それは、卑怯だろ!?
雄一達8人はマリアによって一つの部屋に案内された。
「訓練は室内でやるのか?」
案内された部屋の前で、正義がマリアに聞く。
「いえ、訓練を始める前に教えておかないといけないことがありますので。 どうぞ、こちらへ」
マリアが扉を開け、中に入る様に促す。
雄一から順に一人ずつ中に入っていく。
「んあ?」
「!?」
正義は驚き声を上げ、雄一は息を呑んだ。
なぜか。
それは、本来ならここにあるものでは無いからだ。
愛莉栖が部屋に入って、目を丸くする。
「……教室?」
そう。 部屋の壁に黒板が一枚付けられていて、それに向かうように、横長の机。一定間隔を開けて椅子が置かれていた。
雄一は身を翻し、脱兎のごとく部屋から出ようとした。
「どこ、行こうとしてるの?」
「ウゲッ!」
が、愛莉栖の次に入ってきた春希に肩を掴まれ、引き倒された。
「はは…。相変わらずの勉強嫌いだね」
その様子を見ていた愛莉栖は苦笑する。
華蓮達はそんな雄一を見てしょうがないなーと、苦笑する。
やがて、全員が部屋に入り、それぞれ席に着いていくが、一つ、問題があった。
椅子の高さが大人基準のため、まだ、幼い一葉には高く、椅子に座っても、黒板が見づらいのだ。
「ああ。これじゃあ、前見えないよね? どうする?私の膝の上に来る?」
華蓮が見かねてそう提案する。
「その必要はないわ」
シアが分厚いクッションを持って現れた。
「はい。 これでどう? 前、見える?」
椅子の上にクッションを置いて嵩増して一葉はその上に座ると先ほどよりも、視点が高くなり前がよく見えるようになった。
「はい。ありがとうございます」
「ありがとうございます。シア様」
マリアは、わざわざクッションを持ってきてくれたシアに感謝をする。
「いえ、いいのよ。 それと、カズハ君。 これを持っていなさい。いずれ、必要になるわ」
シアはフィーアから受け取った指輪にチェーンを通して、首から掛けれるようにしたものを渡す。
それを不思議そうに受け取った一葉は首に掛け、指輪を見つめる。
(なんだろう?初めて見るものなのにどこかで、見たことがあるきがする。 それに、なつかしい?)
「シア様、そ、それって……」
「マリア。 多分、あなたの想像通りのものよ」
「うわぁ。 なんだか、胃が痛くなってきました…」
「後で、胃薬も用意しておくわ」
「そういう事ではないのですが……ありがとうございます」
マリアは項垂れて、お腹を擦り、よし!と気合を入れる。
「じゃあ、皆さん、お勉強を始めましょう!」
その言葉に顔を歪める者と仕方がないか、と諦める者達で分かれた。
「そんなに、嫌そうな顔をしないでください、これも、これからの事に必要なんですから」
「そうはいうがな、姫さん。 俺たちは、訓練するんだろ?」
「ええ、そうですよ。 まぁ、不安が出るのは仕方がない事ですので、一つ、ご褒美を用意しております」
「褒美?」
雄一が褒美という言葉に反応して、期待の眼差しをマリアに向ける。
「はい。 今日の晩御飯がはすき焼きになります!」
「……すき焼き? え? こっちにもあるんだ」
理恵がこっちの世界にもすき焼きという料理があることに驚いた声を上げた。
「なんだ。 飯か…」
雄一が褒美に何を想像していたのかわからないが落胆していた。
「水原…。アンタ、ナニを想像してたの…」
雄一が落胆していたことに訝しみ、何を想像していたのか予測がついた春希は呆れた声を上げた。
「いや、ナニって、そモゴッ!」
「言わせねぇよ!?」
隣に座っていた正義が雄一の口を塞いだ。
その、やり取りを微笑ましげに見ながら机の上に6枚のコインをそれぞれの前に並べていく。
「ふふっ。 雄一様? この子に美味しい物を食べていただいきたいと、思いませんか?」
マリアが一葉の後ろから両肩に手を置いて、雄一達に訪ねた。
「うわぁ…」
「それは、ちょっと…」
「ないわぁ…」
マリアの言葉に顔が引きつる、春希、沙月、正義の3人だった。
華蓮と愛莉栖は苦笑して、困りげな表情をしていた。
「そ、それは卑怯だろ!? クソッ! やるしかないじゃないか!」
「ええ。 頑張ってくださいね♪」
「はは…。いや、流石だわ。 あの雄一をその気にさせるなんて、そこに」
「憧れないし、痺れないからっ!」
正義が雄一のやる気を引き出したマリアの手腕に称賛の言葉を贈ろうとするが、春希に突っ込まれていた。
「さて、そろそろ始めましょうか」
黒板を背にマリアが前に立って、勉強会を始めた。
「まず、皆さんの前に置いた物はこの世界のお金です。 えぇ、皆さんから見て右から、1G硬貨、鉄貨、銅貨、銀貨、金貨、白金貨です。 単位はGです。 一G硬貨はそのまま1Gで、鉄貨は10G。銅貨が100Gで、銀貨が1,000G。金貨が10,000Gです。 白金貨については一気に額が上がって1,000,000Gです。 まぁ、白金貨を使用しているのは、商人か貴族。高ランクの冒険者、名の売れた傭兵ぐらいなので、市場にはほとんど、出回らないです。 ちなみに、一般家庭での月に得られる収入は2,000Gから3,000Gくらいですかね。 ここまでで、何か質問はありますか?」
「はい!」
沙月が手を上げた。
「冒険者と傭兵はどれ位なんですか?」
「そうですね……。冒険者は高ランクとなると、多いときは一回の依頼で、金貨3枚、30,000Gが平均的な額ですね。 傭兵は契約を結んでいる相手にもよりますが、冒険者の倍以上でしょうね。 ですが、実力が伴っていなければ、ここまで破格な報酬にはならないですし、汚れ仕事も引き受けていますからね…。貴族に雇われやすいのでその分、報酬も多いですかね」
「そう、なんですね」
「はい。 すみません、本当はこういう話はしたくはありませんでしたが、いずれ、関わりを持つことになるかもしれませんので一応、頭に入れておいてください。 他はありませんか?」
マリアは申し訳無さそうに謝り、他に質問がないか尋ねた。
「無さそうですので進めますね。 次は暦についてですね。 一年の始まりの月が陽の月と言います。次いで、木の月、火の月、土の月、金の月、水の月と続いて、再び木の月から水の月、年の最後の月が陰の月となります。 日数は一律30日で、一年は360日です。 次に、時間ですが、こちらは、皆さんの世界と同じだそうで、一日、24時間ですね。 因みに今は、」
ここまでがマリアの説明で、暦に関しては少し、分かりづらい。
陽の月から始まって木の月、火の月、土の月、金の月、水の月、木の月、火の月、土の月、金の月、水の月、陰の月で一年が終わる、と。
時間は元の世界と一緒のようだからわかりやすい。
「と、皆さんに覚えていただけなければならないのは、とりあえず、こんなところですね。 何か、他に知りたいことはありますか?」
マリアはそこで、話を区切り、他に知りたいことを尋ねる。
「はい」
「はい、どうぞ。カレンさん」
「今聞いた話以外の事でも、いいですか?」
「いいですよ」
「じゃぁ…。 魔獣と魔物の違いってなんですか?」
「魔獣と魔物の違いはですね、食べられるかどうかです。 魔獣は元々普通の動物が魔力、魔素という魔力の素になるものに汚染された物で、その肉を食べれば、死に至ります。 魔物は魔力を持って生まれた動物達の事で、その肉は魔力に汚染されていないんです。 専門的な話になって来るので私も、詳しくはありませんが、魔物は生まれた時から魔力を保有しているため魔素に耐性があるそうです。そのため、汚染はされないらしいです。 対して、魔獣は元々魔力を保有していない、魔力に対する耐性を持っていない普通の動物が魔力を得てしまうので、魔素に汚染されているらしいです」
「へぇ~。魔物って食べれるんですね!」
「ええ。 普通のお肉よりも美味しいですよ」
「え? そうなんですか!? ちょっと、食べてみたいかも!」
「ふふっ。 そのうち、食卓に並ぶと思いますので、楽しみにしていてください。 他はございませんか?」
「はい! この世界の武器種は何があります?」
沙月が質問をぶつける。
「そうですね。 騎士たちは主に剣と盾。槍や弓ですかね。 魔法騎士達は、杖やメイスが多いですね。 冒険者達はどうでしょうか。 私が見てきた中では…騎士たちが使っているものに、銃。後は鎌やおかしな物で戦うものもいましたね。」
「銃? 銃もあるんですか!? 銃の種類は?」
沙月が銃があると聞いて色めき立つ。
「お、落ち着いてくださいサツキさん!」
「あ、ごめん。つい」
「い、いえ。 それで、銃の種類でしたね? 私が見たことがあるのは拳銃タイプと小銃タイプですね。 サツキさんが使用していた銃は一通りありますね」
「本当!? やった~!」
「おい、綾小路。 お前さん、剣聖だからな? そこんとこ、わかってる?」
「ん? 拳(銃)聖でしょ?」
「……。なんか違う字を当ててないか?」
「そう?」
「はぁ〜。まぁ、いいや。 それより、俺はおかしな物で戦う奴らのことが聞きたいな」
「えーと。皆さんの世界で、ビンで戦う人っていました?」
『ビン?』
「あの、マリアさん。 ビンって、あのビンですか? お酒とか入ってる」
理恵がおずおずと答えた。
「ええ、そうです、そうです」
「さすがに、そんな人はいないですよ! まぁ、酔っ払って、ビンで人を殴る人はいるかもしれませんが、素面でそれで戦う人はいないんじゃないかな?」
「そんな奴おんのか、この世界には…」
正義が絶句する。
「いるんですよ。ビンで魔物を殴り殺す、頭イカレた人が……」
「あのー。マリアさん?」
「あ、すみません! 他はないですか? 無さそうですね。 では、皆さん、お待ちかねの、訓練と行きましょうか!」




