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今から!?

 シャイルから手紙を受け取ったマリアは、そこに書かれていたことにから笑いをするしかない。


 書かれていた内容は、筆記試験の結果だった。


 筆記試験 合格


 カズハ ツキシロ


          点数88点



 と、手紙の一番上にそう書かれていた。


 それ以降は、他の受験生、又は、繰り上がりの生徒達の結果だろう。


 それと、巻かれていた紙はもう一つあった。


 それは、カズハが出した損害の内容だった。


 魔導銃 5丁    30,000 ガルマ


 弾薬         1,800 ガルマ


 耳当て 5個    50,000 ガルマ


 折りたたみ式机    1,200 ガルマ


 ターゲット        500 ガルマ   


 人口迷宮       560,000,000 ガルマ



         計 560,083,500 ガルマ


「こ、これは…!?」


 マリアの顔が引き攣る。


「今日の試験の損害の試算ね」


 シャイルが事も無げに告げる。


「あう!? ごめんなさい……」


 一葉が泣きそうになりながら、謝罪する。


「ま、まぁ。 これくらいなら、私の貯金から賄えるからいいですけど、いったい、何が起こったんですか? 先生」


「その子が、魔法をぶっ放した結果よ」


 マリアの動きが一瞬止まるが直ぐに持ち直した。


「カズハ君が魔法を…? はははは、またまた、ご冗談を!」


 はははと笑って、マリアはあり得ないと頭を振る。


「冗談でも何でも無いわよ、マリア。 その子は、初級魔法の『魔砲』をぶっ放して、これほどの損害を出したの」


「いやいやいや、だって「マリア!!」」


 マリアの後に控えていたローズが主人であるマリアの言葉を遮った。

 元々、主人だとか従者だとかは気にしていないマリアだが、今は来客中だ。


「ローズ、私の発言を遮るなんて、どういう事かしら?」

 

「申し訳ありません。 しかし、我が主よ。 今、何を口走ろうとしていましたか?」


「!? ふぅ。 そうね。 今のは私が悪かったわ。 アレを持ってきて頂戴」


「ここに」


 ローズが手のひらサイズのたまごの形をした置物をマリアに差し出した。


 マリアは其れを受け取り、シャイル達との間に置かれた机の中央に置く。


「姉上、これは?」


「防音結界の魔道具よ。 今から話すことは他言無用。 例え、陛下にだろうとも話すことは許しません。 もし、それを約束出来ないのであれば、退出をお願いします。 また、それを破り、他言した場合は、我々の力を持って、地の果てまで追いかけその首を頂戴致します。 それの同意を得られるのであれば、ギアスを結んでいただき、そこからお話し致します」


 ギアスは誓約魔法の事だ。 神、あるいは悪魔の力を以て行使する魔法だ。 故に、この魔法は少し特殊で、神や悪魔の力が込められた特製の羊皮紙を使用しないと行使出来ない。


 もし、誓いを破れば、天罰が下る。 


「それほどの事なのかしら」


 シャイルの疑問はご尤もだ。


「ええ。 勇者様方の協力を得られなくなる可能性があります。 それだけで済めばいいのですが、その力がこちらに向けば、この国は一夜で滅ぶでしょう」


「とんでもないわね。 いいわ。 誓いましょう。 これからのことは他言しないと。 あなた達はどうする?」


 シャイルは後ろに控えるリンとジンに声をかける。


「ん。 問題ない。 誰かに話すも何も、話す相手がいないし」


「俺も。 聞かせてくれ。 もしかしたら、協力できるかもしれない」


「ユリウスは?」


 マリアはユリウスに問う。

 

 すると全員の視線がユリウスに集中する。


「私も誓おう。 この国、ひいてはこの世界の為とあらば、たとえ、陛下の(めい)だとしても口を(つぐ)もう」


「全員の同意を得られたので、ここに誓いを」


 マリアが羊皮紙を取り出し、スラスラと誓約の内容とそれを破った時の罰則を描いていく。

 そして、最後に血判を押し、シャイルに手渡す。


 シャイルが内容を確認し、血判を押しリンに渡る。


 一葉とローズを除く全員が血判を押すと、羊皮紙がクルクルと巻かれ、やがて、蒼い焰に包まれ、消え去った。


「ここに誓いが成されましたので、お話し致します」


 マリアが机に置かれた魔道具に触れて、魔法を発動させる。


 キィン! と音がして、部屋全体に防音結界が張られた。


「では。 まず、カズハ様は『魔無し』です」


「はい?」「「は?」」「…」


 ユリウスとリン、ジンは間の抜けた声が出た。


 シャイルは何かを考え込むように腕を組んで、俯いていた。


「いいかしら?」


「ええ」


「リン」

 

「ん?」


「その子は、『魔砲』を撃ったのよね?」


「うん。 私は確かに、その子が撃ったのを見たよ。 魔剣を使ってだけど」


 リンはその時の事を思い出しながら答える。


「そう、魔剣。 私が気になっているのはそこよ。 もし、仮に本当にカズハ君が『魔無し』なら、その魔剣はどうやって励起させてるの? どうやって制御して、どうやって停止状態に戻しているのかしら。 どれも、魔力が無いと出来ない筈よね」

 

「あ~、それなんだが」


 ジンが言いにくそうに頭を掻きながら発言する。


「多分、その子の剣、『身喰いの剣』の能力が、恐らくだが、使用者だけでなく、空気中からも魔力を、吸収しているんじゃないか? だから、使用者の魔力が無くても、魔法が使える。 それに、剣が使用者を選ぶって話しだ。 意思もあるだろな」


「あ~、確かに。 それなら、『魔砲』が使えたのには説明が付く。 でも…」


 リンがそれでも、疑問に残ることがある。


 魔剣の力で魔法が使える。 それはいい。


 だが、それは、魔剣に触れていればの話しだ。


 一葉が錯乱していた時、魔剣は一葉から手放されていた。

 魔剣自体は恐らく意思がある。 だから、魔剣が魔法を自律的放つ事はできるだろう。


 対して、一葉はどうだろう。

 

 炎弾を撃ち放ち、磁力を操り、砂鉄を寄せ集め、切断能力のある鞭を振り回し、電撃をも放つ。


 これは、一葉が魔剣を手放した時に行った出来事だ。


 だから、魔剣の能力だけでという理屈は通じなくなる。


「電撃放ったり、炎弾を飛ばしてきたりとかもしたよね。 魔剣から手を放しているときに」


 リンが告げる。


「カズハ君が『魔砲』を撃った事には驚きましたが、そうですね…。 カズハ君、ひいては今回の勇者様達は、この世界の理の外れた力を使うことができます。 中でも、カズハ君の力は、超能力。もしくは、異能と呼ばれるものらしく、魔力を要さないものらしいです」


「はっはっはっ。 とんでもねぇな」


「ね」


「つまり、その子は、魔剣を使用すれば魔法が使えて、なおかつ、魔力を使わず、何かしらの現象を起こせると?」


 シャイルがマリアに確認をとる。


「ええ、そうなります。 ですので、この子を敵に回す。なんて事はしないでくださいね。 手が、付けれないので」


 人を猛獣のように言わないでくれるかな!?


 一葉はマリア達の話しを聞きながらそう思った。


 ユリウスは終始、黙り込み、思案していた。


「他に、共有することはあるかしら?」


 シャイルがさっさと話しなさいとマリアに詰める。


「他は、戦闘技術は凄まじいの一言ですね」


「はぁ…。 その子はびっくり人間か何かか?」


 ジンが呆れ声を発した。


 マリアは苦笑で返す。


「この事は、内密にお願いしますね」


「了解した」「ん」「ああ」「ええ、分かっているわ」


 そこで、マリアは魔道具を停止させる。


「そういえば、カズハ君、筆記試験は合格ライン突破してますけど、実技はどうなんです?」


「魔法試験は限定的に合格ね。 あとは、射撃と実戦を再試験してみないと分からないわ」


「再試験…ですか?」


「ええ。 だから…はい、これ」


 シャイルがマリアに再試験日の書かれた紙を渡す。


「ちょっと、待ちなさい。 それ、今からでも良いんじゃないかしら?」


 不意に、ここにいる誰でもない声が部屋に響いた。


 天井からふわりと女性が舞い降りてきた。白と先の方だけ紫色になったグラデーションの髪の若い女性。 シアが机の上に降り立つ。


「シア様」


「密談中に失礼するわ」

 

「それは、構いませんが。 机から降りてくれます?」


「おっと。 これは、また失礼」


 シアが机から跳び下りた。


「あの、貴方は?」

 

 シャイルがシアに名前を尋ねる。


「シアよ。 この屋敷の維持管理を担っている、そうね、家精霊みたいな物かしら?」


「シルキー…ではなさそうですね。 もっと、別次元の」


 シアがシャイルに指を突きつけ、告げる。


「それ以上は詮索しない方がいいわ」


 殺気をマリア、一葉、ローズ以外の全員に放ち、威圧する。


「それで、今からというのは?」


 剣呑な空気の中、マリアが話題を変える。


「そのままの意味よ? マリア。 今から、再試験を行えばいいわ。 カズハもそれでいいでしょう?」


「今から!? いいけど、しゃ「射撃場なら今、完成したわ」え?」


「完成したんですね。 うーん。シャイル先生、どうします?」


「いいわ。 やってもらいましょう。 採点は私が下します。 それに、カズハ君もずっとお話ばかりでつまらなかったのでしょう? でも、足を揺すったり、指で机を叩いたりしない方がいいわよ。 お行儀が悪いわ」


「え? ごめんなさい」


「ふふっ。素直でよろしい! 以後、気をつけなさい」


「は~い」


「伸ばさない!」


「はい!」


「クックックッ」


 ジンが笑いだした。


「どうしたの?」


 急に笑いだしたジンが心配になったリンは声をかける。


「いや、何でもない。 ただ、この場の雰囲気が随分と和らいだな、と」


「あ~、確かにね」


「では、シア様。 案内をお願いできますか?」


「ええ、心得たわ。 全員でいいのかしら?」


 シアが見回し、全員が頷いた事を確認すると、右手を上に掲げ、パチン! と指を鳴らした。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 最近は理解できない部分が全くなくなって来て読みやすいです! [気になる点] 88点のところを空白で開けなくても大丈夫かなとは思いました。 [一言] これからも執筆頑張ってください!
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