うた?
広大なコロシアム内で戦っている少年少女達。
そして、それを壁際の一角に、閉じ込められるように張られた結界内で眺めることしかできない、マリア達。
そんな中、戦場と化したコロシアム中央部の状況が一人のまだ幼い少年が戦列に加わった事によって変わった。
黒鬼の剣を斬り飛ばし、返す刃で武器の持って無い方の腕を手首の辺りで斬り落とした。
黒鬼は切り落とされ剣身が短くなった剣を、手首から先が失くなった腕の肩に振り下ろし、切断した。そして、鬼の周りを飛んでいた腕を掴み取り、切り落としたところに押し付けると、繋ぎ目から蒸気が発生した。しばらくすると、繋ぎ目が無くなり、まるで怪我なんて無かったかのように、繋がっていた。 宙を飛んでいた腕が、切り落とされた腕の代わりとなったのだ。
もう、この時点で意味がわからない。
―――え? その、空を飛んでいた腕は自分の腕がダメになったときの為のモノですか!?
―――え? いいんですかあれ!
そう思い、マリアはシアと名乗る少女に目で訴えかける。
が…
「いや〜。あの子、頑張ったね~」
―――違う! そうじゃない!!
「お嬢。あの子達はなにしてるんだ?」 ガンッ
シリウスが、戦場を見て疑問になった事を聞いてきた。
その、質問の意味がわからず、私も戦場を見ると
「え?」 ドゴンッ!
カレンさん達、女性陣が円を作り、武器から手を離した。
「なに、してるんですかね」 バンッ!!
マリアは本当に何をしているのか検討もつかず戸惑っていた。
戦場から微かに声が聴こえて来た。
「歌?」 ガンッ!
伴奏はない。アカペラの重唱だ。
「そうみたいだね~。 ははは。面白い魔法だね。歌に魔法を乗せるなんてね」
シアが面白い、しかも綺麗な、歌声だ称賛する。
「歌に魔法ですか?」 ガッ!
(こんな魔法、聞いたことも無いわね。 カレンさん達の世界の特有の魔法かしら)
「うん………。ねぇ、さっきからずっとやってるけど、そろそろ辞めない? 怪我してるじゃない。 そんな事しても出さないし、出れないよ。 というより、拘束解くの速くないかしら? いや、そこまで強い拘束魔法じゃなかったけどさっ」
さっきから、会話の合間合間にに鳴り響いている音はマリアとシリウスが結界を破ろうと殴っている音で、シアは、無意味だとわかってるいるため、気に留めていなかったが、マリアもシリウスも加減を知らずに殴り続けて、遂には拳から血が滴り落ちていたため、無視できなくなった。
「まあ、そこは……。ほら! 気合で!!」
と、マリアは頓智なことを言い出し、シリウスも言葉にはしないが頷いて同意していた。
「気合でどうにかなるのは、あなた達異常者だけです。 一緒にしないでくださいっ!」
それを傍で聞いていたローズが声を荒げ、抗議する。
「ローズもやろうと思えばできるでしょう?」
「や れ ま せ ん! できるわけないでしょ! なんで出来ると思ったんですか!?」
マリアの決めつけの言葉に、ローズは悲鳴を上げつつ抗議する。
「ローズだし」「姉御だし」
マリアとシリウスはキョトンとしながらハモる。
「どういうことですかっ!?」
旧くからの付き合いからか、遠慮のない漫才を繰り広げている中、シアの後ろに忍び寄る影があった。
「は~い、そこ! やらせないわよ?」
のそのそと纏められた武器を盗もうと近づくイオリとジークに気付くシア。
「げっ! バレた!!」
シアに拘束魔法を強められ、それ以上動けなくなるイオリとジーク。
「チッ」
失敗を悟り、おとなしく拘束を強められたジークは、やるせなさから舌打ちが出る。
「逆になんで、ばれないと思ったの……」
はぁと溜め息をつくシアさん。
「それと、貴方も」 パチンッ
指を鳴らすと、魔法を使おうと魔力を練っていたヘレネーの魔力が霧散した。
「な!?」
拘束魔法を解こうとしていたところに、横槍が入り意図せず魔力が霧散し驚きの声を上げた。
「あなた達。いい加減、おとなしくしてなさい」
シアさんの声のないトーンが下り、纏う雰囲気がガラッと変わり肌を刺すような殺気を撒き散らしていた。
「ったく。とんだお転婆達ね。そんなに、あの子達が心配?知り合って間もないのでしょう?」
マリア達が萎縮しておとなしくなったところで、フッと元の温厚なシアに戻った。
シアは勇者達が召喚されてそんなに関わりがあるわけでもないのに、助けようと行動できるマリア達に驚きと、疑問が生まれ、それをぶつける。
「確かそうですね。ですが、なにかおかしいですか?」
マリアはシアの疑問に肯定しつつも疑問で返した。
「いいえ?ただ、貴方。お貴族様でしょ。珍しいなって」
貴族は。貴族という人種は、自分の家の利益になることしか考えない。懐に入るもののことにしか頭がない生き物だ。
だから、貴族にもかかわらず、他者の為に動けるマリア達は物珍しく映る。
「まぁ、元々平民として育ってきましたので…」
マリアは、苦笑を浮かべながら答え、それを聞いたシアはそれを察するように納得した。
「あ~。なるほど、訳ありってね。………!!」
空気が振動し、それに反応して何かを感じ取ったシアの顔から血の気が引いて青くなっていく。
「シアさん……?」
様子がおかしくなったシアにマリアは不安を煽られ、声を掛けるが、こちらに反応する事は無く独り言を呟きながら思い悩み、葛藤していた。
シアに勇者達を殺す意志は無い。 何故なら、この試練は勇者達を少し痛めつけ、甘ったれた考えでいると命を落とすことになるぞ、と示す為のものだからだ。 それ故に、少しずつ、現実を教えていこうとしているマリア達は勿論の事、この試練を与えたシアも介入するわけにはいかない。 でも、今戦場で起きようとしているのはその意志に反し、勇者達を死なせてしまうかもしれない。
「やばい。ヤバいっ!どうする?この娘達を開放する?でも、それはルール違反に。いや、でも、あの子達を死なす訳にも……」
シアはこの試練の裁定者役としてこの場にいる。 そのため、ルールを破る訳には行かず、しかし、勇者達を死なせるわけにもいかず、どうするべきかと考えあぐねる。
戦場は再び、混戦状態になっていた。
歌は鳴り止み、剣戟と破砕音が戦場を包み込んでいた。
――――――――――――――
薄暗い、円形のコロシアムの中央付近でおにいさんたちが刀を携え鬼と対峙する。
ぼくは、おねえさんたちに手を引かれ少しおにいさんたちから離れる。
「じゃあ、行きましょうか」
桜色の髪色のおねえさんの言葉に他のおねえさん達は頷いて、円を描くように立ち位置を変える。
ただ、気になる事が
「なんで、ぼくは拘束されてるの?」
藍色の髪のおねえさんに抱き止められるように、動きを封じられていた。
「だって、一葉君また無茶しそうだから抑えとこうかなって」
ぼくを抑えている藍色の髪のおねえさんがくれる。
そんなに無茶は…ってカズハってだれ?
「え? あれだけ無茶しておいて、自覚無しなの!?」
赤と青のメッシュが入った黒髪のおねえさんは無自覚な様子のぼくに驚いていた。
「みんな、準備はいい? いくよ!」
せーのっ 〜♪〜♫
うた?
なんで歌を………。
おねえさん達の歌を聞いていると視界にゆらゆらと綺麗な光が踊っているのが視えた。
もしかして、魔力?
おにいさんたちを見ると、その光を纏っている。動きも良くなっていてスピードも速くなり、パワーも強くなっていて鬼を圧倒していた。
対して、鬼は動きが鈍く感じた。少し動きにくそうだった。
もしかして、この歌で?
もしそうなら、どうして、さっきまで使わなかったの?
5人で歌わないと効果がない?
思うところはたくさんあるが、華蓮達にも考えがあるのだろうと納得する。
見た限りの効果は味方の能力強化。及び、敵の能力の弱体化。効果範囲はおそらく、歌が届く範囲までだろうと当たりをつける。
前線では、武僧が鬼の斬撃を手に持つ大刀で逸し、返す太刀で斬撃をお見舞いするが、薄く斬れるだけ。
「セイギ! 離れて!」
鎧武者格好の人が鬼に突貫する。 それを横目で確認した武僧は何をするのか察っする。
「おう!」
どうやら、武僧のおにいさんはせいぎって名前らしい。
鎧武者のおにいさんの声に反応して横に飛び去り場所を譲る。
せいぎおにいさんと入れ替わるように鎧武者のおにいさんが前に出て、鬼の目前で飛び上がり刀を持ってない左手で、左の腰に挿してある、脇差を引き抜く。
片側の角に逆手で抜いた刀を左から横薙ぎにする。振り抜いたところで刀をくるりと回し、逆手に持っていたものを順手に持ち替える。そこから今度は右から横薙ぎに振るい、角を切り飛ばした。
鬼は角が斬り落とされたことによってあばれまわっていた。
Guaaaaaあああ!
「ヤッベ! 退散!」
「水原、テッメ、バッキャロー! 逃げるぞ!」
おにいさんたちはそれを予想していてか知らず、かのかその場からすぐにぼく達の居るところにまで逃げてくる。そこで鬼が暴れまわるのが収まるのを待つ。
少し収まったところで、再び、攻勢に出た。
角を折られたせいか力が弱くなっているように見える。それに、電撃も出せなくなっているみたいだ。
セイギおにいさんと鬼が何度か打ち合いになり、ミズハラおにいさんはそれに踏み込めないでいた。下手に、飛び込んでもセイギおにいさんの邪魔になってしまうからだ。だから、セイギおにいさんが鬼の隙きを作った時を狙って、行動に移す。
セイギおにいさんが打ち合いの中、鬼が右手を振りかぶって、叩きつけようとした時にセイギおにいさんに当たりそうなギリギリのラインで大刀を振り上げ、鬼の右腕をかち上げた。そのチャンスをミズハラおにいさんが突いて、右腕を切り落とす事に成功した。
今度は、宙に浮く腕もない為、新しい腕を付けるなんて芸当はできない。
鬼は切り落とされた所を握り込み、止血をしようとしていた。 すると、鬼の体が闇色の光に包また。光が収まると長身痩躯の角が生えた男性が斬り落とされた右腕を抑え、跪いていた。
「どうした? 殺さないのか?」
こちらを睨みあげながら、そう、口にした。
「なに?」
セイギは言っている意味がわからず聞き返した。
「殺さないのかと聞いたんだ。 俺を殺すために戦っていたのではないのか? もう、反撃する力もない。 殺るなら、殺れ」
ミズハラおにいさんは歯を食いしばり、男に近づく。
「〜っ!」
刀を握る手に力を込めて振りかぶる。
だが、振り落とせなたかった。手が震え、振り上げた刀がカタカタ震えていた。
「水原。俺が殺る。 どけ」
振り上げた刀を降ろし、セイギおにいさんに場所を譲る。
「降伏してくれ。できれば、殺しはしたくない」
セイギおにいさんは男を見下ろし、降伏を促す。
「この期に及んで、降伏? ふっ。フハハ。ハハハハハ!」
フザケルナヨ
「グッ!」
男が立ち上がると同時に、セイギおにいさんを左腕で殴り飛ばす。
吹き飛んでいった正義は、地面を何度かバウンドをしてコロシアムの壁に激突し、体が壁にめり込んだ。
「セイギ! っこの!」
刀を振るうが横に避けられ、そして、片手で胸ぐらを捕まれ地面叩きつけられる、そして、右肩を踏み潰された。
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛」
「ふんっ。肩、潰された程度でやかましい奴だな」
鬼だった男は鬱陶しそうにミズハラおにいさんを蹴り飛ばした。
「セイギ……水原……」
今、目の前で起こった事に赤と青のメッシュのおねえさんが口を覆い唖然とする。
「春ちゃん!」
シルバーブロンドのおねえさんが唖然としていたおねえさんに注意を促す。
「え?」
みずはらおにいさんを蹴り飛ばしたあと、男はこちらに視線を向けて走り出した。
やばっ、こっち来た!
殺される、そう判断して藍色の髪のおねえさんの腕の中から抜け出して、ハルおねえさんに向かっていった男の間に割り込む。
「む。幼子か…。 幼子をいたぶるつもりはないのだが……。 だが、せめてもの救いだ。痛みも感じさせず殺してやる」
男の姿がブレ、気がつくとすぐ目の前に現れ、貫手を放たれた。
身長差があるため、左上から貫手が迫って来る。右に半歩、に躱して、右手で男の胸ぐらを掴んだ。そして、左手で男の右手首を掴み、男の体に潜り込むように、体を沈める。おんぶするように背負い込み、右手の肘を男の脇の下に入れて、左手を引いて投げた。
「!! グッ。 なんとっ!」
男は地面に叩きつけられたが直ぐに、起き上がった。
「フハハハハハハハ」
何が面白かったのか分からないが笑い出した。
「伏せて、カズハ君!」
後ろから声が聞こえ、それに従いしゃがみ込む。
頭の上をハルおねえさんが振った剣が通る。
ガン!と肉を斬る音とは違う音を立て、そちらを見ると腕で剣を受け止めていた。
男の色白だった腕が剣の触れているところだけ何故か黒く変色していた。
鬼だった時と同等かそれ以上の硬度の予感がする。
「はぁ。とれーす:そうぞう」
ズキリと頭に痛みが走るが構ってられない。
ショートソードが二振り現れ、それぞれの手で掴み取る。
ハルおねえさんが正面から剣を振るい。闇色の髪のおねえさんはハルおねえさんが男の腕を弾いたときに間髪入れずに攻撃を繰り出した。そんな乱戦の中で、黒髪のおねえさんが構えていた大型拳銃を間隙を縫って撃つ。クリーム色の髪をしたおねえさんと桜色の髪をしたおねえさんは火の槍や石礫、氷の棘等を宙に生み出して鬼に向かって放ち牽制をする。 がその尽くを、男は躱し、逸し、捌いていく。
男は魔法や弾切れで銃撃が止んだ少しの時間に闇色の髪のおねえさんが振るった剣を掴み止める。そして、後ろから斬りかかっていえさんを回し蹴りで蹴り飛ばした。掴んでいた剣を砕いて、剣を砕かれた事に驚いていて動きを止めていた闇色のおねえさんに貫手をしようと腕を引いた。
ぼくはこの短い時間に起こった事に割って入る事ができなかったけど、ようやく出来た隙に、手に持ったショートソードを投擲する。
男は、投げつけられた2つのショートソードを避け、ソレを投げたぼくに注意を向ける。 闇色のおねえさんは自分から視線が外れた隙にその場から飛び退る。
「!? ほう?」
ぼくは足にチカラを集中させて一足で詰め寄り、右手を男の腹に添える。腰を落とし、足首を捻り、腰を回す。その、一連の動作で全体重を右手に、集約させて、インパクトの瞬間に手首を右に回す。
「グッ」
男はその衝撃に苦悶の声を上げるが、直ぐに攻勢に転じてくる。
――チカラが足りない。もっと。もっと!モット!
男が一気に詰め寄ってきて足をしならせながら回し蹴りを放ってきた。 ソレを上に飛ぶ事で避けて、体を左に捻り、後ろ回し蹴りを放つ。
男は一葉が繰り出した蹴りを左手で掴み取り、地面に向かって叩きつけようとするが、銃弾が横合いから飛んできた事によって、掴む力が弱まめ後ろに飛び去ることで銃弾を避けた。
――みろ。見ろ!視ろ!
男は右腕で打撃を放ち、腕を引いて回し蹴りに繋げる。回る様にして足を入れ替え、飛び上がる。そこから踵落としを繰り出した。
ぼくは打撃を横に流し、回し蹴りをしゃがむ事で躱す。腕を頭の上でクロスさせて受け止め、ひたすらに耐え続ける。
――相手の動きを!流れを!
「クハハハ!」
「はぁあああ!」
男は片腕が無いため、隙きは生じやすいがソレをスピードと技術でカバーしていた。
片や、闇色の魔力を纏い、片や極光の光を撒き散らしながら激突する。
男の魔力が渦巻く貫手に対してこちらは手刀で応戦する。
やばい! 捌ききれない!
「やらせるかよ!クソッタレがぁあ!」
横から誰かに蹴り飛ばされ、男の貫手から逃れることができた。
地面を転がり、ぼくを蹴り飛ばした人を見て驚いた。
「なっ! おにいさん!?」
「良くやった! あとは任せな!」
と、言うが下手に出しゃばらないで欲しい。 被害が増えるだけだから。
「キサマジャハナシニナラン。スッコンデロ!」
「ひとをころすかくごもないのに、たたかわないで! じゃま!」
男とぼくの言葉が被った。
「んあ!? ガキが何いっちょ前なこと言ってやがる!テメェこそ引っ込んでろ!」
「ウルセェ! ジャマダ!」
セイギおにいさんに裏拳が刺さり男の後方に吹き飛んだ。それに目を向けることなくこちらに迫ってくる。
男の手に魔力が集約し、高密度な魔力で出来た刃を形作った。
それを、見よう見まねで再現して、極光の刃を両手に作る。
「ハァアアア!」
「うぁあああ!」
男の刃を迎え撃つが、見よう見まねで行ったモノが本家に適うはずがなかった。
鮮血が舞って、背から腕が伸びていた。
(うけながせなかった。 でも、いっしむくいた、かな?)
「やってくれたな、小僧。フハハハ! よもや、小僧がここまでやれるとは思わなかったぞ!ハッハッハー!」
「それは…どうも」
「だが、これで終いよ。 恨むなら、恨め。 お前には、その権利がある」
「うらまないよ。 だって、まだ、終わってない…から!」
そう、まだ終わってない。体を貫かせるように仕向けて男を逃さない様に腕を掴み、拘束する。
チカラを体に張り巡らせ、過剰に流し込む。
体に。腕に。脚に。顔に。極光のラインが奔り、皮膚が裂け、血が吹き出る。
「っ!? お前! ソレ……。 ッチ!離せっ!!」
「”ラストスターダ”」
「双方、それまで!」
ピタッ
男とぼくの間に白髪のおねえさんが割り込み喉元に闇色の刃を突きつけていた。




