あのバカ…
クソッ! 休みの日くらい休ませてくれてもいいじゃないか!
俺は、親父。ハゲン・ハンプティの書斎の前にいた。
「親父ぃ、入るぞー」
ガチャッと、扉を開けると、本が飛んできた。
「いて!」
「ノックをせんか!ノックを! やり直せ、馬鹿者」
「んだよ面倒くせぇ」
ダリウス・ハンプティは悪態つきながら扉を閉めて、模擬剣を取りに行く。
「あ。お兄様、お帰りなさいませ」
「おう、ただいま」
妹のジュリアの頭をひと撫でして自室に向かう。
模擬剣を掴み取り紐で鞘が抜けないように縛り付け、部屋を出てハゲンの書斎に向かう。
◇ ♢ ♢
「遅い! 何をやっとるんだあいつは!!」
ハゲンは、足を揺すりながら、指で机を叩く。
――坊ちゃま!? お止めください!
――お兄様!?
――ん? 離れてな? 危ないぞ?
(何をやっとるんだ、本当に…)
ハゲンは、入り口に歩いて行き、ドアノブに手をかける。
ゴバキィ!
「騒がしいぞ! 何をしてぅおおわぁ!?」
ドアを引いて、一歩前に足を出したところで、目の前をナニかが通り過ぎ、扉の木枠を砕いた。
「「「あ…」」」
は?
何が起こった?
どうして、扉の木枠が砕けた? Why?
「キ、キサマらー! 何をしてる!! そこに直れ!!」
ハゲンは怒髪天を衝くといった様相で、ダリウス、ジュリア、ジュリア付きメイドのアンジーが書斎の中で正座をさせる。
どれくらいかの時間が過ぎ、ハゲンの説教が終わりを見せる。
「どうして、わたくしまで…」
「本当ですよ。 トバッチリもいいところです!」
「はっはっは!」
ジュリアとアンジーは恨めしそうにダリウスを睨む。
「やかましい! そいつを止めんかった、お前らも、同罪だ!! ふぅ、ふぅ、ふぅ……はぁ。 もういい、行け」
ダリウス、ジュリア、アンジーは、足が痺れているのかよろよろと立ち上がり、ゆっくり、書斎から出ていった。
ん? 何かを忘れてるような………
◇ ◇ ◇
「そういえば、お兄様?」
「ん? なんだい? リア」
「お兄様は何で、あんなことを?」
「ん? あー、親父に呼ばれて、書斎に入っていったら、『ノックをしろ!』って怒られてね、だから、ノックをしたんだけど…どうした?」
「お兄様…。お忘れかもしれませんが、ノックというものは、手で、軽くドアを叩くことですわ。 お兄様のそれは、今、市井の間で流行っている野球のそれですわ」
「もちろん、わかってるさ!」
「「……」」
((なら、なぜ?))
スパーン!
「待たんか、バカタレ! お前は残れよ! 話があると言っておろうが!」
ハゲンが息を切らせなが走り寄って、ダリウスの頭をはたき、首根っこをつかんで、書斎に引きずっていく。
「はぁ…。 お兄様が帰って来ると一気に邸内が騒がしくなりますね」
「まったくです」
「お父様。 今度はお兄様に何を言いつけるのかしら」
◇ ◇ ◇
「まったく! 手間を取らせよって!」
「はあ。 でも、親父が行け!って言ったんだぜ?」
「やっかましいぃ! 本題に入るぞ!」
ハゲンは書斎の机の引き出しから、紙を取り出し、ダリウスに差し出す。
「コレは?」
「お前にやってもらいたい事がある。 そこに、書かれた特徴の少女が、初等部に編入しようと試験を受けるらしい。 これを阻止しろ。 できれば、縁を持って、うちで囲いたい」
ダリウスは親であるハゲンの言葉を聞き流しながら紙にかかれている事を読み込んでいく。
「正気か、親父」
「ああ。 これが、この世界のためになる事となる」
「いや、ならんでしょ。 いくら、お袋が死んで、寂しいからって、10歳前後の少女に求婚だなんて! 幼女趣味もいい加減にしてくれ!」
「違 う わ!! いいか! とにかく、初等部に行かせるなよ!」
「ヘーイヘイ」
「返事は、『はい』だ! それと一回!!」
ダリウスは書斎から出ていく前に振り向き
「俺一人じゃ、怪しまれるから、協力者が必要だけど?」
「人選は任せる。 うまくやれ」
◇ ◇ ◇
「という訳なんだけどさー。 なんか、知恵貸してくんない?」
「ダリウス。 ここは、お悩み相談室じゃなくて生徒会室だ。 それと、ノックをしてから入ってきてくれ」
端正な顔立ち、碧い髪。 メガネをかけた好青年だ。
「まぁまぁまぁ。 そんな細かいこと気にすんなって! そんなに細かいとハゲるぞ?」
「君が言うと、妙な説得力があるな。 まぁ、いい。 取り敢えず、私に何を聞きたいんだ?」
「ああ、それなんだがな。 前の休日の日に親父に呼ばれてな――――」
ダリウスは、ハゲンから命令された事を目の前の青年に打ち明けた。
「はぁ〜〜」
「どうしたよ? ユリウス」
「いや、なに。 君がつくづくお馬鹿さんなんだなって、再認識をしたところだよ」
「?」
ダリウスは首を傾げる。
「ダリウス。 私はなんだ?」
「この学園の生徒会長だろ?」
「まぁ、そうだね。 他は?」
「他ぁ? あ~っと、第一皇子だっけか?」
「そうだね。 私はこの学園の生徒会長である前に、この国の皇族。 第一皇子だ」
「おう」
「君は、この国の皇子に未来ある子共の学びの機会を取り上げる相談をしている。と理解しているかい? コレは、国益を損ないかねない。 叛逆罪で一族郎党、打首でもおかしくないんだよ?」
「まさか! うーん。 そうだな…。 友人として知恵を借りたい」
「はぁ…。 あくまで、私に不正を見逃せ、と言うのか…。 とにかく、駄目なものは駄目だ。 聞かなかった事にしておいてあげるから、諦めなさい」
「うーん…そうかぁ。わかった! ありがとう! なんか、考えてみるわ!」
じゃ!と手を上げ、そそくさと生徒会室からダリウスは出ていった。
「考えるな! ったく、人の話を聞かんか、あのバカは…。 こちらから、何か手を打っておくか……」
(にしても、初等部に行かせるなか……。 そういえば、新しいクラスが追加されるんだったな。 ふむ…)
昇級試験、並びに入学試験、編入試験日の2日前の出来事である。




