イェエエエイ!
二話前に一話追加しております。 物語に特には関係ありませんが、ちょっとした補足的なものです
知らない天井だ。
一葉が目を開くと普段とは違う天井が広がっていた。
一葉はベッドに横たわっていた。
周りを確認するため、首を回すとベッドの周りは衝立てが囲んでいてその外が分からない。
消毒液の匂いから、病院か何処かだろうと一葉は予測立てる。
「お! 目が冷めた?」
試験監督官をしていた女性だ。
「はい。 えーっと…」
「ああ、ここは、医務室だよ。 あ、そういえば、まだ名乗ってなかったね。 私は、リン。 よろしくね」
「リン。 その子どう? お? 目ぇ覚めてるじゃん」
ガラッとドアが開く音がして、足音が響く。
「ジン。 報告は?」
「終ったよ」
「そう。 それで、こっちの冴えない黒いのが私の弟で、ジン。 偶に、この学園の臨時講師で来るからね」
「はあ。 ん? ぼく、まだ、この学園に通えるか分からないよ?」
「ああ。大丈夫大丈夫。 合格してるよ。 でも、その件で、君の保護者にお話しがあるから、これから、君のお家に案内してくれるかな?」
「リンちゃん。 その必要は無いよ。 私が知っている」
「あ。学園長センセ」
「初めまして、一葉君。 私はこの学園の学園長をやってるシャイル・セブルス・アーカーシャだ」
「ぼくの名前」
「知っているさ。 この学園の長だよ? この学園の門戸を叩いた者を知らずに、受け入れるわけにはいかないでしょう? それに、君が受けていた試験は高等部のもので、初等部ではない事も確認済みだ。 すまない。こちらの手違いで、君をふるい落とすところだった」
「え?」
「驚くだろうが、これは本当の事だよ。 それで、少し、話を聞きたいのだがいいかな?」
「うん」
「ありがとう。 君を筆記試験の教室まで送っていってくれた生徒の事は覚えている?」
「うん? たしか…きれいな青い髪で、優しそうなお兄さんだったよ。 あと、なんか襟の所に付いてたー」
「……そう。 ありがとう」
(襟に? 風紀委員か生徒会ね)
「じゃあ、次に君の魔剣について」
「うん」
「君のその腕の腕甲が魔剣らしいね。 それに、よく結晶で覆われると聞いているけど、本当の事?」
「うん、そうだよ?」
「『身喰いの剣』ね…」
「学園長センセ。 『身喰いの剣』って?」
初めて聞く魔剣の名称にリンはシャイルに訪ねた。
「リンちゃんは私の種族は知っているでしょう? 昔の話よ。 その、剣を持っている人と共に戦っていたわ。 最終的にはその剣に喰われてしまったけど」
種族? たしか、人族以外も暮らしているって勉強したけど…。
獣人…は違うね。ケモミミついてないし。 耳長族?にしては普通の耳だね。
「やっぱり、相当、危険な物なんですね」
リンが腑に落ちた。
「ええ、そうよ。 国庫に封印されていたけど、つい先日、勇者の仲間に下賜されたって聞いてたけど、君だったんだね?」
「うん」
「この、学園では魔剣の所持も許可しているけど、その魔剣は特殊すぎるから、あまり使用しないでね」
「(コク)」
一葉はシャイル学園長のお願いに頷く。
「さて。 ジン。 車の用意は出来てる?」
「校門前に出してくれてる。 いいの? あれを走らせて。 有事の際以外では、使用禁止されていなかったか?」
「あら?今は、有事の際でしょう? この未来を託す相手、勇者の仲間にこんなちょっかいを出してるんだもの。ふふっ」
「ほどほどにしてよセンセ。 もしかしたら、貴族のボンボンで、親の言いなりにならざるを得ないのかもしれないし」
「そうですよ。 もし、そうなら。その子が不憫すぎる」
「ま、悪いようにはしないわ。 まずは、あの子にも説明しないとね。 行きましょ」
シャイルがそう言って、リンとジンが外出の準備をしに行った。
一葉は、ベッドから起き上がり、靴を履いて、シャイルに連れられて、校門前に行く。
校門前には一輌の車が置いてあった。
大きな箱型で車高が高い。横幅も馬車よりある。
馬車のタイヤよりだいぶ小さいタイヤで車体の下に収まっていた。
木製車輪に金属が巻いてある馬車のタイヤに対して、このタイヤは金属製の車輪にゴムが巻いてある。
ドアは車体の左右に2つずつついている。
「コレは?」
「勇者の遺物の一つで魔導車よ。さ、乗って」
シャイルが車体の右側の前部のドアを開けて入るように促す。
「う、高い…」
一葉の身長にこの車体の車高は高く、乗り込むのに苦戦する。
シャイルが一葉のお尻を押し上げる事によって、ようやく一葉は乗り込めた。
中は割と広く、椅子もふかふかで柔らかい。
一葉の入った所の反対側の座席には前に円盤形のハンドルがついていた。
一葉の座席と横の座席の間には何かのレバーが伸びている。
そこに、シャイルが乗り込み、色々とボタンを押していく。
すると、ブロロロロロ…と音をたて、僅かに車体が振動する。
「お待たせ」
「待たせたな」
シャイルの動きを見ている間に、ジンとリンがやって来て、乗り込んできた。
「じゃぁ、皆んな。 シートベルトはしっかりね」
「シートベルト?」
「そ。 よいしょっと。 これで、大丈夫」
シャイルが一葉の座席の方に乗り出し、一葉の体の前にベルトを回し、固定をする。
「行くわよ!」
シャイルが左手でハンドルを持ち、右手でレバーの操作をする。
車体は一瞬、後に下がると一気に前身をする。
体が前から押されるような感覚に襲われる。
ガシャン!
と校門のシャッターにぶつかり破壊しながら街中に繰り出していった。
シャイルがレバー操作をするたびにその圧は増していった。
ハンドルを回すとキィイ!と音を点てながら景色がまわる。そして、回した方向の反対方向に体が振り回された。
途中、ナニカにぶつかった音と衝撃が
それを何度か繰り返すと、貴族街の入り口のが見えてくる。
「突っ込むわ。 オラオラオラァ!ドケドケェ!」
え?
前進速度が上がった。
「おい! 止まれ、止まれ!!」
「やべぇぞ! 突っ込んできやがる! 逃げろ!!」
貴族街の入り口に立っていた兵士は静止を呼びかけるが、それを振り切り、突っ込んでくる車に危険を感じ、その場から逃げる。
「伝令!伝令! どっかのバカが貴族街に突撃していった。 対象は依然として爆走中! 警備を厳にせよ! だが、己の身を第一に考えろ! 行き先を特定して囲い込め!」
兵士の一人が通信魔道具で仲間に連絡を取る。
「シャイル先生! いいの!?」
「構わないわ! いつもの事よ!」
一葉はシャイルの言葉に絶句する。
いつも…?
貴族街の通路は広い。 だが、それは馬車が2輌通れる位しかない。
対して、一葉が乗っている車の幅は、馬車1.5輌分ある。通れない訳ではないが、他の通行人の邪魔になる。
しかも、曲がる時は、減速はしない。 後輪を滑らせ、速度を極力落とさず曲がるのだ。
「カズハちゃんだっけ? 先生の運転する車に乗ったが最後だ。 諦めて、腹括れ」
後部座席からジンの忠告が飛んでくる。
(なにが!? というより、遅いよ!!)
「これから、もっとひどくなるから気をつけて」
リンから耳を疑う言葉が届いた。
「…え?」
「ヒャッハー! ぶっ飛ばすゾォお!イェエエエイ!」
横から、トチ狂った、世紀末の雄叫びが聞こえてくる。
「覚悟は出来たか? 俺はできている!」
「同じく」
「ちょぉ! 降ろして! 停めて停めて! あっぶ」
段差を踏んで、一瞬宙に浮く。
屋敷が見えてきた。
だが、減速する素振りがない。
(え? 突っ込む気? 嘘でしょ!?)
「ぶちかますぜ! ヒィェエエァアアアア!」
―――――――――――――――――――
「なぁ。 バッカス」
「なんだ? イオリ」
「アレ。 こっちに向かって来てないか?」
「………来てるなぁ」
「いや! 『来てるなぁ』じゃないんだわ。 やっべぇ! コール! 物理保護全開!」
イオリが屋敷の防衛機構を起動させる。
「今日、来客多いなぁ」
スパァン!
「呑気なこと言ってないで退避しろ。バカタレ!」
イオリがバッカスの頭を叩き、首根っこ掴み、引きずっていく。
―――――――――――――――――――
「ドケヤァ!オルァア!」
「もう、どうにでもなれ…」
カズハは、シートに体を預け、いるかどうかも分からない神に祈る。
どうか、死にませんように
と。
シャイルが運転する車は屋敷の防御結界の手前で急ブレーキをかけ、スピンする。
せっかく、退避したのに迫ってくる鉄の塊にイオリとバッカスは顔を引き攣らせる。
車はイオリとバッカスのすぐ目の前で静止し、煙を上げた。
社内にいた、シャイル、カズハは空気で膨らんだ布に顔を埋めて、後部座席にいた、ジンとリンはリンが張った障壁に包まれていた。
「着いたわ。 行きましょ」
何事も無かったかのように車から降りていくシャイルにカズハは戦慄した。
車から、這い出るように外に脱出し、刀に手を掛けて、こちらの様子を伺っていたイオリに跳びついた。
「イオリお兄さん、怖かったよ〜」
「ああ~。よしよし。なんとなく、事情は読めたから泣くな」
一葉の頭を撫で、宥めながら情報を整理する。
(多分、あの婆さんがはっちゃけたんだろうな。 と、言うか、アポイント無しで、貴族家にくるんじゃないよ。 本当、あの学園の奴らはどうなってんだ? 常識を知らんのか?)
「取り敢えず…バッカス! 中に知らせてくれ。 それと、メサイアベルテ学園の学園長殿とお見受け致しますが?」
バッカスは分かったと頷き、門の横にある門番用の小さい出入り口から、中に入っていった。
「ええ。 突然の来訪、お詫び申し上げます。 あなたがおっしゃられたように、私、メサイアベルテ学園の学園長を任されております、シャイル・セブルス・アーカーシャと申します。 本日は、こちらの一葉君の事について、お話しがあり、お伺いに上がりました。 ご当主に取り次ぎをお願いできますか?」
「ただいま、家主は来客対応をしておりまして、そちらの後でよろしければ、ご案内できますが、どうなさいますか?」
「ええ、構わないわ。 お願いできるかしら?」
「かしこまりました。 どうぞ、こちらへ」
イオリが門を開け、シャイル、リン、ジンを中に案内する。
「お手前の噴水を右から周って屋敷にお進み下さい」
「……わかったわ」
(何かあるのかしら?)
(なんか、あるのかな?)
「なぁ、門番さん」
「はい、何でございましょう」
「左から周ってったらどうなるんだ?」
「そうでございますね…。 そちらのシャイル学園長殿は問題無いでしょうが、あなたとそちらのお嬢さんは命の保証ができかねます」
「!! なるほど…。 了解した。 リン、絶対に右から周っていけよ! フリじゃないからな!」
「わかってる」
「中に入ってからはメイドがおりますので、そちらの案内に従ってください」
「ええ。 ありがとう。 (スメラギのお侍さん)コソッ」
シャイルはイオリに軽く頭を下げ、中に入って行く。
その後にジンとリンが付いていく。
「チッ! 警戒しとくか」
イオリが小さく呟き、シャイル達の背中を見送る。
「ほら、カズ坊も行きな。 道を逸れないように気をつけろよ〜。 あと、お帰り」
「うん。 ただいま!」
イオリに帰りの挨拶をして、屋敷に走って行く。