マジかよ!
貴族街
領地を持たない貴族。領地を持ってはいるが、皇都勤務、あるいは皇城で勤務しているもの達が住まう区画。
その一画に古めかしい外壁に囲まれた邸があった。
そこは、かつて勇者達が寝泊まりしていた邸だった。
勇者達が元の世界に帰ったあと、そこは次代の勇者達に使っていただくため、維持管理がなされていた。
大きな庭園があり、中央には噴水があった。噴水の周りは石畳で囲われ、その周りに芝があり、薔薇やラベンダーなど多くの植物が植えてある花壇が設けられていた。少し離れた所には、東屋もみえる。
館自体は2階建ての横長の洋館で二階の中央部分に大きめのバルコニーがあった。そこから、庭園を見渡せるようになっているのだろう。
邸の門から入った所で馬車は停まり、ぼく達は外に降りた。
マリアさんからこの邸の案内をしてもらうためだ。
「大きいねー」
沙月おねえさんが庭園を見て声をあげる。
「お城の中の庭もすごかったけど、ここも綺麗だね〜」
愛莉栖おねえさんも見とれていた。
「ふふふ。気に入ってもらえたようで良かったです。長年、維持管理してきた者としては嬉しい限りです。」
「ここはマリアさんが管理していたのですか?」
「はい!そうですよ。庭師の方と相談しながら植えました!」
マリアさんが管理してきたと聞いて華蓮おねえさんがそれを不思議そうに尋ねていた。
(ちょっと前まで、おひめさまだったんだよね?そんなこともするの?)
疑問に思いながら、改めて敷地内を見渡した。奥に見える、館に目が留まる。それは館の屋根にはステンドグラスが塡められていた。見慣れたシンボル。ここに、あるはずのないシンボル。月をバックにした、お城。月は右側に見える三日月。お城は皇城のように尖塔がいくつかあるお城だった。
「ぇ?」
そ…………んな
「それではそろそろ中に入りましょうか」
そう言って、奥に見える館に向かって歩き出した。
「まってっ!」
「ん?どうした、カズハ?」
ぼくの声が聞こえた、セイギおにいさんが聞いてくる。
「それいじょう、いかないで!」
「?」
「おーい!ちょっと、待ってくれ!」
「はい?どうかなさいましたか?マサヨシさま」
「コイツがちょっと、待ってほしいって」
「カズハさま?」
「マリアおねえさん。あの、ステンドグラス。あのシンボルはずっとあるの?」
「ええ。ありますよ。いつからあるかは、わかりませんが、私がここの管理をするようになった頃にはありましたよ。」
「それまで、なにもおこらなかった?」
「?」
「ええ。なにも起こってはいませんが……」
「そう、ですか。ありがとうございます」
(もし、あのシンボルがあそこのものだとしたら、なにか、しかけがあるはず)
「?どういたしまして?」
「行きましょうか」
噴水を左側回り込むように進み館前に続く石畳の道を歩いていく。
―――シンニュウシャヲケンチ
―――シンニュウシャヲケンチ
―――シンニュウシャヨ、トマレ
―――タチサルナラバヨシ、コレイジョウススムナラハイジョスル!
「え?」
「オイオイオイ!なんだよこの声は!?」
「わかりません!今まで、こんなことはなかったのに、どうしてっ」
―――タチサラヌカ
―――ヨロシイ。ナラバ、ハイジョスル!
「マリア!」「お嬢!」
「はっ。騎士隊!戦闘準備! ローズ!勇者様達を守って!シリウスは」
突如、ステンドグラスが光を発し、ぼく達の周りの景色が変わった。
最初は暗くて何も見えなかったが、火が灯る音が周りから皆を囲うように聞こえる。 バッと、急に灯りが照らした。
ここは石壁に囲まれた、まるで、屋根付きで円形のコロシアムのような場所だった。 石壁には6ヶ所に松明が掛けてある。
だが、このコロシアムのような場所は人が、優に1万人は入りそうな広さで、高さは先程見た舘などスッポリ入ってもまだ、余裕があるくらいだ。
「全員!壁側に!勇者様達を守るように陣形を!」
『了解!』
マリアおねえさんの指示で、騎士達でぼく達を囲い。前方にシリウスさん。右方にローズさん。左方にマリアおねえさん。そんな、陣形になった。
部屋の中央に魔法陣が奔る。
魔法陣が完成すると、目で見えるほどの濃密な魔力が、稲妻のように奔った。
魔法陣から、武装した骸骨が出てくる。数は……数えることができないくらい多い。
「スケルトン!」
誰かが、叫んだ。
「お嬢!数が多い!俺達3人じゃ、守りきれない!」
刀を持った騎士が、マリアに状況を伝える。
「わかっているわ!ヴェイン!イオリ!あなた達は私達と眼前のスケルトン共を包囲、殲滅する!」
「応!」
「は?正気か!?ったく。ああ、もう!やってやらぁあ!」
ヴェインと呼ばれた、禿頭の騎士が戦斧を構え、マリアの指示に従い、スケルトンの集団の裏。左奥に回り込む。
イオリと呼ばれた騎士は、カタナを持った、壮年の騎士で、文句を言いながら、「クソッ」と投げやりになりながら、指示に従い、バッカスさんとは違う方向。右奥に回るこむ。
「ジークは漏れ出た敵を排除して!ハイネンは援護!ヘレネーは私達に補助魔法を!」
「承知!」
ジークと呼ばれた騎士は身の丈位の大剣を構え、包囲から漏れ出た敵を倒すため、早く動けるよう身構える。
「了解!」
ハイネンは弓を構え、ジークの援護を行う。
「わかりました!『〈彼の者らに我が力を与えん!〉フィジカルエンチャント!』」
ヘレネーは全員に身体強化の補助魔法を放つ。
補助魔法がかけられた事を確認してから
「攻撃開始!」
マリアの号令がかかる。
四方から囲いながら、スケルトン達を各個撃破していく。
マリア達の動きは速く、力もましているようだった。
女性の身で、いくら骨とはいえ武装しているものを剣で吹き飛ばすなんて、できるわけがない。
シリウスさんは……本当に人間ですか?
剣を振る素振りも見せずただ、スケルトン達の間をゆっくり中央部に向かって歩いていた。ただ、歩くだけで、スケルトン達は霧散していく。
「ゥオオラァア!」
ドグォオン!と地面が砕ける轟音が広い部屋内に鳴り響く。
音がした方を見ると、ヴェインさんが豪快に戦斧を振り回してはスケルトン諸共地面に叩きつけていた。
戦斧を地面に叩きつけ起きた衝撃でスケルトンを吹き飛ばす。
「ちょっ!ヴェン!こっちに飛ばしてくるじゃねぇええ!」
吹き飛んだスケルトンはイオリのところまで飛んでいた。
どうやら、イオリさんはヴェインさんの事をヴェンって読んでいるみたいだ。
「ハハハ!気にするなぁああ!」
「ふざけんじゃねぇぞ!テメェエエエ!」
ギャーギャー騒ぎながらもイオリはスケルトンを斬り伏せていく。
「あの二人は元気だなー」
のんきな事を言いながらも矢を放つハイネンさん
「………」
包囲からあぶれたスケルトンを黙々と斬り倒していくジーク。スケルトンの攻撃をいなし、弾き、確実に一体一体倒していく。
「〜っ」
ヘレネーさんはそんなみんなを強化し続けているせいか、疲労の色が顔に浮き出ていた。
スケルトンは数を減らしていき、やがて
「これで!終わりです!」
全てのスケルトンを倒しきった。
石壁に掛けられた松明の内の1つの火が消えた。
でも、そんな事を誰も気にもしなかった。




