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授業開始

 翌日。 特化クラスでは、3名が朝から机に突っ伏していた。 そして、一葉は目を赤く腫らしていた。


 (((何があった!?)))


 教室にやって来た、ベリー、ラナ、レキの3人は、いつもなら、ホームルーム開始ギリギリの時間にしか来ない男子陣がいることに驚いた。 机に突っ伏していたが。

 そして、その周りをオロオロと歩き回っている一葉を見て、何かがあったんだと察した。


「おはよう、みんな。 どうしたの? いつもより大分早いね」


 ベリーが意を決して、アクセル達に声をかけた。 


「おう、おはよー。 ホームルーム、始まりそうになったなら起こしてくれ。 朝から疲れた…」


「おはよう、ベリーさん。 ごめん。 俺もちょっと、今日はしんどい…」


 アクセルとウィリアムは越えをかけられたことによって、頭だけ起こしベリーと挨拶をする。 そして、パタッと直ぐに寝入る。


「ははは…。 おはよう、ベリー。 ごめんね、ちょっと、今日は朝イチから大騒動でね。多分、男子寮全員がこんな様子じゃないかな?」


「ああ〜…。カズハ君が泣き腫らした顔をしてるのにも関係してる感じ?」


「まあ…」


 ガイルが歯切れ悪くして苦笑していると、ホームルーム開始のチャイムが鳴って、リンが入って来た。

 リンは両手でバスケットを持っており、教卓を素通りして、アクセルやウィリアム、ガイル。 カズハの机にバスケットに入っていたものを置いていく。 置き終わると教卓まで、戻っていった。


「号令」


 とリンが告げると、ウィリアムが立ち上がり号令をかけた。


「きりーつ! きぉっけぇ! 礼!」


 相変わらず、よくわからない発音だが、それに従い。礼が終わると「着席」の言葉で椅子に座った。


「ん。 みんな、おはよう。 ジンから聞いたよ。 朝から大変だったみたいだね。 とりあえず、ソレ、このホームルーム中に食べちゃって。 他のクラスの子には内緒にしておいてね。 本当は良くないことだからね」


 リンがソレと言ったのは、リンが来た時に一葉達の前に置いていった物だ。 それは、サンドイッチだった。


「お? マジで!? リンちゃんの手料理か!?」


「文句があるなら食べなくていいよ」


「ないないない。 じゃ、遠慮なく。 〜っ! うめぇ…」


「ありがとうございます。 リン先生」


「ゴチになります。リンちゃん」


 アクセル達が、リンが作って来たサンドイッチに舌鼓をうっているとベリーがあーっと声を上げた。


「リンちゃんが朝せっせと作ってたのはそれか! 普段、朝の厨房には入らないとから不思議だったんだよねー」


 ベリーが「この為かー」と得心がいった。


「あえ? リンちゃん。 その子のだけ随分と少くない?」


 一葉の後ろから眺めていたレキが、アクセル達の物より小さくカットされていて、にもかかわらず枚数も少ない事に気づいた。


「うん、私も少なすぎると思うけど、ジンから、すごく少食だって聞いていたからね。 カズハ。 足りなかったら言ってね。 まだ、あるから」


「うん。 ありがとうございます。 いただいきます」

 

 カズハは手を合わせてから、小さいサンドイッチを両手で持って、ちょっとずつ齧って食べていく。 傍から見ると小動物のようだ。


「ごちそうさまでした。 リン先生、美味しかったです」


 食べ終わるともう一度、手を合わせて感謝する。


「そう、なら良かった。 他も食べ終わったね。 特にこれといって伝えないといけない事はないからこれで、ホームルームはおしまいだよ。 あ、今日から授業開始でけど、怪我とかしないように。 あと、問題はあまり、起こさないで」


 ビシッと指を指して釘を差す。


 リンが、教室を出ていくと、皆は各々、手持ちの鞄から授業で使う教材を取り出していく。

 

 だが、困った事に、一葉はまだ、教材が揃っていない。

 それを見かねて、ベリーが一葉を手招きする。


「よいしょっと」


「ヘ?」

 

 ベリーが一葉の脇の下に手を入れて持ち上げ、膝の上に座らせる。


「ベリーお姉さん?」


「これで教科書も見えるでしょう?」


「う、うん。 うひゃぁ!?」


 ベリーが一葉を抱きしめ、首筋に顔をうずめた。


「やめなさい! はしたない」


 ポカッとベリーの頭を叩き、やめさせるのは、ラナだった。 

 一葉は助かったとラナに笑顔を向けると、ラナはプイっとそっぽを向いてしまった。


 一時限目開始のチャイムが鳴ると、再び、リンが入って来た。


「……? なんで、そこにいるの?」


「…教科書がないから?」


「…ああ〜。 今日、授業後に買いに行こっか。 購買まで、案内してあげる」 


「うん」


「ゴホン! じゃあ、授業を始めるよ。 号令!は、いいや。 余り時間もないし」


 リンの授業は『基礎魔術』という物だ。


 魔術とは、魔法の1種であり、魔力さえあれば誰にでも使うことの出来る技術だ。 主に、術式や詠唱、魔法陣を用いて現象を起こす。  しかし、魔法も魔術も使うには特殊な技能がいる。 それは、”魔力操作”だ。

 魔力があっても、碌に操ることができなければ、魔力を暴発させ、周りに被害を及ぼすか自分のみを破滅させる。 そうならないための授業がリンの『基礎魔術』ということだ。


「さてと。 みんな、教科書は持ってるね。 ソレ、使わないから仕舞って」


「使わないなら、何故買わせた!?」


 アクセルが突っ込む。


「いや、だって。 言葉でダラダラと説明したところで、ねー? 自分の魔力を操作するためなのに、ゴチャゴチャと、ああしなさい、こうしなさい、あれはだめ、これはだめって、もうね。馬鹿だよね?」


「…教師の言うことではありませんね」

 

「いやいやいや。 ラナ? じゃあ、あなたは、身体を動かすのに、いちいち理論立てて動かしてるの? 違うよね。 あくまで、自分の身体を動かすのは、自分の感覚。自分にしかわからない事だよ。 魔力操作も一緒。 自分の中にある魔力を操るんだよ? 自分でコツを掴まないでどうやって操るの? 教科書に載っていることは一例に過ぎないよ。 だから、あまり意味ないの。 他に質問は? 無いね。 じゃ、カズハ。 いらっしゃい」


 リンに呼ばれ、ベリーの膝の上から降りて、向かう。


「みんなは、とりあえず自分の前に障壁を張って」


 と指示を出して、一葉にはリンに背を向けて立つように言う。

 リンの指が一葉の背をなぞっていく。


「ひぃあ!?」


「しっ! 動かないで。 これでよし! もう良いよ」


 くすぐったいのを我慢して極力動かないようにしていた一葉は少し顔を赤くして、呼吸が乱れていた。


「背中に空気中の魔力を少量だけど蓄えられる魔法陣を付与しておいたから、これで、今日は乗り切って」


 と、耳打ちをする。


 席に戻るように言われ、背中に違和感を感じながら戻って行く。


 リンは、他のみんなの張った障壁を歩いて視ていく。

 教卓まで戻ると、大きく息を吐いて、こう一言告げた。


「みんな、話しにならないね」


と。

 

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