脱走
西暦2035年、世界的に流行していた感染症が、特効薬が開発されたことによって、終息の目処がたったころ。
日本では、新たな問題に直面していた。
日本各地で、少年少女が突如、光に飲まれて消えていく現象が、起こっていた。
最初は、ただのウワサ話に過ぎなかったが、件数が増えたため現実味を帯びていいった。
決定的だったのは、SNSに上げられた一枚の写真だった。
上空に、幾何学模様のサ―クルが出現している様子が撮られていた。
その写真が撮られたであろう場所で、同じ時間帯で、「目の前にいた、学生が消えた」と警察の方に通報があった。
当然、搜査されるが、そこに学生がいたというだけで、他は何も残っていなかった。
SNS等のネット界隈では、異世界召喚じゃないかという声が多く載せられ盛り上がった。
特に、オカルト集団が騒ぎ立てていた。
もし、異世界があるのなら。神もいるはずだと。
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「走って! はやく!」
夜遅くに、甲高い声が響く。
10代くらいの少女がまだ幼い子供の手を引いて走っていた。
「あっちだ!」
「囲め!かこめ!」
「お前は、あっちから回り込め!」
大人たちの、声と走っている足音が聞こえてくる。
ここは、都市部より少し離れた住宅街で、治安のあまり良くない場所。その中でも、比較的静かな所に、一つの孤児院があった。
孤児院の名《月城の家》
彼女たちはそこから脱走したのだ。
ネオン管の光が、煌々と光り輝く歓楽街、その路地裏に逃げ込んだ。
路地裏は入り組んでいて、障害物も多い。身を隠すには、ちょうど良かった。
「止むを得ん。撃ち殺せ!」
「は!しかし……」
「アイツらを逃がせば、今までのことが、明るみに出るんだぞ!?そうなる前に、処理しなければならんのだ!」
「っ、わかりました」
懐から拳銃を取り出し、引き金を引く。
路地裏に銃声が鳴り響いた。
「キャッ。〜ッ。 こっち!」
そう言われ、手を引かれるまま、道をそれる。
「嘘でしょ!? 撃ってきた!」
行き止まり。
カツッ、カツッ
近づいてくる音が、聞こえる。
隠れるとこなどない。
あるのは、大きなゴミ入れとなにかのお店の裏口だろうか。
少女は
「ここに入っていて!」
といい、ゴミ入れの中に押し入れた。
少女は、裏口の扉から中に入ろうとしていた。
ガチャッガチャッ!
開かなかった。
「お遊びはここまでだ。嬢ちゃん。」
ス―ツを着た男は、銃口を向けながら話しかける。
「あら。さっきは問答無用で撃ってきたのに、今度は撃たないのね。」
ドアを庇いながら振り向きざまに、言い放つ。
「できれば、殺したくはないのでね」
「なら、見逃してほしいものだわ。」
少女は左手を背に隠し、要求をする
「それは、できない相談だ。」
男は肩を竦めながら、否定する。
「そう……なら 仕方ない……わね!」
隠してた左手には、いつの間にかナイフが握られていて、それを投げる。
「!?」
男は投げられた、ナイフを避け、少女に向けて発砲する。
身体を地面スレスレまで落とし込み、銃弾を避け男の方へ向かって走り出す。
両手にはナイフが握られていた。
「厄介だな!能力者というものは」
右から左へ。上から下へ。縦横無尽にきりつける。
男は銃を捨て、徒手空拳で迎え撃つ。
切りつけに刺突も混じえ攻勢にでていたが、刺突した際に突き出した腕を捕まれ地面、投げつけられる。
「ガッ」
投げられたときに、落としたナイフで腹に突き立てられた。
「はぁ。面倒くさい」
男は扉の方へ歩き出したが、左足が掴まれていて前へ出なかった。
「い……かせ………ない……!」
「まだ、動くのか………。放せよ!」
足を掴んでいた手を踏み砕く。
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛」
「うるせぇ」
顔を蹴りつけ、黙らせる。
再び、扉の方へ歩いていき、近づくと扉を開け放つ。
が、鍵がかかっていて開かない。
「はぁ。ホント面倒くせぇなぁ!」
扉を蹴り破った。
中に入っていいき、少年をさがす。
「オラッ。出てこい! 出てこないと、テメェのねぇちゃん殺すぞ!」
「ははは。物騒だね―。君。 ちょっと、オハナシ。聴かせてくれるかな~。もちろん、外でホトケさんになってた少女についても」
男は後ろから肩を組まれ、左肩を掴まれる。 そして、身動き取れない中、右下から喉元に銃を突きつけられる。
「なッ!? テメッ。どこから!?」
男は後ろから取り押さえられ、連行されていった。
「隊長〜! こっちに!生存者が!」
年若い男性の声が建物の外から聞こえてくる。
(君は、いきなさい)
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目が覚めると、白い天井が見えた。
消毒液の匂いが充満していることから病院なのだろう。
「あら?」
看護師が入ってきて、患者が目を覚ましていることに気がつく。
「ちょっと、待っててね。先生呼んでくるから」
そう言って、しばらくしたあと、看護師が白衣を着た年配の医者とパツパツのス―ツ姿の大柄の男性と、童顔なス―ツを着た女性が入ってきた。
簡単な診察を受けたのあと
「うん。問題ないね。 まぁ。もともと、外傷もなかったしね。気を失って、目を覚まさなかっただけだからね。 うん、もういいよ」
「先生、ありがとうございます。」
「いいよ、いいよ。これも仕事だからね。 じゃ、お大事に」
そう言って、医者と看護師は出ていった。
「さて 話を聴かせてほしいんだけど。いいかな?」
大柄な男性が目線を合わすように屈み、問いかけて来た。