お見送り
「じゃあ、俺らは行って来るぞ」
「うん。 行ってらっしゃい! 気をつけてね!」
革鎧に身を包めた、アクセル、ガイル、ウィリアムを笑顔で見送る。
3人は、眩しい物を見たかのように、顔を手で覆い、わずかに視線をそらす。
「カズハも、気をつけてね。 たしか、リン先生が迎えに来るんだよね」
ガイルが一葉に視線を合わせて言う。
「うん」
一葉が返事をすると、3人とも、頭を撫でたり、肩をポンポンしたりして、出掛けていく。 ウィリアムがドアの向こう側で手を降ってたから、一葉も振り返し、笑顔を向ける。
「神様が本当にいるかどうかは、分らないけど…。 どうか、あの人たちが、無事に帰って来ますように」
ドアを締め、アクセル達が無事に帰って来るように、祈る。
朝食は食べたし、部屋の掃除も終わった。 後は…洗濯しないといけないけど、時間が無いな。 ナイフの手入れでもするか…。
まずは、持参したバタフライナイフから。
柄を外して…、揉んで柔らかくした、チリ紙で刃を挟み込むようにして、上下に動かし、油を拭う。 次に、打ち粉と呼ばれる粉を打つ。刀身にうっすらと付着するくらい。そこから、もう一度、よく揉んだチリ紙を使って刀身を横から挟み込むように持って、打ち粉を拭う。 布に刀剣用の油を染み込ませ、下から上に向かって薄く、均等に拡げて行く。 最後に、外した柄の固定金具にも薄く油を塗って、刀身に柄を組み付けていく。
クルッ、ヒュン! カチャッ!
(うん。 動きも悪くない)
これで、一葉が持ち込んだナイフの手入れが終わった。
学園から支給される儀礼用ナイフは、刃こぼれや手入れが容易になるように、魔法が付与されているらしく、手入れも先程、ナイフに塗った油を広げ塗るだけでいいらしい。
儀礼用ナイフに油を塗り終わり、鞘にしまうと、すぐ目の前にリンがいて、一葉を感心したように見つめていた。
「うわぁ!?」
「あ、やっと気付いた」
リンは、いつものローブ姿ではなく、私服だった。
白を基調としたフワッとしたシャツとスカート。 髪は、いつも後ろで一本に縛っているけど、今日は、ウェーブを効かせて下ろしている。
「授業してる時も思ったけど、集中力すごいね」
「……あぅ」
一葉は、顔を紅潮させる。返事をしようとするが、リンの姿を見ると、言葉に詰まり俯いてしまった。
「どうしたの? 顔が赤いね。 熱でもある?」
リンは、一葉の額に手を当てて、前を向かせつつ髪を上げる。
額同士をくっつけると一葉は、口をパクパクさせ、瞼に涙が溜まっていた。
「熱は無いね。 大丈夫? 今日はやめとく?」
「だ、だい、大丈夫、ですぅ~!」
さっと立ち上がり、出かけれるように、直ぐに準備を始める。
(ぅううー! 時間はまだ大丈夫だと思ったのに〜! あぅ。 今日のリン先生、凄いキレイ…)
胸がドキドキして、無意識にチラチラとリンの方へ視線が行ってしまう。
視線が合うとリンは微笑みを向けてくる。
パパっと寝間着から制服に着替えて、手入れをしたバタフライナイフをジャケットのポケットに、学園支給のナイフを内ポケットに入れる。
魔剣の不思議能力の”アイテムボックス”的な能力からチェーンで引っ掛けた指輪を取り出そうと、魔剣に触れる。 左手が、結晶に包まれ、パリンッ!と割れると、握りこぶしの中から、チェーンと指輪が出てくる。 それを首に掛け、ジャケットの内側に入れる。
後は、一葉に与えられた、収納スペースの中から、小物入れを取り出した。 中には、貴族街に入るための徽章が入っていた。 一葉はそれを胸ポケットの上部に付けた。
「よしっ! リン先生、準備出来ました!」
「ん。 ん? 制服なの? 私服は?」
リンは、一葉の格好を見て首を傾げる。
「無いよ?」
あるにはあるが、持って来て無いのだ。 ザルヴァートル邸では、基本的に着流しを着ていた。
学生寮で過ごすにあたって、一人だけ、異国風の格好だと浮くだろうと、正義らが持っていくのを止めさせた。 その際に、私服を買う事を提案したが、一葉が断固として拒否したのだ。
「ええ!? もったいない! 少し、街も見てく?」
「うんうん。 普段は、学園指定の服があればいいから、いらない」
「そう? まぁ、それでいいなら、いいけど…。 じゃあ、行こっか」
「うん!」
戸締まりをして、寄宿寮から出て、校門まで歩いていく。
「お疲れ様」
リンが門番に声をかける。
「リン先生? おはようございます。 お出かけ…、です…か?」
門番の男性が振り向くと、リンに見惚れて、言葉が尻すぼみになっていく。
「うん。 いつも、ウチの子らが迷惑かけてるみたいだね。 ごめんね」
リンは手を合わせて、門番に頭を下げる。
「いえいえ! あの子らの事情も知っていますので気にしないで下さい。 あ、そうだ。 リン先生、ちょっとこちらへ」
門番が一葉から見えない、学園の外壁の陰にリンを呼ぶ。
「うん? どうしたの?」
リンは呼ばれたまま、門番についていく。
「実は…、今朝届いた情報で、街に『辻斬り』が現れるそうです。 被害者は全員、年若い男女だそうです。 昼夜問わずに被害が出てるらしいので気をつけて下さい」
「辻斬り? ん。 わかった。 気を付ける。 あの子達には?」
「大丈夫です。 言ってあります」
「そう。 ありがとう」
簡単な情報共有が終わると、二人は一葉の元に戻っていく。
「おまたせ」
「ううん。 大丈夫。 もういいの?」
「うん。 じゃあ、私達は行くね」
門番にそう告げてあるき出す。
「行ってらっしゃい。 道中お気をつけて」
門番が心配げにリンを見ながら、見送った。
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