言ったそばから…
マリアの家――ザルヴァートル邸――から帰って来た一葉は、自分の収納スペースに各種粗さの砥石を仕舞っていき、まだ、完成ではないが、刀を通行の邪魔にならない所に寝かせて置いておく。
共用の手洗い場に行き、手洗いうがいを済ませ、洗面器に水を入れ部屋に戻る。
刀に巻いてある布をそっと解く。水に砥石を投入し、しばらく浸けておいて十分に湿らせた後、一番粗い砥石で荒研ぎをしていく。順に砥石の粗さを細かくしていく。
外から足音が聴こえてきた。
(あ。 帰って来たかな?)
「おう! 今帰ったぞー」
「ただいま〜」
「ただいま」
やっぱりアクセル達だった。
「お帰り〜」
アクセル達は、部屋に入って一葉を見ると動きが止まった。
「…何やってんの? お前」
戸惑いながらも一葉に聞く。
「ん? 刀、研いでる」
「いや、うん。 まぁ、見りゃ分かんだけどな?」
アクセルの歯切れが悪い。
「その剣、どうしたの?」
ガイルが一葉に視線を合わせて聞く。
「打ったんだよ」
「「打った!?」」
「…。 剣、打てるの?」
「見様見真似の贋作にしかならないけどね。 結構、良い物が出来たと思うよ」
「そっか〜」
ガイルは、遠い目をしているアクセルとウィリアムを手招きして、部屋の隅で集まって、コソコソと話していた。
(うん。 内緒話っぽいし、聞かないほうが良いよね)
一葉は、話し声には集中せず、手元を注視し、砥石に刃を滑らせた時の感触、音に集中する。
「……。……!」
「〜っ!………!!」
「…?」
集中しすぎていて、周りの音が、雑音が聞こえなくなる。 なんとなく、気配でアクセルらが、何かを喋っていると思うが、一葉の耳にはその音が届かない。
「駄目だこりゃ。 聞こえてねぇ」
「だね。 まぁ、好きにさせよう」
「明日からまた授業があるし、先に寝よっか。 ふぁ~」
アクセルとガイルが呆れ、ウィリアムが「お休み〜」と先に寝てしまった。
◇ ◇ ◇ ◇
「はぁ…、やっぱり、こうなった」
翌日、朝のSHRでのリンの一言目だ。
リンの予想通り、一葉が徹夜かそれに近い事をしていたのか、机に突っ伏して、スヤスヤと眠っていた。
「起きなさいカズハ」
リンがカズハの肩を揺らす。
「すぅ…。すぅ…」
起きる気配がない。
「しょうがない…。 このまま、始めるよ!」
寝てる一葉のことは、そのままにしておき、話しを進める。
クラス対抗戦の出欠を今週最後の日までと伝える。
リンは手短に済ませ、寝ている一葉を抱きかかえる。
「じゃあ、私は、この子を医務室に寝かしてくるからみんなは授業の準備して待ってなさい」
医務に入ると、白衣を来た痴女がいた。
「入る…って、なんて格好してんの!?」
「うーん…?」
リンの目の前には、ホノカがいるが、格好がおかしい。 白衣の下に衣服を着ていない。 一応、真っ裸は羞恥心があるのか下着はつけているが、おかしい事に変わりない。
悲鳴に似た声がリンから出て、一葉がその声に呻く。
「あら。 珍しいね。 リンちゃんじゃないか」
椅子に座っているホノカは足を組み、カップを口に運ぶ。
「ちゃん付けしないで下さい! それより、どんな格好してんですか!?」
「洗濯したら着る服が無かったからね。 まぁ、下着の上に白衣でも問題無いでしょうよ」
「大有りだよ! まあ、いいや。 ベッド、借りますね」
「いいけど…。 あ〜、あまり大声は出さないようにね。 バレるわよ」
「なんの話してるの!?」
「ナニの話しよ。 ま、冗談はそこまでにして、授業始まるわが良いのか?」
「あ、ヤバい!」
一葉をベッドに横たわらせ、シーツを被せると、慌てて、医務室から出ていく。
「ホノカ!」
一旦閉まった医務室のドアが乱雑に開けられた。
「なんじゃ!?」
「その子、起きたら、水分補給することと、なにか食べてから授業に戻るように言っておいて」
「はいはい。 もう、行きなよ。 本当に遅れるわよって、はぁ…。 慌ただしい子ね、まったく!」
ホノカが物申そうとするが、そこにはもうリンの姿は無かった。
◇ ◇ ◇ ◇
白い天井。 見慣れない景色が目の前に広がっている。
「知らない天井だ」
ポツリと呟く。
「そんなわけ無いでしょ。 一回、来ている筈だよ」
呟きに誰か女性が答えた。
「お目覚めはいかがかな? 寝坊助さん」
白衣のドエロイ格好の妙齢の女性がベッドを囲っていたカーテンを開けて入って来た。
「って、たしか…。…ホノカ先生?」
「あら、感心。 私の名前を覚えていたのね。 まぁ、いいわ」
「ここ、医務室?」
「ええ。 朝、ホームルーム終了後にリンが運んで来たわ。 ちなみに、あと10分位で今日の授業は終わる。 一体何しに学園に通っているのかしらねぇ〜」
「あぅ。 ごめんなさい…」
「まぁ、いいんだけどね。 さて、行きましょうか」
「行くって、どこに?」
「食堂よ。 朝から飲まず食わずは駄目だぞ」
え、そのカッコで出歩くの? と気になりながらも、聞いてもいいのかわからず、そのまま、ホノカの後ろをついて行く。
食堂で、軽食とお茶をご馳走になっていると、授業終了のチャイムが鳴った。
「あ、終わった」
「そうね。 それ食べたら、片付けはいいから、こっそり、戻って行きなさい」
一葉は、食べ終わると、ホノカにお礼をしてから、極力、足音をたてずに廊下を走る。 誰ともすれ違わずに教室の前に戻ってきた。 ドアに耳を当てると、微かにリンの話し声が聞こえたからホームルームの最中だと認識した。
そぉーっと、ドアを開けて、僅かな隙間から体を滑らせ中に入る。 そこから、匍匐前進で机の影に隠れながら移動して行く。
「ぶふぉ!?」
ヒョコっと、周りを確認しようと、少し頭を上げると、アクセルの股の間だった。
「(お、おま! いつ入って来た!?)」
「アクセル? どうかした?」
急に吹き出したアクセルをリンが見咎める。
「いや、なんでも無い」
「そう? じゃあ、これで、ホームルームは終わり。 私は、カズハ起こしてくるから」
リンは話を終えると、階段を登って、出入り口へ向う。
一葉は、サッと机の下に潜り込み、隠れた。
リンが教室から出たのを見計らって、机の下から抜け出し、起き上がる。
「お前…、いや、何も言うまい」
アクセルがなんとも言えない表情で、一葉に何かを言おうとしたがやめた。
「あれ? シャガルお兄さん怪我は、もういいの?」
先週まで、ギプス固定をしていたシャガルが、怪我をしていたのが嘘みたいにピンピンしていた。
ガシッと誰かに肩を掴まれた。
「それはね、回復薬を飲んだからだよ」
肩を掴んでいるのが誰かと分かり、一葉は顔が引きつりそうになる。
「いや、リンちゃ、先生よ。 俺の背に掴まるのやめね? 当たってんだけど…」
アクセルが気まずげに言う。
「なら、縮め」
「無茶言うな!」
「さて、カズハ? 何か、言い残す事は?」
「よく眠れました!」
元気よくそう答えたら頬を抓られた。
「ち が う で しょ」
「いひゃい!」
抓られた手に捻りまで入ってきた。
痛い、本当に痛い!
「はぁ、お仕置きはこれでおしまい。 今日は、私、見てあげられないから、みんな自由に活動して」
リンはそう言い残すと、今度こそ教室から出ていった。
「あぅ。 痛かった…」
一葉は抓られた頬を擦る。
自由に活動するということで、開いてる修練場を借りて、そこで、シャガルと打ち合う事になった。
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