勘弁してくれ……
スケルトンを倒しきった。
「ふぅ。さすがに、疲れますね…」
私は汗を拭い、一息つく。
何体倒したかわからない。でも、誰一人死なせずなんとか切り抜けられたことに安堵する。
「体力、落ちたんじゃないですか?お嬢」
シリウスが近くによってきて、そんな事を言ってくる。
「ええ、そうね。碌に身体も動かせなかったから、仕方がないわよ…」
「そいつぁ、仕方ないんじゃないですかね。一応、姫様やってたんですから」
カタナを鞘に納めて、イオリが近くに来る
「あら?イオリ?それでも、少しは動かないと身体に、悪いわ。なのに、ローズったら、「ダメです」の一点張り」
肩をすくめ、自分の体たらくぶりに嘆く。
すると、ヴェインもこちらにやってくる。
「ふむ。だが、マリアよ。お前の”身体を動かす”は以前、近衛騎士達を壊滅状態にしてしまったのだろう?」
そう。確かに私は第一皇女としての勤めをし始めた当初は、身体を動かすと言って、近衛騎士達と鍛錬をしていた。
だが、私は庶子。市井に紛れて生活をしていた。ハンター活動もしていたため、戦闘に関しては、そこそこの実力だろうと思っていた。
しかし。突然、騎士達に皇城に連れて行かれ、「君は私の子だ」と陛下――お父様――に言われ、第一皇女としてこの国を支えていくこととなった。
だから、正直騎士達の実力は知らなかった。弱いわけではないだろうけど、期待もしていなかった。多少なりとも、剣を打ち合えるとは思っていた。
だが、ふたを開けてみると、あまりにも、弱すぎた。こんなのが私達を、この国を守る騎士なのかとフツフツと怒りが湧いてくる。
だから、打ちのめした。あなた達騎士の実力が、いかに非力であるかをわからせるために。
「アレは、近衛が弱すぎるのが悪いわ」
「だからといって壊滅させんでも良かっただろ?まぁ、あれじゃあ、おってもおらんでも変わらんとは思うが」
近衛騎士達の体たらくぶりを知っているがやりすぎだと指摘をしてくるが、あまりにも騎士達が非力なため、歯切れが悪くなる。
「まぁまぁ。ヴェインも。もう終わったことなんだし、とやかく言ってもしょうがないだろぅ?それよりさー。このドロップ品集めんとなぁ」
イオリは過去のことは置いといて今できる事をしようと声をかけてくる。
「ええ。そうね」
(確かに、今はこの散らばったドロップ品を……って多くないかしら?)
「ウッヒョー!こんだけあれば、結構な額になるんじゃね?」
「たしかにな!だが、一度にこの量を持ってくとギルドも困るだろ」
「大丈夫じゃないかな?イオリ。ヴェイン。とりあえず、あっちの隅にかためておこう」
シリウスはこの部屋(?)の隅を指差し、二人に指示を出す。
「はいよ」「あいわかった!」
イオリ、ヴェインの二人は落ちているスケルトンのドロップ品を拾い集め、隅に片していく。
ドロップ品。
魔物を倒したときに稀に残る魔物の体の一部。
本来なら魔物は倒したときに、黒い霧となって消える。
スケルトンはその魔物の一種で落とす物は主にスケルトンが持っていた剣。盾。スケルトンの骨の一部。
今回落ちていたのは剣が数本。骨が辺り一面に散乱していた。
――――――――――――――――――
「なー。ヘレネー」
ドロップ品を集めながら近くにいるヘレネーに声をかける
「なんですか。ハイネン」
「ドロップ品。多くね?」
「……多いですね」
「嫌な予感がするんだけど……」
「奇遇ですね。私もです……」
「一応、周辺に敵がいないか警戒しておこうか」
「そうね。『エコー!』」
薄暗いこの部屋の何処にいるかわからないためか、全方位の探索のできる魔法を使った。
詳しい原理はわからないけど、魔力を全方位に薄く伸ばして、反応を見るらしい。
「………」
「どう?」
「っ!? マリア様!まだいます!上!」
「え?」
ヘレネーから声がかかり、マリアはヘレネーの方へ向く。
「お嬢っ!ぅおおおおお!」
「キャッ!」
シリウスがマリアの方に向かって走った。
突如、轟音と共にシリウスとマリアがいた場所が土煙に包まれた。
「マリアぁああ!」「ダンナぁああ!」
ヴェインとイオリが二人の名前を叫んだ。
だが、返事は返って来なかった。
土煙が晴れ、落ちてきたモノが姿を表す。
「ははは……。よりによって、オーガかよ!?」
人の背丈を有に越える、赤い皮膚のした鬼。
手にはオーガの背丈くらいの長さの大剣。
「ハイネン……」
「ああ。最悪だ!変異種!!」
オーガは緑色の皮膚で大きくても2メートルくらいの大きさだ。
だが、今、目の前にいるのは赤い皮膚。2メートルよりも、余裕で大きい。
「クソッ!ヘレネー!魔力はどれだけ持つ?」
「そこまで持たないわ! 強化魔法をかけ続けれても、持って……3分くらいかしら?」
「強化なしだと?」
「そうね……。大技、3回分くらい」
「ヴェイン!イオリ!今からは強化なしだ!自分の力だけで、切り抜けてくれ!ジーク、存分に暴れろ!」
ハイネンは前で、オーガと対峙している3人に指示する。
「わーってるよ!」「任せろ!」
二人はその声に返事をして、オーガに斬りかかる。
二方向からの同時攻撃を仕掛けるが、ヴェインはオーガの腕に払い飛ばされ、イオリは斬りつけられるが刃が通らない。
「クソがぁあああ!ヴェイン!大丈夫か!?」
飛ばされたヴェインの無事を確認するイオリ。
その、頭上に大剣が振り下ろされていた。
イオリは地を蹴り、横に転がる。
「こっちは大丈夫だ!」
ヴェインからの返事が届く。
「クソッ!」
ハイネンが矢を放つ。矢はまっすぐオーガの目に向かい飛んでいった。
だが、目に刺さることはなく、弾かれてしまう。
「はぁああ?目にも刺さらないってどういうことさ!!」
何処に放っても、傷をつけることができないため、憤り地団駄を踏む。
「物理がダメなら!『〈炎よ!渦巻きて、槍となせ!〉フレイムランス』」
ハイネンの攻撃も意味を成さないと判断するとともに、詠唱し、魔法を放つ。
ヘレネーの周りに炎が渦巻き、細長い棒状のモノが3本現れ、腕を振り下ろす。
周りにあった、炎の槍はオーガに向かって、突き進む。
グオァアアアア!
咆哮。
魔法が到達する前、オーガの咆哮が轟いた。
魔法は呆気なく霧散する。
「………え?魔法が……消され…た?」
「ッチ!ヴェイン!ジーク!あれ、やるぞ。」
「応よ!」「………」
「「『オーバーライド!』」」
ヴェインは黄色の光に。イオリは蒼色の光に包まれた。魔力の光。
己の魔力を無理矢理、体外に放出し、身体能力を向上させる。強化魔法とは違い、恩恵は少ない。むしろ、デメリットの方が大きい。
なぜなら、魔力が切れたときが最後。それが、戦闘中ならなおさら。魔力切れで戦闘不能に陥る。魔力で無理矢理、体を動かしているため負担が大きい。場合によっては骨が折れたり、砕けたりしてしまうためだ。
「俺が正面をやる。ヴェインはスキを見てぶちかませ!」
「わかった!そちらは任せたぞ!」
「ああ!」
イオリはオーガに特攻を仕掛ける。
オーガの薙ぎ払いをくぐり抜け、斬りつける。
先程とは違い、傷つけることができた
「チッ!これでも浅いか!」
横薙ぎの攻撃が迫ってきていたが、地面スレスレまでしゃがみ込み躱す。
「ゥオラ!」
オーガの背後に回っていたヴェインが背中に戦斧を叩きつける
「guaaaaa!」
「ふぅ。ようやくまともに入ったな」
背中を斬られたオーガは痛みに悶て暴れだす。
ドゴォオン!!
そのオーガの顔に飛来した炎の槍が炸裂する。
「GUAAAAAAAAAAA!」
「フン!」
朱い魔力光に包まれたジークがオーガの懐に飛び込み、剣を振るう。
横薙ぎ一閃。けれど、オーガに刻まれた傷は一つではなかった。横一文字に斜め十字。
「GU……」
「これで!」
いつの間にか高く飛び上がっていたイオリがオーガの頭にカタナを突きおろした。
オーガの力が抜け、倒れる前にカタナを引き抜き、飛び去って着地をする。
黒い霧のような、靄のようなものが倒れたオーガの周辺の地面から渦巻きながら這い出てくる。そして、オーガを包み込む。
「!! イオリ、ジーク!離れろ!」
「勘弁してくれ…」
ハイネンの声が、木霊する。




