見敵必滅
北條達は舗装されて歩きやすい通路から、凹凸の激しい歩きにくい通路へと入る。
これまでは人の手で作られた通路と見た目で分かったが、今歩いている通路はまるで洞窟のようだった。階段や手すりが付け加えられているでもなく、人の身長程ある段差があったり、崩落しかけている所があったり。
通れば命の危険がある場所も多く、大きなリュックを背負ったミズキが通るのは困難だった。
一度、そのリュックを変えるつもりがないのか聞いて見るとどうやら中身は全て必要な物であり、この大きなリュックでなければ運びきれないとミズキは言った。
それならば北條が持とうとすると、ミズキはこれを拒否。商人である自分の生命線を他人に預ける訳にはいかないと首を振り、懸命に北條に喰らい付いていく。
北條はそれに気分を害することもなく、出来るだけのサポートを行って前に進んで行った。
舗装されている所よりも体力を奪われるのは間違いないが、2人共一度も休憩を挟むことなく目的地であるガルドが店舗を構えている所へとやって来た。
「見つけた」
凹凸が激しく、洞窟の中のようにゴロゴロと大きな岩が転がった場所。天然の洞窟だと言われても遜色ない所にその店舗はあった。ミズキ曰く、素人目にそう見えるだけでここも手が加えられているとのことだが、残念ながら北條には分からなかった。
大きな岩の影に隠れ、北條はヘルメット越しにガルドを確認する。
「(アイツか)」
ミズキにも見てして貰い、それが本物なのか確認する。中年の男が1人。外から見える窓の傍に立っているのを見てミズキも頷いた。
『宿主。他にも4人程おるぞ』
ガルドだけを確認した北條にルスヴンが補足をする。ヘルメットの視覚を熱源感知に設定すると確かに店舗の中には人の形をした熱が5人確認された。
「ミズ「亀と言って」——亀。ガルドを確認した。だけど、店舗の中にも4人いる」
「——チッ。情報が古かったか。だけど、こっちには気付いてない。よし、まとめて吹っ飛ばすか」
「待て待て客の可能性もあるだろうッ。というかそのドデカい弾は何だ⁉」
物騒なこと言い出し、リュックから黒い弾頭のようなものを取り出すミズキ。慌てて北條は止めに入る。
「戦うのは俺の役目じゃないのかよッ。早くお前は身を隠せって」
「そうだけど。ほら、絶対あれって罠じゃない? 最初はアナタを突っ込ませて、私は見えない所にいるつもりだったけど。ほら見て。アナタを突っ込ませたら絶対隠れてる4人が襲撃するパターンよ。それなら一か所に集まっている今店ごと吹っ飛ばした方が良いじゃない?」
「そんな派手なものを使ってここが崩落したらどうするんだよ」
「いやぁ、アイツの店が壊れようとテリトリーが崩落しようがアタシにとってはプラスなことしか起きないし」
悪びれる様子も一切なく、真剣な目をするミズキ。思わず北條は頭を抱えた。親でも殺されたのかと言う程ガルドを殺すことに躊躇がなかった。
「それやったらお前も巻き込まれるんだぞ? そこんとこ分かってるか?」
「そうね。それじゃアナタがやってくれる? アタシ後ろにいるから」
「俺も死ぬのは御免だ。それにこんなの使わない。これで十分だ」
はい。と弾頭を手渡してくるミズキの手をやんわりと押し返し、持っている銃を掲げる。
北條だって崩落の可能性があるものを使うことに躊躇は覚える。自殺願望など持っていないのだ。
それを伝えるとミズキは目を丸くした。
「何だよ……」
「いや、レジスタンスなのに可笑しなやつだなって」
「もしかしてレジスタンスが自殺願望者の集団だとでも思ってる?」
「吸血鬼に戦いを挑んでる時点で街の人達は頭の可笑しい集団だと思ってるのは確かだと思うわ」
「…………」
ミズキの言葉に北條はそっと視線を背けた。
周囲とレジスタンスに所属している者達の考えがズレていることを改めて思い出した。確かにその通り。北條は何も言えなくなる。
「という訳で~コイツでアイツをゴーシュート‼」
「それはダメだっての⁉ 何なの。アイツにどんな恨みがあるの⁉ そんなことしたら俺らも危ないんだっての‼」
「えぇい煩い‼ アタシはアイツの存在が許せないッ。アイツさえいなければアタシの商売は上手く行くってのにッ」
黒い弾頭を手に取って砲撃準備を始めるミズキを咄嗟に北條は止める。
2人で弾頭を奪い合う。だが、力では北條が勝っている。時間は掛かったが、それを取り上げるとミズキの手が届かない所まで置いておく。
「分かった。落ち着こう。こんな時こそ冷静になるべきだ」
「敵を前にして何を言ってる。あれこそ我ら人類の敵であるぞ。敵はサーチ&デストロイ。見敵必滅が常識であるぞ」
「口調が変わってるぞデストロ娘。それに知ってるか? 見敵必滅って『敵を見たら必ず滅びる』って意味らしいぞ。それが常識なのはちょっと可笑しい」
「頭の可笑しな筆頭に頭が可笑しいって言われた⁉」
ギャーギャーと騒ぐ2人。ガルド達に見つからぬように小声でやり合っているのだから器用なのかどうか分からないが、兎も角2人の争いは続く。
暫くやり合い、不利を感じたミズキは一つのリモコンを取り出し北條に向けてポチッとボタンを押した。
その行動に北條は疑問を抱く。テレビでもないのに何をしているのか。ミズキの行動に首を傾げていると不意に、体が動かなくなった。
「な——⁉」
「ふふーん。アタシが何の意味もなく戦闘衣を貸すとでも思った?」
「ちょっ。これは洒落にならないぞ‼」
北條の慌てる様子を感じ取り、ミズキは笑みを浮かべる。
ミズキが北條に向けたリモコンは戦闘衣を外部から操作するためのもの。交渉前にこれを着せたのは万が一のための保険だったかと今更ながらにあの時の意図が分かり、冷や汗を流す。
今の北條に戦闘衣を動かす権限はない。その権限は今やミズキの手の中だ。ミズキが腕を360度回せば北條は関節の限界を無視して360度腕を回すことになる。
他人に命を握られた状態だった。
『不味いな』
「(あぁ、本当に不味い。今すぐこれを元に戻して貰わなきゃ)」
ルスヴンの言葉に同意し、焦る北條。
ミズキは優越感たっぷりの笑みを浮かべた。
「さて、どちらが主か分かったかしら?」
「ホント、すみませんでした。だからこれは止めて下さい」
動かぬ銅像となった北條が謝罪を口にする。ミズキからはヘルメットで顔は見えないが、その表情が泣きっ面なのは想像できた。
得意げに胸を張り、北條を見下ろすミズキ。北條も大人しく首を垂れる——実際には動くことは出来ないのだが。
『宿主。早く体を自由にしろ。異能を使え』
「(いや、そこまで逼迫した状態じゃないし)」
『馬鹿者気付け————敵がおるぞ』
「——‼」
ルスヴンの言葉に冗談を感じなかった北條は弾かれたように動く。
ミズキの目が見開いた。体を動かせないはずの北條が、自分に飛び掛かって来たのだ。咄嗟に後ろに下がろうとするが、突然のことに体が動かずに北條に捕まってしまう。
北條はミズキの手からリモコンを引っ手繰ると同時に頭を下げさせた。
ガキンッ‼と甲高い音を立てて北條達が隠れていた岩が崩れる。
「——え?」
何が起こっているのかミズキには分からなかった。
その間に北條はリモコンを操作し、体の負荷を取り除くと襲撃者に向けて拳を振るった。
そこには何もない。だが、確実に何かがいた。透明な空間を殴りつけると拳に肉を捉えた感触があった。そのまま拳を振り抜き、襲撃者を吹き飛ばす。
「迷彩か‼」
再び襲撃者が北條達を襲った。今度は銃撃。ミズキを抱えて北條はその場を飛びのく。リュックを持ち運ぶ余裕はなかった。
『はぁ、何というか。お主は運がないな』
「(それは俺のせいじゃないんだけどなぁ)」
ルスヴンが隠れている敵の存在を感じ取る。そして、同時に呆れが湧いてくる。なんせ、北條の都合が悪い時に更に都合が悪いことが起きるのだ。呆れるのも仕方がなかった。
北條も自分の運の無さに涙を流しているとミズキがようやく再起動を果たす。同時に襲撃者達が姿を現す。
「よう、ミズキィ?」
「————嘘でしょ」
その内の1人を目にしてミズキが驚愕する。
そこにいたのはガルドとミズキを貶めようと集まっていた男達を束ねていた男。ミズキが既に片付けたと思っていた男だった。




