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ね、姉ちゃん!?

 少し、冷めてしまったパン粥を食べようと思ったが、陶器の食器と銀で出来たスプーンのため、ぶつかった音がする。その音で、起こしてしまうかもしれないから、ここで食べるのはやめた。寝てしまった、穏やかな寝顔をした一葉君の頭を撫でる。


「行こうか」


 独り言を呟いて、お盆に食器を載せ、それを持って部屋から出る。


 食器を厨房まで運ぶため足を進める。

 一葉君の部屋は二階の南側の角部屋。厨房は一階の東側にあるため、階段で下に降りないといけない。


 二階の通路から階段を降ろうとすると、下から誰かが上がってくる音がした。


「あ。 カレンさん。 カズハさまはいかがでしたか?」


 マリアさんが下の階から上がって来て、心配そうに聞いてくる。


「シアさんに診てもらって、養生すれば問題無いそうです。 今は、もう寝ちゃいましたけど。ただ……」


「どうされました? ……あまり、食べられていませんね。 それに、なにか関係が?」


 私はが持っている器に目を向け、聞いてくるが


「違っ、いえ。確かにあまり、というか、3口しか食べれなかったですけど、違うんです」


「?」

 

「一葉君。 記憶を失ってるみたいなんです」


「!? そんな……。 なんで!?」


「わかりません。 ただ、自分の名前も分からないみたいなんです。 全然違う、名前とも言えない……。 そう、なにか型式?型番?みたいな名前が自分の名前だって」


「なんですかそれ! そんな…人じゃないみたいじゃないですか!?」


「そうなんですよ! もう、何が何だか……。 あの子に一体何があったの!? って」


「シアさまは…なにか言っていませんでしたか?」


「シアさんは、記憶が失くなったのはアノ力が関係してるかも。みたいなことを」


「アレですか……。確かに、アノ力は異常でしたから…。 まぁ、今は考えても仕方ありませんね」


「そう、ですね」


「カレンさん。これからの事を考えましょう! 過去に何があったのかはわかりません。 これから。 これからです。 過去の辛いことがあっても、これから、ソレを忘れるくらいに楽しい時間を過ごしてもらいましょう! さぁ、そんな、暗い顔してないで行きましょう。 とりあえず、朝食を食べましょう! 食堂にもう、皆さんお揃いですよ」


 マリアさんはそう言って、下に降りていき、私は、その後ろをついて行く。

  

 食堂の扉を潜ると、入って右側に見えるテーブルに皆が座っていて朝食を食べていた。


 食堂は長方形の大テーブルが2つ並んでいて、それぞれ10人は座れるようになっている。

 厨房は突き当たりにあり、スイングドアが左端に付いていてそこから中に入ることができる。


「あ、華ちゃん!」


 沙月が私に気づき、こっちこっち。と手を振るのが見えた。


「おはよう! みんな!」


 そう言って、春希や正義達が居るところに向かう。


「おう」「おはよう」 「おはよう、華蓮」


 それぞれに挨拶を交わし、一葉君が食べきれなかったパン粥の入った器を置いて席につく。


「アイツ、どうだった?」


 セイギ君は一葉君の事を心配下に聞いてくる。 他の、皆もそれに耳を傾けている。


「それなんだけどね…。 どうやら、記憶を失っているみたいなんだ。 だから、私達の事も忘れているみたい」


 先程の一葉の様子とシアとの考察を皆に話し、パン粥を口にする。


「そんな…」


「マジかよ……」


 春ちゃんとセイギ君が絶句している。それに、理恵ちゃん、さっちゃん、あいちゃんも言葉を失っていた。


「それは…俺のせいなのかな…?」


 雄一君は食べる手が止まって、俯きながらそう呟いた。


「違っ」


 私はそれは違うと言おうとしたら、バンッと机を叩く大きい音がなって、思わず目をつむってしまった。

 目を開けると、セイギ君が雄一君の胸ぐらを掴んで、持ち上げていた。


「フザケルナよ! ユウイチィイイ!」


「おい、止めろ! 朝っぱらからなんの騒ぎだ!」


 そこに、筋骨隆々の大男がその体に似つかわしくないほど少ない量の朝食を載せた盆を持って現れた。


「ヴェインさん。 おはようございます」

 

 私は、挨拶をした。


「ああ。おはよう。 って、そうじゃなくてだな~。なんの騒ぎだ?」


「それなんですけど……」


 ヴェインさんに一葉君が目覚めたこと、そして、その身に起こっていること。それを聞いて自分のせいだと口にした水原君がセイギ君に締め上げられたと、説明をした。


「そんな…。いや、だが、それもさもありなんか…。 それで? そんな事で朝っぱらから騒いでいるのか? くだらないな」


「くだらない? くだらなくはないだろう! 俺が!俺に、もっと覚悟があれば!」


 セイギの腕を払い除けヴェインに食って掛かる水原。


「くだらないことだろう。 あのとき、あの子が介入してなければ、君だけじゃない。他の子達だって、怪我を負っていたはずだ。 この世界の現実ってヤツを教え込む為に」


「オイ、ヴェインのオッサン。 そんな話、聞いてないんだが?」


「あ。 ヤベッ。 話しちゃ不味いやつだったか? まぁいいや。 とにかく、そんな訳だ。 そもそもだ。 俺達が束になっても敵わないヤツがあのゴウキって男だ。 それに善戦していたんだぜ。もっと、誇れ。喜べ! んでもって、負担をかけて倒れたあの子に頭を下げればいい。感謝の言葉も忘れるなよ」


「何を騒いでいるのですか!! 厨房の中まで聞こえてきましたよ!」


 厨房から血に濡れた包丁を持ってローズさんが現れた。


「ヴェイン!」


 ローズがヴェインに吠える。


「はい!」


「説明」


「ウッス!」


 ヴェインさんは私からの話に加えて、起こったことを説明した。


「はぁ~。 皆様に思うところがあるのは分かります。 ですが、自分を責めないで下さい。 もし、責められるならわたしたちでしょう?」


「それは違います!」


「華蓮の言う通りです。 皆さんは私達を守ろうと手を尽くしてくれました! なのに責めるだなんて…」


 沙月が華蓮に共感する。


「しかしっ。いえ、私達が争ってもしょうがないですね。……それより、どうして騒ぎになっているのに呑気に朝食を食べているのですかね? ねぇ?マリア、イオリ」


「ははは…下手に私達が介入する事でもないでしょう? 私達がどうのこうの言ったところで、ユウイチ様達が納得していなければ意味がないでしょうから」


「確かにそうでしょうけど、考え方が脳筋すぎませんか? イオリは?」


「お嬢が言った通り、その子らが納得しないと意味がない。それに、そろそろ来るんじゃないか?」


「え? 何が?」

 イオリの言うことが理解できずにいたローズは、壊れるのじゃないかというくらい勢いよく、そして大きな音を立てて開いた扉に驚いた。


「ひ~と〜がぁ〜。夜勤でぇ~疲れてるってぇのにぃ〜。っるっさいですねぇええ! ざっけんなよ! ああん!」


 静まり返った食堂に入って来た人を見て言葉を失った。


 なぜなら、入って来たのは


「ね、姉ちゃん…!?」


「ヘレネー…!?」


 鬼の形相をした、小柄で藍白色の長髪であどけなさが残る女性―――ヘレネーさんだった。


 へ? ヴェインさん?今、なんて?


「んん~?」


 私達は耳を疑った。


「ねぇ、春ちゃん。今、ヴェインさんが『姉ちゃん』って言ったのが聞こえたんだけど…」


「奇遇ね、あいちゃん。私もそう聞こえたわ…」


「「「「「ええ!?」」」」」


「うっそだろ!」「ははは…、マジ?」


 片や筋骨隆々の禿頭の大男。片や、華奢で小柄な可愛らしい女性。

 それが、まさか姉弟だなんて、誰も思わない。


 それに……


(あれ!? 会ったときと口調が違う! それに、口悪っ!)

 多分、私達は共通してこう思っただろう。


「ね、姉ちゃん。 グッフォ!」


 いつの間にか、ヴェインさんの懐に入り、掌底を腹に食い込ませていた。


「いつも、言っているでしょう?ヴェイン。 ここでは、名前で呼びなさい、と」


 優しい声音だが、何故か圧を感じる。


 ヴェインさんは後ろによろめきながらもお盆をひっくり返すことはなかったが、膝を付いた。


「ヘ、ヘレネー。 落ち着いて、落ち着いて下さい」

 手振りを交えながら、落ち着かせようとする、ローズさん。


「ローズさん」


「はい!!」


 ドスの効いた声に飛び上がりながら返事をするローズ。


「私は、眠いんです。疲れてるんです。 静かに、してもらえますね?」


「はっ! そのように、取り計らいます!」


 何故か、敬礼を取るローズ。 


 それを見届け、身を翻すヘレネーにヴェインは声をかけ、食事の載ったお盆を持って行かせた。


「では、お休みなさい」


 扉を閉める前に頭を下げて、食堂から出ていくヘレネーさんを私達は見送った。


「ほらな? 俺達が介入しんくても、怖ぁいネェちゃんが場を治めるんだよ。 アイツ、夜勤明けは何故かもの凄い耳が良くなるし……機嫌が悪いんだよなぁ」


 イオリさんの疲れた声が異様に食堂に響いた。

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