魔導騎士団副団長
一部、人物名が抜けていたため追加致しました。
私の名前はハゲン。 第三魔導騎士団の副団長だ。
私はあの日、何時もと同じように、団員の指導の傍ら、我が一族の悲願の為の研究をしていた。
職権乱用じゃないかって?
バカを言うな。
これも、れっきとした騎士団の業務だ。 世のため人のため、そのために技術を進歩させる。我が一族の悲願もそれのうちの一つだ。
それがなんなのか。 それは…
毛根を復活させる事だ!
これは、一族始まって以来の悲願だった…。 我が一族は若いうちから薄くなっていく、30になる頃にはもう……!
ゴホン!
話が逸れた。 あの日、研究室で実験をしている時に大きな魔力の反応を感じた。
第三魔導騎士団は、他の騎士団の庁舎と違って、団員一人ひとりに規模は違えど研究室兼自室が与えられている。
団員は、日々、国民から寄せられる事件の解決に取り組み、手が空けば自室に籠もり、新しい魔法の開発や既存の魔法の効率化の研究。新薬の開発等を行っている。まぁ、中には分量の加減を間違えて自室を爆破させたり、魔力を暴走させて自室諸共、周りの研究室も破壊させたりもする。
だから、大きな魔力反応というのは、日常茶飯事の事だ。
それが、まさか勇者を喚び出す時の魔力反応だとは思いもよらなかった。
それを、団員から聞いたときは耳を疑ったものだ。
「爆発で吹っ飛ばされて、頭のぶつけすぎで思考さえも爆破させたか?」と。
だが、現実はそうじゃなかった。
各騎士団の団長及び、副団長は騎士団総長に呼び出され、謁見の間に向かうように言われた。
しばらくすると、マリアベル皇女殿下が、おかしな服装の男を連れて、玉座に向かうレッドカーペットの上を歩いていく。
男はなよなよした、気弱そうな少年だ。 視線をあちこちに彷徨わせて、終始、殿下が代わりに受け答えをしていき、直接陛下がお声をお掛けになると返事をするくらいだった。
(ええい! 勇者なら、もっと胸を張れ! こんな奴に世界の命運を預けるのか!? ふざけるなよ!)
私は、納得がいかなかった。 何故こんな餓鬼に…と。
次に勇者と合ったのは庁舎に戻る時だった。
殿下に連れられて同年代の餓鬼共と廊下を歩いていた。
殿下は少し先を歩いていた。
(丁度いい。 釘を刺しておくか)
そう思い、餓鬼共に呼びかけた。
だが、それは殿下の不興を買うことになった。
(チッ! 庶子のお飾りのクセにィ!)
不満が募っていく。
マリウス殿下こそがこの国に相応しいというのに、何故、下民の血が入った、あの小娘が!
2週間後。
どうやら、改めて、餓鬼共が雁首揃えて陛下にお目通り願うらしい。
勇者は、あの、なよなよした感じはなく、何処か、皮剥けた感じがした。
後ろに控える少年少女も、強者の風格を醸し出しながら周りを威圧していた。
そんな中、特に何も感じない、ただの少女がいた。いや、どちらかというと幼女か?
彼女からは本当に何も感じなかった。人が本来持っているはずの魔力でさえも。
そこから、騎士団と模擬戦をする流れになった。
裏から手を回し、あの餓鬼共を遠ざけ、時間を見計らって、追い出そうとした。
だが、その時もあの小娘が間に入ってきた。
クソがッ!
遅れてやって来た小娘と餓鬼共。 それと、その後ろに控えるメイドとそれに捕縛されている満身創痍の第三騎士団の団員。
クッ! 失敗しおったか!!
この後の後始末に頭を悩ませている間に模擬戦が始まった。
(ハッ! どうせ見掛け倒しの虚勢だろ)
だが、蓋を開けてみれば…。
…なんだあれ。 ……なんだあれ。 ………なんなんだ、あれは!
化け物。
その一言に尽きる。
所属は違えど同じこの国の騎士だ。 団員の噂は嫌でも耳に入る。
ヴィルは、傭兵上がりの騎士だ。
認めたくはないが、その実力は目を瞠るものがある。
そのヴィルを相手に身体強化魔法も使わず、ただただ、素の身体能力で圧倒していた。
勇者の次は、あっちの小僧か。
なんだ、あれは…。 あんな、バカでかい剣を振るえるのか?
ははは…。 どいつもこいつも、バケモンばっかか!?
何故、あんな巨大な剣を身体強化も使わずに振れる!?
有り得んだろ!
はぁ、はぁ。
あまりの出来事に頭を掻きむしる。
その際に髪がハラハラと抜け落ちていくが、そんな事を気にしている余裕は無い。
クソ!
次は、どいつだ!?
小娘か。 流石に小僧達ほど、実力はないだろう。
そう、安堵していたが、様子がおかしい。
ん?
相手が騎士じゃなくて、勇者だと?
ゾワッ!
背筋が凍る。冷水を被せられたみたいに体が震えてきた。
なんだ、この…感覚は……!
殺気!?
何処から!?
あの、小娘か…?
アルトの開始の合図がされて、両者ともに構えをとる。
(あの、構え。 たしか……)
沙月と雄一の構えを見て、ナニかが引っ掛かった。
キィィン!
金属がぶつかる甲高い音がして、思い出す。
「スメラギの居合か!!」
俺は、堪らず叫んだ。 それぐらいに衝撃的だったのだ。
スメラギは地図上には存在しない国。
だが、いつの時代か突如として現れたその国は数多くの英傑を生み出していった。
こちらから、その国に向かうことはできない。
何故なら、スメラギ出身の移り住んできた者からの話が一致しないからだ。
ある者は南から来た。
また、ある者は北から、西から、東から。
あるいは、落ちて来たという者もいる始末。
もしかしたら、移動しているのかもしれないが。国として成り立っているなら、それなりの規模になる筈。
なのに、その面影もないのだ。
そんな、本当に存在しているかも怪しい国特徴が『居合』という剣術だ。
スメラギ出身とされる者たちの共通点の一つがこれだ。
全員が全員、この剣技を使える。 名称が違う時もあるが、だいたいは同じらしい。
得意としているかは、また別の話だが。
(何故、あの剣技が使える? ……まさか!? スメラギというのは国では無く異世界の事か!? それなら、大陸各地から現れるというのは辻褄は合う。 だが、勇者の住む世界では、刀はおろか、ナイフだって所持していると罪に問われるらしいが…)
ハゲンは少ない情報から思考の渦に呑まれた。
もはや、模擬戦の粋を越えた訓練場に目を向けると、勇者が斬られたのを目撃する。
はあ?
なんで、血が流れている?
刃引きは? ……してないのか?
クッ! 魔王討伐の前だというのに、勇者に死なれては困る!
止めさせなければ!
急ぎ、陛下の元に向かう。
「陛下! 今すぐ、模擬戦を止めさせ下さい! あの者らは、刃引きされてない武器を使用しているかと思われます。 このままでは、どちらかがしんでしまいます!」
「ハイネか。ああ、いや今はハゲンだったな。 先程、アルトがあの二人に闘わせると報告を受け、余が許可を出した」
「なッ! 何をお考えか!」
陛下は無言で小さく折り畳んだ小さな紙片を渡してきた。
『読め』という事なのだろう
それを受け取り、開いて、目を通す。
『騎士相手では実力を発揮できないと判断したため雄一とやります。 その後の判断はお任せします』
と書かれていた。
「不敬な!!」
私は一喝した。
「良い。 見せてもらおうじゃないか、今代の、勇者とその仲間の力とやらを」
心底楽しそうに頬を緩める陛下に戦慄を覚えた。
(何をお考えか、陛下は!! もし、ここであの餓鬼に死なれては魔王に対抗する手段が無くなるというのに! 何故、それが分からんのです!)
視線を訓練場に戻すと、勇者と小娘の戦闘は最早、人の粋を越えたものと化していた。
勇者の先程の傷は消えており、斬られる度にアルトの近くにいる娘の一人が治療し、武器が壊れれば、もう一人の娘が勇者に新たな武器を支給する。それを繰り返していた。
恐るべきは、勇者の身体に薄く魔力に覆われていることから身体強化をかけていて、娘の方はその魔力を感じない。 つまり、身体強化をかけていない。
まるで、先程のあの餓鬼とヴィルの模擬戦のようだ。
積み重ねられる剣戟は素の肉眼では捉えることができず、眼に強化をかけても、かろうじて、うっすらと刀がブレていることしか見れない。
遠目でこれだけしか見れないんだ、対峙したとしたら、強化を施していたとしても私は反応する暇もなく斬られるだろう。
何度も、何度も何度も勇者が斬り倒される、そして、回復させられ立ち向かう様を見て、ギャラリーは野次や応援をすることもなく、只々、言葉を失った。
なんだ、コレは…。 何をみせられている?
勇者が、この世界の希望たる勇者が身体強化すらもしていない娘に言い様に弄ばれている。
(あの、力。 危険だ! もしあの力がこちらに向いたら……)
勇者が何度目か分からないダウンで、回復を受けても立ち上がれなくなり、そこで模擬戦という名の嬲り殺しは終わった。
その後、勇者達は陛下に連れられて宝物庫の方へ向かって行った。
ちょっと、待て! 陛下、政務は!?
陛下が宰相に捕まり連行される様が目に浮かぶ。
勇者一行が歴史的遺産を消し去ったと聞いた時は倒れるかと思ったが、死傷者はいないようで胸を撫で下ろした。
それから、数日経っても勇者一行は魔物の討伐に出かける事もなく、以前と変わらず屋敷で鍛錬をしているらしい。
そして、一行の一人が学園の編入試験を受けるらしいという噂が耳に入る。
(もしかして、勇者達はコレを待っているのか? 噂では、幼女という事らしいから、アノとき、途中で眠っていた娘の事だろう。 だいぶ、大事にしてるようだったな……。あ奴らの力がこちらに向くことになったら困るし、かと言って、今の力で魔王が倒せるという保証も無い。 万が一のための保険でコレは使えるかもしれんな)
「ダリウスを呼べ!」
騎士たるもの、人質を取るなどあってはならん事だ。だが、世を救うため、民を救うため多少の犠牲は仕方ない事だ。
許せ、小娘よ。




