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メモリア

 幼子――カズハ――を抱き抱え、この子の部屋に向かう。


 私は……シア。 薄々、気付いている人もいるとは思うけど、本当の名前では無いわ。 


 何故、偽名をって?


 それは、言えないわね。 


 まぁ、特に理由もないけど……。 それに、今を生きる生者じゃないんだもの。生前の名前を使うわけにはいけないでしょう?


 んん! 話しすぎたわ。忘れなさい。


 あら? もう、ついてしまったわね。


 軽いとはいえ……軽すぎる気もするけど、流石に片手で抱くのはできないわね。

 どうしましょう?扉が開けられないわ。


 左右を見回し、誰もいないこと、誰も見てないことを確認する。


「誰も見てないことだし、いいよね」


 そう呟き、右足を上げて、膝を曲げる。


「っふ!」


 ドバン!という音を立てながら、扉を蹴り開けた。


「後で、直さなきゃね…」

 

 扉は蝶番が外れ、地面に倒れていた。

 両手が塞がり、仕方がなかったとはいえ、扉を破壊したことに罪悪感を覚えた。


「まぁ、いっか。 ……誰も、起きてないわね。良かった」


 扉を蹴破った時の音で、寝ている人達が起きてこない事に安堵する。


「この子も、あの音で起きないなんてね。 やっぱり、精神的に疲れていたのかしら」

 

 カズハの靴を脱がせて、ベッドに、横たわらせる。

 

 離れようとすると、服が引っ張られる感じがした。


 どうやら、カズハが服を掴んでいたみたいだ。


「困ったわね…」


 そう呟くが、誰も聞いていないため、答える者は居なかった。


「しょうがないか」


 ベッドに腰がけ、カズハの頭を撫でる。


「それに、ちょうどいいかも。 君の記憶。見させてもらうね」


 ベッドを中心に魔法陣が展開される。


「【メモリア】!」


 カズハの部屋が光に包まれ、シアの意識は暗転する。


* * *


 白い壁、白い天井。 調度品も無く、テーブルすらない。ただ、ベッドが置いてあるだけの部屋に幼子がいた。 ()()ではなく()()()()()()


 壁の一部が横にスライドして、白衣の男が入って来た。


「83号。食事だ。 腕出せ」


 『83号』と呼ばれた幼子は、言われたとおりに腕を差し出す。

 男は白衣のポケットからガラスでできた筒に、中に入ったものを押し出す棒。棒の反対側には針が付いたもの。注射器を取り出した。


 それを、『83号』の腕に刺し、注射器の中に入ったモノを注入していく。


(!? これが、食……事?)


「どうだ? うまいか?」


 男はニヤニヤしながら、小馬鹿にするように、『83号』に聞いた。


「………。」

 

 だが、答えなかった。


「なぁ! 答えてみろよぉ!なぁ! なんか、言ってみたらどうだ、ぁあ!? ッチ。 答えねぇか」


 男は『83号』の髪を掴み上げ、怒鳴り散らかし、殴ったり、首を絞めたりと暴力を振るう。

 が、『83号』は顔色一つ変えず、黙っていた。


(非道い…。こんな、小さな子にまで手を上げて、しかも怒鳴り散らかして、暴力まで……。 それに、あの目…。あの男なんて、眼中にない。いえ、むしろ、どこも見ていない。 まるで、人形ね)


 場面が切り替わり、今度はベッドに身体をベルトで固定され、また、注射器で何かを打たれていた。


 先程とは違う、部屋なのだろう。隣の部屋への扉があり、扉は半開きになっていた。 そこから覗くのは積み重ねられた、全身血まみれの物言わなくなった死体の山だった。


「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ」


 体からナニカのエネルギーが噴出して、ベルトで固定されているにも拘らず、体が海老反りになって飛び跳ねそうになったり、体をよじろうとしていたり、体中のいたる所の皮膚が裂け、そこから血が噴きる。 とてもじゃないが見ていられない。



(魔力反応!? まさか…あの筒の中…魔力……いえ、魔石…? でも、液状の魔石なんて見たことがないわ!)


 暴れていた体が治まった頃には固定していたベルトは伸びて撓んでいて、目は充血して血がこぼれ落ち、口からは涎が垂れて、黒色だった髪が色が抜けていき、やがて、ブロンドへ変化していく。



 また、場面が切り替わり、今度は、先程までの部屋ではなく、大きな訓練場の様な場所。 そこには、年齢、性別問わず、50人位の人が集められていた。 

 

 壁から、屈折した金属の棒が生え、その先端には銃らしきものが付いていた。


 集められていた人達は、顔に恐怖の色を浮かべながら、争い出した。

 火を操るもの、水を操るもの。電気を操るもの、風を操るもの、色んな魔法のようなモノが入り交じり、一気に戦場とかした。


 その中でも、1人だけ異質な存在がいた。


 卓越した身体能力で近づき、体に触れたところから体分解(バラ)して絶命させていく。


 その男に、とうとう『83号』は標的にされるが、中に割って入る男性がいた。 

 だが、呆気なく殺されしまった。


 今度は、横合いから女性が割行って『83号』を助けるが、彼女も殺られてしまった。 どういう訳か、彼女は体を上下に分かれても、なお動き出した。

 『83号』の足を掴み、彼に何かを伝え、彼女は生命活動を停めた。

 

 『83号』は雄叫びを上げ、男と対峙する。


 そこで、また、場面が切り替わった。 


「勝手に記憶を覗き込む不埒者は貴様か?」


 見渡す限り白一色に染まった空間にカズハに似たヒトがいた。


 背格好はカズハと同じ、唯一違うのは髪色か。ブロンドではなく、白銀色の髪だった。


 予備動作もなく、魔力反応も感じさせず、背後に回られた。 

 腰の辺りを触れられそうになったシアは嫌な予感がして、体を反転させて、カズハ(?)の腕を躱す。


「ほう。 今のを躱すか。 死角からの奇襲だったはずなんだがな。 まぁ、いい」


 カズハ(?)が右手を掲げるとその後ろから火の槍、氷の棘。稲妻迸る剣が無数に現れ、その全てがシアを狙いをつけていた。



「待って!カズハ君! 別に君を害そうだなんて考えてないわ!」

(っく。ここで魔法は使えないし、剣も呼び出せない!)



 【メモリア】とは、術者の精神体を作り、他者の魂に干渉して、その人の精神世界に侵入し過去に経験した出来事を視るための魔法だ。

 そのため、魂に干渉するために魔力の大半を持っていかれているため、他の魔法を同時使用する余裕がない。


 シアは放たれたそれらを体捌きで躱すしかなく、説得しようとする。


「カズハ? ……ああ。今の、あやつの名か」


「……なるほどね。 あなたはあの子とは違う存在なのね」


「当たらずといえども遠からず、だな。 だが、わかったところで、なんとする?」


 第2射が放たれた。


 シアは一射目と同じく体捌きで躱し続けるが、避けた所に先んじて氷の棘が放たれていてそれに足を取られて態勢を崩した。

 それを見越して、火槍が放たれていた。


(っく。避けられない)


 身を襲う衝撃に備える。


 火槍が到達する前に朱い風が通り、火槍を霧散させた。


 朱い髪の少女がいた。両手には一振りずつ細身のショートソードを持っており、眼前のカズハ似の少年を警戒していた。


 目の前で起きたことに理解が追いつかない。


 この場にいられるのは、術者であるシアとカズハ、もしくはカズハの潜在意識のみのはずだ。

 にも拘らず、目の前にはカズハと同じ似姿の別人。 今しがた、シアを火槍から助けた朱い髪をした少女。


 少女は少年を警戒しながら後ろにいるシアに話しかける。


「間一髪だったね。 大丈夫?」


「は、い。 ありがとうございます。 え〜っと、あなたは?」

 

「私はフィーアよ」


「また、おぬしか。 毎度毎度、邪魔ばかりしおって! それに、駄弁ってる余裕があるのか?」


 少年は呆れたと言い、そんなに余裕があるのか?と


 確かにそうだ。


 フィーアはこちらの味方をしてくれるみたいだが、シアには反攻の手立てがない。完全なる足手まといだ。


 対して、少年は魔力が無尽蔵ともい合わんばかりに魔法を展開し続け、打ち放ってくる。


 フィーアはそれを己の持つ武器を犠牲にしては投げ捨て、()()()()()()()()()()()()()()()()魔法を打ち払っていく。


(この、魔法……。あの子が使っていたものと同じ…!?)


「ッチ! 相変わらず、鬱陶しい奴め」


 少年は法撃を続けながら、新たな魔法を行使しようと魔法を展開する。


「ッ!? な、に…?」


 少年の腹から刀が生えた。


「後ろががら空きだぞ?」


 少年の後ろに初老の男性が立ち、刀を少年に突き刺していた。


 法撃は止まり、成り行きを見守る。


 少年から刀が引き抜かれていき、抜けきった所で少年は倒れ込んだ。


(また、新しい人。 いったい、どうなっているの? ここは)


「お嬢さん。 今のうちに、元の場所に、帰りなさい。 ヤツはこんな程度では死な「確かに死にはせんが痛みはあるのだぞ? ゼン」」


 少年は何事もなかったかのように立ち上がり、突き刺されたであろう場所には、血の一滴、傷一つすら無かった。


「化け物め」


「褒め言葉と受け取って置こうか」


 ゼンは()()()()()()()()()()()()()()


「ふぅ。 ゼンが来たから漸く余裕ができたかな? はい、これ。あの子に渡して」


 フィーアはシアに金でできた指輪を渡した。


「!? これ…「あと!」」

 

「伝えて。 いつか、必要になるからって」

 

「……はい」


「うん。 じゃあ、行って! どんなことが起きようとも後ろを振り向かないで!」


 シアは頷き、帰るための門をイメージする。


 数十メートル先に一際おおきな門が現れた。

 門は扉が閉ざされており、次第に開いていく。


 そこに目掛け、走っていく。

(ッく。 遠いわね)


「逃がすか!」


「行かせん!」

「行かせない!」


「ええい! 邪魔だ! 退け!」


「誰が、退くか!」


 少年とゼン、フィーアの戦闘音が鳴り響くのを聞きながら、フィーアに言われた通りに、振り向かず、走り続けた。


 門を潜ると。


 ベッドに横たわっており、すぐ目の前にカズハの寝顔が見え、帰ってきたのだと、息をつく。


「フィーア。 ゼン。 それにアノ子。 この子はいったいナニモノなの? でも、一つだけ分かったわ、この子は、」


 ふと、自分が何かを握っている事に気がついた。


 手を開くと


「コレって……。 なんで、こんなものが……」

 

 鳳の紋様が描かれた金の指輪があった。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 今まで読んできた話の中で結構わかりやすくしっかりした文章で読んでいて変な引っかかりが殆どありませんでした! 頑張ってください! [一言] いつか情報整理のための登場人物紹介&ストーリー説明…
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