週末休み 3
アリスの工房はアリスの部屋から直通で行ける。 場所は地下にある。 アリスの部屋には、人が1人入れる位の大きな箱があり、そこには、簡易転移魔法陣が描かれている。その魔法陣に乗ると工房に行くことができる。
そんなモノが普段から、部屋に鎮座してるわけもなく、床にすっぽり嵌っていて、隠してある。 その上に、特殊な魔法で加工がしてある扉があって、蓋がしてある。 鍵を指し回すと鍵に仕込まれた魔術回路が扉の魔術回路と組合わさり扉が開くという仕掛けだ。
「よいしょっ、と」
蓋を開け、下から引っ張り出す。 ちょっと力がいるが、子供の一葉でも、楽に取り出せる。
しかも、この箱、転移をして行くと、自動的に床下に下がり、蓋がされる。 転移してくる際には、蓋が開き、箱が部屋の中に迫り上がるのだ。
「前に入った時はアリスお姉ちゃんと一緒に入ったから行けたけど、僕一人でも行けるかな」
箱の中に入ると、妙な安心感に包まれた。
魔法陣が輝きだし、魔法陣が足の方から上に上がってきた。
目の前の景色が歪み、次の瞬間には、アリスの部屋とは違う場所にいた。
鉄と油、そして、煤の匂い。 アリスの工房だ。
部屋の隅に棚が置いてある。 そこに、玉鋼がズラリと並べてある。 そこから、玉鋼を取り出し、炉に火を入れた。
テコ棒に玉鋼を積んで濡らした紙で巻き、藁灰をふりかけ、泥汁をかける。
炉に入れて、玉鋼に熱を入れていく。
鞴を吹き、炉の内部温度をていく。
熱気が一葉の頬を撫でていく。
炉の中を見ると、玉鋼が赤熱し、パチパチと音を立て火花を散らし出した。
テコ棒を取り出し、金床に乗せる。
大鎚で叩き、溶着しているのを確認して、もう一度、炉に戻して、更に熱を加えていく。
ここからの見極めが難しい。
なんとなくの間隔でしか分らない。 初めての鍛冶だ。
どうして、手順がわかるのか。 それは、今の一葉には分らない。
だが、夢を見るのだ。
そこは、一面青空の空間。 前も、うしろも。上も下も雲が浮かぶ青空だ。 まるで、空の上にいるみたいだ。
一歩踏み出すと、空に浮かぶ無数の本が一葉の周りを周回し、囲む。
その本を一冊、手に取ると、誰かの生涯の記録が脳裏に浮かぶ。
その、とてつもない情報量に頭がついていかない。拒否反応で頭痛すらある。 その、送り込まれた情報の中に、鍛治屋の息子の記録があった。 一葉がなんとなくでも、鍛冶の真似事ができるのはそのためだ。
玉鋼の色が変わった。
サッとテコ棒を取り出し、金床に乗せる。
大鎚で叩き、伸ばして行く。 ある程度伸ばすと伸ばした玉鋼の中央に鏨で切り込みを入れて折り返す。
再び、大鎚で叩き伸ばす。 玉鋼の温度が下がって来たと感じたら、直ぐに炉に戻し、玉鋼の温度を上げる。 これを何回も繰り返すと次は、テコ棒から切り離す。
ここからは素のべという工程に入り、四角く細長い、そして、均一の厚みになるように叩き伸ばす。
汗が頬を伝い地面にポタポタと垂れる。
カン! カン!
少しずつ叩き伸ばし、形になってきたら、先の方を叩き、切っ先を形作る。
そして、火造りと呼ばれる工程に入る。 ここで、刀の形に整える。 後から入る焼入れの工程で”反り”が入るため、それも含めて、計算しながら行う工程だ。 刀の形になったら、刀身の余分な凹凸を取り除くため、ヤスリや砥石を用いて取り除く。
ここからは焼入れ工程。
焼刃土と呼ばれる、粘土や炭などといったもの合わせた特殊な土を刀身に載せていく、この土の載せ方で焼入れの際の冷却スピードが変わり、硬い部分と柔らかい部分を造る。 そして、美しい刃紋を作り出す。
土を乗せ、乾燥するまで、少し待たないといけない。
ここで、一息つく。
「ふぅぃ〜。 腕、痛い…」
こんなにも、鎚を降ったのは初めてだ。腕が、パンパンだ。
ビィー! ビィー!
「うぉぁあ!? なに!? なんの音!?」
急にけたたましい音が鳴り出した。 音の鳴る所を探していると、玉鋼が入っていた棚にある箱型の小物入れから鳴っていた。
「なにコレ?」
取り出し、開けるとピコン!と音が鳴り、箱の中にある魔法陣とその中央にある魔石が光る。
「『カズハ? 聞こえるかしら』」
シアの声が箱から聞こえてきた。
「シアお姉ちゃん?」
(さっきのアリスお姉ちゃんと話した時と同じようなやつかな)
「『聞こえるわね。 もしかしてと思って、緊急通信魔道具を使って良かったわ。カズハ? 集中しているのは良いことなのかもしれないけれど、そろそろ上がってきなさい! もう、晩御飯の時間も過ぎて、夜も深まってるわよ!』」
「え?! もうそんなに時間が経ってるの!?」
一葉は、そんなにも時間が経ってるいるとは思わず、驚愕する。
たしかに、集中しておっかなびっくり鍛錬をしていたが…。
「『そうよ。 呼びに行こうと思ったけど、集中してるところを邪魔をするのは、どかうかと思って行かなかったけど、流石に、休憩も取らず、ぶっ続けで作業するのは良くないわ。 キリがついて、休めるなら、休みなさい』」
「うん…。 後は、明日でも出来るから、明日にする」
「『それがいいわ。 リンもすごく心配してたから、明日起きたら謝っておきなさい。 今から、お湯とタオル、着替えを持って行くから待ってて』」
「うん。 ありがとう」
ブツッという音と共に、魔法陣と魔石の光が失くなった。
焼刃土は乾燥させないといけないし、明日でいいよね?
鎚等の鍛冶で使用した工具を片付け、灰をかき集め、一纏めに固めておく。
炉の中が消火しているか、再度確認し、片付け忘れがないかも確認する。
「消火、よし。 片付け、よし。 掃除、よし! 戻ろう」
アリスの部屋に戻ると、ちょうどシアが部屋に入ってきた。
お湯の入った桶とタオルをベッド横の机に置くと、一葉に近づく。
パン!と、一葉の頬を叩くように挟み込んで、横に引っ張った。
「いひゃい…」
「心配かけた罰よ。 ったく、ほら! 服を脱ぎなさい」
引っ張っていた手をパッと離すと服を脱ぐよう指示を出す。
一葉は服を脱ぐと、ベッドに、腰掛けるように言われる。
「後ろの髪、ちょっと持ってて」
シアが背中拭いてくれる。
「顔も真っ黒じゃない! ほら、じっとしてて!」
「ぅうう! 自分でできもん!」
「嘘おっしゃい! 雑に拭いて、布団を汚すのが目に浮かぶようだわ。 いいから、おとなしくしてなさい! あ!コラ!暴れないの!」
逃れられないことは百も承知だけど、せめてもの抵抗で、シアからタオルを奪おうとする。
「あっ!」
「キャッ!」
一葉とシアは、攻防の末態勢を崩し、一葉がベッドの上に寝そべり、その上に、シアが四つん這いになって、一葉を組み敷いていた。
「なにか、言うことは無いかしら」
「ごめんなさい」
態勢を崩した際に、お湯の入った桶をひっくり返した為、シアはそのお湯を被ってしまったのだ。
「はぁ…。 怪我はない? 火傷とか」
「うん」
「ならいいわ。 顔と体、前の方は、自分で拭いてくれる? 私は、夜食を持って来るわ。 少しでも、お腹に入れておいたほうがいいわ」
シアは、ひっくり返して空になった桶に魔法でお湯を張り床に置く。
部屋を出て行こうとすると、立ち止まって振り向く。
「少しでも、拭き残しがあれば、問答無用で私が、拭くからね!」
ビシッ!と指を指し念を押す。
一葉はコクコクと頷き、お湯にタオルを浸して、絞った物で顔を拭く。
濡れたタオルで念入りに拭き、服を着る。
用意してくれた服は、甚平だった。
さっきまで着ていたのは作務衣で、耐火、防塵の丈夫な造りをしているため、少し重く、生地も厚い。 それに比べ、甚平は軽いし、風通しも良い。
「お待たせ」
シアが夜食を持ってきてくれた。 夜食はサンドイッチみたいだ。
薄く切ったパンにレタス卵焼きベーコンを挟んだ簡単なもの。
「ありがとう、シアお姉ちゃん」
「どういたしまして。 早く食べちゃ……ッチ!」
「シアお姉ちゃん?」
「最近、虫がよく入ってくるのよね〜。嫌になっちゃうわ」
「駆除、手伝おうか?」
「うんうん。 良いのよ。 カズハ、疲れてるでしょう? それ食べて、寝てなさい」
「でも…」
「いいから、いいから。 私はこの家の管理をする人ならざる者よ? それに、私が強いのは知ってるでしょう? 大丈夫よ」
「う、うん。 ふぁ~、アレ? なんか、すごく…眠く…」
サンドイッチを食べきったところで、強烈な眠気が一葉を襲った。
「これは効くのね。 まったく、自分が、どんな状態なのかも分かってないのかしらね…」
シアはサンドイッチを乗せていた皿を異空間に放り込み、一葉を抱きかかえ一葉の部屋に運ぶ。
「ゴウキ」
「なんだ?」
「処理は?」
「もう済んだ」
「そう。 ありがと」
「構わんさ。 っ!! 侵食が進んでないか?」
寝ている一葉を見て息を飲む。
「ええ。 もう、右腕の殆どが同化してるわ。 このスピードだと、一年も持たないわね」
シアは、沈痛な面持ちで、予測立てる。
「そう、か…」
「まだ、こんなにも若いのにね…。魔剣に呑まれるのは、死と変わらない。可愛そうだけど、私達では、どうしようもないわ。 せめて、生きている間は、健やかに過ごしてほしいものだわ」
「そうだな。 はぁ、またか…。 行って来る」
新たな、虫が入ってきたみたいだ。
「ええ、お願い。 私も、この子を寝かしてきたら向かうわ」
ゴウキは、姿を消した。
シアは、一葉をベッドに運び、頭を撫でる。
「おやすみ、カズハ。 良い夢を」
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