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守るべきもの

 

 銃弾は意味がない。

 短いやり取りで北條はそう決断する。

 足元にある人の頭程ある瓦礫を蹴り上げる。戦闘衣(バトルスーツ)によって身体能力が強化されたおかげでボールでも蹴るように瓦礫は飛んでいく。

 殴りにいくのはダメだと理解できる。青白い閃光が奔った後、地面や瓦礫が真っ赤になって焼けたのだ。人体が触れたらどうなるか分からない。

 銃弾が駄目でも飛ばすものは他にもあった。どれが効果的なのか。北條は1つ1つ試していくつもりだった。


「意味ねぇって」


 金髪の男は何もしなかった。

 ただ真っ直ぐ突っ走る。北條が後ろに下がるよりも早く。

 蹴り飛ばした瓦礫は男に届かない。銃弾と同じように、何もしていないのに逃げるように男から避けて行く。

 そして、そのまま男は北條へと体当たりを行う。

 咄嗟に折り畳み式の盾を展開する。それが北條の命を救った。

 凄まじい音を立てて盾と雷がぶつかり合う。まるでトラックでもぶつかって来たのかと思う程の衝撃が北條の腕に圧し掛かった。

 吹き飛ばされ、地面を転がる。3度程地面に叩き付けられてようやく北條は体勢を立て直した。追撃はなかった。


「へぇ、まだ生きてんのか」


 意外そうに、それでいてどうでも良さそうに金髪の男が北條を見る。

 これまで一撃で敵を屠って来た男にとって一撃を喰らって立ち上がったのは北條が初めてである。だが、取り立てて騒ぐほどの事でもない。

 既に盾はボロボロ。耐久値限界で今にも壊れそうだ。何より一撃を受け止めた左腕が上がっておらず、ダランと力なく垂れ下がっている。

 もう一撃加えれば倒れてしまう。そんな様子だった。

 もう戦闘衣を使うまでもないと判断し、背中に取り付けられた大型の銃を取り出す。

 Maneater——人食いという物騒な名前が付けられたゴツゴツとした大きな銃。引き金はなく、代わりに幾つものケーブルが戦闘衣に直結していた。


「ぶっ放すぜ‼」


 男の勢いのある言葉と共に銃弾が飛んでくる。

 それを北條が避けられたのはルスヴンのおかげだ。体中を痛め、銃弾に反応出来なかった北條の体を乗っ取ってその場から飛び退く。

 直後、着弾。凡そ人に向けるには過剰過ぎた。瓦礫の山すら吹き飛ばし、巨大な爆炎を上げた銃の破壊力に戦慄しながらも北條は足を動かした。


「運が良いなぁ‼」

「良い訳あるか‼」


 壮絶な破壊力の銃を前に北條は逃げ回る。

 真っ直ぐには走れば的になるだけ。そう考えて左右に、上下に素早く動く。体が痛いとか気にしている場合ではなかった。


「(可笑しいだろ。何であんな破壊力があるんだ。人間相手に向けるもんじゃない‼)」

『まぁ、大した威力よな。銃というカテゴリーの中ではだが』

「(銃⁉ あれをまだ銃って言うのか⁉ アレは戦車か何かだろう‼)」


 思わず叫び声を上げる。

 落ち着ているルスヴンとは違い、北條には男が身に着けているもの全てが自分とは一線を超すものだと思えた。

 後ろ向きに迎撃をする暇もない。迎撃しても意味があるのか。そんな思考に捉われてしまう。


「——ッ。クソッ‼ 滅茶苦茶撃ちやがって。こっちの銃弾は効かないって言うのに」

『恐らくは磁力による影響か。範囲は半径2メートルと言う所か』


 銃弾。鉄骨を含んだ瓦礫は男には当たらない。そうルスヴンが説明する。それを聞いて北條は顔を顰めた。


「何だそれ⁉ チートじゃねぇか。ずるい‼」

『戦場でそんなことは言っとれんぞ。そら。来るぞ‼ 右に避けろ‼』


 ルスヴンの指示に従い、右に避け——ようとするが、それを見た瞬間に北條の足は左へと向かった。

 ルスヴンが驚く中、北條は声を張り上げる。


「逃げろ‼ こっちだ‼」


 北條が声を張り上げた先にいたのは、北條や金髪の男とは全く関係ない部隊。彼らも企業に依頼を受けてここに来ていた。

 当然、敵である北條の言葉に従うはずがない。

 怪訝そうな顔や馬鹿にしたような顔をする男達。もう一度声を張り上げようとするが、Maneaterの銃弾が着弾する方が速かった。

 爆発に吹き飛ばされる北條。男達もそれに巻き込まれた。

 数秒空を漂い、地面に叩き付けられる。

 空気が肺から洩れ、激しく咳き込む。

 既に金髪の男は近くに来ていた。


「何だお前。もしかして、アイツ等を助けようとしてたのか?」


 意味が分からない。と表情を浮かべる。だが、北條も理解して貰いたくてやっていることではない。ヘルメット越しにギロリと睨み付ける。


「悪いか」

「いいや、別に。場違いで馬鹿だと思うだけさ。こんな場所(戦場)で人助け何て何考えてんだ?」


 北條の行動を鼻で嗤い、銃を向ける。

 人の頭程ある銃口が北條を捉えた。痛む体に鞭を打ち、北條は手を付いて上半身を起こし、銃を手に取る。


「俺がやりたいからやってるだけだ。お前には関係ない」


 北條の言葉に金髪の男が呆れる。

 予想外だった。そんな言葉が飛び出るのは。一体この男は何をしにきたのか。人でも助けに来たと言うのか。

 気付けば、自然に言葉が出ていた。


「お前、ここがどういう場所か分かってる?」

「戦場」


 短く紡がれた言葉。

 相手の身のこなしには戦い慣れたものがある。修羅場を潜り抜けて来たことは分かる。ここが殺し合いの場だと言うことは分かっている。

 なのに、人を助けることに迷った様子はない。

 何故か、苛立ちを感じた。


「舐めてんのか? それとも善人ぶってんのか? 自分が悪人じゃないとでも思ってんのかよ」

「違うな。善人とか悪人とそういう基準の話じゃない」


 北條が銃を構える。

 だが、男は何もしない。戦闘衣のエネルギーが尽きない限り、被弾することはないと知っているからだ。


「俺には夢がある。それを守るために必要なんだよ」


 叶えるため、ではなく守るために。そう口にした北條に、男は鋭い視線を向ける。


「そうかよ。甘ったれ野郎。でも、その夢ももう終わりだよ」


 銃口を近づけ、エネルギーを回す。

 この至近距離で外れる訳がなかった。ボロボロの盾では防ぐことも出来ない。逃がすつもりもない。男の視線は北條の一挙一動を捉えている。

 銃弾も無意味だ。エネルギーがある限り、傷つけることなどできはしない。


「それはどうかな?」


 それでも北條は弱気にはならない。男は鼻で嗤った。

 そして、銃弾が撃ち出されるほんの少し前に、北條は銃を下げた。

 初めは遂に諦めたのかと思った男だが、同時にそれは違うと判断する。銃口は男から外れたが、目は諦めてはいなかったからだ。

 北條が笑った。


「取り合えず、死なないことを祈れ」


 背中に隠された左手。それが持っていたものは大量の爆薬だった。

 それを投げる。火は必要ない。プラズマがその役割を担うから。男がそれに気付いた時にはもう遅かった。

 次の瞬間、爆炎が2人を包み込んだ。

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