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片付け

 

 銃弾をものともしない北條に男達の間で動揺が走る。一瞬反応が遅れる。その間に北條は球体の無人機(ドローン)を2機撃ち落す。

 自慢の無人機がガラクタ同然になり、再び男達の動きが止まる。それは戦闘衣(バトルスーツ)を着ている状況では命取り。

 男達と北條との距離が近づく。北條は一気に男達の懐まで潜り込んだ。

 最も近くにいた男の銃を抑え、蹴り飛ばし後ろにいる男達を巻き込む。


『左から頭を狙っている奴がいるぞ。躱せ』


 直後にルスヴンの警告が飛んだ。全幅の信頼を寄せているルスヴンの言葉。北條が疑う訳がなかった。咄嗟に顔をずらす。少し遅れてその横を銃弾が飛んでいった。


「う、嘘だろ⁉ 頭に目でもついてんのか‼」


 それには答えず北條は男の懐まで潜り込む。右下からボディブローが男の腹に突き刺さった。


「2人目」

「クソヘルメット野郎がァ‼」


 仲間がやられていくのを我慢できなくなった男がブレードを取り出して北條に接近してくる。その男に向かって先程気絶させた男を投げ飛ばす。

 当然ながら仲間を斬れるはずがない。ブレードを振り上げたは良いものの振り下ろすことが出来なくなった男は硬直した。その隙に北條は男の横顔に蹴りを見舞う。


「3人——残り、2人」


 最初に男を投げ飛ばして下敷きにした2人の男に目を向ける。既に彼らは銃を手に持っていた。

 しかし、瞬く間に3人の仲間の意識を奪った相手に恐怖が芽生えていた。黒いヘルメットで表情が分からないのも不気味さに拍車をかけていた。

 北條が動く。わざわざ相手に考える余裕を与えるつもりはなかった。

 鈍い音が響いた。

 2人の内、1人の意識を残して北條は銃を突き付ける。


「聞きたいことがある」

「テ、テメェなんぞに行くこと何て——」


 ヘルメットでくぐもり、威圧が増した声でも男は怯まなかった。恐怖は芽生えていたが、それでも諦めてはいなかった。

 北條はそれをへし折りにかかる。

 男の真横に銃弾を撃ち込む。鼓膜が破れるのではと言う程の重い音。焼ける様な熱が男を襲った。


「ヒィイッ」

「俺がいつまでも優しくしてくれる何て思うなよ。言え。お前の仲間はこれで全部か?」

「へ——へッ。勝つのは俺達だ」


 震えながら男が叫ぶ。

 それは単なる強がりに見えた。この場で優勢なのは北條の方。銃を突き付けられている男にはどうやっても勝ち目はない。

 何かがあるのか。そう考える北條にルスヴンが答えを持って来た。


宿主(マスター)。後方から逃げる者がいるぞ。恐らくだが後方に仲間がいるのだろうな』

「(合流するつもりか)」

『あぁ、つまり此奴等は先遣隊だった訳だ』


 北條が男を殴りつけ、昏倒させるとルスヴンの指し示す方に視線を向ける。そこには球体の無人機に乗った男がこの場から逃げようとしている姿があった。

 何かあった時のために後方に1人控えさせていたのだろう。


『遠いな。異能を使えば直ぐに捉えられるぞ。使うか?』

「いや、大丈夫」


 射程範囲ギリギリの所にいる男を見て北條の腕では当てられないと判断したルスヴンが問いかけてくるが北條はそれを断り、銃を構える。

 呼吸を深く、余分な音を排除する。イメージするのは水の中。

 ——スイッチが切り替わる。

 大砲のような銃弾が無人機を破壊した。

 無人機に乗っていた男は足場を失い、地面に叩き付けられて気を失う。

 射程範囲ギリギリの——しかも的にならないように素早く動く目標を無駄弾を使わず狙い撃つ。そんな精密射撃を北條は実現した。

 それを見てルスヴンが感心した声を上げる。


『訓練の成果が出たな』

「あの訓練をして成果が出なかったら俺は泣いてるよ」


 北條が思い出したのは1ヶ月前から始まった訓練。罰則とは別の朝霧の扱きだ。

 血反吐が出るまで殴られ、蹴られたこともあれば、椅子に括りつけられて吸血鬼に対する戦術を考えさせられたり、街の地理を叩き付けられたり。連続で的の真ん中を射抜くまで寝ることを許してくれなかったりと。かなりキツイ訓練を施されたのだ。今でも思い出せば震えが出て来る。

 加賀と脱走を図ろうとしたことなど一度や二度ではない。その度に朝霧に制裁を加えられたが。

 そんなおかげもあり、北條の実力は格段に上がっていた。


『あの時の宿主は可愛かったぞ。半泣きになりながら、机にしがみつく姿は今でも忘れられん』

「やめてくれ。俺はもう忘れたい」


 ケラケラと笑うルスヴンに対し、北條は嫌なことを思い出したと苦い顔をした。


『それで、どうする? 恐らくだが、まだ後方に部隊がいるぞ?』

「なら、早く片付けなきゃな」


 CK41突撃銃を肩に担ぎ、走り出した。





 地獄壺跡地であらゆる人物、グループが入り乱れる中。その中に一際手際の良い部隊がいた。

 迅速。その部隊を現す言葉はそれで十分だ。

 派手さはなく。武器も平凡。しかし、練度が高く他と比べてもそれは段違いだった。

 彼らがいたのは地獄壺跡地の外周に位置する場所。片付けたのは悪戯に被害を齎そうとする者達だ。


「制圧。終了しました」

「ご苦労。各自警戒に戻ってくれ」


 彼らは地獄壺跡地の外周をグルッと包囲するかのように配置されている部隊の1つだ。目的は勿論、周辺に被害が及ばないようにすることだ。

 企業に雇われていなくともここに訪れる者達はいる。しかし、その中にはただ金になるものがあると聞いてやって来た者もいる。

 彼らは何が金になるのか。どんな形をしているのか。全く分かっていない。にも拘わらず、戦場に足を踏み入れる。そして、苛立ちのあまり銃を乱射するのだ。

 この部隊はそんな厄介者を排除するためでもある。


「はぁ、これで10人目です。多くありませんか?」

「確かに多いな。ここから吸血鬼が撤退したということもあるのかもしれん」

「レジスタンスは恐れることはない。と言うことか。舐めやがって」


 死体を片付けながら隊員達が話し合う。

 レジスタンスも吸血鬼が傘下の企業に出した命令について知っていた。地獄壺跡地がレジスタンスのものになったこと。そこから全ての吸血鬼が姿を消したこと。

 時間を掛けて調査したのだから間違いはなかった。


「それにしても、こいつらよくこんな装備でここに入ろうとしたな」


 男達の装備を引き剥がしながら口を開く。

 隊員の言う通り、男達の装備は脆弱だった。中には戦闘衣すら着ていない者もいる。それは隊員達にとって考えられないことだった。


「こんなんじゃ、殺してくれって言ってるようなもんだぞ」

「ここで一発当てようとしたのか。死ぬとは考えなかったのか?」

「そこまで考えなかったんじゃないか? 誰だって自分は上手く行くと考えちまうもんだろ」

「それか。あそこにあるのが、それだけ価値のあるものかだ」


 全員の視線が地獄壺跡地の中に行く。

 彼らにも欲と言うものはある。目の前に金が落ちていれば、懐に納めることだってあるのだ。

 今まで相手にした者達は全員格下だった。もしかしたら、中にいる者達もそれほど大したものではないのでは。

 上手く行きすぎていた影響か。そんなことを考える者もいる。


「えぇい。やめやめ。そんなことしたら隊長に大目玉くらうことになる」


 ジッと中に視線が吸い込まれそうになるのを大声を上げて振り払う。それを皮切りに他の隊員達も視線を戻した。


「そうだな。俺達の任務はここを守ることだ。勝手に離れる訳にはいかない」

「あぁ、上手く行くって保証もないんだからな」


 止まった手が再び動き出す。

 自分だけは上手く行くということは絶対にない。全員が自分自身に言い聞かせ、燃え上がった欲を抑えつける。

 ここでちょっと行ってみよう。と言い出さない辺り、彼らも自分自身をコントロールできていた。


「ん? 何だ?」

「どうした。また来たか」


 再びここにやってくる者がいるのかと身構える隊員達。

 来るのならば接触を避けなければならない。動くのは街に被害が出ると判断した時のみだ。


「いや、敵じゃない」


 しかし、最も前方にいた隊員の言葉でその警戒は下がる。

 一体何を目にしたのか。他の隊員達が前に出てきて目を凝らす。


「何だありゃ」


 そこにいたのは1匹の狐だった。

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