謎が深まる
目の前に木張りの天井が見え、僕はベッドに横たわっていた。
(ここは………?)
「ばしょが…かわった…?」
体を起こし部屋の中を見回す。 調度品やクローゼット、机。今いるベッドの横にはサイドテーブルも設置してある。 床にはお高そうな絨毯が敷いてあり、いかにもお金持ちが暮らしている風な部屋だった。
おかしい。
あそこに、こんな部屋はなかったはず。
白い壁。白い天井。白い床。天井の四隅には監視カメラが付いており、部屋に中をくまなく監視することができる。扉はスライド式に電子錠で閉められ、ドアノブは無く部屋の中から解錠はできない。そんな、まるで牢みたいな、軍事施設のような部屋。
(ベッドからでないほうがいいかな?)
「ん?」
ふと、扉に目がついた。 ドアノブがついている。
(どういうこと? それに、うでわもあしかせもない。 おもいだせることは……)
まず、名前。 これはない。ただ、識別番号はある。『Demigod Create Project Section11の83人目』から『DCP-S11 0083』もしくは、『83号』と。
年齢は、わからない。 物心ついた時には、そこにいたから。
あとは………。
ガチャッと音がして、そちらを見ると薄茶色の髪の女の人が入って来た。
「一葉君!」
僕の方を見て驚き、駆け寄って来る。
「良かった…。もう、目を覚まさないかと…。痛いところは!? 体に変なカンジしない?」
抱きしめられ、良かったと頭を撫でられる。
ちょっと、力が強い。 苦しいけど、甘んじてそれを受け入れる。
「でも、もう、あんな無茶はしないで…!」
両肩をガシっと捕まれ、目線を合わせ注意された。
なんの事かわからないけど、とりあえずコクっと頷いた。
(ヘタにていこうして、ころされたくないからね)
「お腹空いてない? 喉は乾いてないかな?」
空腹感は感じるけど、それはいつものこと。
首を傾げるとお腹の辺りからグゥと音がなった。
「ふふっ。ちょっと待ってて。 すぐに持ってくるから」
女の人はクスっと笑ったあと、急ぎ足でこの部屋を出ていった。
「あ。 いっちゃった。 だれだったんだろう?」
(それにしても……)
もう、一度この部屋を見渡す。
カーテンの隙間から光が漏れている事から、日当たり良好なのだろう。掃除も行き届いていて不快感を感じない。
「ほんと、ここどこ……?あたらしいじっけん?」
また、新たな実験台にされるのかと思うと辟易するが、それが生かされている理由だから、しょうがない。
足音がこちらへ、この部屋に近づいてくる。
(ん? ひとりじゃない?)
コン、コン、コン
ノックが聞こえたけど入ってくる気配がない。
「一葉君! 起きてるー? 入るよー」
そう、声が聞こえてきてさっきのお姉さんと、もう一人毛先だけ紫がかった白銀の髪のお姉さんが入って来た。
「あ。 良かった。起きてたね! ご飯、持ってきたよ!」
「?」
(ご飯? いつもみたいに注射じゃないんだね)
お姉さんからお盆を受け取った。
お盆の上にはドロドロの白い物が入った器と先端が丸く広がった、平たい金属の板が載っていた。
「まだ、起きたばっかりだし、胃が弱ってるだろうから、消化のいい物を作ってもらったんだ。でも、食べる前に少し、いいかな?」
「カレン。あとは、私が」
「はい。 お願いします、シアさん」
お姉さん――カレンお姉さんはもうひとりの、シアお姉さんと場所を変わった。
「ちょっと、失礼」
そう言って、ぼくの目の下、下瞼を引っ張る。
「う~ん。ちょっと、白いね、やっぱり。 軽い貧血…っと。 はい、口を開けて。」
言われた通りに口を開ける。
口の中を見られ、小さい木で舌を下に押された。
「歯肉に腫れ、無し。喉の腫れは少しあるのね。 はい、閉じていいよ」
口を閉じる。
「シアさん、どうですか?」
「うん。しばらく、養生すれば大丈夫だよ」
「そうですか。よかった〜」
「あ。君、もう、ご飯食べていいよ」
シアお姉さんにそう言われた。
「…………?」
どうやって、食べるの? この、金属は何? 液状だから、このまま、飲めばいいのかな?
(まぁ、いいか)
器に口を付け傾ける。
「ちょちょちょ。待って待って待って!」
カレンお姉さんから静止の声が届く。
「?」
なにか、だめだった?
「何してるの!?」
「え?」
「まだ、熱いからそのまま飲むと火傷しちゃうよ!」
「?」
言っている事がわからなくて、首を傾げる。
「…………。 ねぇ。 君、自分の名前は言える?」
「シアさん…?」
「? DCP-S110083 」
「はい?」 「え?」
シアと、華蓮が言葉を失う。
「月城 一葉という名前に聞き覚えは?」
シアお姉さんから聞かれる
「ない」
そう、答えた。
「じゃあ、11番目、というのは?」
「? ない。けど、そのままのいみじゃないの?」
「………」
「………シアさん。これって」
「ええ。 記憶喪失でしょうね」
「そんな……。 でも、なんで…」
カレンおねえさんが声を震わせていた。ローズ。
「あの力……。もしかして……」
シアは腕を組みながら、熟考し、なにかを閃いた。
お姉さんたちが、なにか困ったような、悩んでいるような雰囲気で、小声で話しているのが見えた。
まぁ、いいや
どうでも良くなり、器に口を付けようとすると
「だから、火傷しちゃうって、もう!」
慌てたカレンお姉さんに、器を取り上げられた。
「はぁ~~。考えても仕方ないかな……。 カレン。 多分、その子、常識とかそういうの、何も知らなそうだから、気をつけなさい」
「あ、はい」
「じゃあ、私は戻るわ」
シアお姉さんが、そう言葉を置いて、疲れた足取りでも部屋から出ていく。
「じゃあ、食べよっか」
カレンお姉さんが金属の板の先端が丸く広がったところ器の中の物に入れてすくい上げる。
(ああ、そうやって使うものなんだ)
カレンお姉さんはすくい上げた物に何回か息を吹きかけ、それをぼくの口の前に持って来る。
「?」
「はい、あ~ん」
「?」
「あれ? 食べないの? ほら、口を開けて」
口を開けるとそこに掬ったもの物を入れられる。
3口程食べて、お腹がいっぱいになってしまった。
そんなこともつゆ知らず次の一口が運ばれた。
(お腹いっぱいだけど、食べないとダメだよね?)
そう思いパクっとくわえ込み咀嚼するが飲み込むまでに少し、時間がかかってしまった。
「ん? もう、お腹いっぱい?」
コクっと頷いた。
「……。そうか~。 うん!食べすぎてもいけないしね。 じゃあ、ここで止めておこうか!」
ここで、ふと思った。
ご飯を食べるのにこの人の手を煩わせてしまった。食べさせてもらうなんて、後からどんな処罰をもらうのか、と。
「〜! ごめんなさい」
「なんで、謝るの〜。 食べすぎも、体に悪いんだよ! だから、気にしないで!」
「それもだけど、おねえさんにたべさせてもらちゃったから、それと、残しちゃったから。」
「それも気にしないでいいよ。 これの使い方がわからなかったんだよね?」
「はい。 でも、次からは使える。と、思います」
「ふふっ。 じゃあ、次からは一人でも食べれるね!」
「はい」
「でも、ダーメ。 しばらくは、介助するからね!」
「かいじょ?」
「そう。今みたいに、食べさせてあげる」
「ダメ! そんなことしたら、どんなバツが……」
与えられそうな、罰を思い浮かべて、恐怖が蘇り、頭を抱えて体を震わせた。
フワっと甘い匂いがして、なにか柔らかい物包み込まれ、頭をゆっくり撫でられた。
「大丈夫。 大丈夫だよ。 ここには、そんな罰を与える人なんていないよ。 だから、安心して。ね?」
「ほんとうに? ほんとうにバツはないの?」
「うん。 無いよ。 大丈夫。もし、そんな人がいたら、私が、やっつけてあげる」
「うん。 ゔん!」
部屋の中に鼻をすする音と、押し殺した声が響き、それがいずれか寝息に変わった。
「ふぅ。 一体この子に何があったんだろう。 あの、様子は尋常じゃなかった」
華蓮は寝入ってしまった一葉をベッドに横たわらせ、肩の辺りまで布団をかけ直す。
華蓮はただでさえ、謎の少年だった彼の謎が深まるばかりで、頭が痛くなった。




