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嫌味な同級生

 身体の中を弄られる。異物が蠢き、這いずり回る、そんな感覚を一葉は感じていた。

 リンから流された魔力は、一葉と触れている手から入って行き、そこを起点に身体中を巡る。 やがて、魔力が一葉の身体の中心部に到達した。 本来なら、魔力壺がある辺りだ。


「ん?」

(あれ? おかしいな。 普通ならこの辺にある筈…。 それに、何回かこの方法で、魔法を使えるように魔力を探してあげた事があるけど、こんなにも魔力を流しやすいのは初めてだ。 なんか、魔道具みたい…)


「リン、先生…。 まだ…?」


 顔色を悪くして、一葉が尋ねる。


「あ、ごめん! 一旦、止めるね!」


 一葉の顔色を見て、これ以上は一葉の体調が持たないと判断して、魔力を流すのを止めた。


「はあ…はあ…はあ…」


 息を切らし、肩で息をする一葉を見て、バツ悪そうに見る。


「ごめん。 止め時を見誤った」


「ううん。 僕は、大丈、夫だから…」


「少し横になって休もうか」


 リンの指に嵌められたリングがチカッと光ると、綺麗に折り畳まれた大判のタオルを持っていた。 それを教室の横になれるスペースに敷いて、辛そうな一葉を抱き上げ、横たわらせる。

 もう一枚、大判のタオルをリングから取り出すと、それを一葉に被せ、一葉の頭を膝の上に置く。

 リンは頭をゆっくり、撫でて、一葉をリラックスさせる。


 一葉の目が次第にトロンと蕩けていき、目蓋をゆっくり閉じていった。


(こうして見ると、幼い子供なんだよね。 あの、戦闘能力を何処で身につけたのかは知らないけど、ヘレネーから聞いた話しからすると、そんなにいい環境じゃなかったぽいし…)


 リンはゆっくりと一葉の髪をなで続ける。


「っう。い…や。 も、う…殺し…た、くなんて………」


 しばらくすると、一葉がうめき声を上げて、魘され始めた。


「!? 大丈夫!? …寝言?」


 魘されて寝ている一葉を膝の上に乗せ、自分にもたれ掛かる様に座らせ、腕を一葉の背に回す。 幼子をあやす様に、優しく背中を叩く。


 教室の外から、廊下に響く足音と話し声が漏れ聞こえてくる。


(そろそろ下校時間だったね…)


 教室の出入り口が開き、アクセル達が、疲れた声で入ってきた。


「ぅえー。つっかれた〜」


「ははは…。 確かに、最近こんな鍛錬してなかったからねー」


「だとしてもです。 ベリー、いきなり、飛ばしすぎじゃありませんか?」


「まあまあ。 いいんじゃない? ベリーもラナも私達よりできてたから」


 レキがベリーとラナにチクリと嫌味を飛ばす。


「何を拗ねてますの?」


 ラナが膨れっ面をしているレキの頬をつつく。 つつくたびに口からプフーと空気が漏れ出て、ラナはレキの柔らかい頬の感触と頬を膨らませ、ぷるぷると震えながら睨みあげる、可愛らしい怒り顔を見て楽しんでいた。


「うがぁぁぁあ! もう、いい加減やめぇい!」


 とうとう、レキが爆発したが、その仕草もまた可愛く、ラナとベリーは微笑ましそうに見る。 それも、レキを腹立たせている原因なのだが、二人はそれに気づいてない。


「ああ、お三方? いちゃついてないで中に入らないか?」


 気まずげにアクセルが3人に声を掛けた。


「「あ、ごめん」」「イチャついてない!」


 ベリーとラナは素直に謝って中に入って行く。 レキはアクセルに噛みついたが顔を掴まれ、力を込められる。


「っルッセェよ! 疲れてんだから、無駄に体力使わせるな」


「うきゃぁぁぁ! イタイ、イタイ!」


 レキはアクセルの腕をタップする。


「はあ…」


 溜息をついて手を離す。


「何をすんじゃー!」


 レキは離されたと同時に飛び上がり、アクセルに殴りかかった。

 ヒョイッと、アクセルは横にさっと避ける。


「うぇ!?」


 レキは驚くが、空中では出来ることも無く、そのまま突き進む。その先には…


「ぅおう……」


「ウゲッ!」


 ウィリアムの腰よりちょっと下、股ぐらに頭から突っ込んだ。

 ウィリアムは悶絶してピクピクとしながら、倒れ込んだ。


「うぇぇ…。 ぐにってした〜! 気持ち悪いー!」


「お前…ひどいな…」


 ガイルが双子の妹を冷めた目で見る。


「今のは不可抗力じゃん!?」


「うん、まあ。 先に、ウィリアムに謝ろうな?」


「あ。 ごめ〜ん、ウィル君。 大丈夫、死んでない?」


「お、おう。 大丈夫、大丈夫だから! 顔の前で、しゃがまないで!?」


 レキは謝る為に、ウィリアムの前まで行ってしゃがみ込み、手を合わせていたが、しゃがみ込んだ場所が悪い。 ウィリアムの顔のすぐ前だったのだ。


 ガイルは溜息をついて、ヒョイッとレキを持ち上げ、ウィリアムから離した。


「妹がすまん。 だが、今見た物は、忘れろ!」


 ガイルが妹の代わりにウィリアムに謝る。 


「お、おう。 わかった。 わかったから、その手に持ったもの離そ? な!?」

 

 ガイルは制服の内ポケットから小型ナイフを取り出し、チラつかせる。


「バカやってないで、帰るぞー」


 先に教室に入って行ったアクセルから声がかかり、ガイルは内ポケットにナイフをしまって中に入って行く。 ウィリアムは、よろよろと立ち上がり、内股になりながら歩いていく。


「あれ? そういえば、リンちゃん達いないね。 先に帰ったのかなぁ?」


 ベリーはリンと一葉が見当たらずそう呟く。

 

「そういえば、見当たりませんわね。 でも、先に帰る、なんてことは無いんじゃなくて? 教室の扉も開きっぱなしでしたし…」


「ここにいる」

 

 どこからかリンの声がした。


「え? 声は聞こえたね」


「聞こえましたわ」


「お!? こっちの下にいるぞぉ…」


 アクセルが大きな声で、ベリー達を呼ぶが、リンにジェスチャーで静かに!と伝えられる。


「どうしたの〜?って、あらら、ぐっすりだね」


「寝る子は育つって言うけど、些か寝すぎじゃないかな?」


 ガイルが疑問を口にする。


「仕方がない。 まだ、ここの生活に慣れてないんじゃない? ヘレネー、って言っても分からないか…。 一時期、この子と一緒に生活してた知り合いが言うには、『夜、寝れない時は、星を見上げる』事が多いんだって。 生活に慣れてくると普通に寝てたみたい」


「あ。 じゃあ、朝のあの騒動って…」


 ガイルはリンの言わんとする事に気がついた。


「うん、そう。 慣れない場所で寝れなくて、夜空を見上げて寝落ちて、それで、慣れない場所、慣れない環境に従事させられるんだよ? 疲れて、寝ちゃうのって仕方がないよ」


 声を潜めて、みんなに伝える。

 一葉を起こさない様に背に回しおぶさると、みんなに帰る準備をするように促す。

 みんなが教室から出て、忘れ物がないか確認してから扉の鍵を閉める。

 下校時間とあって、他のクラスの生徒らも下校を始めていた。

 そこに、一グループがニヤけながら近づいてきた。


「おうおうおう。 落ちこぼれクラスの皆さんも今、お帰りですかぁ?」

「はははっ! そりゃねぇって!」

「そうそう! だって、こいつ等…碌に鍛錬場も借りられないだからよぉ!」

「「「ギャハハハ!」」」


「まあまあ、皆さん。 そう、言っては可哀想ですよ。よしてあげなさい。 なんたって、担任も冒険者上がりの野蛮な素養のない方なんですから、ねぇ〜!」


 教室と思しき男性がそう言うと後ろの生徒たちが笑い声をあげた。


「お守りも大変ですねぇ。 ねぇ? リンせんせぇ?」


 リンがおんぶをしている一葉に目を向けながら嫌味ったらしく言う。


 アクセル達は、不快そうに顔を歪め目の前の同学年の生徒等を睨みつけていた。

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