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訓練開始

 教室の様な部屋から、連れ出され、エントランスから裏庭に出ると、ローズやシリウス。夜番をやっていて寝ていてもおかしくないイオリとジークが、訓練用の武具をどこからか持ち込んだテーブルに並べて、待っていた。 バッカスとハイネン、ヘレネーは地面に何かを刻み込んでいた。


 裏庭はそれほど大きくはなく、素振りはできるかもしれないけど、模擬戦となると手狭な大きさだった。

 

「待たせたわね」


「おや。結構早いですね、マリア」


 ローズがこちらに気がついた。


「ええ。皆さん、物覚えがいいので、早く終わりました。 皆さん、こちらへ」


 マリアがテーブルの前に行って、手招きをしていたので正義達はそこに歩いていく。


 テーブルには大小様々な模擬剣と槍、弓、()()()

が並べられていた。


「銃はないの?」


 沙月が銃が無いことに気が付き質問する。


「綾小路、お前ぇ。 どんだけ、銃が好きなんだ…」


「サツキさん? ちょっと、今回は銃は無しでお願いできませんか?」


「うーん。 分かりました!」


「すみません。 後で、射撃場も作っておきますね」


 そんな簡単に作れるものなのかわからないが、射撃場を作るらしい。


「では、皆さん好きなものを選んでください」


 雄一はロングソード。 正義はツヴァイヘンダーを選んだ。


 理恵と春希もロングソードを選び、沙月はショートソードを二振りを手に取る。

 華蓮と愛莉栖は槍を選んだ。 


 一葉は短剣を数本手に取る。


「皆さん、選びましたね? では、訓練をシリウス達とペアを組んでやってもらいましょうか」


「じゃあ。ユウイチはこっちに」


 シリウスが雄一を呼ぶ。


「はい!」


「マサヨシ! こっちだ!」


 バッカスが正義を呼んだ。


「あいよ」


「リエちゃんはこっちに来て!って、あれ!? 弓じゃない!?」


 ハイネンが理恵を呼び、弓を持ってないことに驚いた。


「ははは、実はあんまり、得意じゃないんですよ」


「だったら尚の事、そっちを持ってきてくれよ…」


「は~い!」


 ロングソードから弓に替えた理恵はハイネンに駆け寄っていく。


「じゃぁ、サツキ嬢ちゃんはこっちな〜」


 イオリが沙月に向かって手を降る。


「はい!」


「ハルキ。 こっちに来い」


「はい」


 ジークに呼ばれた春希は歩いていく。


「じゃあ、カレンとアリス。カズハ君はこっち」


「はいは~い!」


「はい! じゃ、行こっか」


 ヘレネーに呼ばれた愛莉栖は元気よく返事をして駆け寄り、華蓮は一葉の手を取り、一葉の歩幅に合わせて歩いていく。


「ヘレネー、カズハ君はこっちで見るわ」


 だが、途中でシアから待ったがかかった。


「シア様?」


「あなた一人で、3人も見きれないでしょう?」


「そうですね…。確かに、少しキツイかもしれません。 お願いしても?」


「ええ。 じゃあ、カズハ君はこっちに来ようか」


「うん」

 

「一葉君! 怪我しないようにね。 行ってらっしゃい!」


「うん!」


 華蓮に見送られ、シアの元に駆け寄る。


「全員、位置についたわね?」


 それぞれ、ペアで固まって、一定間隔を開けて、待っていた。


「では、ローズ!」


「はい!」


 魔法陣が庭全体を覆い、光が増していく。


「「転送!!」」


 雄一達の体が空間に捻れながら吸い込まれていき、裏庭には、マリアとローズ。シアと一葉だけ残った。


「ん? みんなは?」


「訓練するとこに行ってもらっただけですよ」


 一葉の疑問にマリアが答えてくれた。


「それじゃ、まぁ。 私達も始めましょうか。 【テールム・テュムラス】!」


 砂埃が舞い、目に入らない様に目を瞑り、手を翳す。

 砂埃が収まると、夕焼けが映える小高い丘に無数の剣や槍が突き刺された場所に立っていた。


 周りには、一葉とシア以外誰もいない。


「うまく、発動したわね。良かった。」 


「ここ、は…? うらにわにいたのに…」


「ここは、私が創った世界、私だけの世界よ。 それじゃぁ、訓練、始めよっか! とはいっても、模擬戦だけど」


「うん!」


「殺すつもりで来なさい」


「ころすつもりで?」


「そう。 安心して、ここでは死ぬことは絶対にないわ。怪我も出れば、無くなる。 だから、安心して、かかってきなさい!」


 シアが剣を抜き、殺気を放って来る。


「!! わかりました」


 両手に短剣を持って構えた。


「っふぅ!」


 地を蹴り一気にに詰め寄った一葉はシアの、手前で飛び上がり、体重を載せた切り下ろしを繰り出す。


 シアは短剣に剣を沿わせ、後ろに受け流す。


「無闇に飛び上がらない!」


 回し蹴りを一葉の顔目掛けて放つ。


「っぐ!」


「じゃないと、今みたいにカウンターを食らうわよ」


 蹴られた場所を擦り、シアを見る目が変わった。

 

 目から虹彩が消え、無表情に変わり、纏う空気もガラッと変わった。


「!? そう。 それで、いいわ」


 カズハは右手に持った短剣を投げた。


「武器を投げるのは牽制にもなるけど、それは武器を失うという事でもあるわ。 あまり、多様しないで…!?」


 剣で短剣を弾いて、カズハに斬りかかろうとすると、カズハが眼前から消えた。


 否、地面スレスレを疾走していたカズハは下から短剣を切り上げた。

 

 仰け反り避けた後、バク転をして距離を取るシア。


 それを追い打ちをかけるように着いていく。


 カズハは駆けながら短剣をもう一本腰から手に取って、シアに斬りかかる。


  シアはそれに受けて立ち、その尽くを受け流しながら、時には反撃をしていく。


 度重なる剣戟の末、先に崩れたのは一葉だった。 短剣が剣戟に耐えられず、ヒビが入ったのだ。

 すかさず、ヒビの入った短剣をシアの目に向かって投げつけ、最後の一本の短剣を取り出した。


 シアは顔を横に傾ける事で、やり過ごし、カズハを蹴り上げる。


「〜っ」


 蹴り上げられた一葉は空中で受け身を取って態勢を取り戻し、着地する。


(おかしい。どうして、こんなについてこられる? いままで、そんなひと、いなかったのに……)


 一葉はシアを観察する。

 

 シアが飛び出して、剣を振り下ろしてきた。


 短剣を剣の背に叩きつけ、弾いた。


 シアは横にズレた剣を気にしないで、切り下ろした勢いのまま体を捻って、剣を円を描くように振り上げ、再度、振り下ろす。


 まさか、剣を振った勢いのまま、追撃が来ると思っていなかった一葉は、一瞬、行動が止まったが、すぐに横に転がる事で避ける。

 シアは剣を構え、一葉の出方を伺っていた。


 一葉はシアが魔力を使って、身体能力を上げていることに気が付き、それが、自分にもできないか試した。


 だけど、一葉には保有魔力が無い。 そのため、魔力による身体強化ができないのだ。


「何をしようとしているのか、わからないけど…! 今は、こっちに、集中なさい!」


 

 シアが構えを崩さず突撃してきた。


「ッく」


 短剣をクロスし、シアが放ってきた横薙ぎを受け止めた。


 その、一撃で一葉は後方に弾き飛ばされ、短剣も砕け散ってしまった。


 折れた短剣をシアに投げつけ、地面に突き刺さっていた剣を掴み取り、鞘から引き抜く。


 刀身は錆びついていて、片刃で少し反りのあるもので、剣というよりは刀に近い形状だった。


 剣を握る手からエメラルドグリーンの結晶が突き出してきて剣の柄と手首の辺りまでを覆い尽くした。

 突如、剣から記憶が流れ混んできた。


『いいか、―――。この剣技は人を殺す剣でも、誰かを活かす剣でもねぇ。 神様に奉納するための剣舞だ。 それを忘れるな』


 顔にシワが刻まれた初老の男性が言い聞かせるように言う。


『何が、神だ! 神なんてものはいやしねぇじゃねぇか! もし、いるんなろよぉ…。 こいつらを…助けてくれよぉ…。なぁ!』


 少年の腕の中で幼い子どもが血を流して、周りには身動一つしない子供等が横たわっていた。少年の慟哭が空を震わす。


(なに、いまの)


 神への恨み、落胆。最愛の者を救えなかった、悲しみ。嘆き。 そして、怒り。


 様々な感情の波が一葉を襲う。


(そうだよね? かなしいよね? いままで、がんばってきたのに、うらぎられて…。つらいよね? まもりたいものをまもれなくて、くやしいよね、はらだたしいよね? ならさ? こんなところでくすぶってないで、ちからをかしてよ! ぼくが! ぼくたちが、にどとおなじあやまちをおかさないようなせかいにするから! だから、あなたのちしきをかして!)


「起きろ! オモイカネ!」


 手と柄を覆っていた結晶が弾け飛び、鈍色の錆びついた刀身が柄の方から徐々に、この剣、本来の輝きを取り戻していく。


《小僧、お前も数奇な人生を送ってんだな…。いいだろう。俺の力、知識を貸してやる。 世界を…俺等では救えなかった、この世界を…救ってくれ…!》


「うん!」


「まさか、私の心象風景の世界から、力を引き出すとはね…。 その刀。 オモイカネの物ね。 銘は【楓花(ふうか)】 かつての私の戦友。 彼が戦へと身を投じるキッカケとなった、彼が守れなかった妹の名前を付けられた妖刀よ」


【小僧。名前は?】


(一葉)

 

【そうか、カズハ。 今から、言うことを忘れるな。 流れに身を任せろ。 抗うな。 俺の剣技はハッキリ言って弱い! 最弱の剣技と言ってもいい! だがな、最弱には、最弱なりにやりようは、ある! いいか? 舞というのは魅せる物だ。 華々しく、繊細な物だ。 そして、舞という物は円を描く動きが多い。 円環、力を循環させる意味がある。 つまりだ。 奴さんの力を利用そのまま、返すのが俺の剣技だ。 まっ、直ぐにはできんだろうが、頑張れよ。 って。 あいつぁ、レティシアか!? 変わんねぇな! あん時のまんまじゃねぇか! ははは!】


(う、うるさい…! っていうか、レティシアってだれ!? シアおねえさんのこと?)

 

 刀を右下段に持ち、体を前に傾けて腰を沈め、地を蹴る。

 

 軽く、跳ねて体を反転させて、刀を体全体で振るう。


 カズハが横薙ぎをすることを読んでいたシアは剣を下から斬り上げた。


 刀をかち上げられ、カズハは刀に振り回され、のけ反った態勢になったが、生体電気と水流操作で無理矢理体を動かし、刀を握る手を持ち替えて、腕を後ろから回す様に振り、斬り上げる。


 シアはそれを見越して、既に剣を振り下ろしており、刀が振り上がる前に地面に叩きつけられた。


「これで、詰み、よ」


 一葉の握る刀は地面の土に刀身の半分以上が埋まり、引き抜くことができず四苦八苦しているところを剣を突きつけらた。


 一葉は、刀から手を放し、手の内に火球を作り出しシアにぶつける。


 横から手首を掴まれ、ひねり上げられた。火球はシアのお腹の手前で止まり、当たることはなかった。


 一葉の、手に込められた力が抜けたのを確認するとシアは、未だ錯乱状態のカズハを抱きしめ、落ち着かせようとする。


「落ち着いて! もう、いいのよ!」


「はぁ、はぁ、はぁ」


「もう、おしまい。 終わったのよ」


「はぁ、はぁ」


「そう、ゆっくりでいいから」


「はぁ…はぁ」


「いい子ね。 そのまま、ゆっくり息を吸って」


「はぁ…。 スゥー」


「そうそう。 はい、吐いて〜」


「ハァ~」


「落ち着いた?」


「はい。 ごめんなさい…」


「いいのよ。 もし、これが模擬戦じゃない命のやり取りだったなら…間違えではないわ。 正しくもないけど」


「どういうこと?」


「そうね。 私は、君に剣を突きつけたわ。 それは、降参、降伏を促すためよ。 殺すつもりなら、付きつけるのではなく、そのまま、首を落とすわ」


「うん」


「だから、あの時、君が取れる行動は、降参して生き残る道を選ぶか、悪足掻きで戦闘を続けて博打にでるかのどちらね。 君は後者を選んだ。 これは、生き残る道を狭める行為でもあるわ」


「うん?」


「よく、わかってない顔ね。 降参すれば、命を見逃してもらえるわ。 でも、戦い続ければ、殺されるかもしれないって事よ」


「こうふくしてもころされるよ?」


「そうね。 降伏しても、見せしめで殺されるかもしれないわ。 その時は…諦めるしかないわ。 まぁ、よっぽどの事がない限り、そんなことはないわ。 だって、それは、この世界では、戦争条約に違反することになるもの。 これを破ると、破った陣営、国が粛清対象になって、戦争に関わってない無辜の民であろうと消されるわ」


「え? せんそうに、かかわってないひとも? きびしすぎない?」


「そうでも無いのよ。 じゃあ、もし、国の教育で『降参した者、捕虜は殺してもいい』という教育を受けていたら? その国ではそれが、当たり前なことになる。 そうなったら、戦争に関わった者だけを粛清しても、その思想は生き残るわ。 だから、無辜の民であろうと粛清対象に入っているの」


「こわいせかいだね」


「そうね。 願わくば、戦争が起こらない事を祈るばかりね。 さて。 そろそろ、戻ろうか」


「? くんれんは、おしまい?」


「ええ、おしまいよ。 っしょっと」


「わわっ」


 太ももの付け根のに辺りを抱えられそのまま、持ち上げられる。

 カズハは突然、抱っこされたことに驚いて体が強張った。


「【デモリッション】!」

 

 ガラスが割れるような音が響き、空が割れた。

  

 空の破片が地上に降り注ぐ様を見ながら、次第に暗転していく。


 

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