呪われた新居
玄関で歳下の恋人を見送る。
笑顔がとっても可愛い純也とは、私がバーで声を掛けて知り合った。
すぐに照れる純也は純粋で、礼儀正しくて気遣いができる子。
実業家の夫は海外出張で、半年も家に帰っていない。出張という名目で、愛人と海外を周遊しているのだろう。
2回り年上の夫とは私が20歳の時に結婚した。夫が地下付きの3階建ての新居を建ててくれて、私達は、しばらくは甘い生活を送っていた。しかし、2年程で、夫は浮気を繰り返すようになった。
きっと、この新居が呪われているせいだろう。
建てた当初から、黴の発生に悩まされている。
夏でも金属製の窓枠や玄関扉などに、びっしりと結露が張り付く。特に地下の被害が酷く、24時間、冷房でキンキンに冷やして、5台もの除湿機を回している。
腐臭も微かにする。消臭剤を置いている。
他にも、天井を駆け回る鼠の足音が騒がしい。
殺鼠剤の白い粉を撒いておくと、月に1匹ほど、鼠の死体が見つかる。布で覆って、木箱に入れて処理する。
私は浮気で忙しい夫の帰りを待って、手の込んだ料理を作ったり、人形をコレクションしたり、街に出て男の人と出会ったりして、気を紛らしている。
それでも、寂しさや虚しさは一向に癒えないが。
寂しくて眠れない夜は、キャンドルを片手に持って、地下に下りて行く。
木箱に入った可愛い人形たちを愛でるためだ。
1体、1体、眺めて、話しかけて、頬に触れていく。
出会った場所、手に入れるためにてこずったこと、互いに一目で惹かれ合ったなど、思い出を人形たちと語り合う。それぞれ性格が違っていて、返答が面白い。
地下への扉の鍵を内側から締めて、ネグリジェ姿の私は、キャンドルの灯りを頼りに階段を下りる。
ぐわんぐわんと除湿機の音が響いている。
新しくコレクションに加わった年下の彼が眠る木箱。昨晩、じっくり煮込んだビーフシチューに鼠を殺す白い粉を混ぜて彼に食べさせた。白い粉は腐るのを防ぐ効用もある。
木箱の蓋をずらして、彼の顔にキャンドルを近付ける。仄暗く浮かび上がる笑顔のとってもキュートな彼の安らかな顔。
私の可愛いお人形さん。
純也はキスをする度に照れていた。
若さを武器にして、勢いに任せて私を抱いた。
続いて、夫の木箱。
そして、息子の木箱を巡っていく(了)
1900年代前半のルーマニア。
ベラ・レンツィという殺人鬼を参考にしています