出発
「まぁ、そんな事より、皆様。そろそろ、行きましょうか」
「いやいやいや!」
「今、なんかとんでもない事行ってませんでした!?」
理恵おねえさんがサラッと言われた言葉に待ったをかけた。
「え?いえ。王位継承権を放棄しただけですよ」
「そう問題のあることではありません。第一皇女ではありますが、庶子ですから。
むしろ、私が継承権を放棄したこと、喜んでいるのではないでしょうか?」
「私の事はいいので、行きましょうか。皆さんも、もう少し、肩の力を抜きたいでしょう?」
「そりゃあ、まぁ。城の中では……ねぇ?」
「ははは…。まぁ、ねぇ。硬っ苦しいもんね」
春希おねえさんと華蓮おねえさんが歯切れ悪く同意していた。
さすがに、お城中にいると考えると、個室で身内(?)しかいないとはいえ、肩の力なんて抜けるはずなかった。
姫様。じゃあ、もうないのか。これからなんて呼べばいいのかな?
「それでは、行きましょうか。ローズ。ば『手配済みです』」
「さすがね」
「皆さんこちらです」
姫様(?)とローズさんについていき城の中を歩いていく。
城の中は清掃が行き届いているのだろう。ゴミが落ちているなんてことはなかった。まぁ、落ちるほどのゴミがあるかは疑問だが。
「何故、下民が王城の中を歩いている!」
「ここは、貴様らのような下賎なものがいて良い場所ではない!」
突然後ろから怒鳴られた。
(だれ?)
後ろを振り返るとなんか派手な服を着た、頭頂部がバーコードになって、下っ腹が出ている脂ぎったおじさんがいた。
パッと見。カエルが人間に擬態しているようにしか見えない。
「(うわぁ)」
「(ないない)」
「(プッ)」
(はるきおねえさん、アリスおねえさん。いいたいことはわかるけど、こえにでてるよぅ)
(あと、セイギおにいさん!こらえて!ここで、わらってしまったらまずいきがする!)
華蓮おねえさんを見ると理恵おねえさんに後ろから抱きついていて、理恵おねえさんは華蓮おねえさんの手を握って、声をかけている。
(…ようにみえるけど、ちがうよね!?だって、めっちゃふるえてるもん!ぜったいわらいをこらえてるよね!?)
(さつきおねえさん!?かお!ひとにみせちゃいけないひょうじょうしてるよ!)
「騒々しいですね。ハゲン伯爵」
姫様の声が響き、場が静寂に包まれる。
(ハゲはくしゃく……)
クスクスクス……
みんな、こらえれなかった。
(だけど、こえをだしていないだけマシかなぁ)
「これはこれは。マリアベル皇女殿下」
ハゲン公爵は姫様に声をかけられると膝を折り礼をとる。
「殿下におかれましては、ご機嫌麗しゅうございます」
「挨拶はいいわ。なにゆえ、彼らに怒鳴り声を上げていた?何か無礼をはたらいたのか?もしそうならば、それは、私の監督不足だ」
姫様の声がいくらか低くなり、雰囲気がガラッと変わった。
ハゲン伯爵は、その姫様の醸し出す空気にあてられたのか、顔色を悪くしていた。
「い、いえ!」
「ならば、何故。声を荒げていた?」
「は。彼らは城内にいるにはみすぼらしく下賎なものに見えたものでしてな。この場に似つかわしくないと」
「黙れ!貴様は先程の謁見の場にいたな?何を聴いていた!勇者様と共に御学友の者も召喚されていると聴いていたはずだ!よもや、勇者様のご尊顔もわからぬわけではあるまい。にもかかわらず!何故、貴様ごときが彼らを叱責していた!彼らはこの世界の希望だぞ!恥を知れ!」
一喝。さっきまでの姫様からは想像もできないくらい冷たい、そして肌を刺す様な空気を出す。
それは…まるで何度も、死線をくぐり抜けてきた歴戦の猛者のようだった。
「それは…」
「はぁ…もう良い。行け!」
「(ギリッ!)はっ。失礼する!」
(うわぁ、めちゃくちゃ睨んでる)
「ふぅ。あ!?す、すみません!」
「お、おう」
元のこと雰囲気に戻り、我に返ったのか、謝って来るが、あまりの変わりように戸惑いを隠せない。
(こ、こわっ)
「え、え~と。い、行きましょうか」
姫様は僕たちが引いていることを察したのか、顔が、引きつっていた。
「そ、そうですね(セイギ!絶対に怒らせないでよ!)」
「あ、ああ。(わかっとるわ!夜桜。俺より水原に行言ってやれ!アイツの方がヤバイだろ。素で地雷を踏み抜くぞ!)」
春希おねえさんと、正義おにいさんが返事をして、僕たちはまた、歩き出した。二人はコソコソと何かを話していたけど、うまく聞き取れなかった。
「ねぇ、ひんぐっ!」
雄一おにいさんが姫様に何かを言いかけたけど、後ろからセイギおにいさんに口を塞がれて、春希おねえさんに横腹を殴られていた。
「はい?どうかしましたか?」
「いえいえ~。気にしないでください。ちょ~っと咽ただけみたいだから」
ニコッ
春希おねえさんはいい笑顔で何でもないと言う。
「そうですか?」
姫様は首を傾げ、不思議そうにしていた。
しばらく、歩くとようやく、厩舎についた。そこには
2頭立ての馬車が2輛用意されており、御者が待っていた。
「お待ちしておりました。マリアベル皇女殿下」
「ご苦労さま。よろしく頼むわね」
「御意に」
姫様が御者に労いの言葉をかけていると遠くの方から声が聞こえてきた。
「おおーい。姫様ぁあ!」
「シリウス!?」
「あなた。遠征は?って。せめて、身を清めて来なさいよ…」
「シリウス?」
「ゲェエ!姉御」
「姉御はやめてくださいと何度も、何度も、何度も言った筈ですよ!!」
「ははは……」
「すんませんでした!!!」
真っ赤に染まった騎士服を着た男性騎士がローズさんに怒られて肩を縮こまらせ、頭を何度も下げていた。
「ローズ。いいわ。シリウスも気にしないで」
「ありがとうございます!ところで、お出かけですか?」
「いえ。違いますよ。邸に戻るところです。ちょうどいいです。シリウス。一緒に来てもらいます」
「は!」
「ですが、まずは身を清めてからアルトに話を聞いてきなさい。」
「御意に」
「さ。行きましょうか」
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馬車は2輛。対して人数は女性7人。男性3人。計10人
比率的に性別で分けるのはむずかしい。だから、不測の事態に対応できるように姫様とローズさんが別々の馬車に乗ることになった。
僕たちは、姫様の方にぼく、愛莉栖おねえさん、華蓮おねえさん、水原おにいさん。ローズさんの方に、春希おねえさん、理恵おねえさん、沙月おねえさん、正義おにいさん。の内訳になった。
馬車の中は一応、6人乗りにみたい。前と後ろにベンチタイプのシートがあり、軽食を食べれるようにか、お茶を飲めるようにか、小さめのテーブルが中央部分に設置されていた。
前席に水原おにいさん、姫様が乗り、後部席にぼく、華蓮おねえさん、愛莉栖おねえさんが乗った。
姫様と愛莉栖おねえさんが扉側。そして、僕は華蓮おねえさんの膝の上に座っていた。……なんでだろう。
コンコン。
ノック音が聞こえ、姫様は扉に取り付けられている窓を開けた。
「お待たせ致しました。姫様。本日より、姫様。いえマリア・フォン・ザルヴァートル公爵様の私設兵団、団長の任を賜りました。以下5名。罷り越しました」
「ええ。よろしく頼むわ。シリウス。とりあえず、邸までの道中の護衛を任せるわ。その後のことは邸についてから、通達するわ」
「御意」
「ゴン爺出して」
御者の人に指示を出すと馬車が進み出す。
あれ?さっきのシリウスさん?窓から見たとき馬に乗ってなかったけど、どうやって、ついてくるの?いや、まさ…かね?
「そういえば、姫様?姫様のことはなんて、お呼びすればいいですか?もう姫様じゃないんですよね?」
さっきから気になっていた事を愛莉栖おねえさんが聞いていた
「そうですね。普通に名前呼びでいいですよ?」
「え?いいんですか?じゃあ、マリアさんって呼ばさせてもらいますね」
「あ。私もそう呼んでもいいですか?」
「俺も、そう呼ばさせてもらうよ」
「マリアおねえさん?」
「ふふ。ええ。これから、よろしくおねがいしますね♪」
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一方、もう片方の馬車では
「おお!意外と早いんだな!」
「だねー!うっひゃー」
「はは…。騒ぎすぎじゃない?二人とも」
正義と沙月が初めて馬車に乗ったためか、見ていて恥ずかしくなるくらいにはしゃいでいた。
それを見ていた春希が注意をするが、聞く耳を持たず周りの景色を見て騒ぎまくる。
「すみません。うるくて」
うるさすぎて、申し訳なく思った理恵はローズに謝る。
「いえいえ。構いませんよ」
微笑ましいものを見るかのように、はしゃぐ二人を見ていた。
「それにしても、本当にみなさんは落ち着いていますね。みなさんの世界では、こういう事は普通にあることなのですか?」
「ないですよっ。こんなことが日常的にあるわけないじゃないですか!」
そんな事あってたまるかと理恵は顔と手を振る。
「そう、ですよね」
少し、安堵した声音でローズが答えた。
「ははは…。まぁ、落ち着いているように見えるかもしれませんが、結構いっぱいいっぱいなんですよ?」
「そうそう!年下の子がいるのに、年上の私達が慌てふためく訳にはいかないじゃないですか!」
春希が苦笑しながら、自分たちもいっぱいいっぱいだといい、理恵がそれに同調する。
「それでも、ですよ。今、この場にあの子はいません。なのに、先程となんら変わらず、平然としておられる」
「私が言うのもおかしなことですが…。今、この場では無理しなくてもいいのではないですか?」
「無理。無理なぁ。くははは。」
「別に、無理はしてないさ。むしろ、ワクワクするな!こんな、面白いことになってんだ。楽しまないと損だろ」
「たしかに!それに、ちゃんと帰れるんだよね?なら、いいじゃん」
外の景色を見ていた正義と沙月はこれからのことが楽しみだと言った。帰れるなら、今の状況も楽しまないと損だと。
「みなさん。お強いのですね」
「はは…」
沙月は苦笑いで答える。
「それよりさ。騎士様達は大丈夫なの?走って馬車についてきているけど……」
「はぁあ?」「は?」
春希と理恵は外の様子が見えないので、騎士達が走って付いてきていることを知らなかった。
「いや、マジだって!マジで走ってんの」
「嘘でしょ!?」「いやいやいや」
「ああ。大丈夫ですよ。アイツら、馬と並走するのは日常茶飯事のことなので。皇都の住民も、『ああ、またか…』くらいにしか思ってないですよ。」
「「「「ええ……」」」」
ドン引きです。
―――――――――――――――――――――
2輛の馬車は皇城を出て皇都南東に位置する貴族街に向かっていた。
皇都は中央に皇城があり、北東にはハンターギルドや鍛冶屋などがある。北側は職人街、西側には才ある子供たちが通う学園があり、南側は市場や商会が並んでいる。
馬車は南側のエリアを通って、貴族街に抜けた。
貴族が近いせいだろうか、馬車が通っても人々が困らないように、通路が大きくとってあり、特に混乱を招くようなこともなかった。
貴族街と南エリアの境には、治安維持を担っている騎士達の詰め所があり、貴族街の入口には2名の騎士が立ち許可のないものが立ち入れないようになっていた。
馬車はいったん、騎士達の前で止まり御者が一枚の紙を騎士の一人に渡す。
もう一人の騎士はシリウスさん達と笑い合って話していた。
(あ。たたかれた)
話していた騎士は真面目に仕事をしていた方に頭を叩かれていた。
そして、それを見ていたシリウスさん達は指を指し、腹を抱えて、大爆笑していた。
ぞわっ
空気が冷える。
(なんか、さっきもあったよね…)
「はぁ」
「どうかしたんですか?マリアさん」
「い、いえ。なんでもありませんよ?カレンさん」
(シリウスは後で、説教ね)
「姫様。あ。いえ。ザルヴァートル公爵。お久しゅうございます。ご同乗されている方達にこちらの徽章をつけていただくよう、お願いいたします。」
「わかったわ」
真面目な方の騎士から徽章―衣服や帽子に付ける、身分を表すバッジ―をマリアさんに渡していた。
「後ろの馬車に乗っているものにも後で渡しておくわね」
「は!お願いいたします。では、お通りください」
「ありがとう」
騎士に通行の許可をもらったため、馬車が進み出す。
何度か道を曲がり、馬車が止まった。
「ついたみたいですね」
馬車を降りると、貴族様のお屋敷らしい光景が広がる。




