天使がいる!?
入学式兼始業式が終わって、私達は校舎の中を歩いていた。
「はぁ〜。 毎度の事ながら、もの凄いだるいね。始業式は」
ベリーが独りごちる。 それにラナが反応する。
「あら? だるいもなにも、あなた、寝てたじゃない」
「ん!? なんのことかな!?」
ラナに突っ込まれ、アワアワする。
「”聖女”が聞いて呆れるわね。 殿方達は幻想を抱きすぎですわ。 実際はこんなにも不真面目なのにねぇ?」
「不真面目って…。 これでも、成績は上位の方なんだけど? それと、その呼び方は…」
「納得が行きませんわ! 授業だって、居眠りしてることの方が多いのに!」
ベリーは苦笑いして答えると、ラナが「そういうば…」と話題を変えた。
「あの子…、カズハ君でしたか? 今日来ていなかった事を見るに、落ちてしまったようですね」
「ああ…。 でも、どうだろ? あの時の、リン先生の反応から見ると、受かってそうじゃない? それに朝、なんか、妙な噂が流れてたし。 一般人が紛れ込んでいるって。 案外、制服が体に合わなくて、そのまま私服で来たんじゃない? ほら、性別的に。 それで、急遽別室に案内されたとかじゃない?」
「ははっ。 まっさか〜! そんな事、あるわけありませんわ!」
「はははっ。 そうだよね!」
「「はぁ…」」
「無くはないんじゃない?」
「そうですわね。 あの外見じゃ…」
ラナが教室にたどり着くと男子生徒達が教室の出入り口前で立ち止まり、「どうするよ?」「迷子か?」と戸惑っていた。
「なんですの? アレは」
「さあ?」
ラナとベリーは男子生徒達を訝しみ、声をかけると、「天使がいる」と答えが帰って来た。
「「天使?」」
ラナとベリーは顔を見合わせ、男子生徒達に道を開けるようお願いして、教室の中に入っていくと、そこには、陽の光を浴び、窓の隙間から入る風に白銀の髪を揺らす、天使が眠っていた。
一方、その頃…
リンはしゃいるに呼ばれ、学園長室に足を運んでいた。
そこは、壁に大きな穴が空き、扉であったであろう木片が散乱していた。 こうなった原因に心当たりのあるリンは、遠い目をする。
学園長室に入ると、誰もいなかった。
「あれ? いない?」
首を傾げ、学園長室の状態を見ると、誰かが闘ったかのような惨状だった。
壁の破片や外れた肖像画等、見るからに異常事態だ。
学園長室の外からパタパタと走る足音が聞こえると、血相を変えたシャイルが入って来た。
「ごめんなさい。 待たせたわね。 リン、あなた、ここに来るまでの間に初等部の男子用制服を着た女の子を見なかった?」
「”初等部の男子用制服を着た女の子”? ううん、見てない。 それって、あの子の事?」
「ええ、あの子よ。 チッ! シオンとも連絡がつかない…!」
「時に、学園長」
「なに?」
「”シオン”を呼んだんですよね? 細かく、指示出しました?」
「してないわね。……まさか!」
しゃいるは魔力を練り上げ、召喚魔法の魔法陣を展開させた。
魔法陣に魔力を流していくと、魔法陣が発光する。次第に、その光は強めていき、バチバチと魔法陣の中央に稲妻の塊が生まれ、学園長室を光が飲み込む。
光が収まると、魔法陣の中央にスヤスヤと眠るメイドが一人。
「ふっ。 ふっふっふ。アハッ!アハハハは! …この、駄メイドがぁ!!」
眠るメイドにしゃいるは肩を震わせ、急に笑い上げる。
しゃいるは、メイドの頭を掴むと、自身に身体強化の魔法を掛けて、絞め上げる。
「へっ!? あいだだだだ! イタイ! イタイですよ!?」
ウギャーと悲鳴を上げるメイド――シオン――にしゃいるは冷めた視線を送る。
「ねぇ、シオン? あの子はどこ?」
手に雷光を纏い、手刀の形をさせた手をシオンに向ける。
「何の話です!? あの子? …ああ! あの、かわいい子ですか! 教室に案内しましたよ?」
しゃいるは、それを聞いて、頭を抱えてよろめく。
メサイアベルテ学園では、基本、初等部からの繰り上がり制。 中途入学も認めてはいるが、合格者数は年に数人ほど。 少ないときは、合格者は0人なんてことも。
そして、今回。 一葉は中途入学でも特に稀な飛び級制度を利用した編入だ。 しかも、異世界からの来訪者だと言うじゃないか。 生徒達の混乱を招かない為にも、別室待機で、式が終わってから、配属されるクラスの担任に迎えに来てもらって、そこから生徒達に紹介する、という段取りをしていたのだ。
「はぁ…。 リン、ごめんなさいね。 こちらの手違いで、編入生は既にあなたの担当するクラスにいるそうよ。 生徒達が困惑していると思うから、早く行ってあげて」
「ああ、はい。 あ。 一つ、いいですか?」
「ええ」
「あの子はどういう扱いを? 他の生徒達と同じでいい?」
「そうね…。 基本は同じで良いわ。 だけど、実技授業の時は、少し配慮をしてくれないかしら。 あまり、意味はないと思うけど、一応、年齢差があるからね。 怪我…はしないか。 他の生徒達が遠慮して、授業に身が入らないかもしれないわね。 そこら辺の匙加減は任せるわ。 実際に生徒達と接している現場の教職員の判断だもの。否や言わせないわ」
「ん。 分かった。 じゃ、好きにやらせてもらうね」
リンは「失礼致します」と礼をしてから学園長室から離れ、『特科 7組』に教室に向かう。




