謁見
今日は城へ登城する日だ。
朝、目を覚まし朝食を食べてから準備をする。
はずだった。
一葉は寝坊というのをしたことはなかったのだが、毎日、訓練があり、それが休みになるという事で、気が抜けたのだろう。 この日に限って、盛大にやらかした。
「一葉君!? 起きて! 早く起きないと、準備が間に合わないよ!?」
「ぅ? おあょぅごじゃいます。 ふぁ~」
ゆさゆさと身体を揺さぶられ目を覚ましたが、まだ、寝ぼけていた。 船を漕ぎながら挨拶を交わした。
「おはよう! ほら、起きて起きて!」
「んん?」
上半身を起こし、華蓮にぎゅ~と抱きついた。
「ああ、抱きつかないでぇ。 もう…」
「かれ〜ん? 一葉君、起きた〜?」
部屋の外から華蓮を呼ぶ声が聞こえた。
「春ちゃん! 良いところに来たよ! 手伝って!」
華蓮の声を聞いて部屋に入って来た春希は一葉のの様子を見て察した。
「どうしたの〜? って、完全に寝ぼけてらっしゃる」
「そうなの。 だからね、このまま着替えさせようと思うんだけど……」
「それはいいんだけど、この子、着てく服あるの?」
「え? あ。 そういえば…」
この世界に来た時に着ていた服は、あの、試練のときにボロボロになって、もう着れない。 今日まで着ていた服は、後から買いに行った物だ。それ以外の服は持っておらず、城に来ていけるような礼服はその時に買わなかった。
「うん。あの時に……。 とりあえず、普段着でもいいかマリアさんに聞こうか」
「そうだね。 お願いしてもいい?」
「任せて! あと、応援も呼んでくるわ!」
パタパタと急ぎ足で部屋を出ていく春希を見送って、一葉に声をかけ続ける。
「起きてー! 一葉君! 今日はお城に行くんだよ!?」
「騒々しいな」
急に低い声が後ろから聞こえ、身体が強張ったが、声の主を見て力を抜いた。
「ゴウキさん!? びっくりした」
「ん? ああ、すまんな。 で。どうした?」
「一葉君が起きなくて…」
「ふむ」
ゴウキから殺気が放たれ、華蓮は胸の奥が締め付けられる感覚を感じる。
「!!」
一葉が跳ね起き、華蓮を飛び越えてゴウキとの間に降り立った。
「ほう」
「んえ? ゴウキおにいさん?」
「『お兄さん』って歳じゃないんだがなぁ。 漸く起きたか、寝坊助」
「え?」
「今日は城に喚ばれてんだろ? 早く、支度しろよ」
「あ。 わすれてた…」
扉が開き、春希が入って来た。
「華蓮。取り敢えず、これを羽織ってもらってだって。 って、あれ? おはよう、一葉君」
「おはよう、春おねえさん」
「じゃあ、俺は行く」
「あ、はい。 ありがとうございました。 で、春ちゃん? それってコート?」
華蓮がゴウキに一葉を起こしてくれたことに感謝し、春希が持ってきた物を確認した。
「うん。 黒のパンツとインナーシャツ。で、このコート。 それか、こっちのだって」
「格好いいけど、一葉君にはどうかな。 春ちゃん? こっちのはワンピースドレス?」
「うん。 今、用意出来るのはこれだけだって。 大人用だったら、シリウスさん達のを借りれるんだけど、子供用のは、ね」
「う~ん。 一葉君には、こっちのワンピースが似合うと思うんだけど…。一葉君、男の子だもんね」
「ねー。 どうしようか。 一葉君、どっちがいい?」
「こっちのは、だめなの?」
何故、黒い方が駄目なのか疑問に思った一葉は、二人に聞いた。
「う~んと…」
「ああ…」
二人共、言いにくそうに顔を見合わせた。
「容姿がね、女の子っぽいからね。 そっちのコートより、こっちの白のワンピースの方が、似合いそうだなぁって」
それでも、華蓮が説明してくれた。
「じゃあ、こっち」
一葉はどっちを着ていくのか指を指す。
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謁見の間。
入り口から、レッドカーペットが玉座の方ヘ敷いてある。 レッドカーペットは玉座が載っている三層の壇から少し手前で途切れていた。
勇者である雄一が先頭を歩きその後ろを一葉達が歩いていき、カーペットの途切れているところで膝を付き、頭を垂れる。
「よくぞ、参った。 勇者とその友たちよ。 面を上げよ」
王様の言葉に従い顔を上げる。
「ほう? 雄一殿と顔を合わすのはこれで二度目だが、あの時に比べ、良い顔つきになった。 他の者とは初めてだな。 余は、ルーバー・テイセン・スピカだ。 勇者とその仲間達よ。 改めて、頼む。 この世界を救ってくれ」
「は。 私達の力がどこまで、通用するかわかりませんが、精一杯、頑張らせて貰います」
雄一が代表して、応答する。
「よいよい。 そなた等にだけ、押し付けることはせぬ。 こちらも、援助は惜しまぬ。 武具と活動資金は用意した。 後で受け取るが良い。 他にも何か入り用なら申せ。 用意しよう」
「有り難く、頂戴致します」
ルーバー王が、雄一の言葉に頷き、身を乗り出し、一つ、頼みがあると切り出した。
「それと…実はな。騎士や貴族たちの間で、そなた達の力を疑問視する声が上がっておってな。 どうだ? そなた等の力を我々に見してはくれぬか?」
「…構いませんよ。 ですが、私達の力をお見せするとのことですが、どのような形式で?」
「うむ。 騎士団員との模擬戦を考えておる」
雄一は少し顔を下げ、正義と視線を合わせた。
正義は小さく頷き、アイコンタクトを取る。
「…模擬戦ですか。 個人で? それともパーティー戦ですか?」
「陛下。 ここからは私が」
「アルト。 うむ。 そういえば、紹介がまだだったな。此奴は騎士団総長のアルトバイエルンだ。 アルト。 後は頼んだ」
「は! 今、陛下から紹介があったが、俺は、アルトバイエルン。騎士団総長を務めている。 長いから、アルトでいい。 でだ。 勇者様達には、私が選出した騎士達と一対一で戦ってもらう」
「サシ、ですか…。 私の仲間には、魔法を得意とするものと、弓を得意とするものがいますがそちらは?」
「安心してほしい。 そのもの等の相手も同じ系統の者を選ぶつもりだ」
「もう一つ、いいですかね」
「ああ、いいぞ」
「まだ、小さい子がいるのですが、その子も対象ですか?」
「そこの娘か…。 俺としてはやってもらいたいところだが、反面、騎士達が加減を間違えるかもしれない。 そう考えるとなぁ。 どうしたい?」
アルトは、考えあぐね、一葉に水を向ける
「やる」
「え!? 一葉君、いいの? 怪我するかもしれないんだよ…」
雄一がギョッと目を見開いて振り向き、心配げに聞いてくる。
「うん。だいじょうぶ」
サムズアップして、答える。
「だ、大丈夫かなぁ〜? まぁ、やりたいみたいなんで、お願いしても?」
雄一はアルトに向き直り、お願いする。
「ああ。 お願いするのはこちらだ。 他の騎士達では、不安だから、俺が、相手しよう」
どうやら、アルトは、自分で相手する事にしたらしい。
「おねがいします」
斯くして、ルーバー王との謁見は終了し、謁見の間から退出する。 マリアは、ルーバー王とまだ話すことがあるらしく、謁見の間に残ることとなった。
謁見の間から出て、扉が閉まった事を確認すると一葉を除いて全員がはぁ~と息をつく。
「つっかれた……」
正義がそう溢した。
「ね。 ホントそう。 水原が最初、疲労困憊で戻ってきたときの事を思い出したよね」
春希が、この世界に来たときの事を思い出していた。
「ははは…」
それに、苦笑する雄一。
だが、忘れてはいけない。 まだここは、城の中で、しかも、謁見の間の前である。 もちろん、扉の前には警備の騎士が控えており、こちらの方を心配そうに、されど微笑ましいモノを見るように見ていた。
何故、扉の前で待っているかというと、模擬戦をする場所に案内してくれる人がまだ、来ていない為だ。
「皆さん、お待たせしました。 どうぞ、こちらへ」
白地に黄金色で装飾されたローブを来た男性が現れ、訓練場へと案内される。
男性は『タラス』さんって名前で、魔法騎士団所属らしいが、主に魔法の研究、開発をしているらしい。
「ココが食堂だよ」
部屋の扉を開けて中を見してくれる。
いくつものテーブルが置いてあり、相当の人数が座れるようになっていた。
(なんか、よくおもわれていないっていってたけど、いがいとやさしい?)
そこから、更に廊下を歩いていくと、何故か人気のない場所に出てきた。
「そういえば、その格好で模擬戦するの?」
「どう、なんですかね。 俺達はこの格好でも良いですけど、この子は…」
タラスさんのふとした疑問に雄一が答えた。
「そうだよねー。 着替えとかは? 持ってきてる?」
「ああ、どうだろ? 橘さん、持ってきてる?」
「うん。 一応、あるけど…」
「あ。じゃあ、そこの部屋で着替えちゃいなよ」
タラスさんが部屋を指差し、着替える事を促す。
「勇者様達も着替えるなら中で着替えるといいよ。 そこ、更衣室だからね。 ああ、中で男女で分かれてるから安心して」
「じゃあ、着替えるか」
正義がそう口にして、扉に手をかける。
「そこで、何をしている!」
突然、大きな声が響いた。
声の主を探すと、怒りの形相をしたマリアが立っていた。




