けて中身の全てを振りかける。
空の瓶を上に向け、黒き者に呼びかけた。
「封印します。ここに入りなさい!」
聖女の命令に抗えなかったように、それはぐちゃぐちゃに暴れながら落ちてきた。
瓶の中へ、ではなく。
アラベルの手にぶつかり、弾け飛んでアラベルの胸に飛び込んだ。
すうっと、吸い込まれるように消える。
「消えた?」
声を発したときには、アラベルの視界は溶け出していた。見下ろした胸元はぺしゃりと沈み、どんどん床が近づいてくる。何が起きているのか、と思う間もなく顔が法衣にくるまれた。
(体が小さくなっている!?)
事態を把握したときには、すでに全身が大人サイズの法衣に包み込まれていた。
「なに……!?」
もがもがと暴れながら、すぽっと首の位置から顔を出す。
強い視線を感じて顔をあげると、寝台に半身を起こした銀髪の姫君が、カーテンをかきわけてアラベルを見ていた。青い目を見開き、うっすらと笑って言った。
「私に取り憑いていた『子ども』になる呪いの悪魔、今度はあなたに移動したみたいね」
* * *
「遅い」
姫君の部屋からさほど離れていない、王城廊下の一角。
絵画や彫刻が並べられ、椅子やテーブルの配置された休憩スペースにて待たされていた聖堂騎士団の面々は、苛立ちを募らせていた。
「いくら姫君が面会謝絶の容態だとしても、聖女様が昼過ぎに部屋にお入りになってから、ずいぶん時間が経過している。もう真夜中だ。一度、部屋の様子を確認させてもらう」
「落ち着いてください、皆様。中に誰も入れないという条件は、アラベル様も承知されていたではありませんか。部屋から出ておいでになるまで、このまま待機願います」
詰めよる騎士に、のらりくらりとかわす王城勤務の文官。
世話役兼監視の兵もその場に詰めており、両者今にも小競り合いを始めそうなほど、緊迫の度合いが高まっている。
そんな中、それまで黙っていた騎士のサイラスが文官の前まで進み出た。
「優秀なアラベル様のこと、勤めに関しては心配していない。ただあの方は真面目すぎるきらいがあって、ご自身の限界に頓着しないところがある。術を行使した後、倒れてしまったことも過去にあるんだ。扉をほんの少し開けて貰えればいい、隙間から無事を確かめる」
「いけませんよ。輿入れ間近の姫君の寝所です」
すげなく断りを入れた文官に対し、サイラスはごく真面目くさった表情で告げた。
「姫君には小さじ一杯ほども興味はない。我ら聖堂騎士団が関心を寄せているのはアラベル様だけだ」
「不敬……」
なんたる言い草、と文官は唖然とした様子で呟く。サイラスの背後にいた騎士たちも「事実だけど事実のまま言い過ぎだ」とサイラスに対して渋い顔をしていた。
「とにかく、このままお待ちください」
「いつまでだ、いつまで」
言い合う両者の横を、銀のワゴンを押した侍女が通り過ぎていった。甘い香りが動きに沿って流れる。
廊下の先は王族の私室が集中しているとのこと。こんな深夜に夜食だろうか? という何とも言えない空気が流れたものの、すぐに場は緊張感を取り戻す。
「先程から、待てとしか言わないではないか」
「地上で最強とまで言われる聖女様の身に何かあるというのなら、姫様とて無事ではすまされないでしょう。我らが姫様の心配をしていないとお思いですか!」
額を突き合わせて、互いに譲らず「このわからずや」とでも言いたげな一触即発の空気。
再び、侍女が銀のワゴンを押して通り過ぎていった。今度もまた芳しい香りが漂う。まるで焼き立てのパンのような。
非日常の空気に突如流れた焼き立てパンの香り。騎士のひとりがキレた。
「誰だこんな真夜中に、夜食か朝食かわからぬ食事をしているのは。王族とはずいぶん呑気なものだ」
顔を怒らせ、威圧的に腕を組み、憎々しげな一言。
一方、言われた文官もさすがに思うところがあったのか、側にいた部下の一人を呼びつけて命じた。
「行き先を調べてみてくれ。こんな夜中に厨房を動かしているなら、我々にも夜食の差し入れくらいあってもいいだろう」
ハッ、と年若い文官は畏まって返事をし、侍女の消えた廊下の先へと走って行った。ほどなくして走って戻って来ると、騎士たちの視線を気にしながら報告をする。
「姫様のお部屋です」
その場の全員が、沈黙した。絶妙に窺い合う空気が生まれ、どちらが口火を切るかと目配せが行き交う中、サイラスが声を上げた。
「アラベル様のお仕事が終わったということだな。であれば、もう解放して頂こう。あの方は、依頼先で出されたものを決して口にしない。ご自身の立場から、毒や薬といった混ぜものにはことさら気を使っている。そうでなくとも、個人的にもてなしを受けることを良しとしていない。疲れ果てたアラベル様の前で姫君だけが食事をなさっているというのであれば、帰らせて頂いても構わないだろう」
「姫様から声はかかっていないが、状況がわからない。侍女の出入りが許されているなら、たしかめさせてもらうくらいは良いだろう」
ついには文官も折れた。王城側の数名に騎士からは三名選び出して姫君の部屋に向かう。
目の前でドアが開き、侍女が出てきた。「部屋では何が」「姫様は」「アラベル様は」「やめてください、中にはまだ」と声が錯綜したが、待っていられないとばかりにサイラスがドアを大きく開いて、部屋へと踏み込んだ。
「アラベル様! ご無事です……か?」
視線をめぐらせて見つけたのは、ソファの上の人影二つ。
「美味しいでしょ? ほら、もっと食べて」との声。切り分けられたケーキの皿を手にした少女と、両手に焼き菓子を持たされて焦り気味の幼女。
入り込んできたサイラスの姿を見て、手からぽとりと一口サイズのパイを落とす。
聖女アラベルによく似た面差し。髪の色も目の色も同じ。口いっぱいに食べ物を頬張っている姿がひどく愛らしい。
「……アラベル様?」
瞠目して問いかけたサイラスに対し、並んで座っていた銀髪の少女がにやにやと笑いながら言った。
「すっごく可愛いから、お菓子いっぱいあげちゃった」
言い終えるなり、指で幼女の頬についたお菓子の食べかすを払い落とす。幼女は愛らしい顔を真っ赤に染めて「ありがとうございます」とかすれた声で礼を言っていた。
* * *
姫様の体から悪魔を追い出したら、落ちてきて自分の中に入り込まれてしまって。気付いたら子どもになっていて。
幼女の姿で、聖女アラベルは真剣に状況の説明をした。ひとまず、先発組の少人数のみ。他の者はまだ待機させたまま、部屋には入れていない。
「いろいろ試みたんですけど、どうしても出ていってくれないんです。それで、体の大きさも戻らなくて。このままでは聖堂にも帰れないし、困ってしまって」
いつものアラベルらしい話しぶりなのだが、子どもの声。しかも、ところどころ舌がもつれるように早口になったりどもったりしている。姫君カミーユは保護者のように頷きながら聞いていたが、話が途切れたところで口を挟んだ。
「昼間からずっとの作業だったし、私もあなたもお腹空いているでしょうからまず何か食べましょうってお誘いしたの。だめですいけませんって断られ続けたけど、長期戦なんだから諦めて食べてって説得したわ。悪魔を追い出せないうちはなるべくひとに姿を見られない方が良いでしょうし、いつ追い出せるかは全然わからないんですもの。そうよね?」
「そうなんですけど……」
「喉も乾いているでしょう? これ飲んでみて。ホットチョコにオレンジのジャムを加えているの。濃い甘さが爽やかに中和されて飲みやすいはずよ。私のおすすめ」
落ち込んでいる様子のアラベルに、カミーユが手ずから銀のポットから湯気を立てる飲み物をカップに注いで手渡す。
受け取って「それでは」ともごもご言いながらひとくち飲んだ幼女のアラベルは、傍目にもわかるほど鮮やかに顔を輝かせた。
「美味しいです。すっごくすっごく美味しいです」
「そうでしょう、そうでしょう。体力を使った後だから、甘いものは沁みるはず。ね、それでこっちのスティック型のねじりパイも食べてみて。合うわよ~」
「はいっ。……わ、サックサクで香ばしいです。どうしようすごく幸せ」
カミーユにのせられるまま菓子を口にして、行儀悪く足をばたつかせて喜んでから、アラベルはハッと息を呑んだ。
おそるおそる、といった仕草で居並ぶ文官や騎士たちをぐるりと見渡す。
その視線の先で。
サイラスは胸をおさえて膝をつき、うずくまっていた。他の騎士たちもそれぞれ、両手で顔を覆ったり、手と手を組み合わせて天を見上げて祈りの姿になっている。アラベルは訝しげに眉をひそめたが、騎士たちは「尊い……」「幼女アラベル様……」とぶつぶつと呟いていた。
文官たちは感心して耳を傾けていたが、これまでまとめ役のように対応していた青年が、カミーユに尋ねた。
「たしかにこの症状は、今朝までの姫様と同じですね。子どもになる、という。つまり姫様に憑いていた悪魔は出て行ったわけですね?」
「ええ、ダミアン。その通りよ」
答えたカミーユの視線と、ダミアンと呼ばれた青年の視線がぶつかる。ダミアンは、軽口でも叩くような飄々とした口ぶりで続けた。
「なるほど。では隣国の王子殿下との結婚話は、このまま進められるというわけでよろしいですね?」
「どうかしら」
ふふっ、とカミーユは含みのある笑いをもらしてから、ダミアンを見つめた。
ダミアンは小首を傾げて「と、言いますと?」と何気ない調子で促す。カミーユは答えず、しばし二人は無言で視線をぶつけあっていた。
先に、ダミアンが折れた。
「意に染まぬ結婚をするくらいなら、消えてしまいたい、と。姫様は私にそう言いましたね。大人のあなたは、そんなわけにはいかない、というのをよくご存知でしたが、それでも言わずにはいられなかった」
「そうね、その通りよ。そして願ってしまったわ。いつまでも子どもでいられたら良かったのに、と。その願いは悪魔によって聞き届けられ、私は子どもになってしまった」
「もう一度、結婚の話を進めようとしたら、同じことが起きるかもしれない?」
「大変申し訳無いのだけど、その通りよ。婚姻以外で外交を成り立たせる方法を、宰相補佐としてあなたはこれから全力で考えてね。もちろん私も協力するわ」
瞳を輝かせたカミーユをまぶしげに見つめ、ダミアンは「承知致しました」と答えて頭を下げた。カミーユは彼を愛しむように目を伏せて、ひとり頷く。王城側の他の面々は、何かしら覚えのある様子で二人を見守っていた。
その様子を、両手にパイを持ったままアラベルはハラハラとした様子で見守っていたが、カミーユが気付いて顔を向けた。
にこ、と綺麗な笑みを浮かべて言う。
「その悪魔、子どもになりたいって思いに敏感みたいなの。只人の私が聖女様に意見するなんて畏れ多いのだけれど、まずは目一杯『子ども』を満喫してはいかが? 王家全面協力で、聖堂側への帰還要請には対応しますから。それにきっと、聖女様の騎士さんたちも……協力してくれるんじゃないかしら」
水を向けられたサイラスたち三人は、素早く胸に手をあてて敬礼をし、力強く答えた。
「アラベル様は子ども時代からまったく休むことを許されない生活をされてきました。今も聖堂の一部の思惑により、働き詰めの日々を送られています。ここで少しいつもとは違った時間を過ごせるというのなら、我ら全力でアラベル様をお守りする所存です」
言い切られたアラベルは何度も目を瞬く。「帰らなくて良いの……?」と子どもの声による呟きがこぼれ落ちた。サイラスが顔を上げて、アラベルを見る。目を細めて、しっかりと頷いてみせた。
* * *
そこから数日間、アラベルはカミーユの手を借りて、全力で遊び倒した。
悪いことを、たくさんした。今まで悪いと信じてきた、ありとあらゆることを試した。
朝ごはんを少なめにしてもらい、お菓子を目一杯食べたり。勉強には関係ない物語の本をたくさん読んだり。
騎士団に付き添われて遠乗りに出かけ、木に登って果実を摘んだり、裸足で川に入って魚をつかもうとしたり。
そのいずれのときも、さりげなく手を貸してくれるのはサイラスだった。アラベルの目がサイラスを探してしまうせいか、彼はいつも側にいた。馬に一緒に乗り、木登りでは下から支え、川で転べばすぐに抱き上げてくれた。
(子どもっていいな……。こんな風に守ってもらえるんだ……)
触れ合うことなど一生ありえないと思っていたサイラスの手に触れて、アラベルは胸をつまらせる。
この日々に終わりが来なければ良いなと願う一方で、そういうわけにはいかないという現実的な思いは日増しに募る。
子どもではいられない。大人にならなければ。
子どもでいたい。またあの生活に戻るのは嫌。
ずっとこのままでいてはいけないのだろうか? そう願うたびに(悪魔に心を操られているのでは)との危機感も高まっていく。
自分では信じられないほど遊び呆けたと思っていた四日目。
このままではいけないのでは、といつもの思いを持て余し始めた頃、アラベルは廊下の柱の影にひょいっとカミーユが入り込むのを見かけた。辺りには他に誰もいない。何をしているのだろう? と遠くから回り込むようにして見える角度に立ち、動きを止める。
カミーユの華奢な体を抱きしめている手。
(ダミアン?)
相手の顔までは確認できなかったが、ちらりと見えた手だけで十分だった。
気づかれないように、アラベルは廊下を走って引き返す。ちょうどそのとき、角を曲がって追いかけてきたサイラスと鉢合わせした。
「ああ、良かった。ほんの少し目を離した隙にお姿が見えなくなって。不覚をとりました」
聞き慣れた優しい声に耳を傾けてから、アラベルは思い余って言ってしまった。
「サイラスや他の皆さんが私に親切なのは、私が子どもだからですか?」
サイラスは真剣な表情でアラベルを見て、口を開いた。
「アラベル様がどんなお姿でも、我々のなすべきことは変わりません。あなたにはずっと、息抜きの時間が必要だと思っていました。いまこうして楽しそうにしてらっしゃるのを見るのが、何よりの喜びです。もっともっと甘やかしたい」
「でも、楽しい時間には終わりがくる。聖女である私は、悪魔を打ち倒して大人に戻ります。そうしたらサイラスはまた以前のように私と口もきいてくれなくなりますか?」
(こんなわがままを言ってはいけないのに、子どもの私は堪え性がなくて……)
奥歯を噛み締め、アラベルはサイラスを見上げた。
サイラスは苦しげに顔を歪めつつも、首を振ってアラベルの心配を否定した。
「それは俺が耐えられません。許されることなら、ずっとあなたのそばにいたい」
「私もそうありたいです。変わりたいし、変えていかなければ……!」
告げた瞬間、胸の中にわだかまっていた黒い塊が弾け飛んだ感覚。
あっ、と声を上げながらアラベルは手を差し伸べる。その手をサイラスがしっかりと掴んだ。子どもの小さな手はみるみる間にサイラスの手の中でおとなの大きさとなり、体もそれに合わせて大きくなった。
急激な成長にふらつくアラベルの体を、サイラスが抱き寄せて支えた。
* *
その後アラベルは聖堂に戻り、聖女を取り巻く環境改善の為、先頭に立って様々な改革を行う。
やがて若くして引退。
元聖堂騎士の青年と結婚して、長く幸せに生きたという。
★最後までお読み頂き、ありがとうございました!!
ブクマや★、イイネで応援頂けますと、
すごく嬉しいです(๑•̀ㅂ•́)و✧
★普段は長編も書いています! 長いです!
お好みの作品がありましたらぜひ(๑•̀ㅂ•́)و✧
(バナークリックで作品へ飛びます!)
【封じられた姫は覇王の手を取り翼を広げる】
・シルクロード風の世界観で繰り広げられる恋愛模様。
【ステラマリスが聞こえる】
・レストランが舞台の連作短編(現代日本)。ラブコメ。