乗合馬車
大通りに出ると、リンは一葉の手を取って、乗合馬車の待ち合い所に向かう。
「歩かないの?」
「歩けないこともないけど、少し距離があるからね。 それに、カズハ一人で出かけるときも出て来るだろうから、交通機関の使い方くらい覚えておいた方がいい」
「走った方が早いんじゃ…」
「…え? あ、ああ! あのね、カズハ。 多分、シリウス様達と同じ事が出来るのだろうけどね、アレは、あのお方達だけ許可が出ている事なの。 他の人がやったら…、捕まりはしないだろうけど、もし、誰かとぶつかって怪我とかさせちゃうと、ね。 だから、絶対にしないでね」
「そうなの? わかった!」
(道を走っちゃ駄目なら、屋根を跳んで行けばいいよね!)
「言って置くけど、屋根の上を走るのも、跳んで行くのも駄目だからね?」
「!? わ、わかってるよ〜」
図星をつかれ、言葉に詰まると、リンにジト目を向けられる。
「今、一瞬、間があったけど? 本当にやめてね」
リンが念を押して、一葉にお願いをする。 もう、懇願する勢いだ。
「はぁ…。 とりあえず、覚えておくことはいくつかあるよ」
リンが一葉の手を引いて、馬車の通る道と人が通る道とが分かれ、人が通るところが階段一段分高くなった所に連れて行く。 そこには、何人かが立ち止まって並んでいた。
「まずは一つ目。 乗合馬車に乗るには、こうやって、少し道が高くなっていて、あそこ、見える?」
リンが指を指した方向に、馬車のマークの看板がかかっているポールがあった。
「あのマークを探すといい。 後は、ここからだと、見えないだろうけど、あのポールの横に掲示版が置いてあるの。 そこに、どのくらいの時間にどのルートを馬車が通って行くのかが分かる紙が掲示されてるから、それを確認する事。 見に行こうか」
リンが一葉を連れて掲示版の前に行く。
リンが言った通り、どのルートを通る馬車なのかと、おおよその馬車到着時間が書かれていた。
「今、四の鐘が鳴った直ぐ後だから…、少し時間があるね。あそこのカフェに入って、時間潰そうか。 これも、覚えおてくといいよ。 乗合馬車の停留所には、必ず直ぐ側に、カフェがあるから」
「う、うん」
掲示版から少し歩いた所にカフェがあり、そこに入る。 中は、モダンな内装で、落ち着いた雰囲気のあるカフェだった。 入った瞬間、珈琲の香ばしく芳醇な香りがする。
「いらっしゃいませ! 2名様でよろしいですか?」
「ん」
「こちらの席へどうぞ!」
ウェイトレスがリンと一葉を二人で座れる席へと案内をする。
座った頃に先程のウェイトレスがメニュー表とお手拭きを持って来た。
「ご注文がお決まりになりましたら、お申し付けください」
ウェイトレスは、軽く頭を下げると他のお客さんの所に向かって行った。
「何飲む? 何でもいいよ」
リンがメニュー表を見せてくれる。
飲み物は…
ミルク ICE HOT
ブレンド ICE HOT
ストレートティー ICE HOT
レモンティー ICE HOT
ミルクティー ICE HOT
果汁ジュース
おまかせ
となっている。
おまかせって何!? まぁ、無難な果汁ジュースでいいや。
「決まった?」
「うん」
「おねーさーん! 注文!」
「は〜い! ただいま〜!」
そう言って、他お客さんの対応が終わると、すぐに来た。
「ブレンドのHOT一つ」
リンがこちらに、視線を向ける。
「果汁ジュース一つ、お願いします」
「以上でよろしいですか?」
リンが視線で「いい?」と聞いてきてる気がしたから、頷いておく。
「以上で」
「かしこまりました! ご注文のご確認させていただきますね! ブレンドのHOTがお一つ、果汁ジュースがお一つ。お間違いはありませんか?」
「ん。大丈夫」
「かしこまりました! もう少々お待ち下さい」
ウェイトレスがカウンターから厨房の方に注文を伝えていた。
「ねぇ、リンお姉ちゃん」
「ん?」
「時間ってどうやって分かるの?」
「時間? 時間はね〜、各街に時計塔が一つはあるから、それを見ればいいよ。 後はそうだね、6時から一時間毎に鐘を鳴らすことになってから、それを基準に大体の時間を割り出すくらい? 夜の9時に鳴った鐘でその日の時間のお知らせはおしまい」
「そうなの? 時計って、みんなは持って無いの?」
「うーん。 時計は、お貴族様達なら一つは持ってるだろうけど、一つがいいお値段するからね。 庶民は持ってる人が少ないかなぁ。 あ、でも、お店を持ってる人とか、会社を持ってる人は、国から貸与されるよ。 ほら、あそこ」
リンが顔を向けた先に、時計が立て掛けてあった。
「あ、ほんとだ」
「お待たせ致しました。 ご注文のブレンドと果汁ジュースになります。 ごゆっくりどうぞ!」
話してるうちにウェイトレスが注文をした飲み物を持って来た。
リンは、ブレンドコーヒーにミルクと、備え付けの角砂糖を1つ、2つ、3つ…………えっ?! 10個目ぇ!?
一葉は、リンの暴挙に開いた口が塞がらない。
(入れ過ぎだよぉ~。 体大丈夫? 糖分取り過ぎで糖尿病になってたりしない!? 大丈夫なの?!)
「飲まないの?」
「え? …あ、ううん。 飲む」
一葉は果汁ジュースに刺さったストローを咥えて、飲む。
口の中に果汁の甘さが広がる。 果汁100%の直搾りなのか、果肉も含まれていて、少しごろつきがある。
「はぁ〜」
「ふふっ」
リンが笑い出した。
「ごめん、ごめん。 さっきまで、仏頂面だったのに、ジュース飲んだ瞬間頬が緩んでるだもん」
そう言われると、顔が熱くなっていくのがわかる。
「あぅ…」
「ははっ! うん? そろそろ来るみたいだね。 飲んだら、停留所に行こ」
「え? うん」
リンは、時計の方には視線を向けずに、一葉にそう伝えた。
リンの言われた通りジュースを飲んで、会計をリンが済ませて、停留所に向かうと、ちょうど、馬車が到着したみたいだ。 幌のついた馬車が2輌並んで停まっていた。
「二人。 一人は子供」
「あいよ。1Gだ」
添乗員の男性に何に乗るかを伝えると、その人数の料金を伝えられるから、その分のお金を支払う。 ちなみに、子供料金は0Gで、12歳までは無料で乗れる。ただし、保護者同伴の場合のみ。
よく、分らないシステムだが、そうなってるらしい。
「全員、座ったか〜?」
添乗員が馬車の中を覗き、確認を取ると、前の馬車の御者台に座って、「しゅっぱーっつ!」と大きな声で合図を出した。
馬車は動き出し、規定のルートを進んでいく。
「ねぇ、リンお姉ちゃん。 どうして、馬車が来たのがわかったの?」
「あれ? 気づいてなかったの? テーブルに『馬車が近づいて来ております。お乗りのお客様はお忘れ物や会計忘れが無いよう、お気をつけください』って、表示されてたけど」
「なにそれ!?」
「そういう魔道具もあるんだよ。 乗合馬車の近くの飲食店には標準的なものだね」
「便利な世界だね…」




