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編入初日

「はい。みんな、席に着いて。 騒ぐようなら、風穴開けるから、さっさと座って?」


 リンのおっとりとして、眠たげな声で不穏なことを言いながら席に座るように促す。

 未だ、眠りこける一葉のところまで歩いていくと、一葉の肩を揺らす。


「起きて」


 ユサユサ揺すっても起きることは無く、熟睡していた。

 

「うん、起きないね。 どうしようかな」


「ぅん? ふぁ~」


 一葉がゆっくり、目を開けて、欠伸をしながら、腕を伸ばす。 そして、いくつもの目がこちらに向いていることに気付く。


「おはようございます?」




「うん。じゃあ、紹介するね。 あまり意味ないかもしれないけど」


 リンは教卓の前に立ち、横に来させた一葉に手を向け、生徒達に注目させる。


「軽く、自己紹介を。(勇者様の事とか、異世界から来訪したことは言わなくて良いからね)」


 リンが一葉に自己紹介をするように言って、場所を譲る。 その時、コソッと耳打ちをする。


「カズハ ツキシロです。 魔法はあまり得意ではありません。 どちらかというと、剣術や体術の方がいいです。 それと、先日はご迷惑をお掛けしました」


 名前と魔法が不得意な事、得意な事を話して、試験の時の事を謝罪する。


 見ている生徒達は、年齢にそぐわない、カズハの物言いに呆気に取られる。


 教室が静まり返る。 歓迎も、避難の声が上がることも無く、ただただ無音の時間が流れた。


 何か、おかしな事をいったかな?


 とカズハは思っていると横からパチパチと手を叩く音が聞こえてくると、それが次第に教室全体に伝染していく。


「ありがとう、カズハ。これから、名前で呼ぶから慣れてね。 みんなも、戸惑う事が多いと思う。 けど、君等はカズハよりも年上で、先輩で、同じクラスの同級生だ。 なにかと、力になってあげてほしい。 カズハ、空いている席ならどこでもいいから座って」


「はい」


 空いている席。 と言っても、このクラスの人数は一葉を含め、6人程。 教室は、30人は座れそうな程の席がある。

 どこに座ろうか、迷っていると、ベリーが手招してることに気づく。 丁度、ベリーの横が空いているみたいだ。 そこの席に向かおうとすると、リンに呼び止められた。


「あ、ちょっと待って。これ、使って。 多分、椅子の高さ合わないと思うから」


 差し出されたのは金属製の薄いリング状の板とそれよりも少し大きめのクッション。 使い方は椅子の上にリング状の板を置いて、その上にクッションを敷いて、座るだけ。

 その2つを持って、ベリーの横の席に向かう。


「よろしくね、カズハ君!」


「はい! こちらこそ、よろしくお願いします!」


 ベリーが眩しいほどの笑顔で挨拶をしてくれ、それに返事を返す。

 椅子に、言われた通りに渡された物を敷いてその上に座る。


「ふぁっ!? え? 浮いて…え!?」


 リング状の板が浮き、カズハの目線の高さを高くする。 穴が空いている所にお尻がすっぽり収まっているため、落ちる心配はない。 降りるときは、不思議な事に、降りたいと念じることによって、元の高さまで戻った。


「あ。言い忘れたけど、それ、魔道具だから扱いには注意してね。 そんなに、雑に使わなければ壊れない様に作ってあるけど、もし壊れたら、直すのにも少くないお金がかかるからね」


 一葉は、リンの言葉を聞いて、首を縦にブンブン振って、壊さない様に丁寧に扱おうと心に決める。


「さてと、じゃ、次。 と言っても、カズハ以外のみんなは知ってると思うけど、高等部からは、課外活動に必ず參加だから、何処かのサークルに入ってね。 ま、新規に作るのも一つの手だね。 仮に、このクラスだけで、サークルを作るなら、顧問はやってあげる。 私ぐらいしか空いてる先生はいないしね」


「先生! よろしいでしょうか?」


 後方の席から声がかかる。 発言を求めたのはウィリアムという男子生徒だ。 彼は、騎士爵家の次男坊だ。 それがあってか、騎士としての訓練も程々に冒険者ギルドに加入し、ハンター活動に身を入れているらしい。 言葉遣いが堅苦しいのは、家風のせいだろう。 細身でまるでハンターとして活動しているとは思えない風貌で、ダークブラウンの髪で短く切りそろえている。


「いいよ」


 リンは快く、発言を許した。


「課外活動のサークルは、そんな簡単に作れるものなのでしょうか!?」


 大きい声で、質問するウィリアム。 声が大きすぎて、どこか威圧的で、質問というよりは、詰問みたいに聞こえるが、当人はそのつもりは無く、本当にただ質問しているだけだ。


「作るのは簡単だよ。 『顧問』がいて、『目的』と『サークル名』、『5人以上のメンバーいる事』の3つが達成してれば作れるよ。 活動はよっぽど、おかしな物じゃなければ承認されるよ」


 リンはサークル作成の条件を説明し終わるとウィリアムは「ありがとうございます!」と礼を言って席に座る。


「他に質問は?」


「はい!」


「はい、ベリー」


「先生は、知っていると思いますけど、私達、ハンター活動をしてるんですけど、それを活動の一環にするのは?」


「うーん…。良いか悪いかで言えば、良くは無いだろうね。  でも、君たちにとっては、それは死活問題になるか…。 課外活動で時間を取られて、稼ぎが出なくて、学費が払えないなんて本末転倒だからね」


 どういうことだろうか? 


 事情を知らないカズハが疑問符を浮かべていると、ベリーが説明してくれた。


 このクラスにいる人達は、全員、冒険者ギルドに加入して、ハンター活動をしているらしい。 ウィリアムやアクセル、ラナ以外のベリー、ガイル、レキの3人は教会が運営する孤児院の出だ。

 アクセルは、黒髪で長髪の男子生徒で後ろで一本に纏めている。 家が鍛冶屋をやっているらしく、ハンターに依頼するのではなく、ハンターとして自分で集めに行くらしい。

 ラナは、一応伯爵令嬢らしい。 家とは絶縁状態で家出中。 食い扶持を稼ぐ為に冒険者ギルドに加入したらしい。 貴族令嬢が何やってんの!?と思わなくないが、一葉の周りにもいるのだ、そんな奇天烈な人が。 今は公爵家当主だが、以前は皇女だった人だ。


 ガイルとレキは、男女の双子だ。 髪色は薄紅色で、毛先が赤みが強くなったグラデーション。ガイルが、ベリーショートヘアの男の子で、レキがミディアムヘアの少女。ハンター活動も、最初はガイルが妹や弟達にお腹いっぱいのご飯を食べさせたい為に始めた事だった。 


 理由は違えど、同年代ということもあって、よく一緒に活動することになったらしい。ラナに関しては、学園に入学してから、食べる物に困っていた時にベリーに会い、冒険者ギルドに連れて行かれたらしい。


「ま、いっか」


 リンはしばらく考えた末、ハンター活動を課外活動の一環にすることを許可する。

 だが、課外活動の承認は生徒会と学園長の承認がいるため、これが通るかは分からない。


「じゃあ、全員新しく作るサークルに参加でいい?」


 確認のため、リンは、クラスの全員を見回す。 クラス全員の視線がリンに集まり、意思表示がなされる。


「ん。わかった。 じゃあ、サークル名と理由付けだね、後は」


 そこで、一人の手が上がる。


「はい、ラナ」


 手を上げたラナを指名する。


「はい。 どうせなら、上を目指しませんか?」


「上? どういう事だ?」


 ガイルが問う。


「”Sランク”」


 と、一言で答えを示した。


『は!?』


 正気か? と声が上がる中、ラナは手を上げ、静かにさせると語りだす。


「皆さん、勘違いしないでほしいのです。 ”Sランク”なんて、通過点です」


「なお悪いわ!!」


 アクセルが勢いよく突っ込みを入れる。


「だって、いずれ『魔王』が現れるのでしょう? なら、その討伐に協力して栄誉を賜われば、周りの人間を見返せると思いませんか? でも…、勇者と肩を並べるなんて一筋縄では行かないでしょう。 だって、この世界を滅ぼしうる力を持った魔王を倒せる程の力を持った勇者ですよ? 勇者だって、簡単にこの世界を滅ぼせるでしょうね。 そんな規格外の化け物と肩を並べられるなんて、『英雄』位にならないと話しになりませんわ! このサークルは謂わば英雄集う場所であり、ハンターのクランのような物。 故に、私は提案します。 ”ヴァルハラント”という名はどうですか?」


「『ヴァルハラント』か…。 英雄集う場所。 たしか、神話で”ヴァルハラ”って言うんだっけ? それに”ハンター”、を少しもじってハント。 それを組み合わせたと…。 うん。いいんじゃない?」


 ベリーが称賛の声を上げるが、一部の人は苦い顔をしていた。


「まさか…。お前からそんなまともな意見がでるとはな。 流石は、伯爵令嬢。 博識でいらっしゃる」


 アクセルがどこか演技っぽく、ラナを褒め称える。


「そうでしょう、そうでしょう! ……ちょっと、待ちなさい。 馬鹿にしてます? してますわよね!?」


 最初こそ、鼻高々といった様子だったが、アクセルの真意に気づき、食って掛かる。


「いえいえ、そんな、滅相もない」


「馬鹿にしてるではありませんか!」


 ニヤニヤしながらも嫌味を放つアクセルに怒髪天を突くといった様子だ。

 ラナから威圧する空気が発せられて、金の巻き髪がユラユラと浮かび上がる。 その、毛先がアクセルに向けられると、「パン!パン!」と手を鳴らす音が響いた。


「二人とも。 仲が良いのは良いことだけど、暴れるなら、外に行こうか。 それとも、喧嘩両成敗でぶちのめした方がいい?」


 リンが圧を放ちながら笑顔で二人にはなしかける。


 ラナは、リンのただならぬ圧にたじろぎ、髪を降ろす。

 アクセルはバツ悪そうに、顔をそらしていた。


「うん、よろしい。 じゃあ、確認するよ。 課外活動は新規に作って、それに参加。 内容は、自己強化訓練といったところかな。 サークル名は『ヴァルハラント』 これでいい?」


 『はい!』


 全員が返事を返す。


「ん。 これで、申請しとくね。 じゃあ、今日はこれで、おしまい。 ウィリアム、号令」


「起立!」


 全員が一斉に立ち上がる。


「きぉつぇけぃ!」


 なんて!?


「んれい!」


 全員が頭を背筋を伸ばし、体を腰から前に倒す。


 クスクスと笑い声が聞こえる中、編入初日が終わりを迎えた。


「じゃあ、みんな。 気をつけて帰るように。 外出するのも良いけど、怪我とか事故には気をつけてね。 それと、カズハはついてきて。 学園長室に呼ばれてるからね」


「はーい」

 

 座席の高さ調整の魔道具を脇に抱え、パタパタとリンの元にかけていく。



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