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この肉って、なんの肉?

 訓練が終わり、シアに抱きかかえられながら元の場所に戻ったら、マリアとローズ、それに、雄一達も見当たらなかった。


「あら? 誰もいないわね。 あの子達はまだ、訓練中だろうけど、マリア達は、何処に行ったのかしら」


「やしきからも、ひとがいるかんじはないよ」


 一葉は屋敷にも人の気配がない事に気づく。


「そうね……。 ゴウキ!!」


 シアが呼ぶと、スタッと小さな音を立て、シアと、一葉の前に片膝をついて、頭を垂れている痩躯の男性―ゴウキ―がいた。


「お呼びですか? マスター」


「ええ。 マリア達はどこに行ったかわかるかしら」


「マリア嬢達ですか? それなら、マスター達が結界に入ってから、肉を獲って来ると言って出掛けて行きましたよ」


「は? 獲っ、え? 買いに行くのではなくて? 獲りに行ったの!?」


「はい。 狙うはミノタウロスと言っていたので、おそらく、森に行ったのではと」


「そ、そう。 わかったわ、ありがとう」


「いえ。では、ワタシはこれで」


「待ちなさい。 あなた、()()()()はどれくらい出来たのかしら」


「……もうじき、24本目が出来上がります」


「……。造りすぎじゃないかしら?」


「そうでもないですよ。 おそらく、マリア嬢達は収穫なしで戻ってきそうですので、必要でしょう?」


「あぁ~。 そういうこと……。 悪いわね」


「これくらい、構いませんよ」


「マリア達が戻ってきたら渡して上げてちょうだい。 下がっていいわ」


「御意に」


 ゴウキはチラッと、一葉を見て、消えた。


「あの子達、行動的すぎじゃないかしら。 一応、皇女よね?」


「こうじょ?」

 

「あれ? あ、ああ~。 そうよ。 一応、マリアはこの国、スピカ皇国の皇女様よ」


「おえらいさん?」


「そうね」


「ど、どうしよう? いままで、しつれいなことを」


「ふふっ。はははは」


 シアが、一葉の不安そうな声で笑いだした。 


「ヒィ〜。はっはははは。 だ、大丈夫、よ。ふふっ。あ、あの子はそんなこと、ははっ。気にしてないわ。今まで通りに接してあげなさい。 急に、余所余所しくなったら、あの子、泣いてしまうかもしれないわ」


「うん。 わかった!」


「じゃあ、汗でも流しにお風呂に入りましょうか」

 

 シアはそう言って、屋敷に入って行った。


「おふろ?」


 また、聞き慣れない言葉が出た。


「そ。 入った事ない? 身体を洗ったり、お湯に浸かったり」


「う~ん?」

 

 思い出せる限りだと、そういったものなく。 ただ、来ているものを全て脱いで、人、一人入れる位の小さな部屋に入って、消毒されるだけだった。


「ないかなぁ」


「……そう。 それじゃあ、今日が初めてね。 着いたわ。 ここが風呂場。 一応、男女で分かれているわ」


 柱一本を境に連なって部屋の入り口があり、それぞれ、赤色の暖簾と青色の暖簾が掛かってある。



「キミは一応、男の子だから、男性用の方に入らないといけないんだけど…流石に初めての入る子に一人で、入らすわけにはいけないから、一緒に入ろうか」


 シアに抱きかかえられたまま女性用の方に連れられて行った。


 脱衣所で服を脱いで、設置されていた籠に脱いだ服畳んでを入れるらしい。 その時、脱いだ服が外から見えないように注意も必要だとか。


 浴室に入ると、入って直ぐの所にお湯が溜めてある(かめ)が置いてあって、そこのお湯を自分の身体にかけて入るのがマナー。

 浴室の中は、大きな木で出来た湯船。 源泉かどうかはわからないが、お湯画像絶えず湯船に供給され続けられている。

 壁際は身体を洗う場所になっていて、4人分のスペースが取ってある。それぞれのスペースに鏡やシャワー、蛇口。シャンプーやボディソープ等のボトルが設置されていた。


 湯船に入る前に身体を洗ってから入るらしい。


 髪の洗い方、身体の洗い方を聞きながら、シアに身体を洗われていく。


 途中、華蓮や愛莉栖等女性陣が入って来て、長湯をしてしまい、のぼせて気を失うというハプニングが起こったが、「汗を流す」事はできた。


 お風呂から上がり、着替え終わって、シアに髪を乾かしてもらう。 

 シアが、どこからか取り出したヘアゴムで、後ろに一本に纏めてくれた。ポニーテールというらしいけど、首筋から少し髪が離れるから風が通って気持ちいい。


 脱衣所から上がると、ゴウキが待っていて、どうやら、お風呂に入っている間にマリア達が帰ってきたらしく、晩御飯の準備ももうじき終わるから食堂に来てほしいと伝えに来てくれた。


 シアに手を惹かれながら、女性陣と共に食堂に向かうとマリアとローズがせっせと準備をしていた。


「なに、これ?」


 食堂に入った一葉の最初の言葉がこれだ。


 テーブルの上にはコンロとその上に鉄鍋。 周りには肉等の食材が置かれている。

 そして、壁際に正座をさせられている、男性陣。 何故かシリウス始め、男性陣(正義と雄一。イオリは除く)が正座をさせられていたのだ。


 

 聞くところによると、訓練内容に問題があったらしい。


 

「そろそろいいですかね、ローズ」


「そうですね。 そろそろよろしいかと」


 ローズはテーブルに置かれたお肉を見てゴーサインを出す。


「えー。ごほん! 皆さん! そんなところで、立ってないで席についていいですよ?」


「え、でも…」


 愛莉栖は、壁際にいるシリウス達が、気になっているらしい。


「大丈夫ですよ。 そこの方たちは気にしないでください」


「いやいやいや! 気になるでしょ!」


 春希がツッコミを入れる。



「そうですか? ……わかりました。 シリウス、ハイネン、ジーク、バッカス。 以後、気をつけなさい!」


『はい!』


「よろしい。 では。 カズハ君も目覚めて、日常生活に問題はないだろうといことで、改めて、皆様の歓迎の意を込めてささやかではございますが宴を開かせてもらいました。 食材はこの世界では日常的に食べられていますが、中でもグレードの高い物を使用していますので、ご堪能ください。  お飲み物もジュースからお酒まで揃えていますので、ご自由にお飲みください。 それでは! お肉を焼いて行きますので、焼けたらお手元の溶き卵に通してから食べてくださいね」


 マリアが一葉の前に置かれていたた鉄鍋に牛脂を滑らせ、油を塗っていくる。

 鉄鍋に油を塗り終わると、薄くスライスされた肉を広げて一枚載せた。 肉の横にざらめ糖を投入し、酒を少量たらし溶かしていく。 そこに少量の醤油を流し入れ、横で焼いていた肉の焼いている面に馴染むように滑らせる。

 砂糖と醤油が焦げる香ばしい匂いが立ち込め、食堂にいる全員の食欲をそそる。

 肉が焼けてきたことによって少し、浮いてきたらサッとひっくり返して、先程投入して鉄鍋内に残っているタレに馴染むように肉を滑らせた。 

 肉に火が入ったところで鉄鍋から取り出し、取皿に入れ、一葉の前に置く。


「どうぞ、カズハ君。 あ。その、卵を溶いてそこに浸けてから食べてくださいね」


 マリアがどうぞと置いてくれたが、どう食べればいいか戸惑った。


「とく?」


 卵を溶くって何? 


「貸して?」


 シアが卵を深めの器に割って、箸で黄身を破り、回す様に混ぜていく。


「あれ? そういえば、一葉君って箸使えるの?」


 愛莉栖の言葉で、ハッとなる一同だったが、温かい内に食べてもらいたから、食べさせた方が早いという事に落ち着き、そのまま、シアが食べさせた。


「はい、あ~ん」


「あむ」


 口にお肉を入れた瞬間、醤油と砂糖の甘じょっぱさにすぅと溶けていくお肉。酒も入れていたが、酒臭くはなかった。 肉は、ほとんど噛むことなく飲み込めてしまうくらいだが、噛めば、肉汁が溢れ、肉の旨味が口の中に広がった。 


「どう? 美味しい?」


 愛莉栖が一葉の顔を覗き込むように聞き、他の皆も、

一葉の言葉を待っていた。


「おいしい!」


 普段、あまり感情が表に出ない一葉だったが、今回ばかりは、自然と笑顔になる。


 それを聞いて、マリアとローズは安堵したみたいに脱力して、小さくガッツポーズをしていた。


 そこから、鉄鍋内に残った肉汁とタレに絡めるように豆腐や玉ねぎ、しらたきを入れ焼いていく。

 それぞれの食材に火が通ったら、それも、溶いた卵に浸して食べていく。


 まず、玉ねぎから。  カラメル色になるまで、火が通っ玉ねぎは、玉ねぎ本来の甘みにタレの甘じょっぱさ、そして香ばしさ、肉の旨味が染み込んでいた。 しらたきや豆腐も同様。食材本来の味に、タレと肉の旨味がいいアクセントとなっている。


 しらたきなどで肉汁やタレが絡められ、鉄鍋内がきれいになったところで、第二陣を焼いていく。肉は先程と同じ。 だけど、次から違った。

 椎茸、白菜、春菊、ネギ、玉ねぎ、豆腐、しらたきを並べていき、その上に肉を乗せる。 そして、全体にざらめ糖をまぶし、醤油をかけていく。 そこから、じっくりコトコト火を通していく。 途中、焦げ付かないように箸で、食材をずらしていく。 

 火が通って来ると、白菜や玉ねぎ、ネギ等の野菜から水分が出てきた。 そこから、肉をひっくり返して、さらに煮込んでいく。

 数分後、野菜はクタクタになるまで煮込まれ、肉にも然りと火が入った。

 それを皆で分け合って食べる。一葉は一口ずつ食べさせてもらって他は食べてもらった。


 一部を除き、満腹になるまですき焼きを堪能して、誰かが、ふと、疑問を口にする。


「そういえば、この肉ってなんの肉なんですか?」


 と。

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[良い点] 無性にすき焼きが食べたくなってきた…
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