お馬鹿さん
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前庭をぐるっと周って通って、屋敷の玄関前に来るとローズが待っていた。
「ようこそ、お越し下さいました。シャイル学園長、及びお連れ様」
ローズが御辞儀をして迎え入れる。
「突然の来訪、お詫び申し上げます」
「「ふふっ」」
「お久しぶりです、先生」
「ええ。 元気そうね」
「はい。 まぁ、割と充実した毎日を過ごしてますよ。 カズハ様もお帰りなさいませ」
「ただいま、ローズお姉さん。 マリアお姉さんにお客さん?」
ローズに話しかけながら、一緒に客間に向かう。
「ええ、そうですよ。 お嬢様の義弟様であられます、ユリウス様がお越しになっております」
「マリアお姉さんの弟さん? それと、ローズお姉さん、喋り方変〜」
マリアに兄弟がいたなんて知らなかった。
けど、今は、ローズの喋り方がおかしすぎてそっちの方が気になる。
「来客中ですので」
「ローズ。 殿下が来ているの?」
「ええ。御一人で参りましたよ」
「…。リン、生徒会から何か報告は?」
シャイルは、少し間を置いて、リンに確認を取る。
「無かった…気がする」
「そう。 ローズ、マナー違反を承知でお願いするわ。 マリアの元に案内をお願い出来ないかしら」
マリアは来客用の応接室にいるため、シャイル達は、いくつかある客室の内の一つで中でも、大部屋の客室に案内された。
「問題無いかと思いますが、お聞きしてまいりますので、こちらのお部屋でお寛ぎください」
ローズは、お茶とお茶菓子を用意をしてから、客間から出ていく。
「僕も、自分の部屋に行ってもいい?」
「ええ、いいわよ。 でも、後で呼ぶかもしれないから、その時は来てね」
「うん、わかった〜」
一葉も自分の部屋に戻っていく。
「それにしても、殿下も来ているなんてね」
シャイルがポツリと溢す。
「今回の件に関わってるんじゃないですか?」
リンが殿下が関わっているのではないかと訝しむ。
「だったら、色々と問題じゃないか?」
それにジンが疑問を呈する。
「そうね、話を聞いてみないことにはなんとも言えないけど、十中八九関わっているわね。 カズハ君も『青色の髪のお兄さん』って言っていたしね」
コンコン。
「どうぞ」
「失礼致します。 マリアが問題ないとのことですので案内致します」
「ありがとう。 行きましょう」
ローズに連れられ、応接室に案内されたシャイル達は、中に入って目を見開く。
一国の皇子が正座をさせられ、膝の上に重量のある置物を置かれていたのだ。
「ようこそいらっしゃいました、シャイル先生」
「突然、悪いわね」
「いえいえ」
シャイルはマリアに手で、座るように促され、ソファに腰がける。
ジンとリンは、シャイルの後に控える。
「それで、この状況は? どういった事なの?」
「愚弟から、我が国の賓客に対して不義理を働いたと報告を受けていたところです」
「なるほど…。 なら、話が早いわね。 丁度、私もその話をしにきたところよ」
「そうなんですか?」
「ええ。 本来なら、教師陣で未然に防がないといけないのでしょうけどね…。 この度は誠に申し訳ございませんでした」
シャイルは頭を深々と下げた
「そんな! 先生、頭をお上げください!」
「いえ、そんな訳には参りません。 学園に長として、あってはならない事。 私には頭を下げる事しかできません」
「頭をお上げください、シャイル先生。 ユリウスも崩していいわ。 もう一度、話してくれないかしら? 情報の整理をしたいの。 あと、ローズ。 カズハ君を呼んで頂けるかしら?」
「ん? もう、いいのか?」
(あれ? なぜ、この子は残念そうなのかしら?)
落胆した様子のユリウスにマリアはそう思うのだった。
「かしこまりました」
ローズは、そっと応接室から退出していく。
「では。まず、事の発端から話しましょう」
と、ユリウスが語りだす。
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一方で
一葉は、自室の中で、家着に着替えていた。
一葉の要望で、以前から着慣れていた貫頭衣を服飾店にて制作してもらい、それを着ていた。
「つかれた……。 小腹空いたな〜。 食堂に何かあるかな…」
そう思い、食堂に足を向ける。
「お? お帰り、一葉」
「あ、ただいま。 ユウにーちゃん」
「お帰り」
「お帰り〜」
「お疲れさん」
沙月、理恵、正義と帰りのあいさつをされる。
「ただいま!」
「何か、飲むか?」
正義が席を立ち、聞いてきた。
「うん。 あと、お菓子ほしいかな」
「あいよ。 ちょっと、待っとれよ」
正義が厨房に入って行く。
ちなみに、一葉に厨房の立ち入りは許可されていない。
その理由は、以前ローズや華蓮、愛莉栖、春希が料理をして、その手伝いをしている時に、野菜ごと自分の指を切ったり、卵をボウルに割ろうとして卵を握りつぶしたり、調味料をぶち撒けたりとトラブルを連発させ、出禁をくらったのだ。 怪我をしたときは、愛莉栖が直ぐに治療をして事なきを得たが、一歩間違えれば結構深く切っていた。
「そういえば、ハナお姉ちゃん達は?」
「パスタ作ってる」
理恵が答える。
「パスタ?」
「食べたことない? 黄色っぽい麺料理なんだけど。 ナポリタンとかミートパスタとか」
「なにそれ」
「あー…」
近くで聞いていた正義が察して、言葉に詰まる。
「よし! ついでに作って貰おう!」
沙月が厨房に走って行く。
「いいのかな? サツキ姉も出禁くらってなかった?」
「うーん。 まぁ、大丈夫でしょ!」
雄一がお茶を啜り、他人事のように答える。
沙月も厨房に出禁を食らっている。
包丁でまな板諸共、調理台をぶった斬ったからだ。 これには、家の維持、管理をしているシアにしこたま怒られていた。
「ほら、茶と煎餅」
「ありがとう、マサ兄」
「さっき、沙月も入って行ったがどうしたんだ?」
「一葉君にパスタを食べさせたいんだって」
雄一が答え、お茶を啜っていた。
「まだ、無理だろ。 寝かさないかんだろ」
華蓮と愛莉栖はパスタを麺から作っているらしい。 麺を作るのにも時間がかかるとのこと。
「そうなの?」
「いや、知らんが」
正義と雄一がそんなやりとりをしていると、沙月が肩を落として戻ってきた。
「めっちゃ、怒られた」
「「だろうな」」
「そりゃ、そうよ」
雄一と正義、理恵が呆れる。
「でも、少し時間はかかるけど、作ってくれるって。 良かったね、一葉君!」
「うん! 楽しみ!」
(美味しいかな〜。 どんな、味なんだろう?)
食堂の扉が開く音がして、煎餅を齧りながら顔を向けると、ローズが立っていた。
「ここにいたんだね。 マリア達が、話があるから来てほしいって」
「え? 今?」
「はい。 ということで、行きますよ」
一葉の脇の下に手を入れて、抱え上げ、そのまま食堂から出ていく。
「あー! ぼくのパスタ〜!」
これには、雄一達も苦笑いを浮かべて見送るしかなかった。
「あ~、あいつら、作って来てくれるんだろ? 残すのも、もったいないし、俺らで食べるか」
「そうだね…」
雄一達が、後で運ばれてくる自分達の分のパスタとは別に、一葉の分のパスタも食べることが決定した。
―――――――――――――――――――――
一葉はローズに運ばれながら、ローズに抗議し続けていた。
「ひどいよ、ローズお姉ちゃん。 パスタを食べてみたかったのに」
「それは、悪いことをしてしまいましたね。 後で、もう一度、お願いしてみましょう? 私も一緒にお願いして上げますから、そんなにふくれっ面しないでください」
一葉の膨れた頬をつつきながら歩いて行く。
そっと、マリアの応接室の前で降ろされ、ローズはマリアに扉越しに声をかける。
コンコン
「カズハ様をお連れしました」
「入って来てちょうだい!
中からマリアの声が聞こえてきた。
ローズが扉を開けて、一葉を連れて中に入っていく。
「あ、お兄さん」
「やあ。 朝ぶりだね」
青色の髪のお兄さんがいた。
「改めまして、『ユリウス・テレジア・スピカ』だ。 よろしく頼む」
「月城 一葉です。 こちらこそ、よろしくお願いします」
ユリウスから手を差し伸べられ、その手を取る。
一葉はどこに座ろうかと空いている場所を探していると、マリアと目が合った。
マリアは膝の辺りをポンポンと叩いていた。
そこに座れと?
机を挟んで四人がけのソファが置かれていて、生憎と片側はもう既に埋まっていて、空いている場所はマリアの横にしか無かった。
仕方無しにマリアの横に座ると、横から腕が伸びてきて、一葉を持ち上げると、マリアの膝の上に載せ、腕の間にすっぽりと嵌った。
その光景を見ていたシャイル達は、苦笑を浮かべていた。
「ごほん! では、本題に入りましょうか」
マリアが神妙な面持ちで話し始める。
「事の発端は、とある貴族家の嫡男とその当主の策略で、一葉君の初等部入学を阻止するというものでした」
「え?」
「カズハ君が驚くのも無理は無いですね。 とりあえず、話しを進めますね?」
「うん」
「そして、その生徒は、事もあろうに、この国の皇子にその話しを持ってきて、助言を求めたらしいです」
「バカなの? その人、絶対にバカだよね!?」
一葉はあまりにお馬鹿な内容にツッコまざるを得ない。
「まぁ、根は悪いやつじゃないんだが……。 バカだな」
ユリウスは彼をフォローしようと思い馳せるが、フォローできる要素がなく、認めるしかなかった。
「その子。 教師陣の中でも、要注意人物ね。 何を仕出かすか分からないから」
シャイルが追加で情報を出す。
「たしか…、決闘で相手の子を半殺しにしたって噂の子だよね」
リンからも追加で情報が挙げられる。
「俺も、その噂聞いたな…」
「お馬鹿さんの話しは置いといて。 その話しを聞いたユリウスはそれを拒否。 すると彼は自分で考えると言って、後にしたそうです。 それで、ユリウスは、彼の対象であるカズハ君の身を案じて、先手を打って初等部の試験会場から遠く離れた高等部の試験会場に案内をし、試験を受けさせた。 その際の試験内容は高等部のそれ、と。 ここまでで、補足等あればお願いします」
「質問」
リンが手を挙げた。
「どうぞ」
マリアが促す。
「どうして、それを私達、教師や講師に報告しなかったの? あと、どうして、『初等部に入学させるな』なの?」
リンが疑問を口にした。
「貴方方に報告すると、大事になる。 そうなれば、それを察した、件の当主が隠蔽するだろう? それに証拠がなければ、罪にも問えん」
「一理あるけど、わざわざ高等部で、受けさせなくても、別室で良かったんじゃねぇの?」
ジンが被せる。
「高等部試験会場、彼女を案内した場所の筆記試験監督官はワイナリーだよ」
「「あ~、あの人か……」」
リンとジンは二人揃って納得した。
ワイナリーとは、一葉が筆記試験を受けていた教室にいた教師で、専行は魔法格闘戦。 魔法と格闘技を組み合わせた戦闘のスペシャリストだ。
「彼なら、生徒に後れを取る事もないし、大抵の相手なら対処できるわね」
シャイルも彼ならば、と納得する。
「そう。 だから、あそこに案内したんだ。 丁度、席に空きもあったしね。 ワイナリー先生にも、誰かが襲撃してくるかもしれないと説明してある。 試験内容は、流石に初等部のものを用意する時間が無かった。 すまない」
ユリウスが一葉に頭を下げた。
ちなみに、件のお馬鹿さんは、初等部の校舎に忍び込んだ所を学園からの依頼を受けた傭兵に見咎められ一時退散したらしい。
その後、試験中に初等部の試験会場に乱入し、ユリウスが予め配置して、待ち構えていた生徒会役員と風紀委員に取り押さえられたらしい。
「ううん。 別に気にしてない。 だって、何か実害があったわけじゃないんだもん」
「そうかもしれないけど、高等部の試験を受けさせられたんだぞ? ほとんど、分からなかのではないか?」
「ん?」
ユリウスが申し訳なさそうに話しをするが、一葉には言っている意味が理解できていなかった。
一葉は普通に問題を解いていたからだ。
「え?」
一葉が困惑していると、ユリウスも一葉の様子に困惑する。
コツコツッ!
と聞こえ、全員が音のした方へ顔を向ける。
窓ガラスがの外に小さな鳥が留まっていた。
最初こそ、窓ガラスをつつく程度だったが、徐々にその勢いも増していき、『つつく』から窓ガラスを割る勢いで嘴を突き入れている。。
「えっ? こわっ」
一心不乱に窓ガラスを突きまくる小鳥に鬼気迫るものを感じる。
「学長。 レターバードじゃない?」
「あら、本当ね」
シャイルが窓ガラスを開けるとシャイルの手に跳び乗ると一枚の巻物に変わった。
それを開き、読み解いていくシャイルは、途中で食い入るかのように顔を寄せる。
次第に、肩が震えだした。
後ろから見ていると、怒っているのか、笑いを堪らえているのか判別が出来ない。
「ふふっ。アハー! コレはいい! ハハハ」
シャイルが大声上げて可笑しそうに笑いだした。
「マリア。 その子、高等部に通わせるけど、異論は?」
「はい?」
マリアは突然そう言われ、聞き返す。
そっと、シャイルから手紙を受け取るとそこには、驚きの事が書かれていた。