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ラライオス

「私は、貴方が嫌いです」


「……ストレート過ぎない?」


「ひっ!」ガクガク…


 これが、私とあの姉弟との最初の会話だ。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 私は、男爵家の三男として産まれた。 優秀な兄達がいた為、家督を継ぐことは、まず無いだろう。 そういう事もあって、親からは、「好きにしろ」と。 特に何かに縛られることも無く、伸び伸びと自由にさせてもらっていた。 その反面、こちらには、見向きもしない。 完全に放置状態。 そして、ある程度、年が上がると、成人するとともに、家名は名乗れなくなると聞き、この家から出て行ってもらうとも言われた。 


 父から宣告を受けてから、あまり身を入れていなかった勉学に励んだ。 家を出るということは、食い扶持を稼がないといけない。 そうなった時に真っ先に思い浮かんだのは、騎士団に入って、騎士となる道か、冒険者になるかの二択だった。 幸い、魔法の才に恵まれ、鍛錬も怠っていなかった。 剣は、得意ではないが、ある程度自分の身は守れるくらいだ。


 父には、無理を言って学園に通わせてもらった。 初等部から中等部まで、常に成績一位を維持していた。 魔法技能も、実技戦闘も負け知らず。 剣も不得意ながらも、上位陣の中には、必ず入っていた。


 でも、高等部に上がってからはそうも行かなかった。

 

 あの姉弟がいたから。  そう、リンとジンだ。


 孤児院出のくせに、メサイアベルテ学園に中途入学してきた。 教材なんてものは碌に買えなかっただろうに。

 しかも、驚いた事に首席合格をあの姉はかっ攫って行った。


 それだけじゃない。


 次席は私ではなく、弟の方と聞くじゃないか。 私は3席…。 入学試験の採点をした教官は頭がおかしくなったのか? 

 ありえないでしょう!?  平民ですよ! 中でも底辺にいる部類の人達ですよ!? それが何故、首席と次席に座っているんですか!!


 そう、最初は憤っていた。 教師に頼み込んで彼女らの入試試験の答案を見せてもらった。


 はは…はははっ! 彼女達は化け物ですかっ!? 制限時間50分で、1000問、解ききったのですか!? これが、笑わずに居られますか!!


 この時代、この学園の高等部入学、進学の学科試験は500問ある。 教師たちはもちろん、全部解ききる事は、求めていない。 そもそも、教師達ですら50分という短い時間で、全ての問題を解く事は、無理だと言っていた。 


 この衝撃は、私は、忘れないでしょう。 それは、その時代の採点をした教官達も同じだろう。


「カハッ!」


 何故……私は、地に膝を着いている…? 


 私を見下すのは誰だ…?



「………」


 キョロキョロと周りを見て、あたふたしている()()()()()()()。 次席様だ。


(手も足も出なかった…。 この私が……?)


 剣術では、遅れを取りましたが、魔法技能ではどうです!? 


「馬鹿な…!?」


 弟の方は魔法は苦手のようだ。 だが、今度は姉の方が立ち塞がった。


「上級魔法を無詠唱で放つ…だとぉ!?」


「あ、やば…。 やり過ぎた…。 加減したんだけどなぁ…」


 彼女はそう呟き、周りの教師含め全員(ジン以外)を絶句させた。


 的は壊され、大地は大きく抉られて、融解していた。 熱気が遠く離れていた私達の所にまで届く。


 いつの日か、彼女は『アースクェイカー』の異名で呼ばれ、教師、生徒問わず、警戒されていた。 


 人当たりは良いし、歳の割に小柄で、可愛らしい。 庇護欲をそそられる容姿をしていたため、多くの人に慕われてもいた。 


 成績優秀、容姿端麗、人当たりも良いとくれば、生徒会に抜擢されてもおかしく無い。 実際、誘われていましたし。


「という事で、リン生徒会に入りなさい」


 否、お誘いではなく、当時まだ、一教師だったシャイルに命令されていた。


「お断りします♪」


 にっこり笑って、拒否を示して、身体強化を自分の身にかけて、脱兎のごとく逃げ出した。

 

「異論は認めま……待ちなさいっ!」


 それから、リンを推したい教師陣とそれに反対する生徒達の抗争が巻起こった。 構図的には、教師陣vs生徒vsリンといった構図だ。 どういう訳か、反対する生徒達は、リンも攻撃対象に入っていた。 もちろん全員ではないし、味方するものもいたが。 


 教師は、なんとしてもリンに生徒会、ひいては生徒会長になって欲しい。 リンは、そんな面倒は勘弁。やりたい人がやれば良い。 強制は良くないという考えだ。


 抗争が起こっていると言っても、授業は普通にあるし、生徒も真面目に勉学励んでいた。 だが、授業が終われば別だ。魔法有りの抗争、もはや、学園内で戦争が起こっていた。怪我人は多く、養護教諭と、治療を専門にしている生徒達が奮闘していた。 後から聞いたことですけど、アレのお陰で治癒魔法の熟練度が鍛えられた、とのこと。

 

 そして、最終的には、学科、実技を総合的に評価して優秀な生徒を生徒会に入れるという話に落ち着いた。 なお、総合評価一位は強制。 二位以下で誘われた者は任意だ。


 渋々、生徒会長の責務を熟す。  


 結局、卒業するまで、一度も成績で勝つことは出来なかった。 あの、姉弟は、どうやら冒険者になるらしい。 奇遇なことに、私も冒険者になろうとしていた。

 もしかしたら、何処かでバッタリ会うかもしれませんねぇ。


 そして、月日が流れ、二年。 偶々、同じ依頼をあの姉弟と一緒に受けることになった。 


 依頼内容は、スタンピードの鎮圧。 


 規模にもよるが、本来なら高ランク冒険者のパーティが請け負う依頼だ。 それを、間に合わせのパーティで、なんて無茶にも程がある。


 まあ、私は、Bランクなんですけど! 


 冒険者のランクはA〜Fまであり、Bランクからは高ランク冒険者として、難度の高い依頼を斡旋される。 Aランクの上もあるが、冒険者ギルドとしてはAランクまでしか認定できず、ギルド長の判断の元、国に上奏して、認可試験を突破した上でないとなることはできない。 尚、Sランク認定を受けると、一代限りの爵位を与えられる。 そして、国の大事に至る


 そして、スタンピードの鎮圧は単独鎮圧だとAランク以上の実力者でないといけない。 

 パーティで対処するときは、Bランク以上の冒険者が一人でもパーティのメンバーに入っていれば依頼を受ける事は出来る。


 その為、リン達に自分のランクを提示をすると、気まずそうに目を逸らされた。


「え…? 私、Aランク…」


 おずおずと冒険者ランクを示すタグを見せてきた。


「は…? はぁあああああ!?」


 冒険者ギルドのギルド内にラライオスの声が響いた。


 突然の事で、併設されてる酒場で酒や食事等の口に含んでいた物を吹き出したりする人がいた。 


「失礼。 取り乱しました」


「うんうん、気にしないで。 こっちも、なんかごめんね?」


「謝らないで下さい。 惨めになってきます…。 では、リーダーは貴方で」


 そうして、スタンピードが起こったとされる、ライオネル領ドラグ平原へと向かった。


 ライオネル領。 ある、男爵家の領地だ。


 里帰りがこんな形になるとは思いませんでしたねぇ。


 ラライオス・()()()()()。 それが、私の名前です。 情けなく、お恥ずかしい限りですが、我が領地でスタンピードが起こってしまいました。 定期的に、適切に間引いていれば、よっぽどの事が無い限りは魔物が溢れる、なんてことは無いはずなんですが…


「……待って」


 リンが後ろから、ラライオスとジンを呼び止める。


「はい?」「…?」


「おかしく無い? 魔物一匹も出ないなんて」


 ドラグ平原に足を踏み入れ、しばらく探索しても、魔物一匹も出ない。


「たしかに…」


 言われて見ればそうだ。 まるで、この平原全ての魔物がいなくなったみたいだ。


 リンは学生の頃から前髪で右目を隠していた。 その前髪をかき揚げ、隠されていた瞳を曝け出した。


 赤眼に金色の瞳


 リンの小柄で可愛らしい容姿にはそぐわない、妖しげに光る瞳だった。


「貴方…それ…っ!?」


「あれ? 知らなかったっけ? 私、魔眼持ちだよ。 だからこそ、シャイル先生に学園に推薦されたんだよ? ジンは、魔力の多さから危険視されたからだね」


「なるほど…。それで? 貴方の魔眼はなにが?」

 

「魔素の流れを視れる」


「……それだけ?」


「そうだよ」


 リンは、しばらく、周りを見回す。


「あっちに魔素が、溜まってる」


 リンが指を指した方を見ると、平原にぽつんとある古代の遺跡である、巨石群があった。


「遺跡の方ですか…」


 遺跡と言っても、巨大なクレーターの周りに巨石がそびえ立っているというだけで、他はない。 巨石に何らかの文様が描かれていることから、おそらく、遺跡だろうということで遺跡認定されたものだ。


「なに…アレ…」


「わかりません。 ですが…」


「姉さん。 アレ、嫌な感じがする」


 クレーターの中央に、魔素の塊が渦巻いていた。 あまりの密度に本来は目に見えることの無い魔素が、可視化出来る位に、濃密で禍々しい。


 渦巻いた魔素は、胎動する。 


「何か…いる?」


 鼓動が空気を震わせる。 


 渦巻いていた魔素の塊がひび割れ、闇色の光が溢れ出る。 魔素の塊が全体に、ひび割れると、眩い閃光を放ち、闇色の光が小さく球体に圧縮される。 

 次の瞬間、閃光が大地を穿ち、天を貫く。 その衝撃は大地を砕き、巨石群を粉砕していく。 膨大な魔力が全周囲に吹き荒れたのだ。


 リンとラライオスは障壁を全面に張って、衝撃に備えた。


 魔力の暴風が晴れると、魔素の塊があった場所に大きな黒い塊があった。

 

「なんだ、あれは…」


「ドラゴン…?」


 塊だった物が、起き上がり、大きな翼を広げ、天へと咆哮する。


 

 そこからの、記憶はほとんど、残っていない。


 あるのは…右目から血を流したリンを全身血塗れのジンが抱いている姿だった。 そして、その後ろに、黒き竜が大きな顎を開き二人を喰らおうとしている所だった。


 目が覚めると、ギルドの緊急治療室のベッドの上だった。 横を見ると、リンがベッドに寝かされていて、ジンが、リンの手を握って祈っていた。


 リンは、黒き竜に魔眼と魔力回路を喰われ、魔力の大半を失ったらしい。 魔法は、もう使えないと医者から診断を受けたらしいです。 ジンも、怪我こそ酷くは無かったみたいですが、暴走しがちだった、火の魔力属性と、魔力を根こそぎ喰われたらしい。 魔力回路は傷ついて無い為、魔法は、今まで通り使えるみたいですが、属性が失くなってしまった為、身体強化くらいしか使えないらしい。 乾いた笑みを浮かべながらジンは、そう言っていました。


 私? 怪我が酷いだけで、二人のように魔力を喰われるということはありませんでしたよ。


 ただ、私は、それが納得行かないです。


 リンとジンは二人揃って黒き竜に魔力を喰われており、私だけ喰われてない。 つまり、黒き竜には、私の魔力は喰うに値しないと。 そう判断されたのだ。


 それに、私は、早々に黒き竜にやられて、二人に守ってもらってたらしいです。 それ故に二人には多大な迷惑をかけてしまった。

 あんな、弱々しい彼女を見て、私は自分が、情けなく見えてしまいました。 本当に不甲斐ない。 そして、怒りすら覚える。 もっと、自分に力が、あれば…と何度思った事か。 


 黒き竜は、二人の魔力を喰らうと何処かに飛び去ったらしい。 今も、何処かの空に飛んでいる事でだろう。


 見つけた時は、あの姉弟の喰われた力を返してもらいます。


 その為には、禁忌だろうとなんだろうと、手を出しましょう。 


 いつの日か心惹かれていた彼女の為なら、この命、惜しくも無い。 あの、あどけない笑顔を取り戻したい。 そして、今度こそ護り切るのです! 


 え? 弟? 何故、私が男まで守らないと行けないのです? 野郎は野郎で自分の身くらい守れるでしょ。 


 まぁ、彼女が悲しむので、手くらいは貸しますがね!

 

 

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