オードリーレポート 1
大陸中央 黒死の森
その深くにある遺跡。 そこに、私オードリー・ガランシェールは幾人かの同伴者と共に来ていた。
異世界へと繋がるとされる遺跡の前に一つの小屋が建っている。
建てられてから、年数が経っているのだろう、所々、穴が空き、今にも崩れ落ちそうだ。
小屋の裏手に小盛りの盛り土に四角柱の石が立てられた物が5つあり、そこに通じる道を塞ぐ様に男性と思われる人骨が鎮座していた。
人骨の両サイドには抜き身の棒状のモノ。長年、雨風に晒され、錆び付いた剣が突き立てられている。
シキ
これが、彼の名前だ。
彼を知る者は、皆、口を揃えて言うだろう。
死神 と。
彼の通ったあとには、誰一人と生きてはいない。
敵対者に死期を与える者。 故に、死神。 故に、シキ。
シキというのは、連綿と受け継がれてきた名前。あるいは、称号らしい。
五剣と並び称される流浪の傭兵だ。
彼は、強かった。 いや、強すぎたのだ。誰も彼について行けないくらいに。
だから、一人で、戦い続ける。 一人で、死地へ赴く。
ある時、男が聞いた。
『シキさん。 何故、あなたはそんなに強いのですか? 何故、誰にも手を貸してもらわないのですか?』と。
シキはこう答えたらしい
「何故、家族を殺したお前達の手を借りないといけない。 それと、何故強いのかって? 魔法やスキルに頼りきっていたお前達とは違うからな。こちとら、元より魔法もスキルも使えぬ身。魔法を使えない俺が、魔法を使うお前らとやり合って来たんだぜ? 魔法を使えなくなったお前らが、俺に簡単に勝てると思うなよ」
と。
男は戸惑った。 家族を殺したと言われても、彼の家族を知らないのだ。
そもそも、シキの素顔も知らない。 シキはいつも仮面を着けていたからだ。
情報が少なすぎる。尚更、わかるわけがない。 シキの素顔も分からず、そこから、その家族を探すなんてできるわけがなかった。
男は、彼を知るものは、彼が消息不明になった後に真実を知った。
これは、俺達が殺したと言われても仕方がない。 取り返しのつかないことをしてしまった。
世界中で魔法もスキルも使えなくなったのにも納得がいった。
この世界が呼び出した、勇者を愚かにも、この世界に住む人々が謀略にかけて、でっち上げられた、ありもしない罪で処刑したのだ。
ただ、処刑したわけじゃない。 公開処刑だった。しかも、勇者の死を人々は喜んだのだ。歓喜していた。
そして、その仲間には、定価の何十倍、何百倍という値段で物を買わせ、街に滞在することを許さず、魔王と戦わせた。 もちろん、国の兵も、冒険者も、金さえ払えば何でもする傭兵でさえ、手を貸さなかった。
シキは勇者の仲間の生き残り。
だが、人々は疑問に思う。 召喚されたであろう者たちの中に、シキという名の者はいなかったのだ。
それに、つい、この間まで、戦場にいたのを確認している。
それなのに、遺体は完全に白骨化している。
何故、彼だとわかったというと、まず、服装が彼が着ていたもの。そして、傍らに刺してある錆びた剣だ。
彼の剣は特殊で、斬るだけじゃなく、魔力による砲撃もできる魔剣だ。
彼は魔法を使えないにもかかわらず魔剣は使えたのだ。 そして、その剣を誰にも触らせなかった。 風のうわさで、彼の、剣を盗もうとした輩がいたらしい。そいつは剣に触れた瞬間にエメラルドブルーの結晶に包まれ、砕け散ってしまったらしい。
その剣が今、ここにあるのだ。
何故、ここに彼がいるのか。 後ろの墓標は誰のものなのかは分からない。
あきらかに、数年は経っているであろう白骨体。
とても人が住める魔素の濃さじゃないこの森で、唯一、人が住める魔素の濃度の場所。 そして、魔物や魔獣が一匹も現れることのない安全地帯が何故、こんな所にあるのか。
私は食料が持つ範囲でこの場所に滞在して、彼とその後ろの墓標の主の事を探って見ようと思う。
『オードリーレポート』抜粋




