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本当に、やるのか?

 訓練場の真ん中で、雄一と沙月が向かい合っていた。


「勇者殿、サツキ嬢。 本当にいいのか?」


「はい」「はい。 この馬鹿の教育をしないといけないので」


 なにがどうなってこうなったか。


 皐月の相手を雄一がすることになった。

 


 事は、正義がテレサと模擬戦を行っている時だ。


「ねぇ、水原君(合わせて)」


「どうしたの? 沙月さん(いいけど、どうしたの?)」


「どうして、灯篭花を使ったの?(何処で誰が聞いているかわからないから、詳細はこっちで)」


 ギクッ!


「い、いや〜。今の俺なら使えるかなぁ〜って(了解)」


「ねぇ。 あれがどんな技か分かってるの?(騎士の人達のレベルが低すぎてもう、時間の無駄じゃない?)」


 沙月は悲しそうな、そして、どこか悔しげに正義に聞く。


「分かっているつもりだけどさ(まぁ、そうだよね)」


「そう…。 分かってるんだ。 たしかに、私も見様見真似だけど、あの剣技の危険性は理解してるつもりだよ? 本当に、水原君、理解してる?(だからさ、今もやってるけど、一芝居打ってさ、この模擬戦をさ、私達で終わらせない? それと、さっき、一葉君には睡眠薬仕込んどいたからもう少ししたら効いてくると思う。だから、アルトさんとの戦いはこれで、潰せるよ)」


「ね、ねぇ。 ハナおねえちゃん。 サツキおねえちゃん、おこってる?」


 コソッと一葉は華蓮に耳打ちをする。


「う、うん。 怒ってる…っぽいね。 理由は多分、水原君が使った、剣技がとても危ないものだったから、かな」


「そんなに、きけんなわざだったの? めでおえたけど…」

 

「たでぇーまー」


 華蓮と話していると、正義が帰ってきた。


 そして、アルトと白衣を着た女性が、言い争っている理由の推測を話した。


「ああ、うめぇ〜」


 説明が終わり、サンドイッチを摘みだす雄一は空気の悪さに気付く。


「んで? この状況は? なんで、こんな険呑な空気になってる?」


「あんたには関係ない。 口を挟まないで」


 沙月がピシャリと言い放つ。


「おお、怖っ! ガチギレじゃねぇか…」


 小声で呟き、戦々恐々する。


()()。 (つら)貸しなさいとは。 久しぶりに稽古を付けてあげる」


「………了解。 ()()()


 ん? 姉弟子?


「ねぇねぇ。 あねでしってなぁに?」


 華蓮が答える。


「ん~? そうだね~。 水原君はね、さっちゃんのお家の道場に通っていたお弟子さんなんだよ。 あ、お弟子さんっていうのは、う〜ん…。なんて言ったらいいんだろう?」


「普通に剣を習ってたでいいんじゃね?」


 正義が、補足する。


「そうだね! あ〜。 で、さっちゃんはお家が道場だから、物心ついたときなのかな? 水原君が習い始める前から習ってるの。 それでね、道場っていうのはね、一つの家族みたいなものでね。 師匠(せんせい)が親で、お弟子さんが子供なの。 だからね、水原君よりも早く習い始めた、さっちゃんがお姉ちゃんで、水原君が弟になるのかな?」


「ふーん。 じゃあ、サツキおねえちゃんの方が強いの?」


「うん、そうだね。 近接戦闘だと、私達の中で一番強いかな」


「そう、なんだ」


 華蓮と話をそていると、小走りで沙月が、戻って来た。


「ハナちゃん、アイちゃん! ちょっと、力を貸して!(二人にも知らせとくね!)」

――――――――――――――――――――


 場面は冒頭に戻り


「では。両者、準備はいいか?」


「あ、待ってください。 勝敗の条項の変更を」


 沙月が待ったをかける

 

「? 構わんが…」


「どちらかが、戦闘不能に陥るまで。 殺しは無し。 魔法使用は有り。 雄一には、回復支援有りってとこかな」


「……は? そんな条件でやらせられるわけ無いだろう! 何を考えておいでか!」

(何言っているんだ?この嬢ちゃんは…)


「ねぇ、アルトさん? もう、勇者の力もその仲間の力を見せたよね? もう、十分じゃないですか? 後に残っている騎士達は雄一や周防君と戦った騎士よりも強いのですか? 正直なところ、あの二人が飛び抜けて強そうでしたよ?」


「む、むぅ。 確かに、残っている騎士達はヴィルやテレサよりは劣るが…。それが?」


「私達は、雄一と正義より強いですよ。 騎士の人達と戦うのはいいのですが、多分、目一杯手を抜いて、使える魔法や、移動制限等のハンデをつけたとしても、余裕で勝てると思います。 だから、私達の戦闘を見て、まだ、やりたいと言うのであれば、お相手致します」


「ああ~、アルトさん。 姉弟子、綾小路さんの言うことは本当です。 俺では彼女たちに逆立ちしても勝てないでしょう。 足元にも及ばない」


「……そうなのか? …分かった。陛下達に報告してくるから少し、待っていてくれ」


「「はい」」


 アルトが騎士達とルーバー王に事の経緯を説明しに行った。


「私はハナちゃん達を呼んでくるわ(二人にも事情は話とくね)」


「分かった(よろしく〜)」


 沙月は華蓮と愛莉栖を呼びに行き、事情を説明して連れてくる。


「すまない、待たせたな。 陛下の許可は頂いた。 『存分にやれ』だそうだ。 他はまだなにかあるか?」


「いえ、私からはもう」


「俺もありません」


「分かった。 カレン嬢とアリス嬢は俺の傍で控えておいてもらえばいいのか?」


「そうですね。 ハナちゃん、衝撃がいきそうだったらお願いね」


「任せて!」


 華蓮は沙月の言葉を察し了承する。


「はい。 水原君」


 愛莉栖は雄一に刀を渡す。 この刀は、ヴィルと戦った時のものとは違い、()()()()()使()()()()()()と同じ形状、同じ重さのものだ。 もちろん、模擬刀でもなく、刃引きもされていない。


 次に愛莉栖は沙月にも刀を渡す。 沙月の刀は鍔の無い刀で、鞘と柄の境目からすると刃渡り70センチ前後。 打刀と同じ長さだ。


「両者。 よろしいか?」


 愛莉栖がアルトのところまで戻った所で、アルトから声をかけられた。

 沙月と雄一は頷き、答える。


 沙月と雄一は半身になって左手で鞘を持ち、柄に手をかける。


「始め!」


「「綾小路流 抜刀術 迅雷 !!」」


 目も止まらない速さで抜かれた刀はぶつかり合い、轟音と衝撃を撒き散らした。

 雄一はそのまま鍔迫り合いに持ち込み、沙月を押し切ろうと刀を握る手に力を込めた。


 フッと刀から感じる重さが無くなった。


 視界には陽の光に拠ってキラキラと輝く板状のナニカ。



「綾小路流 戦刀術 疾風」


 沙月の声が後ろから聞こえた。 

 その瞬間、左肩から右横腹にかけて血が吹き出し倒れた。



 沙月は刀を振り、血を落とす。


「ハナちゃん、お願い」


「う、うん」


 華蓮が雄一に駆け寄り、治癒の魔法をかける。


 周りから、『お〜!!』と声が聞こえてくる。

 それと、『無詠唱!? しかも、魔法名も言ってないじゃない!』と発狂した声も聞こえた。


「いつまで、寝てるつもり? 雄一」


「スパルタすぎない? 姉弟子(本気すぎないか!?)」


 ムクッと立ち上がり、パンパンと服についた砂を払い落とす。


「そう? 貴方の教育にはピッタリじゃん。(ごめ~ん。ある程度、見せ付けたほうがいいと思って…) アイちゃん、お願い」


「はぁ…。 早く、終わらせようよ、こんなこと」

(え…?芝居って聞いてたんだけど!?)


 苦言を溢しながら新しい刀を雄一に渡す。


 愛莉栖が避難したところで再び刀を構えた。


 沙月は納刀し、また居合の構え。 雄一は目の前に刀を構えた。


「綾小路流 抜刀術 迅雷」


「綾小路流 戦刀術 地走」


 沙月の放った()()()()()()を地面スレスレまで体を沈めこむ事で躱した雄一は超低姿勢のまま疾走し、左逆袈裟を繰り出す。


「朧霞」


 キィイインと刀同士がぶつかり、雄一が目を見開いているのがよく見える。


「なっ!? そんな技、知らないんだけど!?」

 

「そりゃ、そうでしょうよ。 私が編み出した抜刀術だもの」


 沙月は、鯉口を切った後、柄から右手を滑らせ、あたかも抜刀するかのように見せかけたのだそして、鞘を持っていた左手で抜刀した。

 雄一が躱したと思った斬撃は刀を振られたという思い込みから発生した錯覚で幻だ。


「おまっ、それ……」

 

 雄一は沙月が編み出したと言った事に驚く。

 何故なら、剣技を編み出すというのは一朝一夕でできるものではないし、門下生が新たな剣技を編み出すなんて師範、ひいてはその一門に喧嘩を売っているに等しいのだ。

 だが、


「今更じゃない? それに、雄一も知ってるしょ。 私が破門されてるの。 だから、最初に教わった『疾風』と『迅雷』しか使えない。 うんうん。 厳密には使っちゃいけない。 だってそれは、ケジメだもん。 だから、ありとあらゆる剣技を見様見真似で再現する。 たとえそれが、漫画やゲームの技だったとしても」


「知ってるよ。 俺も使ってるし」


「そうよね? あの、灯篭花も漫画の奥義だったものを私なりに再現、改良したものだし。 でも、再現して分かったわ。 あれは危険すぎる。 だから、あれをおいそれと使った雄一には呆れてるし怒りも覚える。 ねぇ? 雄一は何をしたいの? 模擬戦? それとも死合(しあい)? でも、『灯篭花』も『燕返し』も不殺剣じゃない。れっきとした殺人剣よ。 それを使ったって事は、殺すつもりだったんだよね?」


「いや! それは…!」


「いいよ。 そんなに死合(しあい)たいなら、相手になってあげる。 いい加減さ、雄一も本気を出したら? 使えるんでしょ? 綾小路流の奥義を」


「な、なんでそれを!?」


「あのねぇ。 一応、破門されてるとはいえ、あそこの娘なんだ、よ?」


 地面に落ちた鞘を蹴り上げ、刀を上に向ける。 すると、蹴り上げた鞘がくるくると回りながら落ちてきて、刀に沿って滑り落ち、納刀された。


「それに」


 沙月はまた、居合の構えをとる。 


 だが、さっきまでとは打って変わり、刀を隠すかのように抱え込むように、だけど、視線は雄一からははなさない。


「家族の仲も悪くないし、ね! 我流抜刀術 雷切(らいきり)!」


 バチバチと音を立てながら鞘に電気が纏う。


「や、べぇえええ!」


 雄一は、すかさず横に跳び転がって、沙月の斬撃から(のが)れる。


 沙月は刀はその速度故か、はたまた刀に電気を纏いすぎたせいか赤熱していた。 そして、奔ったであろう斬撃は訓練場の地面を大きく裂いた。


「はっや! ばっかじゃねぇの!? マジで! 死ぬわ!絶てぇ今のは死ぬって!」


「あら? 避けたの? しぶといね」

 

 心底不思議そうに首を傾げる沙月に雄一は戦慄した。


(この女、やべぇ!)


「でも、安心して。 ちゃんと、加減してるから」


「クソッ!」


 沙月が追撃し、雄一はそれを受けるが、刀が溶断され、体をのけ反らせることによって難を逃れる。大きく跳びの退き愛莉栖に声をかけた。


「天王寺さん! 新しいの二本頂戴!」


「りょーかい!」


 刀を投げ捨て、刀を二本受け取り、引き抜く。


「へぇ、二刀流か。 使えるんだ。でも」


 沙月は飛び上がり、刀を雄一に向かって、突き降ろす。


 雄一は横にずれ沙月の突きを躱し、回転斬りをした。


「遅いなぁ」


 沙月は地面に刺さった刀を引き抜き、飛び退く。


 雄一はそれを見越して、次の行動に移った。 回転の制動をかけ、突きを放ち追撃をかける。


 沙月は横から、刀を打ち付け、突きを逸らす。


 そこから、沙月も雄一も一歩も引くことなく、刀を打ち付け合った。

 驚く事は二刀の雄一に対して、沙月は一刀で受けきっていることだ。 

 雄一の乱舞の尽くを打ち払う。

 

「綾小路流 戦刀術 天衣無縫!」


 二刀による乱舞は速度を増し、沙月は捌ききれなくなってきて体に切り傷が増えていく。


「やっと使ったわね。 でも、温いね。 私が女だから、傷つけたくないと?」


 雄一は最初から急所に当たらないように、刀を振るっていたのだ。

 沙月はそれが気に入らない。 


 彼我の実力差は歴然。


 それでも、雄一は仲間を、沙月を傷つけたくはなかった。


「だから、あんたは甘いって言ってんのよ! 我流剣技 偽剣 燕返し!」


 雄一が放った袈裟斬りと左袈裟斬りの同時斬撃に、同時に斬撃を放ち更に斬撃を連ねる。


「連刃 我流剣技 灯篭花!」


 "燕返し"は()()()の剣技で"灯篭花"は()()()の剣技。どちらも、雄一がヴィルとの戦いで使用したものだ。

 

 だが、沙月の使った剣技は()()()だった。

 つまり、一の太刀で二つの斬撃を放ち、ニの太刀で九つの斬撃を放ったのだ。


 雄一と沙月はその一瞬の交差のあと、互いに刀を振り抜いた形で静止する。 

 雄一の持つ刀が半ばから斬られており、ドスッ、ドスッ。と地面に刺さり落ちた。


 数瞬後、全身から血を吹き出し、雄一は地に倒れた。

 

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[良い点] キャラクターの言葉だけで誰が何を言っているのか分かりやすくなってる気がした! [気になる点] 所々にいらないところに詳しい説明があったり、欲しい所に説明が足りてなかったりすることがしばしば…
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