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合格発表

 メサイアベルテ学園の外部入学者の合格発表日になった。


 一葉は、メサイアベルテ学園の校舎前に張り出された合格者の受験番号が書かれた掲示場を見上げている。


「えーっと。 A105、A105……」


 掲示場前には外部入学の受験者の人集りが出来ていて。 

 後ろの方からだと一葉の身長では、前にいる人達で見えないため、一葉は人の目をぬって最前列にたどり着いた。

 だが、自分の番号が中々見当たらず、気持ちがどんどん落ちていく。

 終ぞ、掲示場の右下の最後の番号までたどり着いてしまった。


「な、無い…」


 もう一度左上から順に隈なく探すが『A105』の受験番号は無かった。


「うぅ。 あんなに頑張ったのにぃ。 グスッ」


 一葉は涙を浮かべて、重い足取りで校門に向かった。


「あれ? どうしたの? って、たしか…カズハちゃんだっけ?」


 校門に向かう途中にある建物の横を通っているとどこかで聞いたある声で話しかけられた。


「グスッ。 …ベリーお姉さん」

 

 ベリーは半泣き状態のカズハに驚いた。


「どうしたの!? 何かあったの?」


 すぐ、カズハに駆け寄って、目線を合わせてカズハの肩に手を置いた。


「試験、落ちちゃったぁ」


 震えた声でそう告げられる。


「ああ、今日だっけ。 外部受験者の合格発表。 そっかぁ…」


 一葉は試験に落ちたショックで泣き出してしまった。


 ポタポタと涙で地面を濡らし、声を上げて泣く一葉を優しく抱き止めて頭を撫でて落ち着かせようとする。

だけど、なかなか泣き止んでもらえない。


 校門前での事なので、通行人がいる。 しかも、今日は合格発表日。 合格発表を見に来た受験生、その付き添いの人等、多くの人が出入りしている。 咽び泣いている人もいる。 多分、一葉と同じく落ちた人なのだろう。

 だが、一葉みたいに声を上げて泣いてる人はおらず、通行人等から奇異の目で見られる。 中には、同情や侮蔑の視線、非難する視線等もある。


「ああ、もう!」


 ベリーが投げやりな感じに声を発して、一葉の手を取り校門横の建物内に避難する。


 ベリーが入っていった建物は女子学生寮の一つで、校舎から一番遠く、この学園の中でも、一番古い学生寮だ。 

 そのためか、壁一面に蔦が這い葉を生い茂らせている。


 ギギギ…と扉を開けると、エントランスホールがある。


 向かいには螺旋階段があり二階に上がれるようになっている。

 エントランスホールを入って右側に扉が2つあるが、2つとも食堂の入り口だ。

 左側にも2つの扉がある。奥側、階段に近い方は寮監の部屋だ。

 出入り口の部屋は客人が来たように応接室になっている。


 ベリーがエントランスホールに足を踏み入れると食堂の扉が開き、人が出てきた。


「あ、先生おは……なんて格好してるんですか!?」


 ベリーが出てきた人物に挨拶しようと声をかけようとすると、その格好に驚いた。

 出てきた人物はブラウスを羽織り、ボタンを留めていなかった。下は何も履いておらず、生足を曝け出すという非情にラフな格好で、とても男性には見せられない状態だった。

 口に串を咥え、右腕に酒瓶を、左手に肉とネギが刺さった串が山のように積まれた大皿を持って食堂の扉を蹴り開けたようだ。

 足をおっぴろげ、こちらに気づき顔を引き攣らせ身体を硬直させていた。


 出てきた人物はリンだった。


「ん? あれ? 出かけるんじゃないの?」


 口をモグモグとさせ、取り繕うようなこともせず不思議そうにベリーを見る。


「……誘拐?」


 そして、泣きじゃくる子供を見て、一つの結論に至った。


「ち が い ま すぅ! 今日って、合否発表の日じゃまいですか」


「ん? ああ、今日だっけ?」


「はい。それで、落ちちゃったみたいで。 校門前で泣いちゃってたんです」


「ん。 ま、落ちちゃったのはしょうがないじゃない? って、君は…え?」


 ベリーが連れている子供が誰かなのかを今更ながらに認識をして言葉を失う。


「え? 君、落ちちゃったの?」


「ぅう。うぁああああ!」


「ちょっ! リン先生!」


 リンの歯に衣を着せぬ物言いにせっかく、泣き止み始めていた一葉が再び、号泣する。


「あ、ごめん」


 バツ悪そうに謝り、ベリーに食堂に案内するように指示を出して、リンは自室の扉を器用に足で開け、中に酒瓶と大皿を置きに行く。


「こっち」


 ベリーは一葉の手を引いて食堂に入り、椅子に座らせて飲み物とお菓子の準備をする。


「あれ? おかしいな、ここらへんにクッキーがあったと思うんだけど…あ、あったあった」


 温めたミルクとクッキーを乗せた皿を持って一葉の元に向かう。


「はい、これ飲んで落ち着いて」


 ホットミルクとクッキーを目の前に置いた。


「グスッ。 ありがとぅ…」


 一葉はカップに手を伸ばし、息を吹き、冷ましながらちびちびと飲む。


「それにしても…。怪我がなさそうで良かったよ」


「?」


「だって、あの時…」


「あ、ああ。 あの時はごめんなさい…」


「あ、ううん。気にしないで、責めるつもりは無いの! ただ…怪我が無かった心配で…。 先生に聞いても教えてくれなかったから」


「そうなの? 怪我は…、うん。無かったよ」


 一葉はすっかり泣き止み、ベリーと楽しくおしゃべりをしていると食堂の扉が開いた。


「あら? ベリーさん、今日はお出かけでは?」


 栗色のゆるふわウェーブの綺麗な女性が入って来た。


「あ、ラナさん。 おはよう! ちょっっと、やむを得ない事情があってね」


「ああ、迷子の子をお持ち帰りしてきちゃったんですね…。 騎士団に連絡したほうがよろしいかしら」


 ラナはあらあらと頬に手を当てて思案する。


「違いますぅ! どうして、みんな私をそういうふうに見るの!?」


「それは、だって…ねぇ? って、あら? 貴女、何処かで…」


「この子はカズハちゃん。 ほら、試験の時の子だよ」


「ああ! あの時の! ご無事だったのですね! みな、心配していたんですの」


「その節は、ご迷惑をお掛けしました」


「良いのですよ。 失敗は誰にもあります。 だから、気になさらないで下さい」


 ラナはカズハの頭を撫で、そう語りかけた。


「あれ? ラナも起きてきたんだ。 おはよう。 随分とゆっくり寝てたね」

 

 再び、食堂の扉が開き、今度はリンが入って来た。

 だが、服装はそのままで、ブラウス一枚だった。 しかも、若干、肌が紅く上気していて、言動も妙に色っぽく、扇情的だ。


「リン先生、おはようございます。 先生は朝から、お酒ですか? 休日に先生がどうお過ごしになろうと先生の勝手ですが、昼間から飲酒はどうかと」


「ああ、うん。分かってはいるんだけどね…。 ああ、そうだ。 カズハ君。君って、編入扱いになるから、入学試験の合格発表の一覧には載らないよ」


「え……?」


「だからね。 編入試験の合否発表は郵送で通知書が届くからそれで、確認してね」


「そう、だったんだ…。 え、じゃあ、僕、まだ、受かってるかもしれない、ってこと!?」


「うん、そうだよ。 多分、今日か明日には届くと思う。 合格してると良いね」


「うん!」


「そういえば、カズハ君。 付き添いの方はいないの?」


「うん、一人で来たよ」


「そう、なの?」

(大丈夫かな?  聞いた話しだけど、この子、勇者様達と一緒に連れてこられたんだよね。 上位貴族には、もう周知の沙汰だし、よく思わない貴族連中もいるし、無用心すぎない?)


「うん、これも経験だーって事らしい?」


「ま、護衛は居るけどな」


「「「!?」」」


 不意に一葉の後ろに人が現れた。


「ん? アレスおじさん? 居たの?」


「主よりの(めい)でな」


「ハナお姉ちゃんの? でも、どうして?」


「口ではどう言おうが、お前を心配しているのだ。 俺に陰ながら護衛しろと命ずる位にはな」


「あの、よろしくて?」


 ラナが話に入って来る。


「もちろんだとも、レディ」


「ここは、一応女子寮ですの。 男子禁制ですわ」


「それは、失礼した。 この子が普通に招かれていたからそういうのは関係ないかと思っていた」


「そもそもが部外者は勝手に入って来てもらっては困るんですの。 それに、その子が…とは?」


「おや。 気付いていないと? いや、無理も無いか。 この子は男の子です」


 一葉の頭をポンポン叩く。


 …………。


 周りの空気が固まった。


「カズハさん。 ちょっと、こちらに来ていただけます?」


 ラナが信じられないというふうにカズハを手招きをする。


「う? うん」


 カズハは立ち上がり、ラナの元に向かうと、手を引かれキッチンの方に連れて行かれ、外から見えない位置まで行くと、ガバッとズボンをずり下ろした。


「へ? ラナお姉さん、何してるの」


 顔を紅くしたラナは、何も言わずにカズハのズボンを上げてやり、キッチンからカズハを連れて出ていく。


「……付いていましたわ」


 一言。


 そう、告げると、ラナは机に突っ伏してしまった。


「わざわざ、確認しにいくとは、その行動力。あっぱれと言う他ないな」


「ああ! 言わないでくださいまし!」


 ラナは叫び、耳を覆い、聞きたくないと喚き散らす。


 ベリーとリンは苦笑すると、ラナを温かい目でみる。


「さて、主達も心配している。 そろそろ、お暇させてもらえ」


 アレスはそう伝えるとふっと、消えて行ってしまった。


「うん。 ベリーお姉さん、リン先生、ラナお姉さん。 今日はありがとうございました。あと、ご迷惑をお掛けしました。 このお礼はまた、いずれさせてください」


「ふふっ。気にしないで。 気をつけて帰るんだよ」


「ん。期待しないで待ってる。 受かってるといいね」


「先程は失礼しましたわ。 合格していることを祈っていますわ。 お気をつけてお帰りくださいな」


「うん。 またね」


 一葉はベリー達に手を降って、見送られながら帰っていった。

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