中継地点での休憩
学園から出発して、皇都南西にある”深藍の森”に向う馬車の中で、一葉は馬車の窓から顔を出していた。
「うぇ~…」
「ありゃりゃ、大丈夫?」
馬車酔いでグロッキー状態の一葉の背をレキが撫でていた。
「馬車駄目だったっけ? 前は普通に乗ってたよね?」
リンが不思議そうにしていた。
「前のは、こんなに、揺れなかった…ウッ…。」
「ああ…、そういえば高級馬車か、舗装された道しか走って無いからか。 舗装されてない道だと、揺れがすごいもんね。 私達は当たり前の事だったから、伝え忘れてたね。 ごめん」
リンは、そういえばそうだったと、一葉に謝り仕方ないとため息をついてラナとベリーにお願いをした。
「ラナとベリー、ちょっと悪いんだけど、どちらか、場所を移動してもらっていい? 一葉はこっちに来て」
「あ、じゃあ私が…」
ベリーが場所の移動をして一人分の隙間を開けて、そこに一葉が入る。 そして、リンの膝の上に頭を乗せるようにして横になる。
「どう?」
「…うん。 ちょっと、楽になったかも」
「そう? なら、しばらくはそうしてると良いよ。 休憩で立ち寄る街まで距離があるから」
「うん」
馬車は相変わらず砂利や石を踏んだ衝撃をそのまま車体に与え続け、いつまでも続く揺れの中、道を進んでいった。
心配そうに見守れながら、いつの間にか一葉は寝息を立て始めた。
「あれ? 寝ちゃった?」
ベリーが一葉の様子が変わったことに気づいた。
「本当だ。 もうちょっとで着くから、寝かせてあげようか」
休憩所となる街では、すでに他のクラスの人達が、羽根を伸ばしていた。
「おやおや。 7組の皆さんはようやくご到着ですか?」
「ラライオス…」
赤髪で短髪の若い男性教師が嫌味を言いながら待機していた。
「ライオス先生、前の髪型より今の短髪の方がかっこいいよね」
馬車から降りつつ先に降りていたベリーに話しかけた。
「ねぇー! 私もそう思う! どうして、似合わないのに伸ばしてたんだろうね?」
「う、うるさいでね! あなた達、褒めるのか貶すのかどちらかにしなさい! それと! ”ライオス”ではなく、”ラライオス”です!」
ラライオスは、真っ赤になった顔で吠えた。
「ははは! 中々楽しそうな所で過ごせてるんだな、うちのは」
異国風の鎧に身を包んだアクセルらと同い年位の男が歩いてきた。 その後ろに意匠の違う異国風の鎧に身を包んだ男と、微笑ましそうにこちらを見ている黒を基調としたローブを身に纏った女性が5人。 その中に、困ったような笑顔を向ける人物がいた。
「あれ? あの人って、朝の…」
あとからやってきたウィリアム達が集まってきて、見覚えのある人物がいて驚いていた。
「あんたが、一葉の担任か? 一葉は…例のアレか?」
男は、一葉が女性に抱っこされて、ぐったりしているのを見て、まさかと女性に詰め寄った。
「ああ…、その、なんというかですね、馬車酔いで何回も吐いちゃってたので、疲れちゃったんですかね?」
一葉を抱く力を強め、詰め寄ってくる男から守るように身を引いた。 そして、助けを求めるように男の後ろにいるカレンを見ると、カタナを抜いて今にも斬りかかりそうになっている女性を必死に押し留めていた。
「…馬車酔い? こいつが? そんな繊細なカラダしてたか?」
「何気に酷いですね!? あ、いえ、失礼しました」
「いや、いいさ。 そいつが馬車酔いなんて寝耳に水だったからな。 こっちこそ、一葉が迷惑かけてすまない」
「い、いえいえ。 私は大丈夫ですので、頭を上げてください!
粗野な口調だが、一葉の為に頭を下げれる人。 そして、リンの予想通りならこの人が勇者様だ。 そんな人に頭を下げさせてしまい、あたふたする。 それと、後ろが気になってしょうがない。
「いや、だがなぁ」
「いいのです! 生徒に頼られる。子供に面倒をかけられるっていうのは大人冥利に尽きるってものでは? それに、私は面倒だなんて思ったこと無いですよ。 どちらかと言うと他の子達の方が、悩みのタネです」
「ひでぇ!」
「リンちゃんひどい…」
「黙りなさい! 何回言えば気が済むの? 教師をちゃん付けしない!」
「ははは」
「あ…。 申し訳ありません、勇者様。 お見苦しい所を」
「ああ、いやこちらこそすまんな。 一葉の周りは賑やかそう良かった。 恵まれた環境にいるようで安心したよ。 それにしても…随分とあなたに懐いているようだ」
「そう、なんですかね」
「ああ! じゃなきゃ、誰かに、抱かれて眠るなんてことはしないはずだ。 少なくとも、うちの連中でも、そうやって体を預けて眠るなんて事は、二人くらいか? まぁ、そんなもんだ。 俺にもまだ、壁がある感じだしな」
「そうなんですか!?」
「ああ、残念な事にな。 おっと、そういえば、先生達は今から休憩だったな。 話し込んでしまって申し訳ない。 ゆっくり、休憩してくれ。 出発時間まではまだあるからな」
そう言って、翻って後ろでに手を振って、仲間の元に歩いていった。
あ、殴られた…。 うわっ、痛そ。
「嵐のようなお人ですね…」
「うん。全くだね。 久しぶりに、私も緊張した」
ラライオスとリンは、大きくため息をついて苦笑する。
「じゃあ、お昼食べに行こうか」
リンはそう言って歩き出し、生徒達はそれについていく。
「う…ぅん? ぅぅん」
「おっと…」
急に一葉が身じろぎをして、落としそうになるのを堪えて、なんとか抱え直した。
「起きた?」
「ぃや〜…」
「いや〜じゃないよ…」
寝ぼけている一葉と淡々とツッコむリンの様子を見て、呑気なもんだと、アクセルらは笑いあった。
「ふわぁ~」
「起きたね。 おはよう。 もう、街に着いてるよ。 歩ける?」
「あい〜」
ふわふわとした受け答え。
「あ。 駄目だわ、コレ」
リンは、仕方ないなぁと言って、完全に起きるまでか、大衆食堂に着くまで抱っこし続ける事にした。
冒険者ギルドの中には、冒険者や一般の方が利用できる大食堂が併設されている。そこには、昼間から飲んでる冒険者や、普通に食事をしている人達で賑わっていた。
「ぅう…。 うるさいなぁ…」
「あ、起きた? っと、落としちゃいそうだから動かないでね」
食堂の喧騒に顔をしかめ、目をゆっくり開けた。 体を捩り、騒音にも似た喧騒から逃れようとしていた。
リンは、一葉をそっと降ろして手を握る。 空いてる席まで手を引いていく。
全員が座り終わると、見計らったかのように給仕服を着た女性がお冷と温かい湿らせたおしぼりを人数分持って来た。
「ご注文がお決まりでしたらお伺いします」
「日替わりでいい?」
リンが聞くと全員が頷いた。
「日替わりを9つ、お願い。 あと、取り皿を一つ持ってきてもらっていい?」
「いいですよー。 日替わりが9つですね、承りました。 では、少々お待ち下さい」
女性がキッチンの方へ歩いていき、注文を中の人に伝えていた。
「おうおうおう! ここは子供の遊び場じゃないぜ〜?」
アルコール臭をプンプンと匂わせ、顔を赤らめさせた若い男性が話しかけてきた。




