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皇都散策

 メサイアベルテ学園から皇都中央を奔るメインストリートまでは一本道になっており、学園に通う生徒達御用達の服飾店や雑貨屋、飲食店等が立ち並ぶ。


 一葉は、アレスの「気分転換に皇都散策したらどうだ?」という言葉に乗って、皇都散策を開始した。


 中央のメインストリートまでのお店は、学園が近いせいか、若者向けの衣服や食事処が多い。 特に、パフェやクレープ、ケーキ等といったスイーツ系のお店が、多いと感じられる。 

 次に、安くて量の多い食堂や、少し値は張るが、上物の食材を使った料理を堪能できるレストラン等が、立ち並んでいる。

 そのため、店の外には食欲を唆る、美味しい匂いが漂っていた。

 

 少し進むと、アクセサリーや魔道具、武器防具等のお店がちらほらと空いていた。


 一葉はふと、アクセサリーの販売をしている屋台に目が行った。


 そこには、バザーセールとデカデカと宣伝しているお店で、魔道具が安く売られていた。


「お? お嬢さん、気になるかい? 好きに見ていきな!」


 店主がニコニコしながら声をかけてきた。


「ありがと。 おじさん。なんで、こんなに安く売ってるの?」


「ははは。 これは、ウチで造った魔道具なんだが、まぁ、そのなんだ? あまり、売れなくてな。 一般向けじゃ売れないが、学生さんには偶に買ってもらってるからね。 売れ残りや、在庫が余ってるのは、こっちで安く売るようにしてるんだよ」


 そこまで、話していいものかと思うところだが、快く教えてくれた事に感謝する。


 売られているものを見ると、魔力を流すと微振動を起こす手袋や、紐を引っ張ると轟音と閃光を撒き散らす魔道具等、使い所が限定的な物が多く並んでいた。 中でも、目についたのは、魔力を吸って重くなるというアームカバーの魔道具だ。


「トレーニングにもってこいの魔道具だね。 これも、売れ残り?」


「これか? これは店の倉庫に転がってた奴だな。 用途はよくわからんがな」


「うん、まぁ。 筋トレ位には使えるんじゃないかな?」


「筋トレかぁ…。する奴いるか?」


「さぁ?」


「ふむ…。 どうせ売れんだろうし、やるよ」


「え? でも…」


「いいから、いいから。 これも何かの縁だ。 これから、ご贔屓にしてくれ」


「ありがとう。 気が向いたら、また来るよ」


 おじさんが魔道具をくれた。


 魔法は使えないけど、少し気になっていた魔道具だ。

 見た目は金属布といった感じで、重さをほとんど感じない。

 だが、重さは変わらないはずなのに、体から何かが、吸われる感じがして、変な感じがする。


「良かったな」


 アレスがワシャワシャと一葉の頭を乱暴に撫でて、散策を再開する。


 前から喧騒が聞こえてきた。


 どうやら、誰かが騎士達に取り押さえられているらしい。


 周りから聞こえてくる声では、件の人はお店の従業員にお酌を強要しようとしたり、それが出来ないと分かると、大声で叫び周り、お店の備品を破壊したらしい。それだけでは飽き足らず、女性従業員に襲いかかっていった、とのこと。


「離せやゴラァ! 離せつってんだろうがよぉ!あぁ!」


 取り押さえられている中年男性が必死に藻掻き、暴れる。

 魔法の詠唱を早口で唱えているところを騎士の一人が顔を殴打して中断させ、他の騎士が体を地面に押さえつけ、両腕を後ろに回して、後ろ手に木製の四角い手錠を嵌めた。


「木? 魔法で燃やされない? あれ」


 一葉は木製の手錠を見て疑問を持つ。


「ああ、アレのことか? アレは、魔素遮断の手錠だな」


 アレスが一葉の疑問に答えた。


「魔素遮断?」


「そうだ。 魔法ってのは魔素を体内に取り込んで、その人の属性の魔力に変換して、その魔力で対応した魔素を操作してようやくはつどうする。 要は魔素は全属性の魔力の塊で、それを人は吸収して、自分の属性にあった物だけを選別して、残りの魔素は排出する。魔力は一部例外を除いて単一属性の魔素の事だ。 魔素遮断ってのは取り込む魔素も、属性選別した魔素を遮断する」


「そうなんだ…。 いいね、あれ。 この魔道具、改造したら同じ効果にならないかなぁ?」


「無理だな。 アレ、周りは木製だが手に触れる所に薄い金属の板が埋め込んである。 その金属は、禁龍鉱(きんろんこう)と言う。 これが魔素の動きを阻害する効果を持っている。周りの木はトレントか、植物系の魔物の素材だろうな。それに禁龍鉱の効果を増幅させて

、魔素遮断という効果まで昇華させる」


「へぇー。 じゃ、これはまた違う素材?」


「ああ、そうだ」


「どこで、手に入るの? その禁龍鉱って」


「一般には販売してないな。 用途が限られてくるから、国か教会が買い取っている」


「分けてもらえない?」


「無理だろうな。 マリアに聞いてみたらどうだ? もしかしたら、マリアの伝手で融通してくれるかもしれないぞ」


「そっかぁ。 帰ったら聞いてみる。 そろそろ、帰ろっか」


「ああ、そうだな。 そろそろいい時間だ」


 一葉とアレスは大捕物を最期まで見届けてから家に向かう。


 ずっと歩いているから、途中でフルーツを絞ったジュースを買って飲んだり、ホットドッグや串焼きを食べながら歩く。


 貴族街に入る前に食べ歩きで出たゴミを途中のゴミ箱に捨てて行く。


 平民では食べ歩きは当たり前のことだけど、貴族の方たちはやらない事なので、もし見つかると、行儀悪いとか、貴族として云々かんぬんとお小言を貰うことになるので、色々と面倒くさい。


 ザルヴァートル邸は貴族街の中でも入口から大分奥に入った所にある。


 いざ、ザルヴァートル邸の前まで帰ってくると、いつも、誰かは必ず門番をしているし、出かける時は、ヘレネーが門番をしていた。 だが、今は誰もいない。


「あれ? 誰もいない」


「ふむ。 まあ、入って見ればわかるだろ。 今日は…」

 

 アレスが門を開けてザルヴァートル邸上部に填めてあるステンドグラスに目を向ける。


「「右回りだね」だな」


 ステンドグラスには中央にお城。右上に三日月がある。三日月は上から右にかけて弧を描いている。 そのため、敷地内中央の噴水を右から回り込むという、メッセージだ。


 噴水を右から回り込んで家の前に来ると、何やら美味しそうな食事の匂いがした。 日も沈み始めていてご飯時の時間に近づいている。

 そのため、家に入ると、まず最初に洗面所で手を洗って、うがいをする。 それから、多分、みんな昼食を摂るために食堂にいると思うため、食堂に足を運ぶ。

 アレスは、一葉が家の中に入ると、ふっと霞の様に消えていった。 おそらく、華蓮のもとに向かったのだろう。


 食堂の扉を開けると。


 パン! パパパン!


 いくつもの破裂音とともに


『学園、合格おめでとう!!』

 

 みんなからお祝いの言葉を貰う。


「え?」

 

 合格発表に向かったが、そこには一葉の受験番号はなく、でも、合格発表で張り出されるのは入学試験に合格したもののみで、一葉は『入学』ではなく『編入』のため、その合否はわからないままだった。

 そのため、お祝いの言葉を貰っても戸惑いしか感じない。


「ふふっ。 カズハ君。 コレ」


 マリアが一葉に一枚の用紙を見せる。

 

 そこには


「メサイアベルテ学園 編入試験 合格のお知らせ? え? 受かったの…?」


「ええ! 合格ですよ。 良かったですね!」


 マリアは、呆然としている一葉の脇の下に手を入れて、高く持ち上げくるくると回って、まるで、自分のことのように喜びを表す。

 

「わわっ。 ちょっと、マリアお姉さん…」


「今日は、カズハ君の合格を祝って、盛大な宴にしましょう! 既に、準備も整っていますよ!」


 一葉を椅子に座らせて、好物のお肉が盛られた皿を目の前に運ばれて来た。

 それに目を輝かせて、頬が緩む。


「さあ、いっぱいお食べ」


 料理を運んで来た愛莉栖が料理を見て目を輝かせた一葉に、笑みを浮かべて促す。


「うん! いただきます!」


 一葉は少食なため、皿の一つ一つに盛られる料理は他の人の物より少ないが、多くの種類の料理が運ばれてくる。

 どうやら、アレスが皇都散策を提案したのは、この準備をする、華蓮達のためだったらしい。


 よく見ると、食堂内も飾り付けがしてあり、一葉の頭上に大きな横断幕がかけてある。そこに、『カズハ君 メサイアベルテ学園 編入試験 合格 おめでとう !!』とデカデカと書かれていた。

 気恥ずかしくもあるが、こうして誰かに祝われたことなどない一葉は嬉しくて、嬉しすぎて目から温かい物がポタポタと垂れる。


「あ゛りがとう、み゛んな゛」


 突然、涙を流し始めた一葉に驚くが、その理由を察しているみんなは、優しい笑顔で一葉に話しかけ続ける。


 みんなの優しさが、どうしようもなく身に染みる。


 こんなにも、血で汚れきって、穢れているのに……

 

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