ネックレス
華奢なつくりのプラチナのネックレスを彼に買ってもらった。
おしゃれな連続した幾何学模様に見える。
彼とは長く続かなかった。ネックレスだけが想い出と共に残った。
コツコツコツコツ……。
帰りが遅くなった或る夜。
私のハイヒールの音だけが物悲しく響いていた。
「お前が百合子か!」
女性の声がして、振り向くと、ベロンベロンに酔っ払った見知らぬ女がいた。
「そう、ですけど、なにか?」
警戒しつつ返事する。誰だろう、この人。
ツカツカツカ。酔っ払いにしては真っ直線に近づいてくる。
「お前なんかのせいで、達也はっ!」
話が見えない。達也って誰?
「さやか!」
痩せぎすの男が女を追って来た。
「達也!この女に言ってやってよ、お前とは遊びだったって!」
「何の話かさっぱりわからないです」
私がそう言うと、女は掴みかかって来た。髪をごっそり引っこ抜かれる。
きゃー、助けて!
達也と呼ばれた男は泡食ってただ見てるだけ。
もんどり打って、ひざを擦りむく。
女がネックレスを引っ張り、ぶちり、と切れた。
「さやか、人違いだよ」
達也は震え声でつぶやいた。
「人、違い?」
「ええ!」
私は開き直って肯定した。
女は毒気を抜かれたように大人しくなって、おろおろと、私を見た。
「いったいどうしてくれるんですかっ!ネックレス、元に戻して!」
「それは、ちょっと……」
「さやか、行こう」
立ち去ろうとする二人に私は悪態をついた。
「警察に行くから!」
ひえー、と彼らは走り去った。
ぼろぼろ泣きながら、ひざがズキズキ痛んだ。
夜は怖い。何が起こるかわかりゃしない。
ネックレスも切れたから、さんざんだったけれど、昔の彼を吹っ切るきっかけになった。