嘘だ!
研ぎ場に人だかりが出来て、装備科の生徒達が意見を出し合って、それを実践しては、落胆し、直ぐに新たな案を出していく。
「おいおいおい! てめぇら、揃いも揃って何やってんだ!?」
オックスが人だかりに向かって怒鳴る。
「あんたもやってみればいい! この刀、おかしいぞ! 全っ然削れやしねぇ! 茎にバリがあったから、ヤスリで削ろうとしてもそれも、だめだった…」
「なに? ふむ…。 貸せ、俺がやる」
オックスが人だかりの中の入って行く。
「なんか、すごい大事になったね…」
「みたいだね…」
一葉は目を丸くして呆然とする。 シャガルもどこか諦めたかのように苦笑する。
「んだ、こりゃ!?」
「な!? おかしいだろ?」
「ああ。 コレは、おかしい。砥石の上を滑ってるみたいな感じだ。 削る時の抵抗がまったく感じられねぇ。 お~い! ネイ! 面直しは終わったか? 終わったら持って来てくれ!」
「もうちょい! …しっ、終わり! あんた達!道を開けな!」
ネイがオックスに向かって、面直しをした砥石を放る。
「あ? てめっ、コラ! 人様のもん、なげんじゃねぇ!」
飛んできた砥石を受け止めながら叱り付ける。
砥石が十分に水で湿らせてあるか確認してから、刀を当てる。
さっきまでと同じように刀を擦らせるが結果は同じ。粗い砥石なのに削った感触が感じられない。
「嬢ちゃん!!コレ、金属はなに使ってる!?」
オックスが遠くから大声で聞いてきた。
「え。し、知らなーい!」
「…え?」
ワイのワイの騒いでいた装備科の生徒たちの会話が止まり、シャガルの漏れ出た一言が、一葉以外全員の気持ちを物語っていた。
「お、おい。 自分でもわかんねぇ金属使ったってのか?」
「うん。 使っていいって言われたから」
「そ、そうか…」
オックス達は戸惑いに戸惑っていた。
そこに「あ!」と誰かが叫ぶ。
「リーダー! ここ、見てくれ! 削れた跡がある!」
「なに!? 本当だな! だが…」
「…多分?」
オックスと男子生徒はこの削り跡が自分たちが付けたものではないと直ぐにわかった。
そこで、いくつか仮説が生まれた。
「よし! 嬢ちゃん! こっち来てくれ!」
オックスに手招きされる。
え? 入っていいの?
カウンターをよじ登って奥に入っていく。
「研いでみろ」
? まぁ、いろんな人に見られながらだと、ひっじょーうにやりにくいけど…
シャッ! シャッ!
オックス達が刀を砥石の上にこすらせた時の音とは違う音がした。
「「「!?」」」
周りから息を飲む音が聞こえた。
「こ、これは…」
「ああ…! 当たりだ…」
オックスと名も知らぬ生徒が歓喜していた。
「『魔剣』…。 いや、刀だから…『妖刀』か?」
「『魔刀』じゃないんです?」
「”何か力を持った刀”という意味では同じだが、『魔刀』は使用者の命を吸うらしい。んでもって、それの整備するやつの命も…っていう話を聞いた事がある。 実際、俺らはそんなもん吸われた感じはしなかったろ? それに、それだけじゃねぇ、おそらく、ソイツにゃあ、意思があるんだろうよ。 使い手、研ぎ師を選んでる…と、思う。 だから、嬢ちゃん。 ソイツぁ、俺等じゃ研げねぇ。 悪いな」
「うんうん。 元々、自分で研ぐつもりだったから、いい」
「そうか。 砥石が駄目になったらまた持ってきな。 格安で面直しをしてやる」
「ありがとう!……ん?」
お金取るの!?
サァーっと顔から血が下がっていく。
「ま、こって、おい! どこ行く!?」
刀と砥石を時限倉庫にしまい、シャガルの元に走って行く。
オックスが何かを言い掛けていたが、代金を支払わない訳にはいかない。 借りてでも払わなくちゃ!
カウンターを飛び越え、驚いて口を開けて仰け反っているシャガルの前に着地する。
「お金、貸してください!!」
土下座。
一葉は、お金を持ち歩いいない。 お金を持っていないというわけでは無いのだ。 ただ、学園内でお金を使うという事が少なく、寄宿寮の金庫に入れてあるのだ。 その為、お金が掛かると聞き、血相を変えてシャガルに頭を下げに走ったのだ。
「…は? い、いやいやいや! いいから! お金なら出して上げるから、頭を上げよう!? ほら! 周りの目も痛いから! ね!」
装備科に来ている生徒は他にもいる。 何事かと思いこちらを見ていると初等部に通っていそうな幼女が高等部の男子生徒に土下座をしているんだ。 それは、もう、目を引く。 そして、男子生徒の方に避難の視線を送るまで学園セットだ。
「なんだ、この状況? 嬢ちゃん、金持ってねぇのか? 今回はサービスだ。 代金はいらねえよ。 …ったく、人の話は最後まで聞けよ」
オックスが中から追いかけてきて、外の状況を見て、目を丸くする。
「え…? サー、ビス? いいの?」
泣きそうな顔をゆっくり上げて、オックスを見る。
「お、おう」
にぱぁーと、花が咲いた様に一葉は笑顔になった。
「ありがとう、オジサン!」
「「ブフッ!」」
誰か吹いた。
「お、オジっ! 俺はまだ、15だ!!」
「「「ブワハハハハっ」」」
このやり取りを聞いていた生徒全員が笑っていた。
え? その髭面で16!? シャガルお兄さん達と同い年なの!?




