体調、悪い?
結局、視界が戻ることは無かった。 あいも変わらず、歩く人々の顔は黒く塗りつぶされ、その顔は隠されていた。声を聞けば誰が誰なのかわかるけど…。
教室に着くと、新たな化け物が5体いた。
(うわぁ…。 顔が3つに腕が6本って、阿修羅だっけ?)
幻覚でも見てるかのようだ。 服装からして男子生徒。 背中から追加で4本の腕を生やしている。 顔は…どうなってるの?黒く塗りつぶされた物が三面あるから顔が3つあるの?
(まぁ、いっか。 ちょっと、怖いけど…)
害意は感じず、どちらかというと、心配げな視線だ。
授業の準備をしていると、袖口から黒い石が連なった物がはみ出て見える。
(ふわぁ~、ねっむ…)
強い睡魔が一葉を襲った。
「……て。 …き……か……」
ゆさゆさと肩が揺らされる。
「ぅん…? リンお姉ちゃん?」
重い目蓋を上げ、目の前には、リンの顔が直ぐ側にあった。
「ここでは、先生よ」
ビシッと叩かれた。
「あいたっ!」
「はぁ…。 ねぇ、本当に大丈夫?」
リンが心底心配そうに聞いてきた。
「うん。 体調は…悪くないよ? ただ、いつもより、体が重たいし、眠い…」
「いや、カズハ? それを『体調が悪い』って、いうのよ。 う~ん、医務室行こうか。 みんな! ごめんね、ちょっと、カズハを医務室に連れてくから、授業は戻って来るまで自習で良いわ!」
リンがクラス中に聞こえるように声を張った。 その後、気だるそうなカズハを抱きかかえて医務室に向う。 向かって行く途中で一葉から話を聞く。
「体が重く感じたのはいつから?」
「朝、起きた時から?」
「…その時に言ってくれてたら休ませたのに。 って、寮をでてくる時の様子が、おかしかったのもそのせい!?」
「ううん。 それとは、別。 ねぇ、リンお姉ちゃん。 この学園の生徒…うんうん。この世界の人達って、本当に人?」
「人に決まってるじゃない。 何を言っているの? 人以外の何に見えるの?」
「そう、だよね。 人なんだよね?」
「うん、そうだよ。 おかしな子だね」
医務室の前に着き、リンはノックして、中に入っていった。
「え? 耳が長い?」
「人の顔見るなり、一体何をいってるんだい?」
「ホノカ。 なんだかこの子、朝から様子がおかしくてね。 あと、体に重みを感じて、眠気があるらしい」
「…ふむ。 『様子がおかしい』っていうのは今の発言だね? それに、体が重く感じて、眠気があると…」
耳が長くなったホノカは、ビーカーで、コーヒーを淹れながら、似た症状の原因を思い出しながら、相違点があればそれを除外していく。 その間に、リンは一葉をベッドに寝かせる。
しばらくすると、ホノカが「もしかして…」と口を開く。
「リン。 その子、魔力を吸う魔導具か何かを身に着けてない?」
「つけてる」
リンは、ベッドに腰掛け、寝息をたてる一葉の頬を撫でる。
「体の重みと眠気は恐らくそれね。 魔力欠乏の症状よ。おかしな言動に関しては、分からないわね。 ねぇ、もしかしてだけど…『星蝕鉱』を身に着けてる?」
「すごい…! よく、分かったね。 でもそれがどうしたの?」
「いや。 ただ、アレは、魔力量の少ない人につけないほうが良いわ。 現にこうして、体調がわるくなってるし」
「そうだね。じゃあ、外そっか」
リンは一葉の腕に巻かれたの『星蝕鉱』のチェーンに手を伸ばす。 すると、一葉の腕から無数の結晶が生えてきて、リンが触れれない様にした。
リンが手を遠ざけると結晶が砕け散る。 だが、そこには、もう『星蝕鉱』のチェーンは無くなっていた。
「ああ…ええ…?」
リンは戸惑っていた。 何故、この魔剣は所持者をその意志に、関係なく守る素振りを見せるのに、その所持者が体調を悪くした物を外そうとしたら、抵抗したのかが分からなかった。
「ま、まぁ、取り込んじゃった物は仕方がないんじゃない?」
ホノカがリンの肩に手を置き、差し出されたコーヒーの入ったビーカーをを差し出す。
「ありがと」
「それ飲んだらもう、行きなさいよ。 授業、あるんでしょ」
「あ、そうだね…」
チビチビとコーヒーを冷ましながら飲むリンに呆れる。
「じゃあ、行くね。 この子、お願いね」
「分かった、分かった。 いいから、早く行きなさいよ」
ホノカは手をひらひらと振っておざなりに答える。
「うん。 って、あらぁ…」
立ち上がろうとしたら、服が引っ張られる様な何処かに引っ掛けたような違和感があった。 目を向けると、一葉のちっちゃな手がリンのローブを握りしめていた。
「どうしたの? 固まちゃって」
「カズハが私のローブを握ってる…。 仕方ない…」
ボタンを外し、ローブを脱ぐ。
「…あなた、ローブの下そんな格好だったのね。 って、今日、その格好で授業するの? 思春期男児には目の毒ね」
リンはノースリーブのブラウスを着て、下はミニスカート。 しかも、お腹まで見えている。 肌の露出が多い格好だ。 これでは、年頃の男子生徒の劣情を刺激してしまう。
「あはは…。 今日は勘弁して?」
「はぁ…。 まぁ、あなたがどんな視線に晒されようが私には関係ないからいいのだけれど」
「ひっど!」
リンは、少し調子を取り戻してきたのか軽口を叩き、自分の担当する教室に向かって行った。
「酷いのは、あんたの格好よ。 年若い女性がなんていう格好してるのよ…」
独り言を言いながら、一葉の様子を見ると、リンが脱いだローブを抱きしめながら、気持ちよさそうに眠っていた。
「はぁ…、面倒くさい。 でも…仕方ないわね」
ホノカは、机の引き出しからナイフを取り出し、一葉にまたがる。
ホノカが、ナイフを振り下ろした瞬間に協力な魔力の奔流が医務室の中を駆け巡った。




