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シリウス

 俺は孤児だった。


 戦争だとかモンスターパレードで親を亡くしたというわけではない。


 ただただ、棄てられただけ。


 家は、貴族ではないが、平民の中では裕福な部類だろう。


 なぜ、平民なのに裕福か。


 それは、血筋がいいからだろう。貴族ではないが貴族と同じくらいの発言力があった。


 勇者。


 俺の家はかつての勇者の血が流れている。らしい。



 ーこの、化け物が!


 ーこんなバケモノ、家に置いとくわけにはいかない!


 ー来るな…来るなぁぁ!バケモノが近づくなぁぁ!



 幼い頃から他人より魔力量が多く、身体能力も高かった。それ故に周りからは化け物呼ばわりされ忌避されていた。


 親も俺の力を持て余し、手に負えなくなる。


 ―――出てけ!化け物が!お前は俺らの子ではない!アイツが他所で作った忌み子だ!二度とこの家の敷居を跨ぐな!


 そう言われ、屋敷の外に投げ棄てられた。8歳の時だった。


 俺のような子を産んでしまったケジメとして、切り落とされた母の首と一緒に。


 ふざけるな。巫山戯るな!フザケルナ


 どうして、僕が。俺が!こんな目に合わないといけない!


 俺が!母さんが何をした!何もしてないだろ!?


 なんで、母さんが殺されないといけない!


 殺してやる。コロシテヤル!


「止めとけ」


 後から声がかけられる


「ああ!うるせえ!関係ないやつは黙ってろ!」


「やめなさい!」


 再び、静止がかかり、後ろを振り向く


「黙れぇええ!」


 拳を振りかざす。



 キン!



 喉元に冷たいモノが触れていた


「お前が誰かは知らん。だが、子どもが追出され、生首が捨てられてんだ。嫌でも目につく。お前。今、ナニをしようとした?その吹き荒れた魔力でナニをしようとした?」


「ウルセェェ!俺は!奴らを殺す。殺してやる!」


「ふん。無理だな。現に、この状況で何ができる?」


 喉元に触れていたモノの先端が少し刺さり、血が滲む。


「っはぁ。お前。来い。」


 剣を鞘に仕舞った中年くらいのオッサンが母の首を持っていた布でくるみ掴む。

 そして、俺はオッサンに肩に担がれて運ばれた。


 連れてこられたのは、庭付きのボロボロな平屋だった。


 そこには、一人の少女が木剣を振っていたがこちらに、気が付くと駆け寄ってくる。


「おかえり!ゼファー」


「ああ。今、帰った」


「それで?そこの、いかにも坊っちゃん風のは?」


「拾った」


  キッ!


「捨ててこい!んなもん!」


「いや、だが」


「だがもしかしもいらねーんだよ!ただでさえ、食うもんに困ってんのに更に、食い扶持増やしてどうする!」


「すまん。迷惑かける」


「っはぁ〜。そこの。来い」


「は?なんでお前の言うことを聞かないといけない。」


「ここではオレが家長だ。オレが一番強いからな」


「お前が?冗談だろ?俺の方が強いに決まってる」


「はっ!なら武器を取れ!叩きのめしてやる!」


「いらん!女相手に武器なんて使えるか!コレで十分だ」


 そう言って、拳を構える。


「舐めたこと言ってんじゃねぇ!」


「お前らな〜」


「「関係ないやつは黙ってろ!」」


「っはぁ〜。もう。好きにしろ…」


「オラァ」


 少女が地を蹴り木剣を上段に構えて突っ込んでくる。


(袈裟斬り!)


 俺も、踏み込み少女の懐に飛び込み、拳を振り上げる。


「ゴァ!」

(なに…が)

 

 少女は膝を前に付き出して静止していた。


 どううやら、木剣を振り下ろすふりをして、膝うちをしたらしい。


(クソが!女のくせして、足癖悪すぎだろ!)


 俺は腹に鈍痛を感じながら、立ち上がる。


 ドスッ


      ドスッ

 ドスッ         ドスッ


「はぁ。はぁ」



「まだ、立つか。いい加減諦めろ」


「…………ふは。はははは」


「気でも触れたか?」


「お前。強いな!俺が、見てきた奴よりスゲー強え。なぁ。名前、なんていうんだ?」


「そうか。オレは、…………マリアだ」


「は?……………っく。はははは。お…おま、くはははは」


「だぁあああ。笑うんじゃねぇ!」


「い、いや。いいんじゃないか?フハッ」


「だったら、笑いをこらえてんじゃねぇ。クソッ!気が失せた!」


「くくく。ははは。はぁ〜。確かにな。ああ」


「なんだ!?」


「さっきは、すまない。俺が悪かった」


「はぁ〜。もういい。ほら、行くぞ」


 そう言って、俺の手を取る




 そこから、俺達はまるで、本当の姉弟のように暮らし、お互い切磋琢磨しあい成長していった。


 だが、そんな生活も長くは続かなかった。


 12差になったとき、マリアが皇城に連れて行かれた。


「クソッ。クソッ!」


「荒れてんな~」


「どうして、アンタは落ち着いていられる!」


「まぁ、いずれこうなる気がしてたからな」


「!?どういう事だ!」


「そのまんまの意味だ。小僧」


「巫山戯るな!」


 ゼファーに胸ぐらを掴み上げる。


「っはぁ〜。お前ぇ、おかしいとは思わなかったのか?」


「何がだ!」


「はぁ。駄目だこりゃ」

 ゼファーは手を額にあて、天を仰ぐ。


「お前の力は勇者の血によるものだな?なら、お前より強いアイツにもソレが流れているとは思わんのか?そもそも、勇者の血を引くのはお前の血筋だけか?」


「な、にを。!?」


「気付いたか?アイツは王族の血筋だ」


「ありえない!なら、どうしてこんなとこにいる!」


「それは、察しがつくだろう?そういうことだ。それで?お前はどうするよ。このままでいいのか?」


「何が」


「アイツと居たいんだろう?なら、強くなれ」


「もう、十分強いだろ!」


「俺に一本も取れないのにか?はっ!俺なんかより強え奴はゴロゴロいる。なのに、俺なんかに一本も取れないお前が強い?ははは…。はぁ。」


 ゼファーは、溜め息をつきながら、懐からナニカを取り出し、こちらに、弾き飛ばす。


 弾き飛ばされたモノを受け取ると、不死鳥の装飾がされている金でできた指輪だった。


「ゼファー、アンタ……これ…」


 俺は絶句した。


 なぜなら、これは武術を嗜むものには英雄的存在の証だからだ。


 この世界には、五剣と呼ばれる存在がいる。


        『剣帝』 『天剣』 


     『絶剣』 『崩剣』 『剣聖』 

   

        



 この者たちは、この魔法のある世界においても、剣を握らせれば右に出る者はいないとされる。5人もいるんだ。矛盾しているかもしれない。だが、この方達は手を取り合うことはあっても、対立することはない。


 もし、この方達が対立することがあるのなら、止められる者はいない。ただの剣技で、己の身一つで魔法をいなし、凌ぎ、切り裂く。そんな、化け物達だから。彼らはそれを理解している、自分達が争えば、周りに甚大な被害出る。だから、取り決めをした。

 『五剣同士では闘わない事』

 『いずれ、訪れる脅威に対抗するため、後進を育てる事』    

 『勇者の血筋を護る事』

 この三カ条だ。

 

 

「一本、取れればいいなぁ」


 そういう言って俺の手から指輪を取り、また懐に仕舞う。


  

 十五歳になったとき、


「っハァああ!」


「ッシ!」


 カーン!


「ウッシャー!」


「ふぅ。やれやれ、一本取られちゃったか〜」


「どうですか!一本取りましたよ!」


「ああ。合格だ!ははは。随分ぎりぎりだけど。まぁ、これである程度の奴らにはなんとかなるだろ」


「ありがとうございました!」


 三年。その間に言葉使いや礼儀。教養を学びながら腕を磨いていった。

 アイツの。マリアの騎士になるために。


「これで、私も五剣入りですか!?」


「阿呆か。んなわけないだろ!五剣の入れ替えは決闘。どちらかが死ぬまでか敗北を認めたときだ。一本取っただけで、くれてやるほど、軽いものじゃない。欲しければ、俺を コ ロ セ」


 今までのゼファーとは違う。本気の殺気。


「い、いや。止めとく。まだ、あんたを殺せる程の力も、覚悟もない」


「賢明な判断だ」



 マリアが皇城に戻ってから毎年、騎士の修練場で剣技大会が行われている。

 これは、職に関係なく参加でき、飛び入りもいいらしい。


 「参った!」


 「いい、手合わせでした。次!」



 「私が」


 「いいでしょう」



「これは、剣技大会です。魔法の使用は禁止。それ以外は実戦を想定してはいますが、故意、過失は禁止です。危険と判断した場合、この試合は中断させてもらいます」

 

 審判から注意事項を聞く。


「両者、準備はよろしいか?」


「……………」       「……………」

  


「始め!」

 

 審判の開始の合図が発せられる。

 

 ロングソードを抜き、一気に踏み込む。

 左逆袈裟斬りを放つ。

 

「!?」

 

 マリアは目を見開いていたが、ロングソードで上に斬り上げられ逸らされる。


(はは。驚いたかマリア)


 キン! 

     カン!

 

 何度も何度も剣戟を重ねる。


 周りから「すげえ!姫様が圧されている」「おい!誰かあの仮面ヤロウを知ってるやつはいねーのか!」などの声が聞こえてくる。


 うるさい。ようやくマリアと再会できたんだ。黙っててくれ。


 幾度となく刃合わせ、斬り結んでいく。躱し、受け流し、逸らす。紙一重の攻防の中、鍔迫り合いに持っていかれた。

 

「くくっ」


「?」


「ああ、いや、すまない。楽しくてね」


「ふふっ。ええ、わかりますわ。ねぇ。一つ、お聞きしても?」


「どうぞ?」


「どうして、仮面をつけていらっしゃるのですか?」


「どうしてだと思います?」


「質問に質問で返さないでください!わかりました。答える気がないのですね」


「ははは。ご自分で確認なさってはどうですか?もっとも、そう簡単にやられはしませんが!」


「いいでしょう!その仮面剥がして見せましょう!」


 剣を握る手に力を込めて、マリアを押し飛ばす。


 チン!


 剣を鞘に収め、右側を前に出すように半身になり、柄に手を掛ける。


 対するマリアは剣を天に掲げ上段の構えを取る。


 静寂。



 ゴクッ。


       ガッ!                               ガッ!



 地を蹴り、一足で間を詰め、剣を抜刀する。


 一瞬の交差。



 お互い、剣を振り抜いた状態で背中合わせで残心する。



   カラン、カラン!



 仮面が切り裂かれ、地に落ちる。



「俺の勝ちだ。マリア」


 マリアの持つ剣が半ばから斜めにずり落ちた。


「やっぱり……。シリウスだったのですね」


「ああ。ようやく、ようやく追いついたぞ!」


「ふふっ。ははは。まったく!遅いですよ。待ちわびました!」


「ははは。それは、それは。大変失礼致しました」


 俺は、鞘に剣を収めて、両手を上げる。


「降参だ!」


「………は?」


「降参と申したのです。殿下」


「ここからがいいところでしょう?」


「たしかにそうですが……。これ以上は剣技大会の範疇に収まらなくなります。それは、お互い、望まぬことでしょう」


 マリアは斬り落とされ短くなった剣を鞘に収めた。


「わかりました。ありがとうございました」


「ありがとうございました」


 お互い礼をする。


 さて、帰るか。


「待ちなさい。シリウス」


「なんで御座いましょう?」


「アルト」


「は!」


 アルトと呼ばれた男。審判やってたやつがマリアの声に返事をし、こちらに、体を向ける。


「君。シリウスと言ったか。騎士にならないか?」


「私の剣は殺人剣です。民を護る騎士には向かないのでは?」


「騎士でも人を切るときはある。君ほどの実力者なら大歓迎だ!」


「………。」


 チラッとマリアを見る。


「シリウス?」


「お願いがあります」


「なんだ?」


「殿下直属の騎士に」


「………。いいだろう」


「ありがとうございます」


「詳細は追って出す」


「わかりました」


―――――――――――――――――――――

「シ…ウ……!」


 アレは俺が騎士になったときの


 護りたい。


「…き……い!…リウ…!」


 マリアを護る!


 そのために、騎士になった


「起きなさい!」



 キィイイイイン!


「お待たせしました。殿下」


 飛び起き、何もない空間から現れた大剣を手に持っているモノで弾き、防ぐ。



「随分と…お寝坊さんですね?シリウス」

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