非常事態発生
一人の男子生徒がワームの口から伸びた触手に絡め取られ、今にも食われそうになっている。
目を瞑り、最後の瞬間を迎えようとしていたら、締め付けていた触手が緩み、襟首に何かが、引っかかった。
「おーい、大丈夫か〜?」
「え? お、お前は…!」
アクセルが男子生徒の襟首を掴み、着地と同時に地面に落とす。
「あだっ! おい!」
「下がれ。 後ろに仲間がいる。 そこで治療を受けてこい」
アクセルは、ロングソードで、ワームが伸ばしてきた触手を切り払いつつ後ろに庇っている男子生徒に言った。
「あ、ああ。 すまない!」
男子生徒は、感謝しつつ、後方へ小走りで去っていく。
「さぁて、クソワーム! てめぇを…斬る!!」
啖呵を切り、ロングソードを振り上げた。
――――――――――――――――――――
「《ヒール》!」
ベリーが怪我をした女子生徒の所へ向かって直ぐに治癒魔法を使う。 淡い光が女子生徒を包み、徐々に怪我が癒えていく。
「ふぅ…。 一葉君! 近くにまだ怪我人が居るかもしれない。いたら、大声出してでも私を呼んでくれる?」
「うん! あ、でも、ここに連れてこれそうだったら連れてくる?」
「ああ…、うん、出来そうだったらでいいよ」
「わかった〜。 じゃぁ、探してくるね」
タタタッと走って行き怪我人がいないか探索を開始した。
さっそく一人いた。 男子生徒で足を怪我してるみたいだ。
「大丈夫?」
「くッ…うぁ…、子供…?」
男子生徒は目を覚まし、誰かに抱えられていることに気づく。
「駄目…だ! 俺を…俺を置いて…逃げろ!!」
「え…?」
男子生徒が声を発するのと同時に、後ろから葉が擦れる音がした。
「後ろだ!」
男子生徒の警告で、後ろを振り向くと人を丸呑みできるであろう巨大な蛇が大きな口を広げ、飛びかかっていた。
(しまった! なんで、こんなデカい魔物をみおとしてたの!?)
「カズハ!」
誰かが呼ぶ声と銃声が一つ。 火線が大蛇の頭を通過して、直上の木を穿つ。
「ぁ…、リン…お…先生…?」
「大丈夫っ!? 怪我はしてない?」
「リン、囲まれています。 その子と負傷者を抱えて逃げて下さい」
「ラライオス!」
「分かっているでしょう? もう、授業どころじゃない。ここは、戦場と化しました。 早く、この森から脱出して、騎士団と冒険者ギルドに連絡をして下さい。 それまでの時間は、私が稼ぎます」
ラライオスは、一葉達に背を向けて、身を隠している魔物達に、威圧を放つ。
ラライオスの周りに、無数の火球が生まれ、そこから、レーザーのように、魔物のいるであろう所へ照射し、逃げ回る魔物を追尾する。
照射されている隙間をくぐり抜けてきたウルフの首を素手で掴み、地面に叩きつけて、頭を踏み潰す。
「はぇ…?」
目の前で起こった事が、理解出来なかった。
え? 今…素手で掴んで…踏み潰した…の? ラライオス先生も武闘派…!?
「ふぅぅぅ…。 見様見真似ですが、結構負荷がデカいですねぇ。ええ?」
ラライオスの体に赤いラインが無数に奔り、パチパチと電気を体中から放っていた。
「《魔纏装》…」
「さぁ! 早く! 今のうちです!」
「くっ! 絶対、生き残って…!」
リンは一葉が抱えている男子生徒を代わりに抱えて、一葉を背中に捕まらせる。
「カズハ、ちゃんと捕まってて。 振り落とされないで。 君は、ごめん。 少し、傷が痛むかもしれないけど、我慢して」
「うん」
「あ、ああ」
「《付与 速度上昇》!」
リンは、少し屈み、地を蹴ると、一気に加速して、その場からとてつもないスピードで離脱していく。
ラライオスはそれを見送った。
「行きましたか…。 リン…これで、ようやく借りが返せそうですね
…。 まぁ、もっとも。 あなたは、そんな事、気にしてなんかいないのでしょうけど…」
自嘲気味に笑い、視線を魔物に戻した。
手を横に振るうと、雷で出来た矢が現れ、魔物に向けて一斉に射出された。 一矢も漏らさず、全弾命中するが、如何せん数が、多い。 仲間の屍を越え、踏みつけ、こちらを伺う魔物達。
ウルフ…にしては少し小さいですね? 葉のような体毛…フォレストウルフですか。それに、フライングバード。 虫は嫌いなんですが…。
「くっくっくっ。 いいでしょう! この身、尽き果てるその時まで、抗い続けるとしましょう!」
フォレストウルフの群れ、上空には、フライングバードが飛び回る。
一斉にラライオスに襲いかかって、喰らいつく。
次の瞬間、黒き雷が一点集中でいくつも落ち、爆発をお越し辺り一面を吹き飛ばした。
――――――――――――――――――――
リンは、後ろを振り向く事はせず、今、守るべきものを守る為に、ひたすら走り続けた。
「…ぁ…っ! ラライオス…」
後方より、衝撃とも呼べるほどの突風が吹いて来た。
おそらく、ラライオスの放った魔法の衝撃がここまで届いたのだろう。
「リンお姉ちゃん…?」
「…ズっ! う、うんうん。 大丈夫よ。 ちょっと、ゴミが目に入っただけだから、気にしないで」
声が震えないように気にしながら、心配そうに声をかけてきたカズハに返事をする。
「…ラライオスのあの魔法。 あれはね、魔法を身に取り込んで絶大の力を得るの。 でも、身体にとてつもない負荷をかける。 一度の使用で命を落とす…なんてこともあるの」
「魔法を取り込む?」
「ええ。 レキの魔法、見たこと無い? あれはね、一部の人しか扱えない特殊な魔法の使い方なのよ。 それを、再現したのがラライオスが使った魔法。《魔纏装》 禁術の内の一つよ」
「そんな…ラライオス先生……」
男子生徒は、顔の色を失い、唇をワナワナ震わせていた。
リンは魔物達と遭遇しないように木の上を跳び回り移動をしていた。 カズハにベリーの事を聞き、そこに向かっている。 ベリーと合流して、動ける人達で脱出するためだ。
「カズハ、どっち?」
「うーん、と…あっち!」
方向を示して、そこに向かってもらうとベリーの他、7組のみんなが多数の魔物に囲まれていた。
「あれは…!? カズハ、私の左脇の所に銃があるから、トアのいる所の足元に撃ち込んで。 この上だと、二人を下ろせない」
木の上からだと、射線を遮るものはなく、狙い撃つには絶好の場所。 だけど、負傷者を抱えて、背中に掴まらせている一葉を下ろすことは出来ない。
「銃なら僕も持って来てるよ?」
「うんうん。 私の銃を使って。 特殊な魔法弾だから」
「そうなの? わかった」
「うん。 急いでね」
リンの右肩から顔を乗り出し、左脇の所を見ると、特にホルスターのようなものは見えなかった。
「リンお姉ちゃん、ホルスター無いよ?」
「ジャケットの内側」
「ん。 わかった」
一葉はリンのジャケットの胸元から手を差し入れ、左脇の方へ伸ばす。
「躊躇い無しかよ…」
男子生徒は、絶句していた。
ホルスターに手が届き、留め具を外すと、グリップを握り銃を引き抜いた。
リンの肩から前に乗り出して腕を伸ばす。
バァン!
引き金を引き、銃声を響かせ、硝煙を銃口から立ち上らせる。
銃弾は、リンが指示した通りにトアの足元に命中し、そこから、ドーム状の膜のような魔力障壁が、拡がっていった。
魔物達は膜に押される形で生徒達から強制的に離され、中には、押されてきた魔物に踏み潰されてしまう魔物もいた。
リンは、木からドームの中へ飛び降りた。
「押し出されて怯んだ魔物の首を取りなさい」
大きな声ではない。 それでも、戦っていた生徒たちには、たしかにその声は届いた。
「「「了解!!!」」」
戦える生徒達はドームの中から外へ攻撃を仕掛け、魔物を確実に一体一体、倒していった。
「ベリー。 この子もお願い。 それと、カズハは、銃、返して」
「! リンちゃん。 カズハ君も一緒だったんだね。 怪我人は、そこに寝かして下さい。 怪我は、足と…」
「ん」
ベリーは怪我人の容態を見て、治療を始める。
一葉から銃を受け取ったリンは、薬莢を抜き取り、新たな弾丸を装填する。
そして、湖の前まで行くと自分の立つ真下に向かって撃つ。
再びドーム状の光の膜が作り出され、肥大していく。 やがて、ドーム同士が繋がり、湖の一角を含む、広大な範囲が光の膜に覆われた。
「これで、しばらくは、魔物から身を守れる。 けど、攻撃を受けると障壁は弱っていくから、定期的に魔物を間引いて。 あと、手の空いてる物は食料の残量の確認」
更に、指示を出す。 一葉も戦闘に参加するため、ライフルのグリップを握ろうと、後ろに手を回すとリンに手を掴まれた。 リンは顔を横に振る。
「駄目。 今、カズハが戦闘に加わっても、他の子達の気が散るだけだから、大人しくしてて」
「……はい」
一葉は肩を落として、他にできることを考えて、行動に移した。
(さて…私の障壁でどれだけ持つことやら…)
「ねぇ、ちょっといい?」
リンは、備蓄をかき集めて、残りの数を確認している生徒らに今までの状況を聞いた。
生徒達は、顔を見合わせ、ポツリポツリと話し出す。
(殺された生徒がいない? 傷を負わせられて、連れてかれた…? どういう事?)
どうやら、魔物達は、不思議な行動を起こしているみたいだ。
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