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そんなあっさり…

「あ、そういえば、学園から手紙が届いてたよ」


 愛莉栖がそういえば…と伝えてくれる。


「手紙?」


「うん」


「こちらですね」


 ローズがエプロンのポケットから取り出して、一葉に渡す。


「ありがとう、ローズさん」


 一葉は受け取った封筒の封を切り、手紙に目を通す。


「ああ…。 クラス対抗戦の種目が決まったみたい。 皇都より南西にある”深藍の森”でキャンプだって。 寝袋と食料、必要であればテントも持参すること。 なお、武具は必ず持参することだって」


「”深藍の森”でキャンプですか…。 まぁ、学生にとっては、無難もいいとこ無難な場所ですね。 ただ…」


 チラッとマリアが一葉を見る。


「今のカズハ君には少し、難しいかもしれませんね」


「どういう事ですか?マリアさん」


 華蓮が首を傾げて聞く。


「魔物が出ますので、今のカズハ君が戦闘するのは止めておいた方がいいですね。 普通に生活するのにも、魔石の魔力頼り。 戦闘なんてしようものなら直ぐに魔力切れを起こしてしまいます」


「辞退は…?」


「出来るとは思いますよ。 事情も説明すれば分かってくれると思います。ですが、成績には少し響くかもしれませんね。 私としては、辞退して欲しいですね」


「そう、ですよね。 私も、出来れば、危ない事はしてほしくない、かな?」


「私も反対」


 マリアも華蓮も、愛莉栖も一葉が今回のクラス対抗戦の参加に反対する。 これは、ひとえに、一葉の身を案じてのこと。 それは、幼いながらに一葉にも理解出来ている。 でも、一葉としてはクラスメイトに少ない間に何度も迷惑をかけている。 だから、これ以上迷惑をかけたくない。


「ふぃー。 つっかれた〜。 って、おお!! 一葉、目ぇ覚ましたのか!」


 正義と雄一、イオリが汗臭い匂いを撒き散らしながら談話室に入ってきた。

 

「ちょっと。二人共! イオリさんも! 汗ぐらい流して来てください!」


 春希が顔を歪め、三人を外に追い出す。


「もう!」


 プリプリ怒っていた。


「ははは、悪いね。 汗を流してからにしたらとは言ったんだけど、飲み物を欲しくてね、食堂の方に行ったんだけど、厨房に鍵が掛かっててね」


 後から来たシリウスが事情の説明をすれば、春希は、鉾を収め、ため息をつく。


「あ! シリウスお兄さん!」


 シリウスの顔を見て、閃いた。


「ん? おお! カズハ君! 目が覚めたんだね! 良かったよ! 心配してたんだ! もう、大丈夫なのかい?」


 シリウスが呼ばれた方に視線を向けると一葉が起きていて、目が覚めていることに喜び、駆け寄って行った。

 頭をガシガシと撫でまわす。


「あぅ、あぅ…」


「シリウス!!」


 マリアが目を剥いて吠えた。


「おっと、すまん。 つい」


「”つい”じゃありません!」


「そんな怒んなよ〜、マリア」


「ははは…。 マリアお姉ちゃん、僕は大丈夫だから」


「ですが…」


「それより、シリウスお兄さん。 僕とちょっと、手合わせをして?」


「手合わせ? まぁ、俺は構わないが…」


 マリアに視線を送ると首を振られた。


「カズハ君? どうして、手合わせを?」


「だって…。 お姉ちゃん達、僕がクラス対抗戦に参加するの反対なんでしょ? 僕は参加したいって思ってる。 だから、シリウスお兄さんと手合わせをして、実力を示せたら参加させて欲しいな。 判定は、シリウスお兄さんとマリアお姉ちゃん。シアお姉ちゃんの三人でつけて」


「…へぇ~。 良く考えたわね。 一人だと、贔屓が出る。 二人だと、平行線になるかもしれない。でも、3人だとそんなことにはなり得ない」


 シアが一葉の考えに感心する。


「分かった。 1本勝負で、勝敗は付けるけど、実力を見るためだからそれは、判定には入れない。 あとは、魔法あり、飛び道具無しってところかな?」


「うん」


「じゃあ、裏庭に行こうか」


――――――――――――――――――


 一葉は、模擬剣を持とうとして、違和感を感じる。


(あれ? 軽い…?)


 今ままで、何度も振ってきた模擬剣がまるで重さを感じない。 頭を振り、気を取り直して、大剣タイプの模擬剣を持つ。 一葉が、打った刀は特異な力を持ち、それを封印の魔紋を刻んだ剣類を組み合わせてその力を封印している。 その為、巨大な1本のバスターソードと化しているのだ。


「あれ? また、使用武器変わったんだ」 


「うん。 やむを得ない理由があって…これに慣れておかないとね。 だから、胸を借りるつもりで行くね」


「ああ! 来い!」


 合図はない。 一葉は、大剣を引きずりながらシリウスに向かって行く。


 下段横薙ぎ。 当然、シリウスは後ろに後退し、視線を一葉から外さない。 一葉は、避けられるのは織り込み済みで、素早く、その場で跳躍して前回転して遠心力を用いて、シリウスに切りかかる。。


「ふんっ!」


 シリウスは、両手で剣を握り、受け止めた衝撃を足元に流した。 地面は割れ、想像以上の重みで、足を地面にめり込ませた。


「はっはっは。 すげえじゃん。 じゃ、次は俺だな」


 押し込もうと力を加え続けていた一葉は、フッと抵抗が無くなり、後ろから嫌な予感がした。慌てて背負い込むように背中に大剣を持っていく。

 

「へぇ。 今の防ぐのかぁ、じゃあ!」


 背中に回した剣から衝撃が伝わり、後ろから気配が消える。


(右? …ううん、前!)


 シリウスの剣と一葉の大剣がぶつかり、鉄を打ち鳴らす。


 シリウスは、持ち前の歩法と剣術の、超スピード重視で手数の多い連撃を繰り出す。 対して、一葉は重量のある大剣を最小限の動きで、シリウスの斬撃の先に置いて、受け流していく。


「さすがだね、一葉君。 でも、甘いね」


 シリウスは、ただ、連撃を重ねていただけではなかった。 連撃を繰り出す中、一葉が最小限の動きで防ぐなり受け流すなりすることを読んでおり、同一箇所に何度も、何度も打ち付けていた。その為、大剣はその連撃に耐え切る事ができなくなり半ばで折れてしまう。


「…え? や…っば……!」


 直ぐに折れた大剣を手放し、頭を下げる。

 

 シリウスが振った剣が頭上を過ぎていったのを確認して、視界の隅にシリウスを捉えながら逃げ回る。


「ははは! 何処へ逃げようと言うのだね?」


 シリウスは笑いながら、ゆっくりと歩くように見せかけながら、その実、超スピードで一葉に切りかかっては元の位置より一歩前に戻るという事を繰り返していた。


「うわっ! わわっ…!」


 横に転がり、飛び跳ね、時には反撃で拳を振るう。 だが、その時にはすでに、退避が済んでいるシリウスには、当たらない。

 そして、頭をポンポンと叩かれ、手をそのまま、頭の上に置かれる。


「はい、終わり。 …うん。 いいんじゃない? 俺は、合格点を上げるよ」


 剣を鞘に収めながら判定を下す。 シリウスはマリアに視線を送る。


「……」


 マリアが無言で難しい顔をしている。


「…マリア。 参加させてもいいんじゃないか? 実力は今見た通りだ。 あの森の魔物位なら、十分対処出来る。 それに、この子位の年の子なら保護者同伴で魔物を倒しているだろう。 マリアが、極力、この子を安全な所で、危ない事をしないで過ごして欲しいと思っているのはわかってる。だけど、少し、過保護過ぎないか? いずれ、元の世界に帰るのだとしても、それまではこの世界で過ごさないといけない。 なら、ある程度の荒事にも対処できるようにしておいたほうがいいんじゃないか?」


「……はぁ。わかりました。 ええ、確かにシリウスの言う通りだわ! この世界で生活する以上、魔物の脅威はあるわ。 それに対応する力を付けておいたほうがいいっていうのもわかります! ですが、ユウイチさん達と交わした約束もあります。 ですので、皆さんの説得は、カズハ君がしてください。 もちろん、私達もフォローはします」


「うん!」


「あら。 私が判定するまでもないみたいね?」


「シア様は、どっちにしても、参加に賛成でしょう?」


「そんな事無いわよ、マリア。 もしかしたら、無意識に魔力で身体強化をしていて、『星蝕鉱』でその強化が無くなっているかもしれないじゃない? そうならば、反対していたわ。でも、素の身体能力でシリウスとやり合っているのだもの。 参加したいと言うのなら反対はしないわ」


 シアは、一葉の首にかけられたクズ魔石を見ながら言う。


(良かった! マリアお姉ちゃん達の許可は貰った。 後は、ハナお姉ちゃん達の説得だけど…最悪、こっそり参加しよ)


――――――――――――――――――

「いいんじゃないか?」


「「「え?」」」


 正義達にクラス対抗戦の話をして、参加したいと言ったら、反対されるものだと思っていたが、あっさり許可が出た。


「え? いいんですか? 魔物と戦うことになるんですよ?」


 ちょっと、マリアお姉ちゃん!? 余計なことを言わないでよ!


「お? おう。 だけど、そいつの実力なら、余裕なんだろ? なら、良いんじゃね?」


 と、あっけらかんと言う。


「お前らはどうだ?」


 春希に顎で指して聞いた。


「まあ…出来れば、危ない事はして欲しく無いけど…」


 横にいる理恵と沙月に目を向ける。


「うん。 周りに、他にも人がいるんだよね?」


 理恵がマリアを見ながら確認するように言う。


「はい。 今回の様な実地訓練だと、一クラスの中でいくつかグループを作ったりして、集団行動の基礎訓練も兼ねてたりするので、ソロで、というのはありませんよ」


「なら、いいんじゃないかな。 一人でやるって言うなら反対したけど、グループで行動するならいいと思うよ。 サッちゃんは?」


「う~ん。 魔物と戦うっていうのは、ちょっと、心配だけど、正直、一葉君の戦闘力ってずば抜けてるからね〜。 まぁ、怪我しないようにね」


「うん」


 晩ごはんを作っていた愛莉栖、華蓮にも、ご飯を食べ終わった後にこの事を言うと、渋々だが参加してもいいと言ってくれた。


 お風呂に入って、自室のベッドに入って目を瞑る。


「……寝れない…」


 なかなか寝付けず、何処か落ち着かない…。 そして、ある部屋に足を運ぶ。


 ノックをして、返事を待つ。


「は~い…って一葉君? どうしたの?」


 出てきた部屋の主は、華蓮だった。 髪を降ろし、ゆったりとした寝巻きを身に纏っていた。


「あの、ね? 寝れなくて…、あの…ハナお姉ちゃん…」


「あはは…。 うん、良いよ。 入って」


 枕を抱きしめながらモジモジして言いにくそうそうにしていると、華蓮は困ったように笑い、一葉を部屋に迎え入れた。 

 一葉はパァっと頬を綻ばせると華蓮の後に続いて行く。


 華蓮は、自分の枕の位置を少しずらして一葉が入れるスペースを作って上げて、一緒にベッドに入る。


 一葉は華蓮に抱きつくと、華蓮は一葉の背に腕を回しトントンとしていく。 しだいに一葉の寝息が聞こえてきた。


「ふふっ。 お休み、一葉君」



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