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じゃーん、けーん!

「ふっ!ふっ!ふっ!」


 太刀と同じ長さの鉄製の棍棒を何度も振り下ろす。


「精が出るねセイギ」


 雄一が、湯気が立ち込めるカップを持って、縁側の柱にもたれ掛かっていた。


「まぁな。 アイツが学校に通うようになったら、活動を開始するんだ。 少しでも、生き残れるように鍛錬だけは、怠れん」


「それは、わかるんだけどね。 あまり、根詰めすぎないでよ」


「わぁってるよ」


 雄一からカップを受け取り口に運ぶ。


「熱っ! お前、冷ましてから来いよ!」


「氷が無かったんだからしょうがないだろ!」


 二人は、文句の言い合いになり、次第にヒートアップしていく。

 一頻り言い合うと、空を見上げる。


「この空を見るとさ」


 正義が見上げながら雄一に話しかける。


「ん?」


「本当に異世界に来たんだなぁって、思い知るんだよなぁ」


「……たしかに。 向こうじゃこんなに綺麗に星なんて見れないもんね」


 正義が手を空に向け、眺める。


「なんか、昔さ。 漫画で読んだんだよなぁ」


「漫画?」


「ああ。 こんな風に、夜空見上げてよ。 主人公達が、こう言うんだ。『大きな流れの中に小さな一つ。全の中の一。その小さな一が集まって全となる。』ってさ。 俺らがここに喚ばれたのは、”世界全体”からしたらちっせえことかもしれないけどさ、なんか…ああ! なんて言葉にしていいか分かんなくなって来た!」


「ははっ!何だよ、それ!」


「笑うんじゃねぇ! ガラでもねぇこと言った。 忘れろ」


「はいはい。 じゃ、俺も混ぜて貰おっかな」


 雄一は縁側にカップを置いて、裏庭に出る。


「へっ! こっちに来てから、調子が戻って来たか? 昔に戻ったみたいにやる気じゃねぇの」


 正義はカップを置いて縁側に立て掛けてあった二本の模擬刀を持って、裏庭に出る。


「まぁね! あいつ等を守れるのは俺等しかいない。 惚れた女守るには力がいるだろ?」


「カカカ! ちげぇねぇ! なら、久しぶりによ」


 雄一に模擬刀の一本を投げ渡し腰に提げる。


「うん。 アレ、やろっか!」


 雄一も正義と同じく腰に模擬刀を提げ、向かい合う。


 ただ、向かい合って打ち合うだけじゃつまらないし、それじゃ、いつもの鍛錬と変わらない。

 それならと、考えた鍛錬方法が――


「「ジャーン、ケーン、ポン!」」


 雄一 チョキ


 正義 パー


 キン!


 雄一が抜刀術で正義に斬りかかる。 

 正義はそれを受け止めた。


 これは、いうなれば「たたいてかぶってジャンケンポン」だ。

 まぁ、もっとも、使うのは模擬刀だが。


 じゃんけんで勝ったものが負けたものに斬りかかり、負けたものは、避けずに受けるか受け流すかをしないといけない。受け手に一撃は入れば、勝敗が決まる。

なお、受け手は一歩も動いてはならない、動いたら負け。というものだ。


「っぶな! うし! 次だ」


 正義も正義も互いに刀を納める。


「「ジャーン、ケーン――」」


 二人は遊びとも取れる鍛錬をつづけた。


 何度目かの勝負をしている時に縁側に新たな人が訪れた。


「呆れた。 まだ、鍛錬してたの? オーバーワークは体に悪いわよ」


 春希が心底呆れた様子で縁側にやってきた。

 その後ろから、ひょこっと顔を横から出してこちらを見ているのは、愛莉栖だ。

 愛莉栖は小柄なため、春希の身体で隠れてしまっていた。


 二人とも、僅かにほんのりとが赤く上気していることから風呂上がりなのだろう。ふんわりと石けんのいい匂いが風に乗ってくる。


「お風呂空いたよ〜、二人共」


 愛莉栖がそう伝えて来た。ゆったりした服装で、少し前かがみになっているため、服の隙間から中が見えそうになっていた。


「あ、ああ。 わかった、すぐ行く」

 

 正義は息を詰まらせ、視線をずらして返事をした。


 雄一は生唾を飲み込み、一点を凝視していた。


「あだっ!」

 

 正義が雄一の額を打ち据え、強制的に正気を戻す。


「風呂行くぞー、雄一」


「わかった! わかったから首を締めるな!」


 使っていた道具を片付け、雄一の首を腕で締めながら、屋敷に入って行く。

 春希達の横を通る時に声をかけていく。


「このバカがすまん」


 春希達は苦笑で返し、正義達の後ろを歩く。


「良かったの? あんなにサービスして」


 春希が正義達に聞こえないように小さな声で愛莉栖に話しかけた。


「ちょっと、やりすぎたかも。 めっちゃ、恥ずい」


 愛莉栖は火照った顔を手で仰ぎいで冷まそうとしていた。


「だろうね。 あんな大胆なことするなんてビックリしたよ」


「まぁね。 ちょっと、確認?」


「確認?」


「そ。 ほら、異世界ものの物語ってさ、ハーレムだとか、そういう類のものがはっちゃけるじゃん? でも、二人はさ、そんな素振りもないし。 不能なのかなって」


「ん? うん」


「あ。 でも、あれだよ! 抱かれたいとか、そういうのじゃないよ! 好いてもない人に身体を許すことは無いよ。 ただ、これからどうなるかわからないし、今のところは信用出来るんじゃないかなぁ」


「ああ、そういう事? 仮に、もし言い寄られたらどうするの?」


「ちょん切る」


「手厳しいね。 まぁ、でも仕方無いのかな」


「はるちゃんは?」


「私? 握りつぶす、かな? ああ、でも触りたくないし踏み潰すかも」


「……男の子質には聞かせられない話してるね、私達」


「ははは、たしかに! ま、でも」


「うん」


「「今のところは大丈夫そうだね」」


 二人は声を潜めながら、クスクスと笑いあった。


 だが、二人は知らない。


 正義と雄一の歩き方が、少し内股気味になっていたことに。

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